サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 碇シンジは、フト、時代の流れめいたモノを感じた。

 居る場所はNERV本部地下、エヴァンゲリオのケイジの傍に設けられている操縦者待機室だ。

 作戦伝達室(ブリーフィングルーム)も兼ねている為、使徒襲来に関する警報が発報された場合には適格者(チルドレン)に最優先で向かう義務が課されている場所でもある。

 

「どうしたの?」

 

 少しだけシンジが呆っとしていたのに気づいたのだろう、同じソファに座っていた惣流アスカ・ラングレーが声をかけて来る。

 戦闘前に、と言う気分が半分。

 私が隣に居るのに、と言う気分が半分と言った所だろう。

 

「うん、何て言うか、増えたなって思って」

 

「ああ、そう言う__ 」

 

 その物言いには、アスカも少し笑った。

 笑いながら周りを見た。

 シンジとアスカが座っているソファ。

 テーブルを挟んだ向かいのソファセットで綾波レイや渚カヲルが静かにお茶を飲み、鈴原トウジが妹をあやす様にマリ・イラストリアスの相手をしていた。

 ある意味で1纏まりであった。

 だがそれだけではない。

 適格者(チルドレン)のみならずリー・ストライクバーグやマリィ・ビンセント、それに相田ケンスケたち第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)まで揃っているのだった。

 操縦者待機室の人口密度が、アスカが初めて足を入れた時に比べて10倍以上となっていた。

 臨時にデジタル演習の待機室となっていた会議室から全員が第二種戦闘配備の発令に伴って直行した結果だった。

 総員が、実戦の気配が間近い事に緊張感を感じざわついている(わいわいがやがやと言う)訳ではないが、それでも常日頃とは段違いの雰囲気と言えるだろう。

 何となく分かれている適格者(チルドレン)第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)

 リー・ストライクバーグとマリィ・ビンセントは中間と言った所だろうか。

 NERVの歴の長さもあって、割とリラックスする形で居た。

 最初、相田ケンスケがシンジや鈴原トウジらに話しかけようとしていたのだが残念、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)で唯一の実戦経験者と言う事で周りに囲まれてアレコレと根掘り葉掘りと聞かれていた。

 適格者(チルドレン)側に聞きに来ないのは、拒絶されているから等では無い。

 只、実戦間近となった事でシンジ達5人の空気が本質的に張っている(ピリついている)が為であった。

 有り体に言って、()()()()()()のだ。

 

 戦闘経験者の放つ雰囲気、それはある意味でアドレナリン臭とも言えていた。

 それに、実戦経験の無い第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)は呑まれていたのだ。

 

「ま、アタシたちがする事なんて変わらないわよ」

 

「そっか、そうだね」

 

 笑い合う2人。

 己を最前線で切り込み役を任じるシンジ。

 シンジと共に前衛に立ち、周りを見て指示を出すアスカ。

 そこに違いはない。

 何時も通りに行うだけである。

 そう、考えるのであった。

 

 

Attention(傾聴)!」

 

 気を引き締める為もあって、声を張り上げたパウル・フォン・ギースラー。

 打ち合わせられた踵が、金属板で補強されている事もあって良く響いた。

 眼帯を付け、傷だらけとなった相貌は実に迫力がある。

 その迫力に負けた訳ではないが、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)は口を閉ざして慌てて背筋を伸ばし、正面を見た。

 無論、シンジ達も立ち上がる。

 

Salute to Colonel Katsuragi(葛城大佐に敬礼)!」

 

 気を利かせた誰かが声を上げたが、それを葛城ミサト自身が手で止める。

 厳しい顔と声で言葉を発する。

 

「敬礼は結構。時間が惜しいわ」

 

 咄嗟に出た言葉だった。

 当然ながらも敬礼を虚礼と見ている訳ではない。

 この場に居るのが子どもでしかない、子どもなのだ。

 その子どもが仕込まれた敬礼をすると言う事に耐えられないモノを感じての事だった。

 

 子どもが戦場に行く。

 子どもを戦場に行かせる。

 その醜悪さを直視するには、少しばかり疲れた今の葛城ミサトにとっては辛かったのだ。

 

 日向マコトに頷く。

 室内灯の輝度を落として、画面のディスプレイを見やすくする。

 映し出されたのは空飛ぶ輪とでも言うべきモノであった。

 ざわめきが湧き上がる。

 

「現在、甲府方面から第3新東京市へ侵攻中。コレが第16使徒よ」

 

 ディスプレイに地図が表示され、第3新東京市を中心とした100㎞四方が映し出される。

 赤い輝点に使徒(16th ANGEL)の名と矢印が書きくわえられている。

 その情報に、アスカがポツリと漏らした。

 

「内陸から?」

 

「毎度の事ながらどこから湧いてくるかは不明。ある意味で何時も通りの使徒ね」

 

 もう色々と諦めた口調で赤木リツコが説明をする。

 飛んでいるのも、もう普通。

 使徒だから。

 そう書かれた心の棚に科学者として大事なモノを放り込んだ表情であった。

 

「監視網、民間協力者(ボランティア)が発見してくれたのが25分前。現在の侵攻速度は約50㎞/hと言う所ね」

 

「威力偵察は? 使徒の能力とか判ってるの?」

 

 矢継ぎ早に質問するアスカ。

 その姿は、正に前線指揮官の姿であった。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の尊敬、或いは崇拝めいた目を受けながらアスカは立つ。

 正に責任感であった。

 

「現時点での攻撃は無理。人口密集地の上空を選んで飛んでいるのよ。だから発見が早かったとも言えるけども」

 

 痛し痒しと苦笑いを浮かべる葛城ミサト。

 是非も無しと言う塩梅で溜息をつくアスカ。

 

「じゃ、アタシとシンジが前衛の何時もの組み(フォーメーション)で良いの?」

 

「そちらは。ええ、今回は別の態勢を試してみる事になったわ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をする葛城ミサト。

 微妙な顔となっているのはパウル・フォン・ギースラ―などのNERV本部の作戦局スタッフに共通していた。

 対して、満足気と言うか、欲望に炙られた様な顔をしていたのは第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の随行スタッフであった。

 誰もが頷き合っていた。

 

Ach was!?(えっ)?」

 

なんちな(なんで?)

 

 シンジとアスカは目をぱちくりとして思わずお互いの顔を見ていた。

 

 

 

 葛城ミサトの言う別の態勢。

 それは、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの実戦投入であった。

 前衛は第3小隊、エヴァンゲリオン3号機(鈴原トウジ)エヴァンゲリオン8号機(マリ・イラストリアス)で行う。

 支援(後衛)は第2小隊、エヴァンゲリオン4号機(綾波レイ)エヴァンゲリオン6号機(渚カヲル)が担う。

 そして第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン3機を特設第4小隊として、第16使徒のA.Tフィールド中和役と言う想定される形で運用したいと言う事であった。

 シンジとアスカが投入されない理由は、()()()()()()()()()()であった。

 無論、葛城ミサトらNERV本部の作戦局スタッフ(実戦経験者)らによる判断では無い。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の随行スタッフ、正確に言えば国連安全保障理事会の意向であった。

 

 シンジとアスカの第1小隊が余りにも強力である為、第1小隊を出撃させては第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの能力評価が出来ないとの考えであった。

 とは言え後方にも配置しない理由は、物理的問題であった。

 電力供給力である。

 NERV本部の電力供給力は当初の配備予定であった5機分、では無い。

 そこまで配備されるのは難しいだろうと、電力供給力の整備よりも要塞機能が優先されて居た為、4機分に何とか到達すると言う水準であったのだ。

 エヴァンゲリオン8号機の配備に伴って、最優先で送電網が増設される事となっていたが、工事は未了と言う状況であった。

 とは言え、これは怠慢と言う訳では無かった。

 何故なら(ノー・ニュークリア)機関を搭載した支援機(ジェットアローン2)が居たからだ。

 1機の支援機(ジェットアローン2)で2機のエヴァンゲリオンが通常稼働する事が可能なのだ。

 無論、2機のエヴァンゲリオンを同時に支えようとした場合、アンビリカルケーブルの都合上どうしても機動能力は低下するが、そこは後方支援部隊向けと割り切りさえすれば良い。

 そう作戦局では考えていた。

 この結果、第3新東京市(NERV本部)では実質7機のエヴァンゲリオンの同時運用が可能となっていた。

 ここに、更に汎用支援機(ジェットアローン3)がNERV本部に残されていれば話は違ったのだが、残念ながらも先の合同祭(TokyoⅢ-Record2015)に参加した3機は全て、NERV本部は勿論、日本からも移動 ―― 各支部へと輸送されていたのだ。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンとは別に、先に送られる理由は輸送手段が海路に限定されるからであった。

 汎用支援機(ジェットアローン3)の搭載する(ノー・ニュークリア)機関が繊細な所のある精密機器であり、同時に貴重である為、事故リスク回避の為に空輸が出来ない事が理由であった。

 故に、現在第3新東京市圏内で運用できるエヴァンゲリオンは7()機が上限となっているのだ。

 葛城ミサトが第1小隊を配置しないのも道理であった。

 

 とは言え、電力に余力が無いとは言え後方に起動させずに待機させる程度の事であれば可能であった。

 それをしないのは人類史上初の大戦力、7機ものエヴァンゲリオンの同時投入である為、余程の相手で無ければ負ける事は無い。

 エヴァンゲリオン5機によるA.Tフィールドの中和だ。

 その干渉力は、例え全力稼働(フルドライブ)時のエヴァンゲリオン弐号機が纏うA.Tフィールドであっても中和出来る筈。

 そう考えていた。

 第7世代型有機コンピューターMAGIも、可能確率を72.3%と計算していた。

 A.Tフィールドさえはぎ取ってしまえば、後は対処は容易である。

 そう考えていた。

 だからこそ国連安全保障理事会の意向を受け入れたとも言えた。

 

 推測の上に推測を重ねる行為。

 それは、ある意味で慢心であった。

 

 

 本作戦に於いて総予備と言う立場となったシンジ(エヴァンゲリオン初号機)アスカ(エヴァンゲリオン弐号機)

 配置は待機。

 プラグスーツの着用義務のある第三種戦闘配備ですら無い。

 故に、2人は操縦者待機室に残っていた。

 他の、乗るべきエヴァンゲリオンの無い第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)は見て学べとばかりに、戦況の全てを把握できる第一発令所に移動していた。

 だからこそ、平素の静かさを操縦者待機室は取り戻していた。

 訓練服のまま、上品とは言いづらい仕草で足を組んでいるアスカ。

 シンジも、目を瞑ってはいるが組んでいる腕、その指先がリズムを取って居て、緩んで居ると言う風は無い。

 

「シンジ」

 

「ん」

 

 シンジはアスカの目を見た。

 アスカもシンジの目を見た。

 頷き合う。

 以心伝心。

 2人は同時に立ち上がり、隣の更衣室に向けて歩き出す。

 

「最悪は想定するべきよね」

 

「そうだね」

 

 戦場に投入されるエヴァンゲリオンは7機。

 だが、実際に戦闘可能なのは4機だ。

 デジタル演習で戦ってみた第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは、現時点で戦闘行動が可能とはとても言えないと言うのがシンジとアスカの評価だった。

 無論、葛城ミサトらもその点は同意するだろう。

 只、A.Tフィールドの中和は出来る筈だと考えていたのだ。

 だがシンジもアスカもそうは考えない。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)が持つA.Tフィールドは弱い。

 そもそもが、エヴァンゲリオンに比べて脆弱と言う問題はある。

 だがA.Tフィールドに関しては、機体と第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)のシンクロに依る問題であった。

 否、そもそもとしてエヴァンゲリオンと比べて第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)には専用機と言うものが無いのだ。

 乗る第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)に負担を掛けぬ為、ローテーション制となっていた。

 これでは機体とのシンクロが深まる筈も無かった。

 その点を、感覚として理解しているシンジとアスカは、この戦場に於ける第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンが戦力に数えられるとはとても思えなかったのだ。

 

「シンジ」

 

「アスカ」

 

 男女別の更衣室に入る前に手を叩き合う(ハイタッチ)する2人。

 

 自動化された入り口扉が閉まるよりも先に、訓練服を脱ぎ出すアスカ。

 鼻息1つ。

 脳みそを占めているのは、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンと並ぶ不安定要素、エヴァンゲリオン8号機とマリ・イラストリアスの事だった。

 アスカが前線指揮官として見た時、余りにも未熟であった。

 戦闘力と言う意味では無い。

 戦場に立つ人間としてのメンタルが、であった。

 感情的になりやすく、過度に攻撃に寄り過ぎている。

 自分が1人で何とでも出来ると思っても居る。

 

「ふっ」

 

 実用性が高いが故に色気の無いOD色(国連軍支給品)のパンティーを脱いで乱暴に自分のロッカーに叩き込みながら、ふと、笑うアスカ。

 そうだ。

 ()()()()()()

 マリ・イラストリアスは、NERVに来るまでのアスカによく似ているのだ。

 自分への自負。

 過大と言って良い自信。

 だからこそ、なのだ。

 違いがあるとすれば、甘えん坊と言う事だろう。

 そんな風にアスカは考えていた。

 無論、それは自分が他人からどう思われているか(シンジとじゃれ合う姿がどう見られているか)と言う事を考えていないが故の判断であった。

 

 兎も角。

 アスカは笑う

 自信満々に笑う。

 

「ま、なんかあったらアタシ()が助けてやれば良いって事よね」

 

 指揮官は大変だ。

 そんな風に嘯きつつ、アスカはプラグスーツ左手首のスイッチを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 


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