【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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SEELEの全権を背負い、ヨーロッパのSEELE本拠地から急いで帰還した碇ゲンドウ。
ある意味で世界を左右する様な権威を握った訳であったが、その顔には疲労感が顔にべったりと染み付いていた。
儘ならなすぎる人生故、と言えた。
それは第3新東京市への帰還を迎えた冬月コウゾウをして、少しばかり休養を取ってから行動してはどうかと言う程であった。
だが、その進言を碇ゲンドウは受け入れなかった。
SEELEの人類補完計画が頓挫し、そして自身の
そんな危惧を自身に抱いていたからだった。
暖かい布団に包りたい。
枕を抱えて目を瞑りたい。
寄る辺を失った幼子めいた気分を振り切る為、動き続けなければならなかった。
あらゆるモノを奪われた碇ゲンドウ。
だがそれでも人としての矜持は残っていた。
NERV総司令官としての意地。
或いは、果たされた
野犬の様だとも言われた頃の、碇ゲンドウを駆り立てた野心の残り火であった。
SEELEの評議会序列第13位。
国家代表や国連総長と言った表の社会の地位を除けば、或いは
だからこそなのだ。
せめて、自分自身は裏切るまいと言う気持ちが碇ゲンドウを動かす最後の力となっていた。
そしてもう1つ、下世話な話もあった。
それは男女関係。
矜持すら失ってしまえば、動けなくなってしまえば、完全に赤木リツコに
これ以上は御免極まると言うのは素直な所であった。
かなり切実に。
「さてエヴァンゲリオン6号機パイロット。話をしようではないか」
渚カヲルと相対した碇ゲンドウ。
場所は勿論、第3新東京市の地表部分にあるNERV総司令官公室に備え付けられた面談室だ。
情報を漏らさぬ為であった。
対する渚カヲルに緊張の色は無かった。
A.Tフィールドから見える碇ゲンドウの気分が判っていたからだった。
穏便な形で交渉を纏めようとしているのが判っていたのだ。
だからこそリラックスしていた。
何時もの
「よろしく」
偉そうな言葉遣いと言えるだろう。
だからこそ、ツッコむ人間が居た。
パコンッと言う軽い音。
その銀色めいた髪に守られた頭頂部が叩かれる。
叩いたのは、保護者宜しく付いてきていた綾波レイだった。
「言葉遣い」
細められた赤い目が渚カヲルを射抜く。
その力強さに居住まいを正して、頭を下げた。
「宜しくお願い致します」
心持ち肩を狭めている辺り、何とも渚カヲルと綾波レイの
「コレで良いのかな?」
「礼儀は実際、大事」
「ん、了解」
関係が良好そうなのはその会話に現れていた。
とは言え、碇ゲンドウからすれば穏やかざる話であった。
事前に、物事に疎い渚カヲルを危惧し、親しい
だが、それが綾波レイとは聞いていないし、そもそも、綾波レイとの距離感が近すぎてるのだ。
枯れかけていた碇ゲンドウの心の火が大きくなった。
「エヴァンゲリオン6号機パイロット、お前のレイとの関係は何だ」
それは、この場に居る誰も気づかないが、娘を持った父親の言葉であった。
そして、対応も似た様なモノであった。
「碇司令。
目力の籠った赤い瞳に射抜かれる碇ゲンドウ。
何かを思い出し、碇ゲンドウも居住まいを正してしまっていた。
「……………あぁ。渚カヲル、でよいな」
「はい」
絞り出す様に渚カヲルの名を呼んだ碇ゲンドウを、良く出来ましたとばかりに微笑む綾波レイ。
それが更なる衝撃を与える。
最近の忙しさにかまけて綾波レイの状況を見ていなかった碇ゲンドウは、この人としての情緒の育った綾波レイの姿は、衝撃的であった。
愛する妻、碇ユイの遺伝子を再現した存在。
大事にしたい相手。
その笑みは碇ユイの在りし日のソレと全く同じであったのだ。
だからこそ衝撃を受けたのだ。
綾波レイは碇ゲンドウの人類補完計画に於いて鍵となる、リリスの制御システムとして厳格に管理せねばならぬ相手でもあったのだから。
嘗ての、第3使徒襲来前までの綾波レイ、その人としての部分の未成熟さと、その
それが、碇シンジが来て、天木ミツキが動き、そして今、この綾波レイである。
恐らく今の綾波レイでは
絶望する碇ゲンドウ。
現実に立ち向かい足掻いている間に、己の人類補完計画は既に頓挫していたのだと理解したのだ。
徒労感、そして敗北感を感じる碇ゲンドウ。
力なく言葉を紡ぐ。
それは何となくの、碇ゲンドウと言う男が発するには余りにも世間話めいた言葉だった。
「君はレイと仲が良いようだな」
返事は余りにも暴力であった。
「親しくお付き合いさせてもらっています」
渚カヲルに他意はなかった。
綾波レイに言われ、言葉遣いを直して丁寧な言葉遣いを選んだだけだった。
だが、その物言いは義父たる人に娘さんを下さいと言う時めいた言葉であった。
碇ゲンドウは、どこかでピシッという音を聞いた気がした。
衝撃。
眼鏡が割れたと思う位の衝撃。
「…………………そうか」
碇ゲンドウは真っ白な顔で
交渉は始まる前から
「今頃、やってる頃よね」
惣流アスカ・ラングレーは、落ち着かないと言う顔でシンジの居れた紅茶の淹れられたカップを両手で持っていた。
ソファに座っている。
当然、隣にはシンジが居る。
身を寄せ合っている2人。
場所はNERV本部の操縦者待機室。
そして、既にプラグスーツを着込んでいる。
体の線を隠す
第一種戦闘配備に準じた
勿論、
シンジにせよアスカにせよ渚カヲルと言う人間は信用に値するとは思って居た。
そして、指揮官である葛城ミサトも同じであった。
だが、人間としての渚カヲルへの評価は別にして、備えるべきであるとの判断も出来る程には冷静であった。
「だね」
複雑な顔をしてNERV本部エヴァンゲリオン戦闘団
渚カヲルへの信用と同時に、使徒と言う存在である事に起因する憎悪と言うモノがない交ぜになっていたのだ。
葛城ミサトの使徒への憎悪。
その由来をシンジは聞いていた。
渚カヲルの
やってられるかとばかりに鯨飲し、シンジとアスカにも飲ませながら言ったのだ。
父親が
父親を、父として愛していた訳ではない。
だが、不当に自分から奪われたと言う事を受け入れるには葛城ミサトは余りにも幼かったのだ。
最初は葛城ミサトに同情していたシンジ。
実父である碇ゲンドウとの関係は兎も角、尊敬できる養父たる碇ケイジが不当に奪われてしまえばと思えば、判ると言うものであった。
当たり前の顔してシンジ宅に居たアスカも、親子関係が微妙であったと言う意味では他人事では無かった。
喪うと言う意味では、アスカの実母である惣流キョウコ・ツェッペリンが居たのだ。
葛城ミサトの心境を慮るのも当然と言えた。
尚、そんな対応も、葛城ミサトが持ち込んだビールが切れる迄であった。
黒霧島や伊佐錦なら兎も角、秘蔵は堪らぬとばかりに慌ててシンジは葛城ミサトの保護者、加持リョウジを呼びつけたのだった。
おっとり刀で駆け付けた加持リョウジ。
かくして
尚、翌朝の葛城ミサトはかなりスッキリした顔をしていた。
加持リョウジは少しやつれて居た。
その意味を
兎も角。
渚カヲルへの信用とは別の意味で、葛城ミサトの気持ちも理解しているシンジとアスカは、今の状態に不満を抱いては居なかった。
同時に、エヴァンゲリオンに乗る事はないだろうとも思って居た。
それよりも問題は、渚カヲルが第17使徒と言う事であった。
最後の使徒であると言う事だ。
「どうなるのかな」
不安げに言葉を紡ぐアスカ。
渚カヲルの処遇がどの様な形となるにせよ、もはや使徒は来ないのだ。
それはシンジとアスカが、
シンジにエヴァンゲリオンに乗る事に拘りは無い。
アスカも又、過日とは違い、拘ってはいない。
問題は、アスカが日本に居る理由がエヴァンゲリオンに乗って使徒と闘う為、と言う事なのだ。
戦う理由が消え、エヴァンゲリオンに乗らないとなればアスカが日本に居る理由が消える。
そしてドイツには、関係の修復した家族が居るのだ。
帰らないと言う選択肢を簡単に選べるはずも無かった。
又、アスカは正規の階級章を帯びる軍人でもあるのだ。
軽々しく自分の進退を決めれる立場では無かった。
自らのマグカップを机に置き、不安げなアスカの方に手を回すシンジ。
体を寄せ合う。
「判んないよ」
闘いとなれば勇敢でありさえすれば良い。
ただ1振りの刀として使徒に喰らいつければ良い。
砕け散るのが相手であれ自分であれ、問題はなかった。
失敗したとしても相方たるアスカが居るのだから。
だが、人生と言うモノは違う。
シンジは自分が子どもであった事を痛感した。
こういう時にアスカに言える言葉が思いつかなかったし、何をするべきかも考え付かなかったのだ。
だからこそ、一緒に居たいと言う気持ちを込めてアスカに体を寄せるのだ。
言葉が出せないシンジ。
だが、その行動が雄弁であったがお陰で、アスカは不満を覚える事は無かった。
気持ちは伝わるのだ。
別れがたいと言う心。
好きと言う気持ちが。
「シンジ。もし、アタシがドイツに帰らされる事になっても__ 」
「うん。必ず会いに行く」
「…………フン、アンタはコレが終わったら中学生?」
「判んない。でも、多分、そうなるんじゃないのかな」
アスカと違って一般人だから。
そんな気持ちが、シンジの心の活性を奪う。
顰められたシンジの顔にアスカはそっと自分の頬を寄せる。
「なら、当分はアタシから逢いに来てあげる。何たってアタシは大尉なんだからそれなりに棒給が良い筈だモノ」
ベェっとばかりに舌を出して笑うアスカ。
その可愛らしい仕草にシンジも元気を貰う。
「何だよそれ! 僕だってアルバイトすればドイツに行けるはずだろ!?」
「無理よ。チケットは高いモノ」
学生が出来るバイトだと、せいぜいが荷物扱いのエコノミーねっと笑うアスカ。
何だよとすねるシンジ。
と、そんな甘酸っぱい空間への侵入者が現れた。
勇者の名は日向マコト。
葛城ミサトからの使者であった。
「2人とも、待機命令は解除だ」
渚カヲルの事をまだ公表できないが為、MAGIを介するNERV本部のシステムを使えないが故の事だった。
真実、それまでの空気など判らぬが故の朗らかさがあった。
「取り合えず総司令との会談は無事に終わったって事だ」
「ン」
少しだけ不満げに鼻を鳴らすアスカ。
そんなアスカに苦笑しつつ、シンジも声を上げる。
「