【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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関わる者の多くに負担を強いた
とは言え、関わる全てが終わった訳ではない。
特に
即ち、エヴァンゲリオン運用の最前線であるNERV本部での訓練である。
ユーラシアNERVに至っては、建造が始まったばかりと言うのが実状であった。
この為、
だからこそ、今回のNERV本部への派遣は良い機会となっていた。
この為、NERV本部の設備を利用して、将来的な、実戦を想定した搭乗訓練や、輸送機への搭載訓練などが行えるのだ。
そしてこれは、
NERV本部による大規模訓練会となる。
それはもう、訓練生を受け入れる各部門は大忙しであった。
特に技術開発局は、各NERVの公用語マニュアルの作成が、実機を使った整備訓練と並行して行われる為に地獄めいた忙しさになっていった。
アメリカNERV関係者はまだ良い。
使用される英語は、日本語とならぶ国連公用語である為、既に用意されているからだ。
問題はユーラシアNERV。
日本や中国、その他東南アジア諸国からの出向者の寄り合い所帯となるが、それぞれの国の言語が全く異なるのだ。
悪夢めいた事になっていた。
第7世代型有機コンピューターMAGIによる監修が行われているとは言え、最後の確認は人間が行わねばならないのだ。
その状況の手酷さは、エウロペアNERVに居た
兎も角。
酷い技術開発局の状況であったが、作戦局も負けず劣らずであった。
顔を突き合わせて出来るのだからと、対使徒戦術に於ける
それだけ、使徒への警戒心と言うモノが大きくなっていた。
更には
葛城ミサトも
「と言う訳で、2人とも、明日は宜しく」
そう言って頭を下げたのは葛城ミサト。
夕食時の事であった。
場所は言うまでも無く碇シンジの家。
席を同じにするのは勿論、シンジと惣流アスカ・ラングレー。
何時もの光景だった。
以前と違うのは、厳命めいた甘木ミツキによる碇シンジ宅への酒類持ち込み禁止令によって、手に持っているのがノンアルコールビールと言う所だろう。
「
怨嗟めいた声でエヴァンゲリオンの管理と整備を担当する技術開発局第2課の名を口にする。
これはシンジ達の正規型エヴァンゲリオンと
技術的な問題があって延期される可能性があった為、明日は予備日として休息をする予定とされていたのだ。
それが流れたのだ。
葛城ミサトが恨みとか疲れなどで微妙な顔になるのも、ある意味で
根が素直なために同情するシンジに対して、アスカは、半眼で葛城ミサトを見ていた。
どうせ、事実上の禁酒令で機嫌が悪いだけでしょ、と。
そして上手に箸を操って、揚げたての唐揚げを食べる。
カリッとした外側と、ジューシーな内側。
良く効いたニンニクと相まって実に美味しい。
要するにアスカは、葛城ミサトの不満を概ね推測出来たのだ。
代わりにとばかりに炊き立ての白米を口に運ぶ。
十分に美味しい。
そもそもアスカ、ビールは嗜む程度であったので禁酒されてもさして辛い訳ではない。
只、ドイツでは子どもだってビールを飲むとの理論的主張が却下されたのが腹立たしかったのだ。
少なくともアスカにとっては、そういう理由であった。
「っ」
緑茶で口腔内を綺麗に流し込んだアスカは、徐に口を開く。
「判ってるわよ。
「やり過ぎって?」
「アタシは上手く手加減してやれるけど、アンタはヤッちゃうって事で釘刺されてるのよ」
「何だよソレ」
「一昨日の
とは言え実戦 ――
エヴァンゲリオンが主力となるNERV本部のNERVエヴァンゲリオン戦闘団と違い、基本は、他の兵科が持つ火力を使徒に叩きつける為の補助役、前線で使徒のA.Tフィールドを中和する役目であるからだ。
故に、
故に主武装は牽制用として
運用実績を基に再設計を施して強度を上げ、
正式名称は
これに、
新規に
兎も角。
だが昨日、それなりの格闘
実に
その
アルフォンソ・アームストロングと並んで
とは言え別段にシンジを舐めていると言う訳では無く、
後、ギード・ユルゲンス等を嫌っては居たが同時に、その
ある意味で、実に年齢相応の子どもらしさと言えた。
とは言え大人からすれば、想定外過ぎる
特に
だが、シンジがアーロン・エルゲラの気分を
その試合で、シンジはアーロン・エルゲラを泣かしてしまったのだ。
試合開始当初はウレタン製の刀と木銃での戦いとなった。
だがアーロン・エルゲラは素手での格闘技経験はあってもこの手の武器を使った訓練は未熟であった為、リーチの差があったにも拘わらず何も出来ずに一方的に叩かれる事となる。
ここで、これでは良くないと判断したアーロン・エルゲラは、ウレタン製の木銃を捨てて、シンジに格闘戦を挑んだのだ。
体格の差を生かす為、寝技に持ち込もうと言う腹積もりもあった。
実に思いっきりの良い判断であった。
実戦を前提として、目つぶしや金的攻撃以外は全てが良いと言う
低い、腰から下を狙ったアーロン・エルゲラのタックル。
問題は、シンジが思わず本気で迎撃したと言う事だろう。
アーロン・エルゲラの気迫に触発されてしまったと言える。
間髪入れずに、
勿論、アーロン・エルゲラの顔面に突き刺さる事となる。
多少の
派手に鼻血と涙とを流して悶絶。
当然、審判役のNERVスタッフが慌てて間に入って止める一幕となった。
「あれは、うん、咄嗟だったから仕方が無いよ」
頭を掻いているシンジ。
反省はしていた。
アーロン・エルゲラの本気な気迫に、ついつい本気になってしまったと。
尤も、試合後に遺恨が残る事は無かった。
シンジは勿論、アーロン・エルゲラも格闘技を習う際には打ち身捻挫は日常茶飯事であった為、互いに運が悪かったねと言う形での共感があったのだ。
それを、相田ケンスケなどは
「シンジ君? あの、もう少し優しくしてあげないと駄目だってお姉さんは思うわ」
戦々恐々と言った態で改めて釘を刺す葛城ミサト。
こめかみには冷や汗が浮かんでいた。
忙しさもあって書類での報告書は見ていたが、ほぼ流し読み状態。
それでも結構な出来事と見ていたが、その実際は
そんな葛城ミサトの尻に乗るアスカ。
「先輩なんだから優しくしないと。そっ、アタシみたいに華麗にね」
だがシンジも黙って聞いてはいない。
唇を尖らせて反論する。
「アスカだって、寝技で相手を落としちゃったじゃないか」
事実だった。
シンジとアーロン・エルゲラの試合とは別に、アスカも又、試合を挑まれていたのだ。
当然ながらも相手は女の子。
ディピカ・チャウデゥリーと言う、インド系らしい浅黒い肌に黒い髪と言う
長い髪を三つ編みにして後ろに垂らしている。
「あ、うん、アレはチョッと、うん」
アスカも言葉を濁す。
シンジと同様に、相手の本気に触発されての事であった。
ディピカ・チャウデゥリーの実家であるチャウデゥリー家は、元はインドでも上位の家柄であったのだが
だからこそ、アスカに戦いを挑んだのだ。
家族に楽をさせる為、チャウデゥリー家を復興させる為、NERV総司令官の息子で実家の太いシンジを落とさねばならぬと言う
欲望に忠実とも言える。
その欲望の為、シンジがアスカに失望させる為に自分が勝つ。
勝ってやると考えていたのだ。
原動力は欲気であっても、ロクでも無い手段を考えるのではなく、真っ向から戦いを挑む辺り、何とも気風の良い女の子と言えた。
とは言え、そんな事情などアスカは知らぬし、知って居ても酌量する気はない。
アスカとはそういう乙女であるのだ。
挑まれた戦いは全力で立ち向かう、叩き返す。
叩き返さねばならない。
格闘技教官であったアーリィ・ブラストにそう教え込まれていたのだから。
だから、仕方が無いのだ。
如何に貧困な環境からの這い上がらんと言う獣めいた気迫を持とうとも、そもそも、10年を超える時間、使徒をブチ殺す為の心身の訓練を重ねて来たアスカの戦意、或いは
「アスカこそやり過ぎだよ。あの子、そんなに経験してなさそうだったもん」
「…あんっ? ……アンタ、ああいうのが好きなの?」
アスカが少し、眉を曲げる。
活舌が巻き舌めいてくる。
ディピカ・チャウデゥリーはアスカとは方向性の違う美少女ではあった。
そう言えばシンジ、あんまり自分に
「あっ、アレ、アスカさん??」
同性ゆえに、アスカの感情を敏感に察知した葛城ミサトが恐る恐ると声を挙げる。
が、丸っと無視される。
アスカの蒼い目はシンジだけを見ている。
シンジを貫く勢いだ。
だが、シンジは気づかない。
美味しそうに自分の作った唐揚げをほおばりつつ、何でも無い事の様に返す。
「ま、他人の好みなんてそれぞれだしね」
「………アンタの好みは?」
「ゑ、それ、言わないと駄目?」
「是非、聞きたいわね」
一触即発めいた雰囲気。
室温が一気に10度から下がった気分になる葛城ミサト。
或いはいきなり地雷原に放り込まれた気分だ。
だが、そんな外野を無視して、シンジはある種の天真爛漫な笑顔で答えを返す。
「アスカだよ」
チョッピリとシンジの耳元が赤いのはご愛敬。
そして100点満点の回答に、アスカの白磁の肌は真っ赤に染まった。
「あ…………アリガト」
「どう思うリツコ!!!!」
翌日、憤懣やるかたないとばかりな態度を
とは言え赤木リツコの反応は、行くのが悪いと言うモノであった。
「新婚家庭にお邪魔すれば、それはお邪魔虫になった気分になるのも当然だわ」
「し、新婚じゃ無いし! 後、シンジ君の唐揚げって美味しいし!!」
「無粋ね」
「んっ」
口では絶対に勝てない事を改めて理解した葛城ミサトは、手元のまだ熱い珈琲を一気飲みすると紙コップをゴミ箱に投げていた。
それから気分を変える為に、目の前の現実を見る。
2人が居るのはデジタル演習の管制室、そのやや後方であった。
今は、エヴァンゲリオン8号機が2機の
無論、戦闘状況は一方的だ。
エヴァンゲリオンであってエヴァンゲリオンではない。
そんな獣めいた戦い方をするエヴァンゲリオン8号機に、ひたすら翻弄されていた。
「そう言えばリツコ」
「何かしら?」
「何で
「はっ?」
「いや、だって群狼って言うけど、1機だけじゃない」
「ああ、そういう事ね。そこは前に葉月博士に聞いたけど、どうにも、元は別の形だったみたいなのよね。8号機に付与する能力。その時に立案されたシステムを流用しているから、そのままの名前らしいわ」
「と言うと?」
「文字通りの群狼、数で使徒を圧倒しようと言うコンセプトだったらしいわ。8号機を指揮管制機として、その下に簡易量産型のエヴァンゲリオンをサブユニットとして配置する。そういう構想だったみたいよ」
「………ちなみに、その簡易量産型エバーって何機くらい作る積りだったの?」
恐る恐ると尋ねる葛城ミサト。
赤木リツコは良い笑顔で答えた。
「9機を予定してたらしいわ」
「馬鹿じゃないの!?」
今現在、NERVが四苦八苦しながら建造を進めている
実に頭のネジが跳んでいる話であった。
思わず大声を出す葛城ミサト。
管制室の目が一気に集まった。
誰もが無言。
機器類の立てる音だけが響いている。
が、声を出したのが葛城ミサトと知って誰もが、作業に意識を戻すのだった。
戦闘時の指揮の突破力に相応しい突飛さがある。
そんな評価が付いているからであった。
とは言え、相方である赤木リツコはそこまで太い神経をしていない。
慌てて葛城ミサトを連れて後ろ、
「ゴミン」
「貴女ねっ!!」
流石に怒りの声を挙げる赤木リツコ。
とは言え、この程度でキレる様な人間であれば、葛城ミサトと10年来の友人などやっては居られない。
溜息1つで怒りを吐き捨てる。
そもそも、葛城ミサトが怒る理由には赤木リツコとて実に同意する気分であったのだから。
「取り合えず、見事に潰れたらしいわ、簡易量産型」
「それはオメデタイわね。アメリカ人って馬鹿?」
「余り否定する事は出来ないわね。そうね、コレを見て」
自分のパソコン、そのE-08と名前の付けられたフォルダを開く。
エヴァンゲリオン8号機の資料関連が全て入っているのだ。
その中でも
「コンセプト的には
又、
副次効果として、使徒めいた回復力が得られるとも計算されてもいた。
何とも空恐ろしい能力を持った、エヴァンゲリオン8号機の支援システムとしての簡易量産型エヴァンゲリオンであった。
暴走を警戒して重火器の類は搭載される事は無いとしていたが、半永久に稼働できる、ほぼ無限に回復できるのだ。
白兵戦能力だけで十分に脅威であると言えた。
建造費用を低減させる為か、のっぺりとした外観である簡易量産型エヴァンゲリオン。
頭部すら無い。
「頭っていうかセンサー部が見えないわね」
完成予想図を見て眉を顰める葛城ミサト。
少なくとも人間的な意味での頭部と言うモノは無かった。
前向きのカバーめいたナニカ、円錐の突起的なものが前に伸びてはいる。
「一応、それが頭部になっているわ」
「センサーとかは?」
「情報システム、人間の搭載を考えていないから特殊だって事らしいわ」
「へー」
「で、この形が狼っぽいから、
「狼? どっちかと言うとウナギじゃない」
「そうね。否定しないわ」
笑い合う2人。
ひとしきり笑った後、葛城ミサトは確認する。
「無理だったわけね、コレ」
「そうよ。マリの、こういう言い方は嫌になる表現だけど量産に失敗した事、それに
「マリの、人為的適格者の方は兎も角、
「飛行の方は?」
「エバー
「そうね」
それは技術開発局が新規に開発したF型装備の事であった。
とは言えエヴァンゲリオンを
最善であったのは
この為、赤木リツコは次善の策としてA.Tフィールドによる空間
そしてエヴァンゲリオンによってA.Tフィールドが実際に観測される様になって、実用化が考えられる様になったのだ。
但し、その目的は補助動力源としてであった。
出力的には
使徒との戦いに於いては、近接戦闘であればA.Tフィールドは互いに中和し合うのだ。
発電が不可能になる。
では遠距離での戦闘となれば、となると、今度は
即ち、A.Tフィールドの相差を作り出す為、
遠距離での射撃戦で、防護壁たるA.Tフィールドの外側に構造体を出すと言う事を意味し、射撃戦の余波で簡単に壊れる事が予想されていた。
だからこそ、研究室レベルでは理論が実証されていても、エヴァンゲリオンの装備として採用される事が無かったのだ。
その前提条件をF型装備が壊した。
即ち、戦場にまでエヴァンゲリオンを輸送すると言うシステムと考えれば、この欠点は目を瞑れるのだ。
「今、どこまで動ける?」
「安全係数を取っているから全力稼働は10分と言う所ね。色々と無茶をすれば15分かしらね」
「
「有難う。ま、来期の予算で色々と試すから、その時には2時間位は行けそうよ」
「差がエッグ―」
笑う葛城ミサト。
赤木リツコも笑う。
それだけ、今年の予算はカツカツになったと言う事であったが、同時に、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の専用装備と言うのが予算執行に待ったが掛かった理由であった。
汎用、他のエヴァンゲリオンも使えるならまだしも、今は2機だけの装備となる。
であれば、どのエヴァンゲリオンでも使える装備が優先しろと国連安全保障理事会が判断するのも妥当な話であった。
NERV本部に配置されているエヴァンゲリオンも大事であるが、手元に来るエヴァンゲリオンも大事。
そういう話であった。
「しゃーないか。2機が何処にでも投入可能って便利だと思うんだけどね」
「コレも政治って事でしょ」
シレっと言う赤木リツコ。
寝物語で情人たる碇ゲンドウが云々と悩んでたりするのを見て来た結果であった。
ある意味で呑気な空気の流れているデジタル演習の管制室。
デジタル演習自体も上手く行っている。
だが、その空気が終わる。
電子合成音が鳴り響いたからだ。
使徒襲来を告げる音だ。
表情を変える一同。
NERVスタッフは手慣れた事の様に有事体制へと移行する。
技術開発局のスタッフはデジタル演習の強制終了、そして搭乗していた
葛城ミサトは赤木リツコを見る。
「任せる」
「ええ」
それからケジメの様に声を張り上げた。
「
その張りのある声に、NERV本部所属では無いスタッフ達も慌てて己の仕事に取り掛かるのであった。
第14回目の使徒との死戦が始まる。