日が沈んでく。もう夕暮れ。
もうすぐルームメイトが帰って来る頃か。
さっさとやる事やって帰らないとね。
寮から離れたこの林の中なら陽里お姉ちゃんや月子に感付かれてもすぐに離脱すれば少なくとも私の存在は見付からないだろうし。
一応変身はしている。上下は自室に戻った時に着替えたスウェットのままだけど、インナーのみヴィエティの
っと、今は時間が無いんだったっけ。そういう事を考えるのは後。
私は右手に持っていたカード型デバイスを掲げる。
「
カードが海色の光を帯びて杖へと変化。よし、じゃあやりますか。
「ナビ、補助よろしく」
〈了解しました。鏡面結界展開準備〉
私を中心に、地面に円形の五芒星の魔法陣が広がる。但し無色。結界魔法の使えない私の為に
「『
私の魔力で満たされた魔法陣が海色に輝く。
同時に、世界は一瞬で色を失い白黒の景色へと変わる。いや、私が鏡面結界内に移動しただけだけど。
「良いよ、降りておいで」
私はそう口にすると同時にその場にしゃがみ込んで、左手を地面に添える。左掌からそそくさと降りて来たのは蟻が横並びに3匹。それと真ん中の蟻の背に乗ったクマムシが1匹。4匹とも私の魔力を帯び、微かに青っぽく光っている。
「じゃあ言った通り。妖精共の所へ偵察宜しくね。隠密行動最優先、交戦は厳禁だよ?」
了解と言わんばかりに顎をカチカチと動かす蟻達。魔導バリアの穴を上手い事見付けてくれれば良いんだけど。駄目なら次の手を考えるまで。
私に手を振られた蟻達は、凡そそれとは思えない程のスピードで遠ざかっていく。
向こうの事は一先ずこれで良し。後はこっちか。
「お待たせ」
そう言って私は後ろを振り向く。視界に映るのは地面でとぐろを巻いてる3匹の蛇。3匹ともアオダイショウだけど私に襲い掛かって来るような事は無い。私の言葉に応えるように舌を出している。人間を除いた
「『マニプラ』」という私の声に合わせ3匹の下に魔法陣が展開。私の魔力を浴びて蛇は人型へとその姿を変化させていく。魔法陣の光が消える頃には頭が蛇で全身が深い緑の鱗に覆われた……そう、特撮の怪人のような姿になった。
「鏡面結界は夜中に解除されると思うけど、一般人相手に暴れちゃ駄目だよ?魔力を放出してあの糞妖精やソアレルイ達を誘き寄せてね」
シューシューと声にならない声で了解の意を示す3体。こっちもこれで準備は終わ……そうだ、これだけは言っておかないとね。
「いい?ソアレルイとルニには止めを刺さないでね。戦闘不能まで追い込んだら私の指示を仰ぐ事。分かった?」
よし、じゃあさっさと帰ろう。後は2人と
「デフォルマーレ」
右手に持つ杖がカードに戻った。チラリとそれに目を落とす。宇宙であろう黒い背景に浮かぶ青い惑星……地球の描かれたカード。
「決戦兵装……か」
口からポツリと零れた。糞共と戦う為に生み出され、そして私の目の前でお姉ちゃんの命の炎を吹き消した……
すっかり日が落ちちゃってる。急がないと不味い。魔法少女の力も使ってるから間に合うとは思うけどルームメイトが帰って来る前に帰らないと。
…………ふぅ。なんとか間に合った。セーフ。寮に帰って来た所も自室に入る所も誰にも見られてない。
そうだ、陽里お姉ちゃんは……あれ?部屋には居ない?月子が帰ったらちょっと甘えようと思ったのに。
まさかもうあの子達を見付けた?でもあの子達からは今のところ何のメッセージも来てないし。単に何か買い忘れで外出してるとかかな?
★☆★☆★☆
「へぇ……つまり?ワタシが生死を彷徨ってる時に?イプレはワタシのいかがわしい画像を撮りまくって?近衛隊長さん達と堪能してた、と?へぇ~」
ワタシの額に青筋が立つ。全く、人が死にかけてる時になんて事してんのコイツら!しかもあの時のワタシの格好って……ビキニパーツ外してたからあの際どい競泳水着みたいなヤツ!しかも接写!?最悪だよ!前世は男だったから気持ちはほんのちょっとだけ分からなくも無いけどそれでもどう考えてもそれやっちゃ駄目な場面でしょうが!つーかワタシ中学生だよ!?二次元じゃ無くてリアルの!それに欲情するとか妖精の男はホントにどいつもコイツもロリコンか!
画面の向こうで『誠に申し訳ないのである!』って土下座してるダナスティ近衛隊長。それと視界の端でガタガタ震えるイプレ。
『本当に申し訳ございません陽里様。ワタクシの管理が至らないばかりに』
そう言ってトア様も頭を下げる。
ワタシは慌てて「いやいや、トア様は悪く無いですから!」ってフォローするけどトア様は頭を上げない。いやだってさ、妖精達が勝手に建ててるスレまで全部監視するなんて無理でしょ。気持ちは分かるけど流石にトア様にまで謝らせるなんてさせられないよ。悪いのはこのロリコン共だし。
『だっ、だだ大丈夫だぴょん!そのスレは(妹に見付からないよう証拠隠滅、的な意味で)消去済みだぴょん!』
「でもワタシのエロ画像はもう拡散されちゃったんだよね?」
『あっ、いや、その……てへぺろ☆ぴょん』
「ふざけんなこの駄目王子ぃぃぃい!!」
思わず叫んじゃったよ。自分の画像がいかがわしい事に使われるとか……うへぇ、駄目だ気持ち悪っ。…………前世で写真アレな事に使ってごめん佳織。これはギルティだわ。
「そっ、そそそそうですよ!あの時の陽里先輩にそんな事してたなんてイプレは全く最低ですね!」
ほら、月ちゃんも怒ってくれてるよ。あの時イプレがそんな事してたなんて知ってよっぽど動揺したのか目が泳いでるし声も震えてるみたいだけど。
「ボっ、ボクがイプレを絞めておきます。怒りは尤もですけど陽里先輩はトア様と話を進めておいてください」
怒りはまだ収まらないけどそうだ。トア様に聞いておかなきゃいけない事もあるし一旦冷静にならないとね。あくまでも一旦、だけど。
「……うん。そうだ、そうだよね。取りあえず今はトア様ともう少し話をしておく。それとイプレ、このあと覚悟しておいてね」
『ヒエッ』って哀れな声を漏らしたイプレは月ちゃんにヒョイと持ち上げられて寝室へとドナドナされていく。ワタシは昂った心を落ち着かせるように深呼吸。スゥー、ハァー、っとね。
やれやれ。これで漸く本題に入れるよ。アニメとかの魔法少女モノならもっとキレイなんだろうけど、これ現実だからね。汚くても仕方ないね。
『本当に申し訳ありません。ですが漸く落ち着いて話が出来ますね、陽里様』
「ははは……ちょっと疲れちゃいましたよ。では改めて。トア様、幾つか質問しても良いでしょうか?」
さて。ここからが本題だね。どうして魔王は妖精の国を滅ぼそうとしてるのかとか、ソアレルイの魔法の事とか。それから先代ソアレルイは本当に一人で戦ったのかとか。どう見たってソアレルイは火力不足。でも月ちゃん……ルミナ・ルニと2人で協力して戦った、っていうなら納得できるんだよね。ルミナ・ルニは近接パワー型の主人公タイプ。対してルミナ・ソアレルイは使えるようになった魔法の……回復と防御壁から見て遠距離サポートタイプだもん。言うなればルニが勇者でソアレルイが賢者って所でしょ。ワタシのポジションってやっぱりどう考えてもサブメンバーで主人公は月ちゃんだよね本当にありがとうございました。
『ワタクシに答えられる事であれば何なりと聞いてください』
「トア様……初代のソアレルイって本当に一人で魔王と戦ったんですか?」
考えもしてなかった質問だったらしく、トア様が一瞬停止。少しして訝しげな表情へと変化した。
『陽里様、それはどういう意味でしょうか?』
★☆★☆★☆
ふぅ、危ない危ない。あのまま居たらボロが出てボクも陽里先輩のエッチな写真を撮ってた事が露呈する所でした。せめて恋人同士になるまではそういうのはバレないようにしておかないと陽里先輩に嫌われちゃいますからね。
最悪印象が悪くなっても陽里先輩を監禁してグヘヘな調教を施してボクの従順な奴隷に、って手もあるにはありますけど、ボクはあくまでも陽里先輩自身の意思でボクのモノになって欲しいですからね。
にしてもイプレは許せませんね。陽里先輩のエッチな画像撮ってハァハァしてたとは(自分の事は棚上げ)。
「さて、どうしてやりましょうか。その下半身に付いてる邪魔なモノを切り落とせばいいですかね?」
『ヒエッ……そっ、そそそそうだぴょん!取引!取引したいぴょん!』
取引、ですか?今更命乞いとは愚かですね。何を交渉材料にするか知りませんけどボクが許すとでも思ってるんですか?
『今保存してある陽里のエッッッな画像を進呈するぴょん!それから今後撮る物も同じく進呈するぴょん!ボクなら月子が撮れない角度……例えばローアングルから陽里のエッッッな画像も撮れるぴょん!』
……何ですって?陽里先輩のローアングル?確かにボクじゃ撮れない……いやでも……それだとイプレは陽里先輩のエッチな画像を見れ……スレの方も……いやイプレがスレに貼る画像をボクが検閲して許可制にすれば……。
陽里先輩の……ローアングル……。
…………。
…………。
…………。
「…………しっ、仕方ないですね。良いでしょう。今回は見逃してあげます。但し条件があります。スレに貼る陽里先輩の画像はボクの許可制、って事でどうですか?流石に不特定多数に陽里先輩の恥態を見られるのは看過出来ません」
『分かったぴょん!それで!それでオーケーだぴょん!今からボクと月子は協力者だぴょん!』
イプレには見られてしまいますがやむを得ません。陽里先輩のローアングルの魅力に勝てる人間なんて存在しませんからね。クッ、イプレもなかなかやりますね。
…………あれ?ボクが陽里先輩をそういう目で見てるってイプレに言いましたっけ?
『陽里のエッッッな画像貼るの制限されても代わりに月子の画像貼ればいいだけぴょん。月子の事は言及されてないからセーフだぴょん。それに陽里の画像貼れないだけでボクには不利益は無いぴょん。勝ったッ!第三部完ッ!だぴょん』
「何か言いました?」
『何も言って無いぴょん。そろそろボク達も戻って話を聞くぴょん』
妖精を滅ぼさんとする魔王ルミナ・ヴィエティ、イプレの蛮行に怒るルミナ・ソアレルイ、ブレないルミナ・ルニ。
三者三様の魔法少女の回。