サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 その朝。

 鈴原トウジは、清々しい気持ちで学校へと来ていた。

 昨日は人を殴り、殴り返された。

 教師に怒られた、親には死ぬほど怒られた。

 顔は青痣だらけ、奥歯はぐらつき、夕べは熱まで出た。

 だけど、スッキリとした感があった。

 妹の鈴原サクラが重傷を負ってからの日々で、心の中に澱のように溜まっていた何かが消え失せたのだから。

 だから鈴原トウジは喧嘩の相手である碇シンジに()()をしていた。

 自分の内側で沸々としていた感情に、碇シンジは真っ向からぶつかってくれた ―― そう考えていたのだ。

 

 頭に一度血が上ってひいた結果、鈴原トウジは物事を俯瞰して見れる様になったとも言える。

 冷静に考えれば、意図して鈴原サクラが傷つけられた訳では無い。

 巨大なロボットが傷つけようとしていたのなら、先ず生きている筈が無い。

 そもそもとして、ロボットが、友人である相田ケンスケが言う所の戦争を街ですれば、街が壊れる。

 だから人を避難させたのだと考えれば、悪いのは避難できなかった(一緒に避難する事に失敗した)自分にもある。

 そこまで理解が出来たのだ。

 

 

 教室はまだ閑散としていた。

 鈴原トウジの親友(ダチ)である所の相田ケンスケが居るのを見つける。

 手に持った青の洋上迷彩と日章旗で装飾されたF-14戦闘機の模型(プラモ)を満足げに見ている。

 

「はよさん」

 

「トウジ、早いな」

 

 相田ケンスケは、様々な角度でF-14を動か(ブンドド)しながらチラっと鈴原トウジを見る。

 視線がかなり冷たい。

 喧嘩に仲裁役で立ち会っていただけなのに、巻き添えで教師から説教を受ける事になったので、少しばかり立腹していたのだ。

 それを素直に口に出す程には子どもでは無かったが。

 

「心機一転ちゅーとこや。所で例の転校生はまだ来とらんか?」

 

「おい、またヤル気なのか」

 

「ちゃうわ。詫びや詫び、詫びを入れる積りや」

 

「お?」

 

 改めて、正面から鈴原トウジの顔を見た相田ケンスケは、少しばかり驚いた。

 顔は酷い有様だったが、表情が朗らかだったからだ。

 

「反省したって所か?」

 

「ま、そんな所や。アイツ、来るのは遅いんか?」

 

「どうかな、割と遅い側だと思うけど……」

 

「何処から来てるんかのぅ」

 

「自転車で通学してるから、そう近くは無いんだろうな」

 

「ほうか」

 

 そう言った時、2人が持つ携帯が鳴った。

 2人のモノだけでは無い。

 クラスに居た全ての人間の携帯が、見事な合奏(セッション)を成す。

 

 

 

 ゴミ出しを済ませたシンジは、通学用に用意した自転車を駐輪場から引っ張り出す。

 濃ゆい蒼色の、紫にも見える色をしたクロスバイクだ。

 別にシンジの趣味と言う訳では無い。

 NERVでの訓練後、何とは無しに行っていた作戦局の人間との雑談で、通学距離があるので自転車が欲しいと零したら、作戦局に自転車趣味者が居たのが運の尽き。

 アレよアレよとあっという間に、シンジの手元にこの自転車がやってきたのだ。

 有志一同からのプレゼント、そう言うモノであった。

 シンジとしては買い物袋を乗せられる前カゴがあれば何でも良かったのに、このスポーツサイクルである。

 とは言え頂き物であると鷹揚に受け入れていた。

 速度を追うロードバイク程では無いが快速車(ママチャリ)よりは遥かにスピードが出るので、乗り始めてからは気に入っていたが。

 

 チェーンロックをシート下のポーチになおし、跨ろうとしたシンジ。

 と、その携帯がポケットで自己主張した。

 特別非常事態宣言。

 新しい使徒の襲来であった。

 

 

 

 

 

「碇司令の居ぬ間に第4の使徒襲来……意外と早かったわね」

 

 第1発令所第1指揮区画で仁王立ちする葛城ミサト。

 その目は、発令所正面の主モニターには洋上から侵攻してくる使徒(BloodType-BLUE)に釘付けとなっていた。

 ピンク色の、名状しがたい形状をしている。

 しかも飛んでいる。

 鳥のように羽で羽ばたいている訳でも、飛行機のように何かを後方へと噴射している訳でも無い。

 重力など無いかのように、或いはそれが自然であるかの様にゆっくりと空へと浮かび進んでくる。

 

「非常識ね」

 

「使徒、だもの。そう言うモノなのでしょうね」

 

 科学者としての常識、或いは物理法則を小ばかにするかの如き使徒の行動に、もはやお手上げとばかりに切って捨てる赤木リツコ。

 対して葛城ミサトはあきらめの境地(ブッダスマイル)で受け入れていた。

 

 と、前衛となる国連統合軍(UN-JF)が水際での迎撃を図る。

 戦車部隊を筆頭に野砲やミサイルその他、国連統合軍は持てる火力をありったけと叩き込む。

 だが、先の使徒と同様に効果は無さげの様であった。

 否、前回の使徒は攻撃が侵攻を遅らせる効果をある程度は発揮していたのだが、此方の使徒は痛痒にも感じないとばかりに、反撃すら気配は無い。

 威力偵察にもなっていなかった。

 唯一、速度こそ多少は遅くなったのが成果であった。

 

 使徒を倒せるのはエヴァンゲリオンのみ。

 その事実を見せつける様な状況だ。

 とは言え、護民を任とする国連統合軍として動かないと言う選択肢は無かったのだが。

 

「シンジ君は?」

 

「現在、初号機の01ケイジに向かって移動中。既にプラグスーツは装着済みとの事です」

 

 打てば響くとばかりに答えるのは日向マコト少尉。

 黒縁の眼鏡をトレードマークとする実直そうな表情をした士官であり、作戦局第1課係長として葛城ミサトを支える女房役であった。

 

「結構。赤木()()、エバーの出撃準備は?」

 

 堅苦しく役職で赤木リツコの名を呼ぶ葛城ミサト。

 出撃に向けた儀式だ。

 その堅苦しさが大事であった。

 居住まいを正し、目の前の難局に立ち向かおうと言う気持ちであった。

 

「初号機は現在、B型装備で冷却中よ。機体に異常は無いわ」

 

「結構。装備の方は十分?」

 

「取り合えず標準型パレットガンは5セット、B型(B型パレットガン)も2セットは用意出来たわ」

 

「要塞機能は?」

 

「現在、予定火力の6割までなら使用可能ね。残りは国連軍頼りと言った所ね」

 

「技術部の復旧への努力に感謝するわ」

 

 先の使徒戦で、結構なレベルで叩かれていたのだ。

 使徒とエヴァンゲリオンの格闘戦による被害はそう大きい訳では無かったが、使徒が乱射した光線砲で第3新東京市の要塞機能はかなり低下していた。

 それを2週間程度で復旧させてみせたのだ。

 不眠不休の努力の賜物であり、称賛以外の事は出来ぬと言うものだ。

 

「彼らにもそう伝えておくわ」

 

 戦闘へ向けた準備が進んでいく。

 

 

 

 プラグスーツを着込んだシンジは、エヴァンゲリオン初号機の巨躯を見上げながら静かに闘志を燃やしていた。

 使徒との闘いは命が掛かっている。

 その事への恐怖はある。

 迷いもある。

 だがシンジは、それらを意志の力でねじ伏せていた。

 人間は何時かは死ぬ、問題は死に方であると教わっていたからだ。

 なこよかひっとべ(迷ったのであれば突撃せよ)の精神であった。

 そしてもう1つ。

 使徒の事があった。

 侵攻してくる使徒が、このNERV本部の地下に存在するリリスと言う存在に接触すれば、世界を滅ぼしかけたセカンドインパクトが再び発生し、今度こそ人類は滅んでしまう。

 それを防ぐためのNERV、そしてエヴァンゲリオン。

 エヴァンゲリオンを動かす事が出来るのは限られた人間であり、今、見つかっているのはたったの3人。

 その1人が己であると教えられたのだ。

 であれば死力を尽くすほかないとシンジは腹を決めていたのだった。

 乗らなければ世界が終わり死ぬ。

 乗っても使徒との闘いに負ければ死ぬ。

 同じ死ぬであるならば、せめて前向きでありたい。

 そう思うからであった。

 

 腹を括っているシンジの脇で多くの人たちが、エヴァンゲリオン初号機の出撃準備を進めて行く。

 システム、兵装などの再チェックが行われる。

 並行して冷却用のL.C.Lが排水されていく。

 その様に鼓舞されたシンジは深呼吸をした。

 本番(実戦)を前に過度に緊張しては良くない。

 薬丸自顕流の稽古でも散々に言われた事だった。

 だからシンジは笑う。

 無駄な力を抜く為に笑う。

 

 と、シンジの傍らに駆け寄ってくる女性が1人。

 技術開発局第2課、エヴァンゲリオン初号機の機付き長(初号機専属整備班班長)である吉野マキであった。

 肩までほどの髪をひっつめに纏めた、才女の風のある女性だ。

 白いツナギに、機付き長と教える様に白衣にも似たコートを着こんで居る。

 

「碇君、発令所より出撃まで20分が発報(コール)されました。準備は宜しいですか?」

 

 鋭利そうな雰囲気に反して、柔らかな声で尋ねて来る吉野マキ。

 既に顔見知りであるシンジは軽く頷いて答える。

 

よかど(準備万端ですよ)

 

 トイレなどは既に済ませている。

 プラグスーツには排尿ユニット(パック)などの装備も付いていたが、流石にそこにすると言うのにはシンジにはまだ躊躇があった。

 万が一は無いとは言われているが、排尿したものがエントリープラグに充填されているL.C.Lに漏れだしたらと考えると、とてもではないがゾッとする話だからだ。

 男子としてのプライドから、誰に言った事は無かったが。

 

「でしたらエントリープラグ搭乗デッキまで移動お願いします」

 

わかいもした(判りました)

 

 移動しようとしたシンジ、ふと、視線を感じる。

 左右を見た。

 居ない。

 見上げた。

 居た。

 綾波レイだ。

 乗るべきエヴァンゲリオンがまだない為、待機命令の下にある綾波レイは第壱中学校の制服を着こんで居た。

 

 友好的であろうと言う思いから手を振ってみるシンジ。

 が、綾波レイはプイっと横を向いた。

 思わず苦笑してしまうシンジ。

 

「どうしたの?」

 

ないもなか(なんでもありませんよ)

 

 先は長そうだ。

 そんな言葉をのみ込みながら、シンジは吉野マキの背を追った。

 

 

 

 

 

「ええっ、まただ!」

 

 シェルターの中に持ち込んだポータブルTVを見ていた相田ケンスケは、悲鳴を上げた。

 それまでLiveで第3新東京市を映していたニュース映像が途切れたのだ。

 小さな画面越しでも判る、国連統合軍や戦略自衛隊の緊迫した動き。

 演習では無いと判る戦車や戦闘機の動きをワクワクして(他人事として楽しんで)いた矢先に、全てが途切れさせられた(シャットダウンした)のだ。

 気楽なマニアとしては当然の反応であると言えた。

 

「なんや、また文字だけかいな?」

 

 そして、そうでない鈴原トウジは合いの手こそ入れても、興味なさげであった。

 興味がないと言う訳では無い。

 昨日殴り合いをしたシンジが乗っているかもしれないのだ。

 気にならない訳は無かった。

 只、戦闘に興味が走っている相田ケンスケとの温度差があると言う事であった。

 

「ああ。報道管制ってやつだよ。僕ら民間人には見せてくれないんだ。こんなビックイベントだっていうのに!」

 

 切歯扼腕。

 憤懣やるかたないと言った塩梅の相田ケンスケ。

 戦争が日常の脇に存在する。

 日常を送る第3新東京市が戦場になる。

 その事に興奮が止まらないのだ。

 だから、気楽に非常な手段を選んでしまう。

 

「なぁ、ちょっと2人で話があるんだけど……」

 

 

 シェルターの待機室を抜け出してトイレに行く2人。

 そこで相田ケンスケは鈴原トウジに協力を要請する。

 シェルターから出たい。

 戦争をこの目で見て見たいのだと。

 

「死ぬまでに、一度だけでも見たいんだよ!」

 

「上のドンパチか?」

 

「今度いつまた、敵が来てくれるかどうか、分かんないし。なあ、頼むよ、ロック外すの手伝ってくれ」

 

「外に出たら、死んでまうで?」

 

 鈴原トウジの脳裏に浮かぶのは大怪我を負った妹の姿だった。

 死んでしまうと言うのは比喩抜きの話なのだ。

 簡単に人は傷つくし、死んでしまう。

 日常の隣に潜んでいるものなのだ。

 その事を鈴原トウジはおぼろげに理解しだしていた。

 だが、相田ケンスケの異様な迫力に、反論の言葉は弱弱しくなる。

 

「ここにいたって分からないよ。どうせ死ぬなら、見てからがいい。それに、あの転校生が乗るロボットだぞ。それがこの前も俺達を守ったんだ。なぁ、俺は思うんだ。トウジはあいつの戦いを見守る義務があるんじゃないかって」

 

 支離滅裂であり、詭弁を通り越した事を言う相田ケンスケ。

 だが、熱意だけはあった。

 熱意、或いは狂気に鈴原トウジは折れる事となる。

 それは昨日の喧嘩に巻き込んだ、そして教師に叱られさせた事への負い目もあっての事でもあった。

 

「しゃーない。つきおうたるわ。けどおまえ、ホンマ、自分の欲望に素直なやっちゃなあ」

 

 

 

 

 

 出撃するエヴァンゲリオン初号機。

 その右手の兵装ビルが動き、その装甲シャッターが解放され、中からエヴァンゲリオン用の武器が顔をだす。

 パレットガン(EW-22)だ。

 使徒との最適位置に出撃したエヴァンゲリオン初号機。

 その最も近い兵装ビルは、少しばかり規格外サイズの銃剣付きパレットガン(EW-22B)を搬出する事が出来なかったのだ。

 とは言え、葛城ミサトとしては今回、最初は射撃戦闘を試みさせる積りであったので問題は無かったが。

 

『いいわねシンジ君。敵のA.T.フィールドを中和しつつピーガン(パレットガン)の一斉射、練習通りよ。良いわね?』

 

よか(大丈夫です)

 

『宜しい、では最終安全装置、解除! エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!!』

 

 全ての軛から解き放たれたエヴァンゲリオン初号機。

 シンジは手早く、しかし手慣れたと言うには聊かばかり不足気味の挙動で、兵装ビルからパレットガンを得て装備する。

 自動的に火器管制システム(FCS)が起動する。

 と、使徒が動きを変えた。

 変形する。

 胴体の様なものが下におりて人型めいた姿になる。

 エヴァンゲリオンに対抗しようと言うのだろう。

 だが、そんな事は関係ないとばかりにシンジはトリガーを引いた。

 電磁レールで加速された209㎜の劣化ウラン弾が発射される。

 拙いながらも指切り射撃を試みて、3~4発毎に射撃を停止して遮蔽物に隠れる。

 防御用の装甲ビルはエヴァンゲリオン初号機を使徒から隠す。

 違う。

 使徒からだけでは無い。

 エヴァンゲリオン初号機側からも使徒を隠したのだ。

 

『シンジ君、回避して!』

 

 葛城ミサトの叫び。

 その深刻さを含んだ勢いに、シンジは咄嗟に機体を飛ばす。

 しゃがむ様に。

 前へと飛ぶ。

 

「なっ!」

 

 次の瞬間、エヴァンゲリオン初号機が盾にしていた装甲ビルが弾けた。

 使徒の攻撃だ。

 ピンク色めいた光る鞭を生み出し、振るってきたのだ。

 使徒の身長、40m以上も延ばされた鞭は、それなりの防御力がある筈の装甲ビルを、まるで紙のように簡単に切り裂いたのだ。

 

なんちっ(なんだと)!」

 

 反撃。

 回避に横っ飛びをしながら射撃する。

 当たらない。

 命中しないのではない。

 使徒の前に存在するA.Tフィールドが凶悪な破壊力を持つはずの209㎜砲弾を受け止めたのだ。

 だが牽制の役割と割り切ったシンジは、そのまま回避しようとする。

 問題は、焦りが指切りを忘れさせ、弾倉(マガジン)が空になるまで連射したと言う事。

 着弾に際して発生した煙がエヴァンゲリオン初号機の視野を狭める。

 だが問題は無い筈だった。

 シンジは仕切り直しとばかりに、全力で後退する積りだったのだから。

 だがそれはシンジの都合。

 使徒は、それを許さない。

 

 爆発煙を切り裂いて飛び込んできた使徒。

 その勢いのままにエヴァンゲリオン初号機を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 シェルターの非常用脱出口から抜け出した相田ケンスケと鈴原トウジ。

 そのまま学校から出ると、近くの第3新東京市を一望できる裏山へと昇っていた。

 古い神社のある山だ。

 その境内で相田ケンスケは持ち出してきた望遠鏡で、嬉々として戦場を見て居た。

 

「凄い! 凄い! これだ、これぞ苦労の甲斐もあったと言うもの!」

 

「元気なモンやナァ」

 

 対して、戦場にも戦闘と言うモノにも興味の薄い鈴原トウジは、落ち着いて戦況を見ていた。

 だから先に気づいた。

 

「あ、アカン」

 

 初号機が吹き飛ばされて来るのを。

 少しだけ遅れて相田ケンスケも理解する。

 自分たちが部外者(局外観測者)ではなく、当事者であると言う事を。

 

「こっちに来るぅ!?」

 

 2人を覆うように落ちてくるエヴァンゲリオン初号機の巨体。

 逃げる間は無い。

 出来る事は神様仏様へと祈る程度だ。

 

「うわああああああああああああ!」

 

「どわああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

やいおったが!(よくもやったな)

 

 見事に吹き飛ばされ、派手に着地したエヴァンゲリオン初号機。

 その衝撃に揺さぶられたシンジであったが、戦意は如何ほども緩んでは居なかった。

 否。

 それどころか攻撃を受けた事で、痛みを味わった事の痛みが怒りに、怒りが戦意へと転化していた。

 獣めいて笑う。

 歯をむき出しにして笑う。

 戦意に不足なし。

 まだ固定装備と言うプログレッシブナイフ(EW-11)がある。

 戦える。

 目の端で電力残量(活動限界)を確認する。

 4分38秒の文字。

 まだ動ける。

 戦える。

 そうシンジが腹を決めた時、その耳朶を葛城ミサトの声が叩いた。

 

『シンジ君、下! 貴方の同級生が居るわ!!』

 

なんちな(なんだって)!?」

 

 エヴァンゲリオン初号機の指の隙間から、怯えて頭を抱えて丸まっている相田ケンスケと鈴原トウジが見えた。

 

『何故こんな所に?』

 

『そこの2人を操縦席へ入れて回収、以後一時退却、出直すわよ!』

 

『待ちなさいミサト、許可のない民間人を、エントリープラグに乗せられると思っているの!?』

 

 発令所の混乱した空気が、スピーカーから聞こえて来る。

 だがシンジはそれにかかわる事無く、大きく笑う。

 笑い出す。

 

よか(凄い)よかぼっけじゃ(凄い無茶をしたものだ)!!」

 

 馬鹿と紙一重か、乗り越えた大馬鹿者か。

 そんな無謀な事をしでかした事が楽しかったのだ。

 臆病よりも蛮勇が貴ばれる、そういう教育()を受けてきたのだ。

 だからこそ笑った。

 その様、正しく呵々大笑。

 腹の底から楽しそうに笑った。

 

『シンジ君?』

 

葛城さぁ(葛城さん)2人を連れもどっが、どけな(2人を連れて何処に下がれば良い)?」

 

『日向君?』

 

『直近の回収ルートは34番! 山の東側です!!』

 

『聞いたわね、シンジ君! 急いで!!』

 

まかっしゃんせ(待っててください)! ふたりとめ指につかまいやいな(2人とも捉まってて)!」

 

 繊細にエヴァンゲリオン初号機の指を動かしたシンジは、地面ごとに2人を回収する。

 両手で大事に保護する。

 葛城ミサトはエントリープラグへと迎え入れろと言ったが、シンジは、それが()()だと考えていた。

 機体を止めて、エントリープラグを露出させ、2人を迎え入れる。

 その時間が致命的な隙であると考えたのだ。

 可動限界も近い。

 そんな状況で、しかも使徒が迫ってくる中で隙など見せられる筈が無かった。

 ()()()()()であっても、エヴァンゲリオン初号機の手で掴まえて下がる方が安全だと判断したのだ。

 

歯をかんみゃい(歯を噛んでて)とんど(飛ぶから)!!」

 

 早口のさつま言葉を2人が理解する前に、シンジはエヴァンゲリオン初号機を横っ飛びにした。

 緊急回避。

 使徒がツッコんできたのだ。

 

こぁ、かんたんにはいかんどな(これは簡単には下がれないか)

 

 腕の中から聞こえてくる悲鳴、その一切を無視してエヴァンゲリオン初号機を奔らせるシンジ。

 遮蔽物の少ない山の中では危険であると断じての事だった。

 

葛城さぁ、次をたのんもんで(葛城さん、次の指示を)!」

 

 八艘飛びの勢いで山肌を蹴って進むエヴァンゲリオン初号機。

 一気に第3新東京市戦闘用街区に戻る。

 それで稼げた時間で、回収班が命がけで出て来ていた非常用ビルに2人を下す。

 土塊と一緒に荷物めいているがシンジも、回収班も誰も気にしない。

 回収班が2人を引っ立てて行くまでの間、シンジは非常用ビルの前で仁王立ちをする。

 無謀な2人も、命がけで職務を全うする回収班も、共に褒めたたえるべき勇敢なる者(ぼっけもん)とシンジは認めたのだ。

 だから盾となる事に迷いは無い。

 

 電源ケーブルを再接続し、内蔵武器(プログレッシブナイフ)を装備させようとしたシンジ。

 そこに1つ、朗報が与えられる。

 

『シンジ君、貴方の右隣りの兵装ビルが見える。そこに依頼の品を用意しておいたわ』

 

 改良型のパレットガン ―― バヨネット付きパレットガン(EW-22B)だ。

 

よかっ(有難う御座います)!」

 

 掴み、そして装備する。

 通常のパレットガンとはひと味違う剛性感、そして重さ。

 シンジは満足感と共に獣性の笑みを浮かべる。

 

じゃひたら(こうなれば)後はチェストするだけやな(後は突撃あるのみか)葛城さぁ(葛城さん)行ってよかな(突貫、宜しいか)?」

 

『シンジ君、無理だと思ったら後退よ、良いわね』

 

よかっ(わかりました)!」

 

『なら突撃して良し!!』

 

 葛城ミサトの命令が出た。

 軛から放たれたシンジ、そしてエヴァンゲリオン初号機。

 

「キィィィェェェェェェッ!!」

 

 猿叫、その魂を震わせる叫び声と共に、シンジは銃剣突撃を敢行する。

 使徒の接近速度にも匹敵する速度で突っ込む。

 相対速度が100㎞/hを超える勢いでの衝突となる。

 A.Tフィールドの衝突。

 中和。

 踏み込み、そしてエヴァンゲリオン初号機の体重を乗せた銃剣を使徒の赤いコアへと一気に突き刺す。

 刺さる。

 とは言え使徒もやられるばかりではない。

 鞭を槍のように扱い、エヴァンゲリオン初号機を穿つ。

 2本の槍が突き刺さったエヴァンゲリオン初号機。

 機体から伝わってくるシンジの胸と腹とを刺す痛み。

 その痛みすら、シンジには笑いを加速させるものでしかなかった。

 歯を噛みしめず、薄く笑い無駄な緊張を乗せる事無くシンジはパレットガンのトリガーを引くのだった。

 

 極至近距離からの、電磁レールによって加速された209㎜の劣化ウラン製の徹甲弾は使徒のコアに致命的な破壊をもたらしたのだった。

 

 

 

 

 

 




2021.12.01 文章修正
2022.02.12 文章修正
2022.08.23 文章修正

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