サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

97 / 113
+
主は国々の争いを裁き、多くの民を戒められる。
彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。
国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない。

――旧約聖書     









壱拾伍) ANGEL-17  TABRIS
15-1 Nightingale


+

 碇ゲンドウは今、ヨーロッパの秘密の場所に居た。

 言うまでも無くSEELEの本拠地である。

 薄暗いヨーロッパの空に抵抗する様な白亜に塗られた古い城館であったが、その中は最新のモノに手を入れられていた。

 その最たるモノが会議室である。

 SEELEの伝統を示す様な重厚な内装の部屋。

 黒地に赤抜きのSEELEの紋章は、最上位席たる議長キール・ローレンツの後ろの壁に掲げられている。

 SEELEの最下位(非常任議員)と言う事もあって、最初に会議室に入る事となった碇ゲンドウ。

 何時もの黒を基調としたNERV総司令官制服ではなく、SEELE上位者の制服たる緑色を基調とした正装をしていた。

 新しく与えられた正装は正しくSEELEメンバーたる碇家の当代(当主)を示すモノであり、この正装が与えられたと言う事は碇ゲンドウが正式にSEELEの一員として認められたと言う事を意味していた。

 国連安全保障理事会常任理事国(マジェスティック・トゥウェルブ)に影響力を持ち、国際社会の裏側で縦横に力を振るっていたSEELEと言う組織の最上位に碇ゲンドウが昇りつめたと言う事だ。

 六分儀家と言う裕福とも言えぬ、名家の類には含まれぬ家の出の、上昇志向の強かった(野心に溢れていた)若かりし六分儀ゲンドウであったのならば、この上も無い到達点と言えるだろう。

 だが、今の碇ゲンドウはその様な心持ちを残して居なかった。

 碇ユイと結婚して足りるを覚え、そして奪われて以来は只々只管に夢見ていた。

 世界を天秤に乗せる野望と言うには、余りにもささやかな願い。

 地位も権力も、その願いを果たす為の道具でしかなかったのだから。

 だが、その願いは潰えつつあった。

 碇ゲンドウの願い(人類補完計画)

 それはSEELEの人類補完計画があればこそであり、その乗っ取りによって果たされるモノであったのだから。

 

 (生贄)となる神器としてのエヴァンゲリオン。

 そして9機の祭器(A.Tフィールド増幅器)としてのエヴァンゲリオン。

 2種類のエヴァンゲリオンがあって始めて人類補完計画は成ると言う計算だった。

 

 だが、祭器としてのエヴァンゲリオンは影も形も無かった。

 SEELEが秘密裏に用意しようとしていたが、その努力 ―― 備蓄していた資材その他は見事に第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンに食い散らかされていた。

 そもそもA.Tフィールドの増幅、地球全体を呑み込める程の事を成す為には主機として使徒の持つ(スーパーソレイド)機関を内臓させる必要があった。

 だが現在、(スーパーソレイド)機関の開発は未了と言う有様であった。

 別に頓挫した訳ではない。

 第3使徒から、多くの使徒のサンプルをNERVとしては確保しており、分析自体はそれなりに行えていた。

 原理、或いは理論構築までは見えて来ていた。

 とは言え、その先に進む事が出来ないでいたのだ。

 理由はただ1つ、単純な人手不足であった。

 当然である。

 使徒由来の技術である(スーパーソレイド)機関の開発技術者は、エヴァンゲリオンの開発/製造技術者と兼任している。

 使徒とエヴァンゲリオンとを良く知らねば、(スーパーソレイド)機関の開発は不可能なのだ。

 そして今、それらの科学者と技術者達は第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの製造と()()に掛かりっきりになっていた。

 技術開発である。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは、実戦をする毎にNERV本部のエヴァンゲリオンとは異なると言う事を露呈し、限界を示し続けていた。

 だからこそ、現状打破の為に第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの性能向上は常に国連安全保障理事会から厳命されていたのだ。

 そして監視もされていたのだ。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの手を抜いて(スーパーソレイド)機関の開発など出来る筈も無かった。

 又、贄たるエヴァンゲリオンの側にも問題があった。

 贄の予定とされていたエヴァンゲリオンは、エヴァンゲリオン初号機かエヴァンゲリオン弐号機とされていた。

 少なくともSEELEとしては、であった。

 碇ゲンドウとしては、己の人類補完計画の為にはエヴァンゲリオン初号機で行われねばならぬのだが、現時点で、そこは問題ではない。

 重要なのは機体ではなく、機体に乗る適格者(チルドレン)であるのだから。

 即ち、碇シンジと惣流アスカ・ラングレーである。

 儀式に使われるエヴァンゲリオンに乗った適格者(チルドレン)の絶望 ―― 希死念慮(デスドルトー)(トリガー)として、人の持つ個体保持力(A.Tフィールド)を世界規模で分解し、1つにしようと言うのが人類補完計画であるのだから。

 そして、SEELEの人類補完計画では、1つとなった人類は知恵の実を持ったシト(リリスの子たるリリン)として純度を高め、そこに命の実を持ったシト(アダムの子たるマルアハ)と合一する事で、知恵の実と命の実を兼ね備えた新しいヒト(原罪なき命)として再誕する予定であった。

 無理である。

 今のシンジとアスカに絶望など欠片も見られないのだから。

 碇ゲンドウは断言すら出来た。

 この2人、絶望的状況になっても()()()()()()()()()()()()と。

 己の子飼いたるNERVの暗部(アンダーグランドユニット)、戦略調査部特殊監査局諜報2課からの報告書でそれを痛感していた。

 シンジは、躊躇なく己の顎を叩き割るような性根をしているのだ。

 絶望する様には見えなかった。

 第12使徒に取り込まれた際の行動を見れば、それが誤って居ないだろうと確信すら出来た。

 ではアスカはどうかと言えば、此方も難しかった。

 NERV本部に赴任して来るまでは、不安定な部分を持っていた。

 生みの母の縊死を起点とした自己の存在肯定力の低さと、低さに由来する過度なまでのエヴァンゲリオンへの依存。

 SEELEが人類補完計画の鍵として選ぶのも当然と呼びうる、()()()が済んでいた。

 だが、それらは全て過去形である。

 不安定な面を持っていたアスカと言う少女は、シンジと言う相方を得た事で高い人格的な安定性を見せていた。

 自己肯定力の改善である。

 自己を肯定できるからこそ他人に対する寛容を生じさせ、攻撃性を治めさせる効果を発揮したのだ。

 それは、諜報2課による報告書にも表れていた。

 アスカがNERVや学校などで会話(雑談)をする相手が増えていっているのだ。

 喧嘩沙汰は、口喧嘩すらも減少していた。

 他人との関係性が良好なモノへと転じていっていたのだ。

 だがそれは弱くなった訳ではない。

 それは、第13使徒襲来に前後してNERVドイツ支部に出向していた際の出来事、愚かなギード・ユルゲンスとの衝突に現れていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう言う話であった。

 とは言えシンジと違い女性(女の子)であるのだ。

 碇ゲンドウは趣味ではなかったが、心を折る為として最悪の手段(性的な暴行)を行った場合も検討させた。

 答えは(ネガティブ)であった。

 一時的な傷は追う事になるが、決して折れる事は無いだろう、と。

 自己否定(デスドルトー)に繋る事無く、躊躇する事無く、容赦する事無く、一遍の容赦もなく報復を実行すると纏められていた。

 本当の意味で強かった。

 そして、相方(バディ)たるシンジはそんなアスカの背を支え、全力で報復に協力するだろう、と。

 だからこそアスカは折れないだろうとも書かれていた。

 諜報2課からの報告書では、シンジとアスカはクソ甘い青春(ストロベリーライフ)を送っている。

 碇ゲンドウをして、この報告書を読む際には砂糖抜きの珈琲を用意する始末であった。

 鬱屈の多い青年期を送っていた六分儀ゲンドウと言う人間からすれば、怨嗟の的(死んでくれ、どうぞ)ですらあった。

 だからこそ、2人が鈍る事を碇ゲンドウも期待していたのだが、先の第16使徒戦を見れば、その考えが如何に甘いか良く判ると言うものであった。

 シンジとアスカ。

 2人は最良の相方を得た事でONとOFFの劇的な切り替えが出来る様になったと言うだけであった。

 

 是非も無い(どうにもならぬ)

 

 情婦である赤木リツコのストレス発散で絞られていると言う事もあったが、碇ゲンドウがある種の厭世的な気分になるのも当然であった。

 否、絞られるだけならば逆転を狙えば良い。

 男の尊厳を守る薬は多いのだから。

 だが、問題は絞られるだけではないのだ。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンに関して国連安全保障理事会との折衝で奔走していたのだ。

 朝令暮改めいて出されて来る色々な要求。

 要求を実現する為の実行計画を立案し、部下を指揮し、或いは各NERV支部や各国のNERV(NERV本部非管理下のNERV)との折衝を繰り広げていたのだ。

 SEELEが比較的静かだからまだマシであったが、如何な碇ゲンドウとて消耗すると言うものであった。

 

 

 漂白された様な顔でSEELEの円卓、その席に座っている碇ゲンドウ。

 薄く空いた口の隙間から魂が抜け出た様な顔であり、色の濃ゆいサングラス越しであっても、表情が悪いと判る姿であった。

 

 呆然自失めいた状態にある碇ゲンドウ。

 対して、碇ゲンドウに続いて会議室に入って来たSEELEのメンバーたちの表情は良かった。

 顔にも全身にも疲労が強くこびり付いていたが、表情は明るかった。

 それに気づく事無く、碇ゲンドウは呆っとしていた。

 

「全員、揃ったようだな」

 

 SEELEの議長たるキール・ローレンツが重々しく口を開いた。

 いつの間にか円卓は全ての席が埋まっていた。

 何時ものデジタル会議に出席するキール・ローレンツSEELE議長を含めた5人の常任理事だけではなく12名ものSEELEメンバーが揃っている。

 碇ゲンドウを含めれば13人。

 それがSEELEの最高意思決定機関、評議会の総員であった。

 

 碇ゲンドウの意識が今に焦点が合う。

 キール・ローレンツを見た。

 

「…?」

 

 気付いた。

 驚く碇ゲンドウ。

 キール・ローレンツが、特徴的な視野強化バイザーを外していたのだ。

 SEELEの議長としての権威付け(威圧目的)でもあって目元を隠していたのだが、それを外していたのだ。

 何か在ったのかと内心で慌てる碇ゲンドウであったが、SEELE評議会は粛々と進行した。

 改めて、SEELE評議会の正式メンバーとなった碇ゲンドウ紹介。

 各メンバーの業務の報告。

 それらは、文字通りに可もなく不可もなしと言う塩梅であった。

 だからこそ碇ゲンドウは内心で首を傾げた。

 このSEELE評議会の定例会が、常のデジタル会議の形式で行われない事を訝しんだのだ。

 碇ゲンドウに、滅多に無いSEELE本部への召集命令が出ていたにも関わらず、と。

 

 その理由が最後に開示された。

 

「さて、同志諸君。最後に最終決定を宣言する」

 

 キール・ローレンツの言葉に誰もが居住まいを正した。

 12対の目。

 その全てに見返し、そして言葉を発する。

 

「SEELEは現時刻を持って人類補完計画、その現行案を放棄する」

 

 歓声が挙がった。

 誰もが限界(マヂもう無理)を察していたのだ。

 碇ゲンドウが持っていた情報は、SEELEも持っていた。

 そして国連安全保障理事会常任理事国(マジェスティック・トゥウェルブ)にやいのやいのと圧される日々にも疲れを貯めていたのだ。

 人類補完計画を放棄すると聞いて、ヨーロッパの未来を心配するよりも安堵の声を漏らしてしまうのも仕方のない話であった。

 しかも、である。

 人類補完計画が()()()()()()()()()()が高い事が判明していたのだから、この反応も当然であった。

 それは第15使徒との戦いの事であった。

 第15使徒戦時、第15使徒とエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の2機の間で行われた大規模なA.Tフィールドの衝突。

 互いのA.Tフィールドを打ち消し合おうとして、そして余波が大きく広がった。

 それが齎したのは、影響下にある人間のA.Tフィールドの減衰/消失現象であったのだ。

 最悪の状態となった人はLCL化したソレは、ある意味で人類補完計画と同じであった。

 個を捨てて一へと統合された姿。

 だがそれは安寧を齎すモノでは無かった。

 その場に臨席し、経験したキール・ローレンツは言う。

 気が狂いそうになった、と。

 他人と心が繋がると言う事は、ある意味で牧歌的なSEELEが考えていた様な人と人との垣根が低くなるなどの様な甘いモノではなかったのだ。

 あまたの感情。

 あまたの気持ち。

 あまたの思考。

 何の制限も無い儘にぶつけられる他人の心と言うものは途方もなく大きかったのだ。

 心が真っ黒に塗りつぶされるが如く。

 個が潰されるが如く。

 しかも、人類補完計画のキモである所の一から個への復帰が為されない可能性も、判明していた。

 第15使徒との戦いで発生した人間のLCL化、そこから帰って来た人間は現時点で一人として居ないのだ。

 である以上、人類補完計画は壮大な自殺になりかねない。

 そういう分析がSEELEの人類補完計画研究部門から上がって来ていた。

 疲労だけではない、理屈としても現行の人類補完計画は実行不可である。

 それがSEELEの決定であった。

 

 キール・ローレンツの宣言に穏やかな表情となったSEELEのメンバー、だが碇ゲンドウは、予想されていたとも言える衝撃に呆然としていた。

 そんな碇ゲンドウを労わる様にキール・ローレンツが声を掛ける。

 

「新しきSEELE、ゲンドウよ。君の今までのSEELEへの献身と努力を評価する。それが徒労として終わる事は衝撃であろう。今は暫し休むと良い。だがSEELEは歩みを止めない。これからも君の献身を期待する」

 

「……はっ、はい。全てはSEELEの為に」

 

「おいおいゲンドウ。忘れているぞ。今は君もSEELEだ」

 

「左様。SEELEの一員として今後は献策ではなく、提案をしていかねばならぬ」

 

「ゆめゆめ、忘れる事の無い様にな」

 

「はっ、有難く………」

 

 状況の変化が飲み込み切れない碇ゲンドウは、唯々、掛けられる言葉に呆然とした態で謝意を口にするのだった。

 

 

 

 SEELEの評議会員が去った評議会室。

 そこにはキール・ローレンツと碇ゲンドウだけが残っていた。

 

「ビジネスの話だ、ゲンドウ」

 

 手元に用意された珈琲、その匂いを味わいながらキール・ローレンツが口を開く。

 その意図を碇ゲンドウも誤解しない。

 

「使徒対策ですな。しかし__ 」

 

「そうだ。裏死海文書から読み取れる使徒の数は1()4()体。故に使徒の襲来は先の第16使徒で終わる話となる」

 

「………はい」

 

 南極大陸の地の底にあった白き月。

 その白き月にアダムと共に眠っていた使徒と呼ばれる存在(アダムの子たるマルアハ)は14体であるとされていた。

 結果として大災害(セカンドインパクト)を引き起こした葛城調査隊でも、それは確認されていた。

 最早、使徒は来ない。

 それは事実の筈であった。

 キール・ローレンツは、それを否定する。

 

「だが、例外が生まれる。第17の使徒だ」

 

「と仰られますと?」

 

「アダムの欠片、それを基に人間(リリン)の遺伝子を組み込む形で生み出された試験体。アダムの人為的な再現を図った、言わば人造の使徒だ」

 

「その口ぶりからするに人型、人間に見える使徒と言う事ですか………厄介な存在ですな。であれば、そのアダムの再現体の撃滅を持ってNERVはその歴史的役割を終えると言う事ですか。所在はSEELEの研究所でしょうか?」

 

 最後の使徒を相手に、如何にして楽に勝つか。

 碇ゲンドウもNERV総司令官、使徒と闘う現場の人間であった。

 だが、キール・ローレンツは凄く渋い顔をする。

 何とも言えない顔をする。

 

「………に居る」

 

「は? どの研究所でしょうか??」

 

「研究所では無い。第3新東京市だ」

 

「はぁっ?」

 

「カール・ストランド、今は渚カヲルと名乗っていたな」

 

「6号機パイロットですな?」

 

「察しが悪いなゲンドウ。そのフィフスチルドレンたる渚カヲルが使徒だと言っているのだ」

 

「………第3東京市に、NERV本部に、ジオフロント(リリスの前庭)に居る?」

 

 恐る恐ると確認する碇ゲンドウ。

 顔が青い。

 キール・ローレンツの言葉が正しければ、NERV本部は既に使徒(第17使徒)に侵攻されている様なものなのだ。

 当然の反応であった。

 対するキール・ローレンツは重々しく頷く。

 

「そうだ。当初は使徒としての意識、その覚醒の兆しも無かった。そしてパイロット不足と言う事もあって戦線投入をしたのだ」

 

「なんと………」

 

「だが先ほど、渚カヲルから連絡があってな。使徒としての意識が目覚めた、と」

 

「!!!!!!」

 

 言葉にならない声で碇ゲンドウは絶叫していた。

 

 

 

 

 

 第3新東京市ジオフロント。

 NERV本部の本丸と言って良い場所だ。

 時間は夜。

 夕闇に沈んでいる人が完全に管理している空間。

 その中でシンジは渚カヲルに誘われて夜の散歩をしていた。

 

「んん~ん~ん♪」

 

 鼻歌交じりに歩く渚カヲル。

 シンジも風呂上りの良い気分転換だとばかりに付き合っていた。

 共に、薄灰色の訓練服(スウェット)姿だ。

 伸縮性の高い素材で出来ているので、寝間着としても使われていた。

 こんな時間にシンジがNERV本部に居る理由。

 それは第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)が原因であった。

 シンジだけでは無い。

 アスカや他の適格者(チルドレン)も最近はNERV本部に泊まり込みをする事が多かったのだ。

 待機としてではない。

 先の第16使徒との戦い、その影響であった。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは、文字通りの初陣であったとは言え不甲斐ない結果(3機参戦中2機中破)を残したが為、NERV本部での訓練が決定していたのだ。

 シンジ達適格者(チルドレン)と一緒に訓練し、練度上昇を狙おうというのだった。

 そして、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)には夜の座学などもある為、地表に家があるシンジ達も泊まり込みをする事があったのだ。

 現在、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の選抜者9名がNERV本部に滞在していた。

 全員で無い理由は、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンをNERV本部が収納(ケイジで整備)できる限界からであった。

 

「歌は良いね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」

 

まっこて好きなこっちゃが(本当に好きなんだね)

 

 渚カヲルの鼻歌はクラシック曲(ベートーベン交響曲第9番)に始まり、各種のポップやラブソング、果ては演歌までも網羅していた。

 アスカを筆頭にした第3新東京市市立第壱中学校のクラスメイト達が面白半分に教えた結果であった。

 とは言え本人はとても楽し気であった。

 そして楽しそうだからと、誰もが音楽を持ち寄って居たのだ。

 歌は文化(ヤック・デカルチャー)

 最近は第壱中学校の合唱部に顔を出したり、或いは弦楽器(チェロ)を弾けるシンジを巻き込んでバイオリンを片手にジオフロントの片隅で二重奏(ディオ)を楽しんでもいた。

 否、最近は弦楽四重奏(カルテット)に成りつつあった。

 アスカが自分を忘れるなとばかりにバイオリンを持って乱入し、アスカに連れられて綾波レイも参加する様になったのだ。

 アスカは嗜み(教養)の一環として学んだことがあったが、綾波レイはズブの素人であった。

 だが、アスカやシンジが楽しそうにするのにおいて行かれるのは寂しいと参加する様になっていたのだ。

 4人でとなるとシンジがチェロ、バイオリンがアスカとアスカに師事する綾波レイと言う形となり、渚カヲルは玉突き事故めいてヴィオラとなっていたが。

 だがそれでも渚カヲルは笑顔だった。

 歌が、音楽が好きだし、その歌を誰かと共に作り出すと言う事が楽しかったからだ。

 

「僕はシンジ君に逢えて幸せだったよ。君に、君たちに逢えたと言う事は僕にとって何にも代えがたいモノだ」

 

 渚カヲルの脚が止まった。

 それはジオフロントにある湖、その手前の事だった。

 漏水が溜まった湖は生き物の気配が殆ど無く、どこまでも静謐であった。

 

「シンジ君」

 

 シンジの名を呼び、そして口をつぐむ渚カヲル。

 常とは違う雰囲気。

 常であればうっすらと笑っている口元(アルカイックスマイル)が、堅く引きしまっている。

 目つきが違っていた。

 攻撃的と言う訳ではない。

 只、緊張感をシンジは感じた。

 だからこそ、声を発する。

 

ないな(どうしたの)?」

 

 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 そして、ゆっくりと言葉を吐いた。

 

「僕が使徒だって言ったらどうする?」

 

 シンジが静かに眉を跳ねさせた。

 

 

 

 

 

 




2023.09.03 文章修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。