サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 NERV本部を統括する第7世代型有機コンピューターMAGIによって管理されたデジタル演習。

 エヴァンゲリオン初号機が初めて実戦投入された頃は色気のないフレームだけで構成されていた空間が、今はかなり自然に近い環境を再現していた。

 そして、それは登場するエヴァンゲリオンや使徒にも言える事であった。

 完全再現とまでは言わずとも、パッと見た限りではそれらしい造形(モデリング)が為される様になっていた。

 

 そんなデジタル演習空間で疾駆するのは異形な姿となったエヴァンゲリオン8号機だ。

 基本的な姿は変わらない。

 だが前傾姿勢で、四肢を使って駆けるその姿は、何かが決定的に異なっていた。

 獣めいていた。

 

「Bモジュール、Bはビーストだったと言う事ね」

 

 デジタル演習の管制室でその様を見ながら呆れたようにつぶやいたのは赤木リツコだ。

 それは、目の前で再現されたエヴァンゲリオン8号機の獣めいた姿を見ての感想であり、同時に、NERVアメリカ支部技術開発局第2課 ―― 所謂真希波室(M²ラボ)の研究成果を確認しての感想でもあった。

 赤木リツコの表情には呆れとも、或いは同族嫌悪にも似たモノが浮かんでいた。

 

 そこまでするか、と。

 そこまでしたのか、と。

 

 当然だろう。

 マリ・イラストリアス。

 その幼い適格者(チルドレン)は、非人道的と言う言葉すらも生ぬるい人造人間(デザイン・チルドレン)計画として生み出された存在だったのだから。

 事前情報にあった()()と言う言葉は伊達では無かった。

 計画の根幹となるのは人道であった。

 子どもを戦場に送らないようにしたい。

 1st チルドレン(綾波レイ)2nd チルドレン(惣流アスカ・ラングレー)の様に、子どもが幼少時からエヴァンゲリオンに拘束される事が無い様にしたい。

 実に人道的発想であった。

 だが、人道を起点にしながら試行錯誤、議論の果てに戦闘専用の人間を作り出すと言う実に非人道的結論に到達し、実行してしまったのは狂気であると言えるだろう。

 

 赤木リツコは自分が綺麗であるとは思って居ない。

 科学に魂を売り、女として碇ゲンドウを欲した浅ましくも薄汚れた人間であると自認している。

 綾波レイのクローン体を管理していると言う事も、それを裏打ちしていた。

 だが、その赤木リツコをしても、真希波室(M²ラボ)によるマリ・イラストリアスの開発製造は余りにも衝撃的であった。

 

 基本となる遺伝子情報は開発責任者であった真希波マリが卵子として提供し、それを素体にBモジュールとの親和性が高くなる様に遺伝子操作が行われていた。

 遺伝子操作の成功率は極めて低く、100を超える個数(ロット)が卵子の段階で行われた検査で廃棄されていた。

 命の選別。

 資料に乗せられている数を見た唯々、戦慄していた。

 機械的とすら言える選抜を抜け、赤子として育成されたのは11体。

 だが培養槽の中で、まともに成長できたのは4体だけであった。

 そして問題が1つ。

 どの個体にも魂が宿って居なかったのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 結果、現在のマリ・イラストリアスと呼称する個体を除く3体が成長後に培養槽内で腐敗する事態となり、今に至ったのだと言う。

 

 この事態、赤木リツコにも覚えがあった。

 複数の体を生み出した綾波レイ。

 だが、生み出されて10年以上が経過しても、そしてあらゆる試み(実験)を行っても、魂が宿っているのは1体のみなのだ。

 ヒト、霊長類、高等生命体、リリン。

 羊や犬などではクローンが成功しているにも関わらず、である。

 ()()()()()

 それが、科学者としての赤木リツコの認識であった。

 

 兎も角。

 人造人間(デザイン・チルドレン)計画が行き詰まった時、真希波マリは失踪し、そしてマリ・イラストリアスは覚醒したのだと言う。

 何とも胡散臭いモノを記録から感じる話であった。

 資料を精査した際この点に疑念(ブラッディなモノ)を感じ、同僚であったディートリッヒ高原などに尋ねても見たが、反応は芳しく無かった。

 真希波室(M²ラボ)は機密性が高かった為、人造人間(デザイン・チルドレン)計画は勿論、内情すらも知り得なかった(アンタッチャブル)のだと言う。

 Bモジュールの開発に関しては交流があったが、逆に言えば、それだけであった。

 日系人である葉月コウタロウは嘆息と共に言った。

 Bモジュールの開発で葉月コウタロウとディートリッヒ高原、そして真希波マリは同床異夢であった、と。

 最終的に、マリ・イラストリアスに随行して来た元真希波室(M²ラボ)スタッフに確認をする事となった。

 葛城ミサトら作戦局や、特殊監査局の人間も加わって行われた脅迫めいた確認(尋問)

 それはマリ・イラストリアスを対使徒戦に投入する上で不確定要素を消す為であった。

 だが、随員スタッフの反応は赤木リツコらの予想外であった。

 実に痛まし気な顔で、真希波マリの謎の失踪を説明したのだ。

 当時、人造人間(デザイン・チルドレン)計画の第1ロットは失敗と評するべき結果となった。

 だが、NERVアメリカ支部の上層部では第1ロットの開発に伴って齎された成果 ―― クローンに関わる生体生成技術を高く評価していた。

 再生医療への転用可能な技術であったからである。

 故に、NERVアメリカ支部の予備費とアメリカの医療関連企業からの献金で第2ロットの開発製造予算は決済されていたのだ。

 真希波マリの未来はまだまだ明るかった。

 にも拘らず行方不明となったのだ。

 心から残念だと嘆く様に言う随員スタッフ。

 犯罪に巻き込まれたのか、それとも事故にあったのか、と。

 NERVアメリカ支部は荒野の中にある関係者だけの場所であったが、全ての人間が悪意のない人間であると言う保証はないのだ。

 恨みか嫉妬か。

 謎の書置きを残しているが、ソレを遺書と言うのは余りにも不確実だと言えるだろう。

 結論としては、是非も無し(意味が判らない)と言う事であった。

 

「赤木局長?」

 

「何でも無いわ」

 

 デジタル演習の管制官からの呼びかけで、埒も無い事を考えていたと、頭を振った赤木リツコ。

 それから葛城ミサトを見る。

 頷いた。

 

108(エヴァンゲリオン8号機)のBモジュールと群狼戦闘能力(ウルフパック)機能、再現に問題は無さそうよ」

 

「負荷率、大丈夫?」

 

 赤木リツコがそのままデジタル演習管制官を見る。

 頷く。

 ディスプレイに表示されているMAGIの処理状態を自分の目で見る。

 余力が残されている。

 

「通常の範疇に収まってるわね。これなら102(エヴァンゲリオン弐号機)過負荷運転(オーバードライブ)の再現の方がよっぽどに酷いわ」

 

「なら結構! じゃエバー103(エヴァンゲリオン3号機)との戦闘演習を始めましょうか」

 

 完成されたBモジュール搭載エヴァンゲリオンと、その為の適格者(チルドレン)であるマリ・イラストリアス。

 その能力(スペック)限界を確認すると言うのが、本日の目的であった。

 

『準備は何時でも大丈夫でっせ!』

 

 元気の良い声で答える鈴原トウジ。

 搭乗するエヴァンゲリオン3号機は、H型装備が取り付けられた状態となっている。

 H型装備は完全な新規設計と言う訳でも無く、元はG型装備第4()形態であった。

 G型装備第3形態を基に過剰な遠距離砲撃戦管制能力を削除し、近接戦闘能力を加味する形で改装を行われていた。

 当初は第4形態と命名されていたのだが、さすがに型番(サブナンバー)が増えすぎたと判断され、改名されたのだった。

 

 機体色に似合った、甲冑の如きH型装備。

 主武装であるEW-23C(スーパー・パレットキャノン)は、H型装備が新型のN²機関を独自に搭載しているお陰もあって毎分6発と言う非常識な発射速度を誇る狂気の産物であった。

 

『何時でも襲っちゃうぞ!!』

 

『来んかい!!』

 

 戦意十分と言って良い鈴原トウジとマリ・イラストリアスの姿に、デジタル演習管制室に好意的な笑いが齎される。

 

「2人とも元気なのは結構! なら始めちゃいましょ!!」

 

 明るいのは良いことだ。

 そんな事を考えながら、葛城ミサトは戦闘開始の指示をだすのだった。

 

 

 エヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン8号機のデジタル演習。

 その流れは、多くの人間の予想とは異なる形となった。

 NERVアメリカ支部から来たスタッフ等にとっては不本意と言って良い形であった。

 本領を発揮できる操縦者とBモジュール搭載の組み合わせと言うエヴァンゲリオン8号機が、訓練もまだ十分に受けていない適格者(チルドレン)とBモジュールの全力発揮が出来ないという組み合わせのエヴァンゲリオン3号機に良い様にあしらわれているからだ。

 

 無茶苦茶に飛び回る様な獣めいた動きを見せるエヴァンゲリオン8号機。

 だが、鈴原トウジは冷静にソレらに対処して見せていた。

 中距離であれば、適切に5連装35.6cm無反動砲で牽制し、怯んだ所にEW-23C(スーパー・パレットキャノン)を叩き込む。

 それは真希波マリが想定したBモジュールの使い方では無かった。

 だが、ディートリッヒ高原が念頭に置いていた多目的な情報処理モジュール ―― 素人であろう操縦者に十分な戦闘支援を行うと言う機械(モジュール)と言う意味では、完全に使いこなしてみせているのだった。

 

「彼は見事(エクセレント)だね」

 

 満足げな顔をしているディートリッヒ高原。

 対して、元真希波室(M²ラボ)スタッフは歯ぎしりをしていた。

 さもありなん。

 だからこそ、声を上げた。

 自分たちの()()が劣って居ないのだと実証する為に。

 

「葛城局長! 今の№3(エヴァンゲリオン3号機)は砲戦Frame(装備)機です。これでは標準装備(B型装備)№8(エヴァンゲリオン8号機)の真価を見るのは難しいです。格闘戦の情報も集めるべきだと思います」

 

 事実ではあった。

 とは言え、面の皮の厚い主張をするモノだと葛城ミサトは呆れてもいた。

 何故ならデジタル演習に入る前の装備設定時に自慢げな(ドヤァ)顔で、マリと№8(エヴァンゲリオン8号機)であれば、例え標準装備(B型装備)状態であっても素人の乗る№3(エヴァンゲリオン3号機)には負けない等と、元真希波室(M²ラボ)スタッフは嘯いていたのだから。

 その事を揶揄しようかとも一瞬だけ思った葛城ミサトであったが、我慢した。

 目の端で赤木リツコ(マブ)が、面倒くさい事になるから止めとけと、そんな目つきをしているのを見たからである。

 以心伝心。

 赤木リツコを安心させる様に1つ、頷く。

 実際、葛城ミサトが見ても元真希波室(M²ラボ)スタッフ、能力は兎も角としてプライドは問題になりそうな意味で高そうなのだ。

 とっととNERVアメリカ支部に送り返せないものか。

 そんな事を曼成人手不足に苦しむ赤木リツコが愚痴る程なのだから。

 

「その意見具申、受け入れましょう」

 

 葛城ミサトは、内心の呆れ(ダサいとの感情)を出さない様に注意しながら言葉を発する。

 それからデジタル演習の管制スタッフに指示をだす。

 仕切り直し、そして近接格闘戦のテストに移行せよ、と。

 

「トウジ君、射撃戦は見事だったわよ。次は格闘戦、やって見せて頂戴」

 

『ははははっ、任せて下さいな!!』

 

 激励と評価。

 それに通信画面越しでのウィンク(サービス)に、判りやすく発奮する鈴原トウジ。

 正に中学生(思春期)であった。

 好意的な笑いがデジタル演習管制室に零れる。

 

「マリ」

 

『ナニ?』

 

 戦闘が思う通りに行かないストレスをため込んだマリ・イラストリアスは、少しばかり不機嫌な声を出す。

 元真希波室(M²ラボ)スタッフは顔を青くするが、葛城ミサトはそれを気にする事も無く笑顔で言葉を続ける。

 

「次は得意な格闘戦。どこまでできるか、見せてもらうわよ」

 

『よっしゃー!! 任せて!!』

 

 元気の良い返事に、此方も好意的な笑い声が上がった。

 幼い外見相応の態度と言うものは、実は凄い武器かもしれない。

 そんな事を考えながら、葛城ミサトは時計を確認してから言葉をつづけた。

 

「取り合えず、最後の1戦。それが終わったら休憩にするから頑張ってね」

 

 

 

 

 

 NERVドイツ支部で行われている第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の選抜と訓練課程は最終段階に達していた。

 とは言え、状況は予定と少々異なっている。

 本来であれば三次選考として12名が第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)として選ばれる予定であった。

 9機のエヴァンゲリオンに、専属適格者9名と予備適格者3名と言う予定。

 だが、第13使徒や第15使徒との戦いが考慮され、修正される事となったのだ。

 考慮されるのは、適格者(チルドレン)への負担である。

 第13使徒戦で、使徒と化した第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン1号機に搭乗していた相田ケンスケの心身の疲労と負担が重視されていたのだ。

 元より、ある程度は計算していた部分はあった。

 それ故に3名の予備適格者を用意する事を決めてもいたのだ。

 だが、現実はその上を行った。

 エヴァンゲリオンに乗り、そして機体とシンクロして機体の被害を痛みとして味わうと言う事は、果てしなく巨大な負担であると言う事が、相田ケンスケの心身情報を得る事で漸く判明したのだ。

 NERV本部での対使徒戦役で主軸となっていた最初の子ども達(ファースト・スリー)、綾波レイやアスカ、碇シンジが易々と乗り越えていた為に表面化していなかったのだ。

 何とも言い難い現実であった。

 相田ケンスケは未だリハビリを受けており、その心身は完全に回復してはいなかった。

 だからこそ、予備適格者を増やす事が決定したのだ。

 そして第15使徒戦で、高い耐性(我慢強さ)を示していたシンジとアスカの両名ですらも中長期的な療養を必要とする程の心身の負担を負ったのだ。

 である以上、予備適格者を大幅に増員する事を決めるのも当然の流れであった。

 3直制と呼ばれる、1つの機体に3人の第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)を用意する事となったのだ。

 泥縄めいた対応であったが、同時に、現実に即した柔軟性と表現できる話でもあった。

 結果、体調不良時の辞退者を前提とした総予備合格者を含めて31名が三次選考に合格したと決められた。

 尚、正式な辞令の交付は、延期状態にある合同祭(TokyoⅢ-Record2015)で発表される事となっていた。

 全世界に、新しい人類の守護を担う子ども達(チルドレン)と言う形で栄誉を与える積りであった。

 

 兎も角。

 正式な第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の選抜選考が終了した事によって、候補者であった子ども達の空気は少しばかり弛緩していた。

 それはある意味、就職を決めて、卒論も終った大学生の様な空気だとも言えるだろう。

 だからこそ、教官たちは弛緩した空気を引き締める為の見学(勉強)会を開催する事としたのだった。

 見学するのはNERV本部で行われているデジタル演習だ。

 NERV本部とNERVドイツ支部のMAGI同士を閉鎖回路で繋いでいるお陰で、リアルタイムで見学する事が出来るのだ。

 見る事となったデジタル演習は、時差の問題もあって、朝一番の事であった。

 場所は映像投影設備もある中規模講義室。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)となった子ども達の誰もが、興奮と共にあった。

 否、全てがではない。

 

「眠いっ」

 

 小さな声で愚痴る様に言ったのは霧島マナだった。

 周りの空気を読んでか気合で欠伸こそしないが、何時もの起床時間よりも2時間以上も早い起床と、準備と食事などを済ませているのだ。

 眠くならない筈が無かった。

 

「おはよう」

 

Morning(おはよう)!」

 

 と、車いすに乗った相田ケンスケと、それを押すヨナ・サリムがやって来た。

 霧島マナ、ヨッとばかりに手を挙げて朝食が入った朝食袋(モーニングボックス)を渡す。

 まだ調子の良くない相田ケンスケと、そのサポートをしているヨナ・サリムでは朝食を取りに行く時間が無かろうと、先に食堂に行って取って来ていたのだ。

 

「助かるよ」

 

「せいぜい感謝してね!」

 

 ペロリっと舌を出して笑う霧島マナに、感謝感謝と拝んで見せる相田ケンスケ。

 対してヨナ・サリムはお腹がすいた(Hungry!!)と言いながら袋を開ける。

 遠隔地での早朝訓練時などででも配られる朝食袋(モーニングボックス)は、料理当番次第で内容がコロコロと変わるのだ。

 悪い時には水とリンゴなどの果物1つ。

 良い時にはジュースとサンドイッチなどと云う塩梅だ。

 

Today's Breakfast(今日の朝ご飯)Intermediate(中の中ね)

 

Oh……(残念)

 

 紙袋から出てきたのは、切ったパン(Schwarzwälderbrot)が2切れと牛乳パックが1つ、それに(ミネラルウォーター)のペットボトルが1本であった。

 ジャムなどは含まれていない。

 最悪では無いが最善でも無い。

 そう言う日であった。

 

「食パンが恋しいよ」

 

 常温に戻っていた牛乳パックで独特の香りがある南ドイツのパンをのみ込んでいく相田ケンスケ。

 他の事には大抵、耐えられるが食べ物に関する愚痴だけはどうしても漏れてしまう所があった。

 今日だけでは無い。

 割と何時もの事だった。

 そんな相田ケンスケを見て、豪快肌のアルフォンソ・アームストロングなどは、体の不調は耐える根性をしていても、事、食い物に関しては愚痴を我慢できないなんて実に日本人だなと笑う程であった。

 尚、ヨナ・サリムは、三食喰えるだけで万々歳と言う気分であった為、質に関する愚痴や文句を零す事は無かった。

 

「柔らかくて甘い、ね。焼きたてが食べたくなるから言わないでよ」

 

「悪い」

 

 もっしゃもっしゃと、愚痴に合わせてパンを飲み込んでいく相田ケンスケ。

 牛乳パックも飲み切り、口直しとばかりにペットボトルまで一気に飲み干す。

 ゴミは紙袋に纏めておく。

 訓練生として鍛えられていた日々が、趣味者(ナード)と言うよりも体育会系の仕草を相田ケンスケに与えていた。

 

Attention(注目)!」

 

 と、講義室の前で機材の調整をしていた教官の1人が声を上げた。

 準備が整ったのだ。

 NERV本部からNERVドイツ支部を通して、この講義室正面のホワイトボードに投影するのだ。

 ネットワークの確認や、機密保持確認など、する事は多岐に渡っていた。

 

It's Live(これは生の映像だ) No explanation(解説は無い) Take a closer look(先ずは注目しろ)

 

 そう言って映し出されたデジタル演習の動画。

 Live映像と(クレジット)されているその先にあったのは、エヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン8号機による近接格闘戦であった。

 Liveと言う言葉に似つかわしい程に、生々しく、そして荒っぽい戦いであった。

 

 猿か獣の様な仕草で走り回るエヴァンゲリオン8号機。

 対するエヴァンゲリオン3号機は、背面に懸吊しているEW-16(スマッシュバルディッシュ)を装備する事無く無手で膝を落として相対している。

 無抵抗と言う事はない。

 盾を構えている。

 

「3号機、耐える気?」

 

 霧島マナの分析。

 だがソレを相田ケンスケは否定する。

 

「3号機が構えている盾、アレはG型装備用に開発された大型盾だ。攻める気だぞ、3号機のパイロット!!」

 

What does it mean(どういうこと)?」

 

 ヨナ・サリムも判らなかったらしい。

 首を傾げている。

 だが、元が軍事の趣味者(ヲタク)であった相田ケンスケだ。

 性癖の様に武器の情報を収集していた。

 ソレを開陳する。

 

「アレは内側にパワー・トゥース(制圧用のこぎり歯)を仕込んであるんだ。第8使徒戦の様にする気だっ!!」

 

 霧島マナとヨナ・サリムの脳内に、エヴァンゲリオン4号機(綾波レイ)がやって見せた力技(パワー戦)の様が蘇る。

 その後でエヴァンゲリオン初号機(シンジ)エヴァンゲリオン弐号機(アスカ)がやって見せた大技、動力降下キック(エナジー・フォールダウン)のインパクトが強すぎて忘れていたのだ。

 

「3号機のパイロット、戦訓をよく研究___ ん?」

 

 とそこまで言った所で思い出す。

 エヴァンゲリオン3号機の専属適格者(チルドレン)が脳筋とも言える親友、鈴原トウジであった事を。

 

「どうしたの?」

 

「いや、考えすぎかもって思っただけさ」

 

 スンっとばかりに冷静になり、言葉をつづけた。

 そして、そんな事よりと続ける。

 

「良く見ておこうぜ、絶対に1発で終わるぞ、コレも」

 

 

 

 外野の感想は別にして、己を捕殺に来る事を理解したマリ・イラストリアスは、獰猛に笑った。

 それは強者の笑みであった。

 近接格闘戦が始まって幾度かの応酬で、エヴァンゲリオン3号機と鈴原トウジが自分の速度についてこれない事を理解しての事だった。

 であれば、先の射撃戦時の雪辱の為、圧倒的な形で勝たねばならぬと考えていた。

 だからエヴァンゲリオン8号機を加速させる。

 H型装備がG型装備から受け継いでいる攻防一体となった大型盾、その機力(パワー)は厄介極まりなかった。

 如何に獣化第1段階のエヴァンゲリオン8号機とは言え、捕まってしまえば脱出する前に致命的な一撃を受ける可能性が高かった。

 ()()()()()()()()()()()()()8()()()()()()()()()()()

 対応できない一撃で、厄介な大型盾を吹き飛ばし、射撃戦時の報復をするのだ。

 デジタル演習での上とは言え、エヴァンゲリオン3号機をバラバラにしてやる積りだった。

 鈴原トウジを嫌っている訳では無い。

 憎んでいる訳でも無い。

 ただ単純に、その外見年齢相応の単純なまでの加虐性を出そうとしていたのだ。

 

「いっくぞーっ!!」

 

 だが、戦闘と言うモノは参加する一方の都合で進むわけでは無い。

 相手にも又、都合と言うモノが、狙いと言うモノがあるからだ。

 

「どーーん!!」

 

 操縦者の自負に相応しい加速を見せるエヴァンゲリオン8号機。

 そして簡単にエヴァンゲリオン3号機の内懐に潜り込み、そして腕を振るう。

 ()()()()()()()()()()()()

 

「勝った」

 

 加虐性の出た顔で笑うマリ・イラストリアス。

 だが、それこそが鈴原トウジの罠であった。

 

『捕らえたで』

 

 それは、攻撃的選択を示し続けたエヴァンゲリオン3号機のBモジュールをあやし続けた男の勝利宣言であった。

 

「えっ!?」

 

 支援腕(サブアーム)だけで保持していた大型盾。

 エヴァンゲリオン8号機を掴まえる為、エヴァンゲリオン3号機は無手(フリーハンド)で備えていたのだ。

 ソレを見抜かれぬ様に、大型盾を構えていたのだ。

 

「インチキ!?」

 

『ちゃうわい!!』

 

 マリ・イラストリアスが反応できない早業で、エヴァンゲリオン3号機がエヴァンゲリオン8号機を掴む。

 腕だけでは無い。

 H型装備に追加されていた隠し腕(コンバットアーム)も展開する。

 名前の通り隠されていた(折りたたまれていた)、戦闘も可能な出力の(サブアーム)だ。

 残っていた支援腕(サブアーム)も動かしてエヴァンゲリオン8号機を掴まえる。

 都合5本の腕に捕らえられ、逃げられないエヴァンゲリオン8号機。

 パニックめいた顔になるマリ・イラストリアス。

 だが鈴原トウジは容赦しない。

 Bモジュールに躊躇なく命令する。

 やってしまえ(パチかましたれ)、と。

 

 至近距離で放たれた5発の35.6cm無反動砲。

 それが決着だった。

 

 

 

「これは予想外」

 

 呆れた様に呟いた相田ケンスケ。

 何故なら、画面にはエヴァンゲリオン3号機の反則負けと表示されていたからだ。

 相田ケンスケなどの講義室に居る人間は知る由も無いが、近接格闘戦という条件(レギュレーション)違反と審判役のMAGIが判定した結果であった。

 

 兎も角、騒然となる講義室。

 誰もが興奮していた。

 派手な戦いに憧れる者も居れば、自分に出来るだろうかとしり込みする者も居た。

 取り敢えず教官は、今日も今日とて声を張り上げるのだ。

 

I haven't requested it so far(ここまでヤレとは言ってない)!!」

 

 

 

 

 

 


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