【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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第16使徒、その輝る鞭状の本体による浸食攻撃がエヴァンゲリオン4号機を襲った。
それはある意味で油断であった。
鞭状の存在が、その両端から攻撃するなどあり得ないと言う先入観が齎したものとも言えた。
灰色を基調とした、エヴァンゲリオン4号機の腹部に喰らいついた第16使徒。
G型装備の追加されていた装甲を潜り抜く様は、正に蛇めいていた。
『レイ!?』
常日頃は
だが攻撃を受けた当の本人、綾波レイは冷静であった。
冷徹ですらあった。
己の腹を貫く痛み、そしてそこから広がっていく何とも言えない侵食感。
それらを綾波レイはねじ伏せる。
「フィールド全開!!」
それは身を守る為では無かった。
第16使徒の浸食を防ぐ為では無かった。
耐えるのではなく、殴り返す為の使い方であった。
両腕で第16使徒を掴み腰を落とし、そしてG型装備の射撃戦時用の
荒れ狂っていた第16使徒の動きが止まった。
「捕まえた」
綾波レイは喰らいつかれた事を奇貨として、攻守を逆転させてみせたのだ。
「支援を」
鋭さのある綾波レイの声。
誰もが状況の逆転に驚く中、この場で最も早く反応してみせたのは鈴原トウジであった。
『喰らったれぇ!!』
綾波レイとの連携訓練も行っていたお陰で、その性根を理解していたと言うのが大きい。
全力攻撃。
第16使徒が荒れ狂って暴れていたが為に行えなかった、H型装備であるエヴァンゲリオン3号機の
両手に持った2つの
エヴァンゲリオン3号機の射撃を号砲に、他のエヴァンゲリオンも弾かれた様に動き出す。
渚カヲルのエヴァンゲリオン6号機も射撃を開始する。
ヴィダル・エレーンの
訓練通り、盾から
とは言え霧島マナの乗った
盾に食いつかれたら直ぐに捨てられる様に、
そしてマリ・イラストリアスのエヴァンゲリオン8号機。
『ああああああああっ!!』
使い捨てても構わないとばかりに、両手で持った
それだけではない。
第16使徒のA.Tフィールドを中和、と言うか対処能力を飽和させようと言うのだ。
5機ものエヴァンゲリオンによる攻撃、A.Tフィールドの中和が第16使徒を襲う。
その様は正に原始時代見られたであろう、巨大な獣に襲い掛かる
だが、相手たる第16使徒は、巨大な獣如きとは違う。
攻められているその体が、支援砲撃の砲煙からその全てを表す。
暴れる2つの先端、その中間点が大きく膨れ上がっている。
それは解かれた輪というよりも、まるで両腕の様な姿であった。
「コア、確認できません!!」
伊吹マヤが悲鳴めいた報告を上げる。
だが葛城ミサトは揺るがない。
「構わないわ。なら全部叩いてしまえば良いだけよ! アレだけ的がデカければ155mmだって当たる。
「今ならマギによる光学誘導モードが出来ます」
「結構、射撃を開始して!」
「了解です!!」
戦意を溢れさせて笑う葛城ミサト。
その戦意が第一発令所に感染したかのように誰もが折れては居なかった。
当然だろう。
状況逆転の為の
だが、状況を自らに都合よくする為に動くのは、決して
「使徒がっ!?」
本体の如き太い中間点から新しい、触手めいた光の鞭を打ち出していた。
その数は4本。
鈴原トウジのエヴァンゲリオン3号機を。
渚カヲルのエヴァンゲリオン6号機を。
マリ・イラストリアスのエヴァンゲリオン8号機を。
ヴィダル・エレーンの
正に鎧袖一触と言った塩梅で吹き飛ぶエヴァンゲリオン6号機。
獣めいた反射神経で避けたエヴァンゲリオン8号機。
H号装備が持つ重装甲を巧みに扱って耐えて見せたエヴァンゲリオン3号機。
そして
弱いと見抜かれてか、弾くのでは無く光の鞭に貫かれていた。
『あ”あ”っ!?』
悲鳴を上げるヴィダル・エレーン。
置き盾めいた
そして、一気に侵食が始まる。
間髪入れず、葛城ミサトは処理を命令。
「
「はい!!!」
一刻の猶予も無かった。
「パージ実行します!!」
『あ”あ”あ”あ”!!!』
悲鳴を上げるヴィダル・エレーン。
悲痛なその声を歯を食いしばって耐える伊吹マヤ。
だが、指揮官である葛城ミサトにその様な
「トウジ君、
鈴原トウジの指名。
それは、幾度もの実戦を経験したがお陰で
「まかしてやっ!!」
その期待に応える鈴原トウジ。
重量級となっていたH号装備、その緊急回避用に増設されているブースターを一気に点火して救援に跳ぶ。
第一発令所の耳目がヴィダル・エレーンの
狙われたのはエヴァンゲリオン4号機。
残る3本の新しい光の鞭がエヴァンゲリオン4号機に襲い掛かったのだ。
「
戦況を俯瞰していたが故に、一番最初に状況に気付いたのは青葉シゲルだった。
だが、その声が警報としての意味を持つ前に、第16使徒の攻撃はエヴァンゲリオン4号機を貫く。
『っ!!』
綾波レイが悲鳴を漏らす。
狙われたのはエヴァンゲリオン4号機の四肢。
動けない両脚と右腕が貫かれたのだ。
最初の光の鞭を抑え込んでいた左腕以外の全てだった。
保持していた
立ったまま、はりつけされたかの様にも見えるエヴァンゲリオン4号機。
何も出来ない。
『レイ!!』
だが、第16使徒はそれを許さない。
更なる小さな光の鞭を生み出して迎撃する。
その数、実に12本。
数による面制圧を狙うが如き攻撃だった。
緊急回避するエヴァンゲリオン6号機。
簡単にエヴァンゲリオン4号機のもとへとたどり着けそうに無かった。
孤軍奮闘の態となっているエヴァンゲリオン4号機。
全力でA.Tフィールドに力を入れ、抵抗はしているが何時まで出来るのか。
そう言う風に見える状況であった。
そこへ、第16使徒が接近を開始する。
丸みを帯びた中間点に線が入り、上下へと開く。
さながら、顎の如きであった。
「まさか!? 4号機を捕食しようと言うのっ!?」
驚愕の声を上げる赤木リツコ。
初めて見る使徒の動きに、誰もが呆然と第一発令所中央のモニターを見上げた。
慌てて葛城ミサトが声を上げる。
「レイ、機体を捨てて緊急離脱をなさい!!!」
切羽詰まった状況。
だが、綾波レイの表情に苦悶はあっても絶望は無い。
「聞こえている、レイ!?」
焦りの声を上げる葛城ミサト。
応えない。
応えられない綾波レイ。
全力でA.Tフィールドに力を込めて、抵抗しているからだ。
だがそれでも浸食域はジリジリと広がっていく。
にも拘らず綾波レイは抵抗を止めない。
逃げない。
コレが無駄では無いと判っているからだ。
そして、努力は正しく報われる。
『キィィィィエェェェェェェェイイ!!』
猿叫を響かせる碇シンジ。
『フラァァァァァァァァァァァァッ!!』
咆哮を上げる惣流アスカ・ラングレー。
NERVの誇る
赤い光をまき散らして着地したエヴァンゲリオン初号機が、エヴァンゲリオン4号機を襲っていた触手の全てに
それまでの苦戦が冗談の様に簡単に千切れる第16使徒の体。
さもありなん。
新開発された
理論上、この
使い手たるシンジが修練を積めば
そしてエヴァンゲリオン弐号機。
此方は更に暴力的であった。
取り付けられていたF型装備の推進力に、更に緊急時用のブースターまでも乗せた加速をもって第16使徒の本体相手に
つま先に幾重ものA.Tフィールドを乗せた凶悪な一撃は、第16使徒を打ち抜く。
シンジ以上にA.Tフィールドを理解したアスカは、
轟音と共にKm単位で吹き飛ばされる第16使徒。
対峙する様に着地するエヴァンゲリオン弐号機は、腕を組み堂々とそして不敵であった。
それを許さぬとばかりに第16使徒は新しい光る触手をエヴァンゲリオン弐号機に向けて放つ。
その数、実に12本。
『アスカッ!?』
葛城ミサトが悲鳴を上げる。
だがアスカは、只、エヴァンゲリオン弐号機の右腕を振るうだけであった。
それだけで、生成されたA.Tフィールドが光の触手を弾き飛ばす。
使徒本体なら兎も角、そこから飛び出た、ある種の分体のA.Tフィールド如きにアスカとエヴァンゲリオン弐号機が負ける筈は無かった。
『アタシにそんな攻撃が効く訳ないでしょ』
堂々とした物言い。
実にアスカらしい言葉に、シンジは笑みを浮かべる。
そして振り向く。
解放されたエヴァンゲリオン4号機を確認する。
本体から断たれた光の鞭は光の欠片となって消えており、膝をついている。
だがシンジは手を差し伸べない。
綾波レイと通信機越しに顔を合わせる。
共に、余計な事は言わない。
綾波レイ。
知り合ってからの時間はアスカ以上の戦友であるのだ。
シンジにとってアスカとは別の意味で、以心伝心が成る部分があった。
即ち、
頷くシンジ。
頷く綾波レイ。
それで終わりだった。
「
任せるとばかりに渚カヲルの名を呼ぶシンジ。
そんなシンジと綾波レイの姿に、苦笑めいた浮かべて、渚カヲルは頷くのだった。
リリンは凄いね。
そんな言葉を飲み込みながら。
エヴァンゲリオン弐号機の横に並ぶエヴァンゲリオン初号機。
その様は使徒を前にしているとは思えぬ程に緊張感が無かった。
正しく自然体。
「アスカ」
『ン。
「コアは?」
『確認出来ないわね』
「なら?」
『1つよね。アレをやるわよ』
「いいよ。でも__ 」
アスカの提案に了承しつつ、シンジはF型装備の稼働時間を確認する。
表示されているのは約120秒。
「1撃して、失敗したら一回、下がろう」
『アタシとアンタが?』
自信満々に言うアスカ。
自負。
対するシンジとて、自信が無い訳ではない。
只、前のめりな気の多いのが相方、アスカなのだ。
である以上は自分が、万が一に備える事も考えねばならぬと思って居たが故の事だった。
ある種の保護者的感覚。
尤も、それはアスカも同じ事であった。
一度抜けば、相手が倒れるまで止まらないのがシンジだと思い、イザとなれば自分が退く事を考えておかねばと思って居た。
実によく似た2人。
それが
其処から先は、ある意味で散文的な結末となった。
F号装備の推進力で飛び上がったエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機による高加速キック攻撃が敢行されたのだ。
エヴァンゲリオン弐号機に
多重のA.Tフィールドを纏った、正に
実にシンプルな発想。
だが、その実行力がシンプルさを凶悪な威力へと昇華させる。
空気圧縮によって灼熱化した2機のエヴァンゲリオンの足先。
致死の一撃を前に、第16使徒とて必死となる。
抵抗の為にありったけの数、光る触手を生み出して迎撃する。
が、その悉くを弾き飛ばし、2機のエヴァンゲリオンの足先は第16使徒を捉える。
着弾。
非常識なまでの加速、過重とが第16使徒を潰し、そのまま山へと押し込む。
爆発。
「また、地図を書き直さねばならんな」
ポツリと感想を漏らす冬月コウゾウ。
第一発令所正面モニターには、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機による攻撃と、第16使徒の爆発によって山が1つ消し飛んでいるのが映し出されていた。
「使徒の被害に比べれば安いものだ」
何でもないとばかりに言う碇ゲンドウ。
その顔は、ある種の漂白されたが如く脂っ気が無くなっていた。
搾り取られているからでは無い。
只、この己にとって救いの無い現実を受け入れつつあるだけであった。
その姿に冬月コウゾウは、この世の儘ならなさを感じるのであった。