林の中では分が悪い。せめてもっと拓けた場所に移動したい所だね。あの蛇型デーモン、どうやらワタシ達の視線を切らないと姿を隠して移動できないっぽい事は分かったんだけど。ココじゃあまりにも障害物が多すぎて視線を切らさないのは無理。何せほんの少し見えなくなっただけで何時の間にか後ろに回り込んでたりするし。
だからワタシと月ちゃんはなるべく互いに傍に居るようにしてる。ワタシの防御魔法がどの程度離れた所まで使えるのか試してないから距離をとるのは危険だから。今のところは魔法少女の衣装しか溶けてないけど効果がそれだけだって判断するのは危険。ワタシはもう大量に浴びちゃってるから、せめて月ちゃんが浴びるのは阻止しなきゃ。
因みにイプレは月ちゃんの頭の上。デーモンの動きを捉える目は少しでも多い方がいいし。最悪の場合はイプレをあの服だけ溶かす液体を防ぐ盾に使えるし。躊躇?勿論無いよ?
『(胸の部分に残ってる布面積少ないのにポロリどころが布がズレすらしないとか)一体どんなトリックなんだぴょん!(陽里の生乳ガン見したかったのに)ズルい魔法ぴょん!』
「イプレの言う通りですね。(陽里先輩の胸が見れないのは)卑怯ですよね。(ブラ紐のようなものも無くてヌーブラみたいに胸の部分に乗ってるだけなのに全くズレないとか)一体どんな魔法なんですか」
イプレや月ちゃん達、苛立ってるみたいだね。無理もないけど。せめて探知魔法みたいなのがあればなぁ。それかサーモグラフィみたいなやつとか。
「ステルスなのか、瞬間移動なのか、認識阻害みたいな何かなのか……せめて使ってる魔法が何か分からないと。ワタシ達で対策できるかは分からないけど」
「え?…………そっ、そうですね。あのデーモン、一体どんな種類の魔法なんですかね」
ん?月ちゃんの今の間、なんだろう?ワタシ別に変な事言ってないよね?2人の意見に同意しただけだし。
ま、いっか。兎に角。今はあの蛇型デーモンの動きをどうにかして捉える事に集中しないとね。
……と思った矢先。
「ひゃあっ!?」
「大丈夫ですか陽里先輩っ」
背中が撫でられるような感覚にゾクゾクして思わず声が漏れちゃったよ。月ちゃんの髪がワタシの背中に触れただけなんだけど。魔法少女になってるから確かに素の防御力も上がってはいるけど、肌に直に髪が触れると流石に擽ったい。今のワタシの衣装、上半身は胸の部分以外は何も無いから背中とか丸出しなんだよね。ほんと、この胸の部分の布とかどうやって着いてるんだろ。普通の服じゃないだろうから直接魔法か何かで固定してるんだろうね。そんなのを溶かすとかとんでもないデーモンだよ。
「うん。ちょっと擽ったかっただけだよ。それより気を付けて。何処から来るか分からないし」
『陽里の嬌声助かるぴょん!』
このっ……ヒトが真剣に戦ってるってのに!この駄目王子ときたら緊張感の欠片すら無いとか!
「イプレはちょおぉぉっと黙ろうか」
『陽里が悪いぴょん!艶かしい背中をボクに見せつけるのが悪いぴょ……痛だだだだだ!ギブ!ギブアップだぴょん!頬つねるの止めろぴょん!』
視線は周囲に動かしたまま、イプレの右頬をつねる。こんな事してもどうせまた変態行為に走るんだろうし効果は薄いけどやらないと調子に乗るからなぁ。
「今の陽里先輩の声ちゃんと録れましたか?」
『勿論だぴょん。ボクに抜かりは無いぴょん』
月ちゃんも周囲を警戒してるけど、なんかワタシに聞こえない程度の声量でイプレとヒソヒソ話してるみたいだね。まあ月ちゃんの事だから注意してくれてるんだろうけど。
……何か月ちゃんとイプレが妙に仲良くなってるように見えるのは気のせいだよね?
「あっちの木の陰から来ます!ボクが行きますから陽里先輩は警戒をお願いします!」
「分かった!」ってワタシが返事をしたのと同時。月ちゃんが向こうに現れた蛇型デーモンに向かって走り出す。ワタシはアイツが消えたあと何処に現れても大丈夫なように周りを警戒。
『蛇型デーモン……蛇…………ハッ!?今回の討伐はスネークイーター作戦と名付けるぴょん!』
今度はワタシの頭の上に移動したイプレが、また『いつもの』をやってる。よくもまあ次から次へと……っていうかよくそんなに知ってるよね。イプレってホントに妖精?日本人の転生者とかじゃないの?
「後ろです陽里先輩っ!」
一瞬とはいえそんな阿呆な事を考えてたワタシの背後に、月ちゃんの視界から外れた蛇型デーモンが現れて……ワタシは咄嗟に頭の上のイプレを投げつけた。
『ちょっ陽里待っ……ぶべらッ!?』
蛇型デーモンが吐き出した、明らかにワタシの下半身直撃コースだった液体に突っ込んだイプレのお陰でワタシは事なきを得……て無いよコレ!?今ので両足のブーツの上部分が消失。スカートも大半が溶けちゃってる。スパッツの部分はまるまる無事だからまだ良かったけど……次浴びたらアウトだよコレ。
何も考えずにイプレ投げたのはいいけど、イプレの汚い裸とか誰得……ってあれっ!?イプレの服は全然溶けてない!?何で!?
ってそれよりデーモン!
慌てて魔力弾を2発、3発と撃つけど避けられ距離を取られた。クッ、失敗した。攻撃するんじゃなくて捕まえに行くべきだった。
『いきなり投げるとか酷いぴょん!』
「自業自得だよっ!それより何で服溶けて無いの?何か防ぐ方法とかあるの?」
『ホントだぴょん!?何でだぴょん!?』
イプレも分かって無いみたいだね。本当にどうしてだろう?防御面は確実にイプレより魔法少女の方が高い筈なのに。
「大丈夫ですかっ!?」
「何とかね」
デーモンがまた姿を隠してる間に月ちゃんも合流。でもあれだけ離れた距離を一瞬で移動したとなると、使ってる魔法は瞬間移動とかかな……参ったなぁ。
『…………分かったぴょん!アイツの吐き出す液体はきっと魔法で出来た衣服だけを溶かすんだぴょん!』
周囲を再度警戒する月ちゃんの頭の上に戻ったイプレが、突然そう口走る。あー、成る程。それなら説明は出来る。……なんて迷惑な能力!いや効果が魔法で出来た衣服だけなのは不幸中の幸いなのかな?変身解除後の服まで溶かされてたら堪らないもんね。
『素晴らしい作戦思い付いたぴょん!2人ともあの液体全身に浴びて衣装全部溶かされろぴょん!そしたらデーモンは直接攻撃してくる筈だからそこを捕らえrびぶるちッ!?』
ワタシが制裁を与えるより早く、月ちゃんがイプレを掴んで地面へ向かってぶん投げた。魔法少女の力だからね。そりゃもう勢い良く。
にしてもイプレってばもう全然変態を隠さないなぁ。
「もう一先ずイプレは置いておきましょう。あの蛇型デーモンの動きを止めるのが先です」
「そうだね。多分瞬間移動?を何とかしよっか」
『…………蛇……ぴょん。つまり3匹居るんだぴょん!』
ムクッとイプレが立ち上がる。全身土まみれだけど無事みたい。月ちゃんが結構強く打ち付けたと思ったんだけど何で無事なのコイツ??ギャグ補正とかあるの???
「成る程……複数居るって可能性も有りますね。でも何で3匹なんですか?」
『蛇なんだから3匹に決まってるぴょん。きっとコードネームはソ●ッドとリキッ●とソリ●スぴょん。『蛇は一匹でいい!』ぴょん』
「いやだから何で3匹……それに
『固相線って何だぴょん?』
「はい?」
『え?』
……あー……うん。普通はこうなるよね。ボケツッコミ出来るワタシがオカシイんだよね。いやまぁ、ワタシに前世の知識があるからなだけなんだけど。ちょっとイプレ、ワタシに助けを求めるような視線向けないでよ。同類だと思われるでしょうが。それにワタシは蛇型デーモンを警戒中なんだよ。
★☆★☆★☆
『───お姉様、次はいつ地上に戻ってこられますの?』
『───そうですか。では楽しみにしていますわ』
『───ご迷惑をお掛けしますわ……ええ。ですから私は三号機。一号機はお姉様にお譲りしたではありませんか』
『───ええ。また戻って来られたら魔法少女システムの実験を。異界からの侵略者が来るのは何千年先になるか分かりませんけれど一歩ずつ、ですわ』
『───グ──プニ─停戦条約が破棄された、ですって!?ではお姉様は次はいつお戻りに──』
『───繋がらない、ではなく通信先が無い?そんな……あの衛星が撃墜された……?嘘、ですわよね?ではお姉様は……嫌……嫌ああああああ!!』
…………。
またあの夢か。
ナビがいうにはどうも万年単位で前の出来事、らしいけど。最近よく見る。
夜中1時か。ルームメイトは……うん、よく寝てるみたい。
「むにゃむにゃ……芦田先輩、ケーキ美味しいですぅ……むにゃむにゃ」
うん、今の寝言に関しては後で問い詰めるとして。今頃陽里お姉ちゃんと月子は戦ってる頃か。あの蛇に仕込んだ魔法少女の装甲の展開を阻害する攻撃には苦戦してる筈。魔法少女システムの装甲の術式は三機とも共通だからね。阻害自体は難しくはない。
もしかするともう決着がついてるかも知れない。
私はルームメイトを起こさないようベッドからそっと起き出して、窓を少しだけ開ける。一匹の蝶が中に入ったのを確認して再び閉める。
チラリ、とルームメイトが寝ているのを確認して、蝶から途中経過の報告を受ける。
……陽里お姉ちゃんがバリエラを使った?
どうやって固有魔法を知ったの?まさか思い出し……いや、それならヴィエティの正体は私だって分かる筈。妖精界に資料が残っていたって線の方がありそう。もう少し探った方がいいか。うん、報告ありがとう。蝶々さん、もう一度現場に行ってくれる?もう少し情報が欲しいから。
再度窓を開ける。私の掌に留まっていた蝶が再び飛び立ち、遠ざかっていくのを確認して窓を閉めた。
もう一度接触……は危険か……。もしも全ての固有魔法が使えるようになってるとしたら、私だけじゃソアレルイとルニには勝てない。慎重に動かないと。
次は来月でち。
イプレは偶然にも真実を言い当てました。
ククルカン引けた、やったぜ