【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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第16使徒の迎撃戦。
葛城ミサトを筆頭としたNERV本部作戦局スタッフは、国連安全保障理事会の指示を受け入れつつも柔軟な対応を行う事としていた。
国連安全保障理事会としては、可能な限り機動展開部隊の戦闘を模した形で行って欲しいとしていたのだが、現実問題として第16使徒は攻撃目標として余りにも小さかったのだ。
全体として見れば直径で200mの輪であり、輪を構成する紐状の
現在、第3東京市近郊に展開している国連軍
ミサイルなどの誘導兵器であれば話は別であるが、残念ながらも第16使徒は
無論、レーダーのみに頼らないレーザー誘導方式や赤外線画像誘導方式などを複合的に採用した新しい対使徒ミサイル装備の開発もNERVや各国軍事企業の世界規模での協力の下で精力的に行われてはいたのだが、如何せんにも今はまだ試作品の段階に留まっており、少なくとも今の第3新東京市には存在していなかった。
よって、使徒のA.Tフィールドの中和こそ
「各員、準備は良いわね?」
既に7機のエヴァンゲリオンは配置についていた。
最前線に居るエヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン8号機による第3小隊。
そのすぐ後ろでA.Tフィールドの中和を担う3機の
そして全般支援の為、前線に近い場所に展開するエヴァンゲリオン4号機とエヴァンゲリオン6号機の第2小隊。
都合7人の子ども達。
綾波レイと鈴原トウジ、それに渚カヲルも一応の実戦経験者だ。
だが残る4人は違う。
マリ・イラストリアスはまだ良い。
幼過ぎると言う部分はあるにせよ、戦闘を前提とした訓練をメンタル面も含めて受けているからだ。
問題は3人の
正確に言えば
そして霧島マナとヴィダル・エレーンと言う北欧の少年だ。
日本人と中国系アメリカ人、それにスウェーデン人。
設立されたばかりの各NERVに所縁のある人間がバランスよく選出されている辺り、政治的背景が見え隠れする人選と言えた。
建前としては、機体とのシンクロ率から選ばれたとされているが、それにしても偶然としては恐ろしいと言う話であった。
NERVアメリカ支部でエヴァンゲリオン開発に携わり、訓練めいた事も受けているリー・ストライクバーグはまだ良い。
ある程度の覚悟もしていたのだから。
だが、十分な訓練を受けているとは言い難い霧島マナとヴィダル・エレーンの顔色は悪かった。
シンクロ率こそ上位に入っているが、戦闘訓練の成績は良好とは言いづらく、又、身体頑健からは遠い人選であるからだった。
葛城ミサトはため息を噛み殺し、その全員の顔を見ながら精一杯に自信のある態度を崩さずに告げる。
「予定通り闘い、予定通りに勝つわよ」
だが子ども達の雰囲気は堅い。
だからこそ、鈴原トウジがナニかを口にしようかとした時、最も危険な前衛を担うマリ・イラストリアスが元気に声を上げた。
『私が勝つよ!』
甲高く、そして衒いの無いその声に葛城ミサトは影の無い笑みを浮かべて頷いた。
「そうね、期待しているわマリ。一発かまして来て」
『任せて!』
少しだけ空気が明るくなった7人の
そこに無粋な声が入る。
青葉シゲルだ。
「目標、戦闘開始地点に到着!!
砲撃を開始する
155mm砲弾による面制圧射撃だ。
いまだ時速50㎞/hを維持していた第16使徒の脚を止める為の攻撃。
降り注ぐ砲弾の雨。
調整破片榴弾が降り注ぐ。
日本やフランスなど、各国から精鋭と言って良い人間が集っているのだ。
その射撃は見事の一言であった。
A.Tフィールドによって第16使徒自体に被害は出ないものの、その動きが鈍った。
その隙を見逃す事無く、葛城ミサトは命令を発する。
「良し。
葛城ミサトの言葉に、めいめい、頷くなり声を上げるなりして了解の意を示した。
予定通りに戦い、予定通りに勝つ。
人類の最大戦力であり、NERV始まって以来のエヴァンゲリオン7機の集中投入なのだ。
勝てる。
第1小隊の未投入と言う事に多少の不安は抱きつつも、誰もが勝利を疑わなかった。
だから忘れていたのだ。
相手が
使徒とは理不尽の権化であり、世の理から外れた存在である事を。
『
それを受け、前進を開始する特設機動展開小隊の3機。
ある意味で、これが初めての実戦投入であるのだ。
「ふぅぅっ」
緊張に満ちた声を漏らしたのは、
本物の使徒を目にし、戦いを挑むと言う事に緊張していた。
喉がカラカラになった様な感覚。
生唾を呑む仕草をして、第16使徒を睨む。
輪の様な形をした空に浮いている存在と言う、本当に
「やってやるんだから」
自分を鼓舞する様に言う霧島マナ。
その小さな声を臨時の小隊長を担っているリー・ストライクバーグは拾い、そして返した。
『いつも通り、訓練通りにやれば良い。
「あっ、
何時も通りにリー・ストライクバーグはぶっきらぼうな口調だが、だがそれが霧島マナを奮い立たせた。
自分を見てくれてたと思ったのだ。
「やってやるんだから」
それは先ほどの言葉と同じで違う、過度な緊張感の無い宣言であった。
そんな霧島マナも乗った
長方形の大型盾たる
動きが悪い。
だがそれは、構えている
使徒の攻撃を正面から受け止める為、重合金と複合装甲の塊となった結果だった。
殴れば鈍器としても使える。
暴力の塊みたいな存在とも言えた。
尚、複雑な構造は採用されておらず、只、置き盾が可能な様にアンカーと折り畳み式の脚が採用されているだけであった。
『フィールド空間係数、使徒と
『作戦、第二段階へ移行実施。
伊吹マヤの報告に、日向マコトが命令を発する。
第16使徒戦に於いて葛城ミサトは、複数の部隊、複数のエヴァンゲリオンを統括する必要から何時もより上の段階での指揮を執る事としていたのだ。
或いは、対使徒迎撃要塞としての第3新東京市戦闘部隊の総司令官、その本来の立ち位置とも言えた。
兎も角。
命令は発せられた、4機のα型
「フィールド全開します!!」
声を張り上げる霧島マナ。
野砲による支援射撃の爆炎で使徒を見る事は出来ないが、第3新東京市各所の観測施設からの情報を基に、赤黒い爆炎の中に
その瞬間だった。
赤黒い爆炎の塊から、白く輝く何かが飛び出してきたのは。
『使徒、行動を開始しました!』
『目標、
真っすぐに向かってきているのだ。
目標にされているなど言われるまでも無い。
そんな事を考えながら、霧島マナは自分の
防御姿勢だ。
予め、攻撃をする必要は無い事、そして攻撃をする際には指示に従って行う事が言われて居ての行動だった。
間違っては居ない。
だが、それは通常の戦闘に於ける
対使徒戦と言う
葛城ミサトらNERV本部作戦局スタッフが定めた
即ち、消極的である事の弊害の発生を
「うわぁぁつっ!?」
『
『盾が抜かれたのかっ!?』
『いえ違います! 浸食を受けています!!』
『侵食!?』
通信に悲鳴めいた報告が、パニックに陥った様に錯綜する。
だが使徒は、そして現実は人間の混乱など歯牙にも掛けずに突き進んでいく。
霧島マナの乗った
その輝る柱の如き体は、真正面から盾に取り付き、そして装甲を貫いた。
咄嗟に盾を捨てて身を守る様に差し出した左腕、左の手のひらだ。
冗談の様に簡単に、
『あ”あ”あ”あ”あ”!?』
悲痛な悲鳴を上げる霧島マナ。
その悲痛さは、大人たちの動きすらも止めるモノであった。
「慌てるな霧島マナ! それは君の腕では無い!! 聞こえているか霧島マナ!?」
叱咤激励をする様な
教官役もやっていたが為、自分の教え子が失態を晒すが如き状態である為に、思わず声が出た形であった。
だが、それに応える余裕は霧島マナには無かった。
『あ”あ”あ”あ”あ”!?』
止まらぬ悲鳴。
そして
恐ろしい速度であった。
否、恐ろしいのは侵食部を軸にする形で
特設機動展開小隊の残る2機の
派手に吹き飛ばされる姿。
それは冗談の様な、非現実的な光景であった。
故に、手を出しきれない
歴戦と言って良い第1小隊の碇シンジと惣流アスカ・ラングレーであれば躊躇なく仕掛けていたであろうが、流石にその域にまでまだ到達していなかった。
子どもの悲鳴を前に、どう対応するべきかと逡巡する
その混乱を一刀両断する声が第一発令所に響いた。
「
葛城ミサトである。
指揮官たるに相応しい、凛としたその声が混乱を収めたのだ。
「Synchroを切ってからでは無いと、Shock症状が出る危険があります!!」
慌てて静止の声を上げたのは
だが、葛城ミサトは揺るがない。
そんな余裕は無い、と。
一分一秒すら惜しい、と。
顔を窺ってきた伊吹マヤに頷いた。
「急いで」
「はいっ!」
非常時用緊急遮断コマンドの物理スイッチを押す伊吹マヤ。
左腕全体を、肩から分離するのだ。
喰われていた左腕から自由になった霧島マナの
「ああああああああっ!?」
侵食の痛みとは別種の痛み、そして衝撃に目を回す霧島マナ。
だが指揮官である葛城ミサトは鋼の自制心をもって無視する。
同情するよりも、心配するよりも、救うべく手を打つ事が仕事なのだから。
矢継ぎ早に命令を出していく。
「
『判った!!』
「
『やってみますわ!』
牽制としての攻撃。
第16使徒と霧島マナの乗る
奔りだす2機のエヴァンゲリオン。
それを尻目に、霧島マナの救助にリー・ストライクバーグを動かす。
「
問い掛け。
それは或いは心配でもあった。
初陣の新兵に掛ける言葉でもある。
その問い掛けに、リー・ストライクバーグは真っすぐに声を上げる。
『
経歴としてはエヴァンゲリオン開発に居たが、正規の
訓練の長さで言えばアスカにも並ぶリー・ストライクバーグは、この程度で怯懦となる程に弱くは無かった。
強い意志を浮かべているその目を見て、葛城ミサトは満足げな顔をした。
「結構」
だが、リー・ストライクバーグは強くても、残るヴィダル・エレーンはそこまで強くなかった。
「
『
思わず、お国言葉で返してしまったヴィダル・エレーン。
元より白い顔を更に白くして葛城ミサトを見る。
小柄な、マリ・イラストリアス以外の誰よりも子どもっぽい外見をしたヴィダル・エレーン。
その様は、葛城ミサトに自責の念を更に味合せるものであった。
出来るだけ優しい声を作り、言葉を続ける。
「
指揮官では無い人間としての、子どもを前にした大人の言葉。
だが、ヴィダル・エレーンとて自分から
『
引き攣った様な顔、震えるような声。
だが、意志は折れていなかった。
その儚くも強い表情に、耐えがたいナニカを感じつつ葛城ミサトは頼りになる大人を演じる。
「
『
「悪いけど仕事をして頂戴。初号機と弐号機の出撃準備、F号でお願い」
既にプラグスーツを着込んでいたアスカがケイジの管制室で技術開発局第2課課長、エヴァンゲリオンの整備と管理を統括する伊勢カミナ技術少佐に声を掛けた。
エヴァンゲリオンの整備と言う面での、赤木リツコの右腕的な存在であった。
現場の人間らしい線の太さ、そしてふてぶてしさを持った男だ。
「発令所からの指示はまだ出てませんよ?」
「今の状況じゃミサトだって指示を出しきる余裕は無いわ。それに出撃準備、出撃前点検なら訓練の名目でも出来るでしょ」
事実であった。
前線の采配に掛かりっきりになっていた葛城ミサトの脳裏から、最後の切り札たるシンジとアスカの事が抜け落ちていた。
そもそも、最近まで葛城ミサトの手札に、まだ切って居ない札と言う状況は無かったのだ。
目の前の状況に集中してしまうのも、ある種、当然の話であった。
だからこそ、アスカが気を利かしているとも言えた。
その点に関して伊勢カミナとて反論がある訳ではない。
問題は別の所にあった。
「F号、まだ試作段階ですから葛城さんだけじゃなくて赤木さんの許可も要るんですけどね」
F型装備、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機専用の飛翔ユニットは、運転試験までは行われていた。
だが耐久テストがまだであり、その為、実務担当の技術開発局第2課に移管されておらず、開発を担当する第1課の管理下にあった。
要するに伊勢カミナの
一応、接続準備は行われていたが、コレを実際に繋ぐとなれば話は別なのだ。
本来であれば。
だが、そこをアスカはすっとぼける。
「仕方ないわよ、非常時なんだもの」
「要ります?」
「アタシのカン、かな」
カンと言うが、より正確に言えば戦闘に関する距離感であった。
現在の戦闘区域と、エヴァンゲリオンの発進口の距離だ。
第3新東京市の市街地区画を中心に、発進口は設置されている為、今回、戦闘区域となっている第3新東京市外周部には設置されていなかった。
だからアスカは、早期に支援に入る為、F型装備が必要と判断していた。
「今
「大丈夫。アタシは前線指揮官なんて配置だもの。怒られるのはアタシだけで済むわよ」
命令を出したのは惣流アスカ・ラングレー大尉である、と言う事である。
だがそれを従順に受け入れる程、伊勢カミナの矜持は安くない。
鼻で笑って答える。
「冗談でしょ。子どもに責任を取らせる程にウチら機付き隊は腑抜けじゃないんですよ」
だから一緒に怒られましょう。
そう笑うのだった。
その善意を、アスカは素直に受け入れていた。
「………アリガト。シンジは何かある」
「そうだね………
戦況を見ていたシンジは画面から目を逸らす事無く返した。
小さな画面。
そこには苦戦する5機のエヴァンゲリオンの姿があった。
今回、主戦力として考えられていたのはマリ・イラストリアスとエヴァンゲリオン8号機だ。
単純な戦闘能力、センスなどの面ではシンジやアスカに次ぐ力を持っていると目されているのだが、如何せんにも格闘戦闘を主体としている為、侵食能力を持った第16使徒との相性が悪すぎていた。
つばぜり合いをすれば、その瞬間から侵食を仕掛けて来る様な相手なのだ。
仕方のない話であった。
相方である鈴原トウジとエヴァンゲリオン3号機は、エヴァンゲリオン8号機と第16使徒との戦闘のテンポが早すぎる為、射撃支援を行いきれずに居るのだった。
目まぐるしく動き回って戦っているのだ。
下手なタイミングで発砲しては、最悪でエヴァンゲリオン8号機への被弾があり得る上、そうでなくとも生命線たる
この為、少し後方に位置していた第2小隊のエヴァンゲリオン4号機とエヴァンゲリオン6号機も前に出て来ていた。
「………ヤヴァイ?」
「うん。ナニか悪い予感がする」
第16使徒、蛇めいて侵食能力を持った先端部が自在に動いてエヴァンゲリオン8号機と戦っている。
だが、その体の半分以上と思しき場所は、まだ晴れぬ野砲の砲煙にあるのだ。
使徒がその程度の単純な相手だろうか。
特に最近の使徒は、そんな素直な相手では無かった。
そうシンジには思えるのだ。
隠し玉があるのではないか、と。
「急いだ方が良さそうね」
「ええ。急ぎます」
真顔で頷く伊勢カミナ。
最前線、死線の上で踊るが如く戦い抜いてきた戦士2人のカンを信じないと言う選択肢は無かった。
だが、少しばかり遅かった。
否。
違う。
第16使徒は、使徒であり、人が思うよりも先に往く存在なのだ。
「
思わずシンジが感嘆の声を上げた。
アスカは声を上げられない。
ある意味で当然の話だった。
戦況を表示する画面には、前に出ていたエヴァンゲリオン4号機の腹に突き刺さる、第16使徒の2本目の先端が映し出されていたのだから。
「アスカ」
名を呼ぶ。
それだけで伝わる2人。
以心伝心。
勿論、大人たる伊勢カミナも負けては居ない。
「急げ、2機の発進準備! 手順、カテゴリー2以下は破棄して構わん。F号も忘れるな! 非常発進準備!」
伊勢カミナの怒鳴り声に背中を推されたかの如く、技術開発局2課のスタッフは駆け出していくのだった。