サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 関わる者の多くに負担を強いた合同祭(TokyoⅢ-Record2015)であったが、無事に終わる事となった。

 とは言え、関わる全てが終わった訳ではない。

 特に第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは、高い経費を使って世界中から集めている為、その有効活用が行われる事となった。

 即ち、エヴァンゲリオン運用の最前線であるNERV本部での訓練である。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンが配備される3カ所、その内のアメリカNERVとエウロペアNERVは、共にエヴァンゲリオンの為の設備自体はあるものの、それは実験や開発の為のモノであり、実戦投入は勿論、訓練すらもそこまで考えられてはいない。

 ユーラシアNERVに至っては、建造が始まったばかりと言うのが実状であった。

 この為、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンを用いた実践的な訓練を経験していないのだ。

 だからこそ、今回のNERV本部への派遣は良い機会となっていた。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは、既に実戦投入されているエヴァンゲリオンと異なる部分が多いものの、その運用設備に関しては共有できる様に配慮して設計されている。

 この為、NERV本部の設備を利用して、将来的な、実戦を想定した搭乗訓練や、輸送機への搭載訓練などが行えるのだ。

 そしてこれは、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)のみならず、支援部隊や指揮官の訓練でもあった。

 NERV本部による大規模訓練会となる。

 

 それはもう、訓練生を受け入れる各部門は大忙しであった。

 特に技術開発局は、各NERVの公用語マニュアルの作成が、実機を使った整備訓練と並行して行われる為に地獄めいた忙しさになっていった。

 アメリカNERV関係者はまだ良い。

 使用される英語は、日本語とならぶ国連公用語である為、既に用意されているからだ。

 問題はユーラシアNERV。

 日本や中国、その他東南アジア諸国からの出向者の寄り合い所帯となるが、それぞれの国の言語が全く異なるのだ。

 悪夢めいた事になっていた。

 第7世代型有機コンピューターMAGIによる監修が行われているとは言え、最後の確認は人間が行わねばならないのだ。

 その状況の手酷さは、エウロペアNERVに居た()()フランス人スタッフが、フランス語版を要求しないと言う辺りに現れていた。

 

 兎も角。

 酷い技術開発局の状況であったが、作戦局も負けず劣らずであった。

 顔を突き合わせて出来るのだからと、対使徒戦術に於ける議論(ディスカッション)が連日連夜行われ、それに合わせた実働テストなども随時実施されているのだ。

 それだけ、使徒への警戒心と言うモノが大きくなっていた。

 更には第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の訓練までも管理するのだ。

 葛城ミサトも疲弊する(ヘロヘロになる)と言うモノであった。

 

 

「と言う訳で、2人とも、明日は宜しく」

 

 そう言って頭を下げたのは葛城ミサト。

 夕食時の事であった。

 場所は言うまでも無く碇シンジの家。

 席を同じにするのは勿論、シンジと惣流アスカ・ラングレー。

 何時もの光景だった。

 以前と違うのは、厳命めいた甘木ミツキによる碇シンジ宅への酒類持ち込み禁止令によって、手に持っているのがノンアルコールビールと言う所だろう。

 

整備班(技術開発局第2課)の活躍でデジタル訓練、予定通りやる事になったから」

 

 怨嗟めいた声でエヴァンゲリオンの管理と整備を担当する技術開発局第2課の名を口にする。

 これはシンジ達の正規型エヴァンゲリオンと第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンをMAGIによって連結し、デジタル演習を行おうと言う事であった。

 技術的な問題があって延期される可能性があった為、明日は予備日として休息をする予定とされていたのだ。

 それが流れたのだ。

 葛城ミサトが恨みとか疲れなどで微妙な顔になるのも、ある意味で仕方のない話(残当)であった。

 根が素直なために同情するシンジに対して、アスカは、半眼で葛城ミサトを見ていた。

 どうせ、事実上の禁酒令で機嫌が悪いだけでしょ、と。

 そして上手に箸を操って、揚げたての唐揚げを食べる。

 カリッとした外側と、ジューシーな内側。

 良く効いたニンニクと相まって実に美味しい。

 ()()()()()()()()()()()()()()と思う位の美味しさ、と言う事だった。

 要するにアスカは、葛城ミサトの不満を概ね推測出来たのだ。

 代わりにとばかりに炊き立ての白米を口に運ぶ。

 十分に美味しい。

 そもそもアスカ、ビールは嗜む程度であったので禁酒されてもさして辛い訳ではない。

 只、ドイツでは子どもだってビールを飲むとの理論的主張が却下されたのが腹立たしかったのだ。

 少なくともアスカにとっては、そういう理由であった。

 

「っ」

 

 緑茶で口腔内を綺麗に流し込んだアスカは、徐に口を開く。

 

「判ってるわよ。()()()()()()って事でしょ?」

 

「やり過ぎって?」

 

「アタシは上手く手加減してやれるけど、アンタはヤッちゃうって事で釘刺されてるのよ」

 

「何だよソレ」

 

「一昨日の身体訓練(スパーリング)、泣いてたじゃない」

 

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)も加わって、実戦形式で行われている格闘訓練。

 とは言え実戦 ―― 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンが組み込まれる諸兵科戦闘団で要求される役割で、格闘戦闘が占める部分は低い。

 エヴァンゲリオンが主力となるNERV本部のNERVエヴァンゲリオン戦闘団と違い、基本は、他の兵科が持つ火力を使徒に叩きつける為の補助役、前線で使徒のA.Tフィールドを中和する役目であるからだ。

 故に、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンに求められるのは使徒の攻撃から身を守る防御が主体であった。

 故に主武装は牽制用としてEW-22(パレットガン)の最新型であるE型。

 運用実績を基に再設計を施して強度を上げ、銃剣(バヨネット)による攻撃のみならず銃床での打撃戦も可能にしていた。

 正式名称はEW-22E(再設計型パレットガン)

 これに、EW-11C(プログレッシブダガー)よりも更に刃渡りの長いEW-11D(プログレッシブグラディウス)を装備する事とされている。

 新規にEW-11D(プログレッシブグラディウス)が開発された理由は、操縦する第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)に十分な格闘戦訓練を施す事は難しい為、せめて射程距離(リーチ)が取れる様にとの考えであった。

 

 兎も角。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)に要求されているのは、EW-22E(再設計型パレットガン)EW-11D(プログレッシブグラディウス)を模したウレタン製の模造武器を使った型稽古であった。

 だが昨日、それなりの格闘訓練(経験)を持っていた第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の一部が、気分転換にシンジやアスカなどの先輩と模擬戦(ゲーム)がしたいと言い出したのだ。

 実に勇者(蛮勇)と言えた。

 その勇者(ぼっけモン)の名はアーロン・エルゲラ。

 アルフォンソ・アームストロングと並んで第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)で筋骨隆々との得体を持った子どもであり、そして格闘技(カポエラ)を学んでいた。

 とは言え別段にシンジを舐めていると言う訳では無く、単純に負けず嫌いな性格(他人が強いと評されていると面白く無い)と言う理由であった。

 後、ギード・ユルゲンス等を嫌っては居たが同時に、その()()を評価していたが為に、易々とシンジがぶちのめした事に興味があったと言う事が理由であった。

 ある意味で、実に年齢相応の子どもらしさと言えた。

 とは言え大人からすれば、想定外過ぎる出来事(トラブル)などたまったものではない。

 特に第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)教官役(随員)が慌てて止めに入る事となる。

 だが、シンジがアーロン・エルゲラの気分を良い心構え(ぼっけ)だと受け入れた為、試合(模擬戦)をする事となった。

 

 その試合で、シンジはアーロン・エルゲラを泣かしてしまったのだ。

 試合開始当初はウレタン製の刀と木銃での戦いとなった。

 だがアーロン・エルゲラは素手での格闘技経験はあってもこの手の武器を使った訓練は未熟であった為、リーチの差があったにも拘わらず何も出来ずに一方的に叩かれる事となる。

 ここで、これでは良くないと判断したアーロン・エルゲラは、ウレタン製の木銃を捨てて、シンジに格闘戦を挑んだのだ。

 体格の差を生かす為、寝技に持ち込もうと言う腹積もりもあった。

 実に思いっきりの良い判断であった。

 実戦を前提として、目つぶしや金的攻撃以外は全てが良いと言う交戦規則(ルール)であった事も後押ししての事だった。

 低い、腰から下を狙ったアーロン・エルゲラのタックル。

 問題は、シンジが思わず本気で迎撃したと言う事だろう。

 アーロン・エルゲラの気迫に触発されてしまったと言える。

 間髪入れずに、()()()()()()()()()()()()

 勿論、アーロン・エルゲラの顔面に突き刺さる事となる。

 多少の迎撃(ダメージ)は想定していても、流石にコレ(膝の顔面直撃)は想定外。

 派手に鼻血と涙とを流して悶絶。

 当然、審判役のNERVスタッフが慌てて間に入って止める一幕となった。

 

「あれは、うん、咄嗟だったから仕方が無いよ」

 

 頭を掻いているシンジ。

 反省はしていた。

 アーロン・エルゲラの本気な気迫に、ついつい本気になってしまったと。

 

 尤も、試合後に遺恨が残る事は無かった。

 シンジは勿論、アーロン・エルゲラも格闘技を習う際には打ち身捻挫は日常茶飯事であった為、互いに運が悪かったねと言う形での共感があったのだ。

 それを、相田ケンスケなどは蛮族感覚(バンゾク・アトモスフィア)等と笑っていた。

 

「シンジ君? あの、もう少し優しくしてあげないと駄目だってお姉さんは思うわ」

 

 戦々恐々と言った態で改めて釘を刺す葛城ミサト。

 こめかみには冷や汗が浮かんでいた。

 忙しさもあって書類での報告書は見ていたが、ほぼ流し読み状態。

 それでも結構な出来事と見ていたが、その実際はそれ以上(バイオレンス)だったと知っての事だった。

 そんな葛城ミサトの尻に乗るアスカ。

 

「先輩なんだから優しくしないと。そっ、アタシみたいに華麗にね」

 

 猫めいて(ニシシっとばかりに)笑うアスカ。

 だがシンジも黙って聞いてはいない。

 唇を尖らせて反論する。

 

「アスカだって、寝技で相手を落としちゃったじゃないか」

 

 事実だった。

 シンジとアーロン・エルゲラの試合とは別に、アスカも又、試合を挑まれていたのだ。

 当然ながらも相手は女の子。

 ディピカ・チャウデゥリーと言う、インド系らしい浅黒い肌に黒い髪と言う神秘的(オカルティズム)な雰囲気の子どもだった。

 長い髪を三つ編みにして後ろに垂らしている。

 

「あ、うん、アレはチョッと、うん」

 

 アスカも言葉を濁す。

 シンジと同様に、相手の本気に触発されての事であった。

 

 ディピカ・チャウデゥリーの実家であるチャウデゥリー家は、元はインドでも上位の家柄であったのだが大災害(セカンドインパクト)の混乱によって没落してしまっていた。

 だからこそ、アスカに戦いを挑んだのだ。

 家族に楽をさせる為、チャウデゥリー家を復興させる為、NERV総司令官の息子で実家の太いシンジを落とさねばならぬと言う気迫(バイタリティー)からの事であった。

 欲望に忠実とも言える。

 その欲望の為、シンジがアスカに失望させる為に自分が勝つ。

 勝ってやると考えていたのだ。

 原動力は欲気であっても、ロクでも無い手段を考えるのではなく、真っ向から戦いを挑む辺り、何とも気風の良い女の子と言えた。

 

 とは言え、そんな事情などアスカは知らぬし、知って居ても酌量する気はない。

 アスカとはそういう乙女であるのだ。

 挑まれた戦いは全力で立ち向かう、叩き返す。

 叩き返さねばならない。

 格闘技教官であったアーリィ・ブラストにそう教え込まれていたのだから。

 だから、仕方が無いのだ。

 如何に貧困な環境からの這い上がらんと言う獣めいた気迫を持とうとも、そもそも、10年を超える時間、使徒をブチ殺す為の心身の訓練を重ねて来たアスカの戦意、或いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「アスカこそやり過ぎだよ。あの子、そんなに経験してなさそうだったもん」

 

「…あんっ? ……アンタ、ああいうのが好きなの?」

 

 アスカが少し、眉を曲げる。

 活舌が巻き舌めいてくる。

 ディピカ・チャウデゥリーはアスカとは方向性の違う美少女ではあった。

 白人(コーカソイド)めいた豊満な体への萌芽が見えるアスカに対し、ストンっとした体には清楚さに似た魅力があった。

 そう言えばシンジ、あんまり自分に()を出して来ないわね等と、ドロリとした粘性の高い感情を抱くアスカ。

 

「あっ、アレ、アスカさん??」

 

 同性ゆえに、アスカの感情を敏感に察知した葛城ミサトが恐る恐ると声を挙げる。

 が、丸っと無視される。

 アスカの蒼い目はシンジだけを見ている。

 シンジを貫く勢いだ。

 だが、シンジは気づかない。

 美味しそうに自分の作った唐揚げをほおばりつつ、何でも無い事の様に返す。

 

「ま、他人の好みなんてそれぞれだしね」

 

「………アンタの好みは?」

 

「ゑ、それ、言わないと駄目?」

 

「是非、聞きたいわね」

 

 一触即発めいた雰囲気。

 室温が一気に10度から下がった気分になる葛城ミサト。

 或いはいきなり地雷原に放り込まれた気分だ。

 

 だが、そんな外野を無視して、シンジはある種の天真爛漫な笑顔で答えを返す。

 

「アスカだよ」

 

 チョッピリとシンジの耳元が赤いのはご愛敬。

 そして100点満点の回答に、アスカの白磁の肌は真っ赤に染まった。

 

「あ…………アリガト」

 

 

 

 

 

「どう思うリツコ!!!!」

 

 翌日、憤懣やるかたないとばかりな態度を赤木リツコ(マブ)にぶつける葛城ミサト。

 とは言え赤木リツコの反応は、行くのが悪いと言うモノであった。

 

「新婚家庭にお邪魔すれば、それはお邪魔虫になった気分になるのも当然だわ」

 

「し、新婚じゃ無いし! 後、シンジ君の唐揚げって美味しいし!!」

 

「無粋ね」

 

「んっ」

 

 口では絶対に勝てない事を改めて理解した葛城ミサトは、手元のまだ熱い珈琲を一気飲みすると紙コップをゴミ箱に投げていた。

 それから気分を変える為に、目の前の現実を見る。

 2人が居るのはデジタル演習の管制室、そのやや後方であった。

 適格者(チルドレン)第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の操るエヴァンゲリオンがぶつかっている様が見える。

 今は、エヴァンゲリオン8号機が2機の第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンと戦っている。

 無論、戦闘状況は一方的だ。

 エヴァンゲリオンであってエヴァンゲリオンではない。

 そんな獣めいた戦い方をするエヴァンゲリオン8号機に、ひたすら翻弄されていた。

 

「そう言えばリツコ」

 

「何かしら?」

 

「何でエバー108(エヴァンゲリオン8号機)のアレ、群狼戦闘能力(ウルフパック)って言うの?」

 

「はっ?」

 

「いや、だって群狼って言うけど、1機だけじゃない」

 

「ああ、そういう事ね。そこは前に葉月博士に聞いたけど、どうにも、元は別の形だったみたいなのよね。8号機に付与する能力。その時に立案されたシステムを流用しているから、そのままの名前らしいわ」

 

「と言うと?」

 

「文字通りの群狼、数で使徒を圧倒しようと言うコンセプトだったらしいわ。8号機を指揮管制機として、その下に簡易量産型のエヴァンゲリオンをサブユニットとして配置する。そういう構想だったみたいよ」

 

「………ちなみに、その簡易量産型エバーって何機くらい作る積りだったの?」

 

 恐る恐ると尋ねる葛城ミサト。

 赤木リツコは良い笑顔で答えた。

 

「9機を予定してたらしいわ」

 

「馬鹿じゃないの!?」

 

 今現在、NERVが四苦八苦しながら建造を進めている第2期量産型(セカンドシリーズ)と同じ数のエヴァンゲリオンを、1機のエヴァンゲリオンの支援機として建造しようと言うのだ。

 実に頭のネジが跳んでいる話であった。

 思わず大声を出す葛城ミサト。

 管制室の目が一気に集まった。

 誰もが無言。

 機器類の立てる音だけが響いている。

 が、声を出したのが葛城ミサトと知って誰もが、作業に意識を戻すのだった。

 戦闘時の指揮の突破力に相応しい突飛さがある。

 そんな評価が付いているからであった。

 

 とは言え、相方である赤木リツコはそこまで太い神経をしていない。

 慌てて葛城ミサトを連れて後ろ、自分の専用席(技術開発局局長席)にまで下がる。

 

「ゴミン」

 

「貴女ねっ!!」

 

 流石に怒りの声を挙げる赤木リツコ。

 とは言え、この程度でキレる様な人間であれば、葛城ミサトと10年来の友人などやっては居られない。

 溜息1つで怒りを吐き捨てる。

 そもそも、葛城ミサトが怒る理由には赤木リツコとて実に同意する気分であったのだから。

 

「取り合えず、見事に潰れたらしいわ、簡易量産型」

 

「それはオメデタイわね。アメリカ人って馬鹿?」

 

「余り否定する事は出来ないわね。そうね、コレを見て」

 

 自分のパソコン、そのE-08と名前の付けられたフォルダを開く。

 エヴァンゲリオン8号機の資料関連が全て入っているのだ。

 その中でも群狼戦闘能力(ウルフパック)と書かれた資料を選んで開く。

 

「コンセプト的には第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンよりも更に簡易的ね。操縦者すら特別とする予定だったみたいよ」

 

 第1級機密資格(GradeⅠ Access-Pass)持ちの人間にのみ閲覧を許される資料には、作られた適格者(ビメイダー)たるマリの量産型を配置するとされていた。

 又、(スーパー・ソレノイド)機関を搭載し、その出力によって実験室レベルで成功している可変装甲(モーフィング・アーマー)を流用した飛行翼を搭載する事が考えられていた。

 副次効果として、使徒めいた回復力が得られるとも計算されてもいた。

 何とも空恐ろしい能力を持った、エヴァンゲリオン8号機の支援システムとしての簡易量産型エヴァンゲリオンであった。

 暴走を警戒して重火器の類は搭載される事は無いとしていたが、半永久に稼働できる、ほぼ無限に回復できるのだ。

 白兵戦能力だけで十分に脅威であると言えた。

 ()()()()()()()()()

 

 建造費用を低減させる為か、のっぺりとした外観である簡易量産型エヴァンゲリオン。

 頭部すら無い。

 

「頭っていうかセンサー部が見えないわね」

 

 完成予想図を見て眉を顰める葛城ミサト。

 少なくとも人間的な意味での頭部と言うモノは無かった。

 前向きのカバーめいたナニカ、円錐の突起的なものが前に伸びてはいる。

 

「一応、それが頭部になっているわ」

 

「センサーとかは?」

 

「情報システム、人間の搭載を考えていないから特殊だって事らしいわ」

 

「へー」

 

「で、この形が狼っぽいから、群狼戦闘能力(ウルフパック)だったらしいわ」

 

「狼? どっちかと言うとウナギじゃない」

 

「そうね。否定しないわ」

 

 笑い合う2人。

 ひとしきり笑った後、葛城ミサトは確認する。

 

「無理だったわけね、コレ」

 

「そうよ。マリの、こういう言い方は嫌になる表現だけど量産に失敗した事、それに(スーパー・ソレノイド)機関の実用化が遅れていると言う事で頓挫したわ」

 

「マリの、人為的適格者の方は兎も角、(スーパー・ソレノイド)機関と回復力は実現して欲しいわね」

 

「飛行の方は?」

 

「エバー101(エヴァンゲリオン初号機)102(エヴァンゲリオン弐号機)に実装したアレで十分でしょ」

 

「そうね」

 

 それは技術開発局が新規に開発したF型装備の事であった。

 全力発揮(フルドライブ)時に発生するA.Tフィールドを利用した飛翔用装備であった。

 とは言えエヴァンゲリオンを全力発揮(フルドライブ)させる為に必要な電力(出力)は莫大であり、今現在のエヴァンゲリオンが搭載している機体内のバッテリーでは不可能であった。

 最善であったのは(スーパー・ソレノイド)機関の実装であったが、まだ実用化には時間が必要であった。

 この為、赤木リツコは次善の策としてA.Tフィールドによる空間断相(相差)を利用した相転移(インフレーション)機関を作り出し、搭載したのだ。

 相転移(インフレーション)機関自体は、A.Tフィールドの存在が推測された段階の頃から検討されていた。

 そしてエヴァンゲリオンによってA.Tフィールドが実際に観測される様になって、実用化が考えられる様になったのだ。

 但し、その目的は補助動力源としてであった。

 出力的には(ノー・ニュークリア)機関と互角以上であり、軽量と言う一見すれば良いこと尽くめの相転移(インフレーション)機関であったが、問題はその発電システムであった。

 使徒との戦いに於いては、近接戦闘であればA.Tフィールドは互いに中和し合うのだ。

 発電が不可能になる。

 では遠距離での戦闘となれば、となると、今度は相転移(インフレーション)機関の構造が問題になる。

 即ち、A.Tフィールドの相差を作り出す為、相転移(インフレーション)機関は構造の半分をA.Tフィールドの外側に突き出さねばならないと言う問題だ。

 遠距離での射撃戦で、防護壁たるA.Tフィールドの外側に構造体を出すと言う事を意味し、射撃戦の余波で簡単に壊れる事が予想されていた。

 だからこそ、研究室レベルでは理論が実証されていても、エヴァンゲリオンの装備として採用される事が無かったのだ。

 その前提条件をF型装備が壊した。

 即ち、戦場にまでエヴァンゲリオンを輸送すると言うシステムと考えれば、この欠点は目を瞑れるのだ。

 

「今、どこまで動ける?」

 

「安全係数を取っているから全力稼働は10分と言う所ね。色々と無茶をすれば15分かしらね」

 

ライトフライヤー(最初の飛行機)よりは随分マシね」

 

「有難う。ま、来期の予算で色々と試すから、その時には2時間位は行けそうよ」

 

「差がエッグ―」

 

 笑う葛城ミサト。

 赤木リツコも笑う。

 それだけ、今年の予算はカツカツになったと言う事であったが、同時に、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の専用装備と言うのが予算執行に待ったが掛かった理由であった。

 汎用、他のエヴァンゲリオンも使えるならまだしも、今は2機だけの装備となる。

 であれば、どのエヴァンゲリオンでも使える装備が優先しろと国連安全保障理事会が判断するのも妥当な話であった。

 NERV本部に配置されているエヴァンゲリオンも大事であるが、手元に来るエヴァンゲリオンも大事。

 そういう話であった。

 

「しゃーないか。2機が何処にでも投入可能って便利だと思うんだけどね」

 

「コレも政治って事でしょ」

 

 シレっと言う赤木リツコ。

 寝物語で情人たる碇ゲンドウが云々と悩んでたりするのを見て来た結果であった。

 

 ある意味で呑気な空気の流れているデジタル演習の管制室。

 デジタル演習自体も上手く行っている。

 だが、その空気が終わる。

 電子合成音が鳴り響いたからだ。

 

 使徒襲来を告げる音だ。

 表情を変える一同。

 NERVスタッフは手慣れた事の様に有事体制へと移行する。

 技術開発局のスタッフはデジタル演習の強制終了、そして搭乗していた子ども達(チルドレン)の保護等を指示していく。

 葛城ミサトは赤木リツコを見る。

 頷き合う(アイコンタクト)

 

「任せる」

 

「ええ」

 

 それからケジメの様に声を張り上げた。

 

傾聴(Attention)! 総員、第二種戦闘配備!!」

 

 その張りのある声に、NERV本部所属では無いスタッフ達も慌てて己の仕事に取り掛かるのであった。

 第14回目の使徒との死戦が始まる。

 

 

 

 

 

 


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