【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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弱点たるコアの無い、変幻自在の体とエヴァンゲリオンへの浸食が可能と言う恐るべき能力を持った第16使徒
その最後は、山1つを巻き添えにして文字通りの爆砕であった。
否、違う。
山を金床として、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機と言う金槌によって叩き潰されたのだ。
コアが無い ―― その全身の全てがコアであったとしても、その全てを文字通り
金床となった山は大きく抉れ、火山ではないのに火口の如く灼熱化し、周辺の木々はなぎ倒されていた。
正に惨状。
或いは、第16使徒の脅威とエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の武威とを示す痕跡であった。
「温泉でも湧いてくれれば良い観光スポットになるんだけど」
「第3新東京の湯、かしら」
「そんな感じで」
第16使徒戦を終えた日の深夜、現場責任者の二大巨頭たる葛城ミサトと赤木リツコは、気分転換としての珈琲ブレイクと洒落込んでいた。
勿論ながらも場所は
かつては上品にまとまっていた室内も今では2人の仕事用の書類が乱雑に置かれ、パソコン用の様々な配線が床のカーペットを見えづらくしていた。
止めは結構な大きさの、仮眠も出来るソファであろう。
言うまでも無く私物、正確には赤木リツコが閉鎖されたNERV総司令官公室から持って来た高級革ソファである。
実に座り心地が良く、仮眠にも最適である。
尚、相方の葛城ミサトが何も私物を持ち込んで居ないのかと言えばさにあらず。
大きめのイーゼルスタンドを持ち込み、今は走りに出られぬ
何とも言い難くなった内装に、この上級者用歓談休憩室を管理する総務部スタッフは部屋に掃除に入る度にモノ申したい気分にはなるのだが、何も言えずに居るのだった。
この
そもそも、適正な占拠料を払っていると言うのも大きかった。
とは言え2人のポケットマネーでは無く、作戦局と技術開発局の局経費ではあったが。
取り敢えず、ぐだぐだな気分で雑談を交える2人。
さもありなん。
今回の第16使徒戦役が、当初想定されていた
それはもう大問題に発展すると言うものであった。
国連安全保障理事会は第16使徒の能力の詳細、及び戦闘の推移に関する情報を早急に報告する様に
SEELEはNERVに対して、可及的速やかに報告をまとめる様に厳命。
そしてNERVの総司令官である碇ゲンドウは、葛城ミサトと赤木リツコに対して不眠不休の勢いで速報としての第1次報告書を纏める様に厳命したのだ。
宮仕えの哀しさ。
玉突き事故めいた状況であった。
尚、厳命連鎖の発端となった国連安全保障理事会であるが、此方も安穏として居られるかと言えばさにあらず。
各国の国会やらなにやらが紛糾しており、余裕がある訳では全く無かった。
軽い分析入りの憶測率8割な第1報をまとめ上げた葛城ミサトと赤木リツコが気を抜いているのも仕方のない話であった。
尚、使徒との戦いの事後処理に関して言えば、作戦局はパウル・フォン・ギースラーが局内を差配していた。
軍部隊の様な第2位の権限者が居ない技術開発局は、事実上の第2位であった伊吹マヤが音頭を取って回していた。
20代前半と言う、まだ若輩と言われても過言ではない伊吹マヤであったが、赤木リツコを尊敬し、その背中を見続けているのだ。
赤木リツコの
又、完全な移籍をしていないが為、組織運営と言う意味ではご意見番めいた立場となっていた葉月コウタロウの協力を得ていたというのも大きいし、技術開発局のスタッフの平均年齢も若いと言う事も大きかった。
兎も角。
何とか回していますと言う
であれば、自分を慕ってくる有能な人間を使うと言うのは悪い判断では無かった。
「マヤちゃん、潰れない?」
心配げに言う葛城ミサト。
階級が上がると言う重圧は、そうそう軽いモノではないと思えばこそであった。
スナック感覚めいて、1年にも満たない時間で大佐にまで昇進した事からの感想とも言えた。
だが、赤木リツコの反応は違う。
「潰さない為に、よ」
取り敢えず、
舐められないようにすると言うのは大きな事であった。
それも又、事実であった。
「今更に
「ウチは無理でも、出て来るのがマヤよ? まだ若い、階級も高いとは言えない相手であれば、ええ。責任者と話をさせろって言う奴も結構居るのよ」
「うわっ」
技術開発のみならず、第3新東京市関連の設備の管理も担当する技術開発局は、それ故に外部との接触が多かった。
NERV内であれば赤木リツコの愛弟子と言う事で一目置かれていても、外にまでは神通力は通じない。
だからこそ、であった。
「そういう馬鹿を黙らせる一番簡単な方法が、階級って事よ」
何かを思い出し、不快感に耐える様に額に深いしわを産んだ赤木リツコ。
と、そんな淀んだ空気となった
天木ミツキだ。
「元気している?」
何時もは余裕ある姿と言葉とを崩さない天木ミツキであったが、今現在は疲れた顔で、学生時代の言動に戻っていた。
「元気な訳、無いでしょ」
ソファに座ったまま、葛城ミサトが嘆息する。
「でも、1回目の報告書は終わったから良いじゃない」
各部局に、確認の為としてメールで出したのだ。
それを見て天木ミツキはやってきたのだった。
管理下に置いている子ども達の報告、と言う態での此方も息抜きであった。
だから、部屋に入るや否や、ポケットから煙草を取り出し、何も言わずに火を点していた。
繊細な子どもを相手にするのだ。
天木ミツキは、仕事中は禁煙する事を己に課していた。
だが、
ストレスと言う事だろう。
「2人は大丈夫だった?」
「医務局の見立てでは、特に大きな心因性の問題は出ていないとの事よ。幻傷感による神経のパニック症状はあるけども、少しづつ回復傾向にあるとしていたわ」
2人とは、即ち初陣である第16使徒戦で乗機に大きな被害を受けた霧島マナとヴィダル・エレーンである。
魂が潰れた様な悲鳴を上げていた姿が脳裏に刻まれている葛城ミサトは、居たたまれないと言う風に顔をしかめていた。
悪い。
そう言って、逃避するが為に、天木ミツキの持つ煙草に手を伸ばす。
メンソール系の赤木リツコと違い、天木ミツキのソレは香りが強いがタールも重い煙草だ。
故に、こういう時には丁度良かった。
香りに続いて、ガツンとしびれる様なニコチンが葛城ミサトを揺さぶる。
「取り合えず、ええ。良かったって事で」
「そうね」
「………ちなみに、レイの方は?」
「強いわよ。
エヴァンゲリオン4号機から降りる際、心配してやって来た渚カヲルに平素通りの
天木ミツキの言う通り、実に強かった。
自分の脚でしっかりと歩き、そしてケイジの入り口で待っていた惣流アスカ・ラングレーと勢いの良いハイタッチをしてみせていたのだ。
四肢のいずれかの
にも拘わらずと言う辺り、文字通り格が違っていた。
心配してまとわり付いてくるマリ・イラストリアスの頭を撫でる辺り、本当に何の影響も受けていないと理解させるものであった。
担架で運ばれていく霧島マナとヴィダル・エレーンの姿を見ていた
否、綾波レイだけではない。
渚カヲルやマリ・イラストリアスも戦いに際して別格の動きをみせていた。
そして鈴原トウジ。
鈴原トウジが搭乗するエヴァンゲリオン3号機は、その制御システムは
にも拘らず全く別の、柔軟な動きをしてみせたのだ。
訓練の時間の差などあるにせよ、敬意を抱くと言うのも当然であった。
流石は
とは言え、使徒の実物を見て、その出鱈目さを感じ、そして実戦で何も出来なかった事が深刻な無力感に繋がってもいた。
自分たちは戦えるのか、と。
だからこそ天木ミツキ、支援第1課であった。
突発的に、祝勝会の開催を決め込んだのだ。
当然、子ども達の為だけのである。
ジオフロントで、バーベキューと花火をやろうと言うのだ。
天木ミツキの上司にして豪胆さで知られた葛城ミサトも、流石に、一瞬、今するの? と絶句する荒業であった。
だが、計算すれば悪い話ではない。
保護監督のスタッフを入れても50人を越えない程度でのバーベキュー。
しかもジオフロント内だから、警備も最小限度で良い。
肉や野菜から食器類などの用意は総務部 ―― 食堂で用意すれば問題ない。
その上でエヴァンゲリオンに絡んで顔を合わせている作戦局や技術開発局第2課スタッフなどにも、暇を見て言って貰って会話迄させれば
そもそも、先輩たる
良い刺激ともなる筈。
誠にもって悪い話ではない。
今日に決めて夕
『大丈夫なの?』
バーベキュー開催に関する許可書類へハンコを押せとやって来た天木ミツキに、心配げに言う葛城ミサト。
だが天木ミツキは
『大丈夫、大丈夫では無い、などは関係ないわ。やるのよ。子ども達の為に』
嗚呼、正に
「ミツキが来たって事は無事に終わったの?」
「取り合えずひと段落、今は花火と雑談の時間よ」
「……楽しそうね」
少しだけ羨まし気に言う赤木リツコ。
深く頷いている葛城ミサト。
珈琲と、作戦局で備蓄していたお菓子だけで昼以降、
如何な赤木リツコとて、そう思うのも当然と言うモノであった。
「そう言えば、シンジ君とか
「大人気よ」
シンジや渚カヲルと言った美男子組は勿論、実戦で動いて見せた、そしてカラッとした空気を纏っている鈴原トウジも、
当然、アスカや綾波レイの方も、
比率としては綾波レイが多い。
これは、アスカが公衆面前でシンジ
対して綾波レイは、公式には
それでもアスカにもシンジにも人が集まっている辺り、魅力的と言う事だろう。
「うわっ、行きたかったわー」
「そうね」
それが葛城ミサトと赤木リツコの共通見解であった。
薄暗くなったジオフロント、その湖畔。
そこでシンジとアスカはバーベキュー会から少しばかり離れていた。
正確に言えば逃げていた。
無礼講と言う事で、ぐいぐいと
その際、鼻の下を伸ばしては居ないが、女の子集団に囲まれて困った風であったシンジの手を掴んで逃避行を実行したのだ。
指笛やら、
少しだけ離れたお陰で薄くなった喧騒をBGMに、シンジとアスカは2人で湖を眺めていた。
何か会話をする訳ではない。
只、繋がっている手と手のぬくもり。
小さくも聞こえる、相手の吐息が互いを穏かな気分にさせていた。
「こういうのも悪く無いわよね」
「そうだね」
他人と居るのも嫌いではない。
だけど、2人だけで居るのも悪くはない。
シンジは、そっとアスカに体を寄せた。
だがそれ以上にアスカが、手でシンジの体を固定する様に引き寄せた。
手のひらだけではなく、触れ合った体が互いの体温を感じさせる。
上を見上げるアスカ。
星空は見えない。
とは言え星々の様にも見える、天井
「アレじゃ、ロマンチックは無いわね」
「又、鹿児島に行こう」
シンジの実家、隼人碇家のある一帯は霧島市市街地から少しだけ山の側にあり、星空が実に綺麗であった。
「そうね。でも、ドイツの冬の空も綺麗よ」
「そうだね」
同意するシンジ。
経済活動が不活発化した結果、ドイツを含めたヨーロッパの空気は産業革命以来の清浄さを取り戻していた。
肌所か肺まで冷える様な冬の空は、それはもう綺麗であった。
だが1番は、何処であろうとアスカと一緒に見る星だと思うシンジであった。
「一緒にね」
「そ、一緒ね」
影は既に1つだった。
そんな甘酸っぱい空気を漂わせている2人。
そんな2人を、薄闇を貫く様に見ていた渚カヲルは独り呟く。
「さて、僕はどうするべきかな?」
とは言え、別に1人と言う訳では無かったので、言葉を他人が拾った。
鈴原トウジだ。
「ん? どうしたんや?」
「いや、平和だねって思っただけだよ」
周りには
シンジとアスカが逃げ出した事で、監督役だった支援第1課のスタッフが、
「そか。所でワシのお好み焼きはどうや!?」
「美味しいよ」
「そか!」
バーベキューなら
勿論ながらもソースやマヨネーズに主となる粉、小麦粉を溶いたモノや紅ショウガその他などは自分で用意していた。
実にお祭り騒ぎ好きと言えるだろう。
渚カヲルの隣ではハムハムとマリ・イラストリアスが齧りついている。
口周りをソースでべったり汚しているが、実に幸せそうな顔となっている。
「ああ、本当に。平和って良いよね」
渚カヲルが零す言葉。
それは心の底からの本音であった。
とは言えその
否。
それすらも、この孤独で生み出された
自分を特別扱いしない友。
ヒトとして扱ってくれる友。
戦友。
相方。
それは、この渚カヲルと言う少年の魂にとって初めて得た、得難いモノであった。
「
それは、心の底からの悩みとも言えるモノであった。
+
漸く終わった第16使徒戦。
活躍した?
うん、マァ、何だ。
活躍はしたと思う。
多分。
きっと。
めいびー。
と言うか、当初プロットとは結構変わっているんですよねー
もう少し綾波レイとエヴァンゲリオン4号機がピンチになると言うか、エヴァンゲリオン零号機が復活する予定だったりしたんですけど、作者の魔の手を見事に逃げ抜きやがりましたよエヴァンゲリオン4号機。
え、レイですか?
シュートなレイですので、自爆以外の選択肢が無いなら躊躇なく自爆りますけど、正直、今回の状況だと、そういう
ええ。
尚、当初プロットはSEELEのオジサンたちとゲンドー君の楽しい楽しい会議(↴↴↴)の予定でしたが、何と言うか、情報の揃わない当日に会議をする必要も無いっぺよー と言う事で今回の如く。
ストロベリーな
後、ストロベリーを優先した結果、シンジとアスカがこっそり発泡酒をくすねて飲んで、バレて怒られてと言うシーンが消えました。
仕方ないね!
ストロベリー最優先(えっへん
ではでは。
次の章にてお会いしましょう~