【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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夕闇に沈むNERV本部ジオフロント大空間。
その浸出水が生み出した湖の畔で対峙している碇シンジと渚カヲル。
「僕が使徒だって言ったらどうする?」
渚カヲルの言葉。
シンジは、その意味を考える。
冗談の類では無い事は、その真剣なまなざしを見れば判る。
使徒だって言ったらと言う事は、即ち、自分は使徒だと言っているのだ。
だから判らなくなる。
使徒、人類の敵でありシンジが相方たる惣流アスカ・ラングレーや他の仲間たちと共に打ち滅ぼしてきた相手。
即ち
単純に考えれば自分は敵であると言う宣言になるかもしれない。
だが同時に考えるべき事がある。
敵を討ち滅ぼす為に協力した仲間には渚カヲルも含まれて居たのだ。
渚カヲルが
だが、その戦いぶりは誠実であり、その戦意に疑う余地等なかった。
少なくともシンジには感じられなかった。
だからこそ、自分が使徒であると言う言葉の目的が判らなくなる。
敵であると言うならば、こんなタイミングで告げる理由が判らない。
今、この場でシンジを
シンジは使徒撃破に於いて多数を討ったエースだ。
そのシンジを真っ先に排除するのは正しい所があるのだが、だがシンジと同格のアスカが居るのだ。
である以上、シンジだけを討つと言うのはある意味での
だから判らない。
そもそも、渚カヲルの目に、雰囲気に敵意めいたモノは見られない。
判らない。
判らないからシンジは、素直に渚カヲルに尋ねた。
「
対して、尋ねられた渚カヲルは安堵する様に大きく息を吐いた。
何時もの
「ホント、シンジ君はシンジ君だよ」
「
「好きって事さ」
首を傾げるシンジ。
とは言え、
シンジは渚カヲルの言葉に疑問を持った。
だが同時に、無条件で渚カヲルを敵だと警戒しなかった。
敵と定めればどこまでも苛烈に戦えても、同時に、敵か味方かが定まる迄は相手に攻撃しようとしないシンジは
シンジは、シンジだけではなくアスカや他の子ども達。
子どもを戦いに使いつつも心を砕く葛城ミサトや赤木リツコ、或いは天木ミツキといった大人たち。
無論、悪い人間は居る。
渚カヲルを生み出したSEELEや、碇ゲンドウといった人々を全肯定するのは無理だ。
だがそれでも、否、そこも含めて
そう
その思いが実証された。
そう言う願いが実証されたのだから。
とは言えシンジからすれば首を傾げる話であった。
付き合いが深いながらも永いとは言えない癖のあるこの友人が、割と素っ頓狂な事を仕出かす、言うのは平常運転であったからだ。
自分が使徒とか言い出すのは限度を超えると言うのが本音であった。
雰囲気から察するに敵では無さそうだと思いつつ言葉を連ねる。
確認は大事だからだ。
但し、正面から返されぬ為に少しばかり目つきが厳しくなっているのはご愛敬。
「
「ん、ごめんごめん」
シンジの感情が読める渚カヲル。
流石に詫びを口にして、それから説明する。
文字通りである、と。
渚カヲルたる自分は、同時に使徒である。
使徒として目覚めたのだが、シンジや人類への害意は無いとも続けた。
「………
「うん。ハッキリしなかった」
親の記憶は勿論、幼少期の記憶すら無いのだ。
当然と言えるだろう。
渚カヲルと言う存在の意識は、2つの側面から成り立っていた。
人間としての素直な部分。
使徒としての観測者としての部分。
どちらか一方で渚カヲルと言う訳では無い。
どちらかが主従として優先される訳でも無い。
繋がっているようでいて繋がっていない。
そんな曖昧模糊とした部分があった。
だからこそ、感覚的に近いモノを感じていた綾波レイと薄ぼんやりとではあったが通じ合った部分があった。
自分の中に、自分では無いモノが存在する感覚。
それが、急に繋がったのだ。
だからこそ、
「
ある意味でシンジに自分が使徒だと告げたのは、
それをシンジは、軽く受け入れたのだ。
実にシンジと言う少年らしい言葉であり、
「
慌てるシンジ。
さもありなん。
渚カヲルは笑いながら涙をこぼしていたのだから。
渚カヲルは使徒である。
シンジにとっては
その程度はシンジとて理解していたので、先ずは相方たるアスカに報告した。
アスカの反応は、渚カヲルを頭の天辺から爪先まで数往復する勢いで見て頷くのであった。
さもありなん。
変わった所があったので、ま、そう言うモンだろうなと言う事であった。
NERVドイツ支部で秘匿的に製造された
どこも非人道的なのねと呆れるだけで終わっていた。
渚カヲル、何とも拍子抜けした顔で受け入れられたことに感謝を述べるのだった。
最大の難関とも言えたアスカが拍子抜けする感じで終わった為、後の
綾波レイは今更に何を言っているのかと首を傾げ、マリ・イラストリアスは仲間が増えたと笑っていた。
只、鈴原トウジだけが、そんなに簡単に受け入れるものであるかと自分以外の仲間たちを見るのであった。
渚カヲルは良い友人であるし、
殺し合いをしていた相手だぞ。
ある意味で実に常識的反応を見せていたが、状況はそんな鈴原トウジを置いてけぼりにして加速していく。
上長への報告である。
即ち葛城ミサトへの報告。
これに関して少しだけシンジは悩んだ。
葛城ミサトと言う人間の、使徒と言う存在に対する敵意をよく理解するが故であった。
使徒である。
だが、敵では無い。
さてさてどう説明するべきかと頭を寄せ合おうとした時、渚カヲルは綺麗な笑顔で言った。
「
満ち足りた笑み。
シンジを筆頭に縁を繋いだ
純粋な所のある、この渚カヲルと言う
だから、もう、後はどうでも良かったのだ。
故にシンジ達が自分の言葉を理解する前に、頭を突き合わせて相談をしている間に渚カヲルは内線電話を取った。
宛先は勿論ながらも戦術局、葛城ミサトの机だ。
1コール。
2コール。
3コール。
『なに?』
葛城ミサトが出た。
機嫌が良いとは言えない声なのは、
第16使徒との戦いで不甲斐なさを満天下に示す事になった
故に、国連安全保障理事会は
葛城ミサトからすれば、馬鹿かと阿呆かとと言う話である。
建造前より既に、
にも拘らず、今更に
今、赤木リツコは
否、赤木リツコだけでは無い。
技術開発部エヴァンゲリオン関連部署の人間は、怒り心頭で見積もりを作り上げていた。
そして葛城ミサト。
此方は、
旧訓練プログラムや現訓練プログラム。
だが、何とはなしに国連安全保障理事会は嘴を挟んでくるのだ。
お陰で、都合5回目の訓練プログラム修正作業と相成っていた。
初期計画。
鈴原トウジの訓練内容を基にした第2計画。
第2計画の訓練スケジュールが
だが、立案してみると
第4計画は、比較的初期計画に近い内容に戻って居たが、国連軍との共同戦闘が余り考慮されていないのが問題であると指摘され、今、第5計画を必死になって立案中となっていたのだ。
紆余曲折、七転八起、朝令暮改が多すぎて、それはもう葛城ミサトもヤサグレると言うものであった。
「少し報告があったから」
声だけでも判る不機嫌な葛城ミサトに、それでも笑顔で言葉を紡いでいける渚カヲル。
実に強い男の子であった。
とは言え、それはある意味で葛城ミサトが折れると思えばこその部分もあった。
『あ、カヲル君? どうかしたの??』
声は急に穏やかになる葛城ミサト。
否、全員が良い子である事には間違いはない。
だが同時に、少しばかり癖があるのだ。
知性派であるのだけども根っ子で
時々、突飛な事をする綾波レイ。
関西なノリに、どう反応するべきかを考える時がある鈴原トウジ。
人間としての常識を学習しようねと思うマリ・イラストリアス。
葛城ミサトがある種の渚カヲルに安心を抱くのも当然の話であった。
だが、その安心を今、渚カヲルが叩き壊す。
「報告する事が出来まして」
『何が?』
「僕、どうやら使徒だったみたいです」
テヘッという
だがそれは、N²爆弾級の破壊力を持っていた。
『ハァッ!?』
渚カヲルのN²爆弾級カミングアウト。
それがNERV本部を揺らす ―― 事は無かった。
余りの重大事に葛城ミサトが緘口令を敷いたからだ。
知っているのは
作戦局のスタッフは勿論、天木ミツキにも教える事はなかった。
取り合えず、先ずは確認。
確認してから、と言う事だ。
当初は、即、NERV本部で尋問となっていたが、NERV本部の主要施設は
使徒を迎え入れてする事ではないと、冷静になった赤木リツコがツッコみを入れていた。
だから、尋問場所に選ばれたのは地上、それもNERV本部内にも情報の出ない場所が選ばれた。
葛城ミサトの自宅である。
散乱するビール瓶。
ビール缶。
下着。
チラシやら新聞紙。
弁当がら。
最近の葛城ミサトの生活の荒れっぷりが良く判る有様であった。
ストレスと手早い入眠手段としてアルコールを摂取し、食事も
風呂は入るけども洗濯が出来ないので、制服はNERV近くのクリーニング屋に放り込み、下着に至っては量販店で安物を買っての使い捨てめいた状況。
正に寝る為にだけ帰る家。
同居人たる温泉ペンギンのペンペンは、只今、NERV本部
「チョッち、散らかってるけど御免ね」
葛城ミサト。
その面の皮の厚さは本当に見事なものであった。
そして、同行していた赤木リツコは
チョッとばかし揮発したアルコール臭いの強い室内で、始まる渚カヲルの尋問。
キッチンの4人掛け机の上だけが片付けられ、座る4人。
渚カヲル、葛城ミサトと赤木リツコ。
最後の1人は、渚カヲルに付き添いとしてのシンジであった。
尚、アスカや他の
今までの実績もあるので渚カヲルを信用しない訳では無いが、それでも、葛城ミサトにも責任があったのだ。
「さぁ始めましょうか」
宣言する葛城ミサト。
表情だけはキリっと引き締まって居たが、壁際に乱雑に置かれたビールの空瓶が何とも言えない風情を醸し出していた。
渚カヲルの尋問。
当人が語った内容はシンジ達に言った事、そのままであった。
NERVドイツ支部で
使徒と闘う事に疑問は無かった。
時々、自分が自分では無いと感じる様な事があった。
等々である。
そして今日、急に自分が使徒、最後の使徒であると言う自覚をもったと締めていた。
「…………使徒、ね」
ふわりと浮いている渚カヲルの姿を見れば、それを疑う事など出来なかった。
A.Tフィールドも張ってみせたりもしている。
赤木リツコが、その権限に於いてMAGIの緊急点検と再起動を命令し、一時的にNERV本部の対使徒探知網を無力化させての事であった。
「で、人類にナニか思う事が浮かんだりするの?」
確認といった形で尋ねる葛城ミサト。
もう色々と面倒くさくなって、実直に聞いていた。
とは言えある程度は確信していた。
もし、その気があったならばNERV本部内で起こしていただろう、と。
それに渚カヲルも答える。
使徒としての、内側の気持ちを正直に吐露する。
それは寂しさであり、同時に敗北感である、と続けた。
「寂しさ?」
赤木リツコが口を挟んだ。
敗北感は判る。
先の第16使徒すら、シンジとアスカによって一方的かつ圧倒的に叩き潰されているのだ。
それまでも、酷い目に遭い続けているのだ。
そういう気持ちを抱くのも当然かもしれない。
だが、寂しさは判らなかった。
使徒とは個であると言う推測が為されていたからである。
「父たるアダム、その懐たる白き月が失われた。その結果、使徒は寄る辺の無い存在になり果てている」
黒き月、NERV本部へと遣ってくるのは、寄る辺を求めての事だというのだ。
それから色々な事を渚カヲルは赤木リツコに語った。
知の暴走めいた質問の数々。
それを横目に葛城ミサトは深い深いため息をついていた。
「
「ま、良いわよ。敵対的でない使徒ってだけで十分よ」
労わるシンジに返す、葛城ミサトのヤケクソめいた言葉。
渚カヲルは使徒であるが敵対的では無い。
しかも最後の使徒だというのだ。
であれば残業なども来なくて万々歳だと、面倒くさいと言う気分を全身から出しつつ零す。
「後は___ 」
責任者は責任を取る為に居る。
葛城ミサトは作戦局の責任者とは言え、使徒撃滅を使命とするNERVの責任を取る人間では無い。
碇ゲンドウNERV総司令官にぶん投げれば良い。
そう、締めるのであった。
「どうであった、ゲンドウ?」
「………渚カヲルが投降してきたとの事です」
「そうか」
「指示を仰いできています」
「であろうな」
「議長、SEELEとしてはどういう方針を出すおつもりですか」
「忘れているぞ、ゲンドウ。貴様も又、SEELEの一員であるのだ」
「…………………はっ?」
キール・ローレンツの言葉の意味を理解するまで、たっぷりと思考が止まった碇ゲンドウ。
理解した。
だが、理解したくない。
そう言う気持ちが、碇ゲンドウの思考を止めた。
だからこそキール・ローレンツは、その背中を推す様に言葉を紡ぐ。
「お前が方針を示すが良い。責任はSEELEが取る」
「!?」
責任以外の、対応の立案と実行。
その全てをなげやがった!! そんな怨嗟を何とか飲み込む碇ゲンドウであった。
中間管理職ではなくなった碇ゲンドウ。
それでも矢張り、シタッパには仕事が回ってくる。
その現実を噛みしめていた。
「全てはSEELEの為に」
そんなドイツ言葉を飲み込みつつ、碇ゲンドウは第17使徒となった渚カヲルへの対応を拝命するのであった。