「え〜、今のページはテストに出すので覚えておいてください。それと皆さんそろそろ授業も飽きてきたと思いますので、今からは教科書に無い話をします」
日本史の先生はいつもコレ。教科書から話が逸れる。そのうえテストが何処から出るのかバラす。他の先生達にはあまり良く思われてない、って佳織も言ってたよ。
「邪馬台国とヤマト政権の関係についてですね。あ、今からの話はテストに出ないので覚える必要はありませんので――――」
ただ、今日に限っては話の内容が頭にあんまり入って来ない。ヴィエティが魔法少女かも知れない。本当の魔王に騙されているか操られているかしているだけかも知れない。
「魏志倭人伝の記述がほぼ正しいとするなら邪馬台国は北九州にあり―――」
じゃあどうやって確かめる?話し合いは可能?それとも物理的に止めないといけない?只でさえ倒すのが困難なのに、ワタシにそれが可能なのか?そればっかり考えてる。
「―――ですので奴国&畿内勢力のヤマト政権の連合軍との争いで優位に立つため邪馬台国の女王卑弥呼は魏に朝貢して「我々がヤマトだ」と偽って金印を授かり―――」
そもそもデーモンではなくヴィエティ本人がそうそう姿を見せるのかも分からない。ヴィエティは先代ソアレルイに封印?されたんだしワタシの事は警戒はしてる筈……筈だよね?
なら直接出ては来……あ、いや待って。司彩ちゃんの話が事実なら実際にヴィエティを封印したのはソアレルイではない?記憶も改竄されてる?うーん、分からない。
「―――なので神功皇后は卑弥呼を倒したはいいものの、卑弥呼は「親魏倭王」の称号を魏から貰っていたわけで、魏との敵対はマズイ、となったわけです。よって神功皇后は卑弥呼の正当後継者・台与と名乗って魏を誤魔化したわけです。はい、丁度チャイムが鳴ったので今日は終わりにします」
……ん?先生の話いつ終わったの?いつの間にチャイム鳴った?駄目だ、今日は1日全然集中出来なかった。
「起立」「礼」「着席」というクラス委員の号令が終わって、今日の授業は全て終了。あとは帰るだけだけど、今日は特に予定は無い。佳織の家に通い妻するのは明日だし、月ちゃんは習い事(合氣道)だし。イプレは確か『嘘だぴょん!まほあこ今日で最終回とか信じないぴょん!……とりあえず録画したの最初から視聴し直すぴょん』とか言ってたっけ。
今日はどうしよっかな。お弁当のオカズ作り置きしとこっ「陽里ごめんっ、明日の数学の小テストの勉強教えてっ、今度御飯奢るからさ!」っと、隣の子が懇願してきたか。そんなに遅くはならないだろうし、うん、まあそのくらいならいいか。
そんなわけで。少しだけ遅くなったけど帰り道。運動部が部活動をしている最中の校庭を横目に見ながら、正門を出て。
一度寮に戻ってからスーパーに食材でも見に行こう、なんて考えながら歩いていたワタシの視界に映っていた景色が、一瞬にしてモノクロに変化した。
何で鏡面世界が?イプレはアニメを視聴してる筈じゃ…………。
『Lumina……soarelui……』
ボイスチェンジャーを通したような声の方に顔を向ける。
何時か見たままの、ロングストレートの青髪に海色のドレスを身に着けた彼女が。ワタシの前方、視線の向こうに居た。ついでに言うと地面から浮いている。
ワタシ1人のところを狙っての奇襲!
ワタシだけなら簡単に倒せるからって事?
「……ヴィエティ!待って、話を聞いて!」
そうワタシが叫んだと同時。彼女は右手に持つ杖をワタシに向ける。咄嗟に「
ヴィエティの杖の先端に乗っていた、どうやってかは知らないけれど球体の水に包まれている海老の、右のそれと不釣り合いな矢鱈大きい左のハサミがカチリと音を立てたのと同時。雷でも落ちたのかと思う程の轟音と共にワタシの体は後方へと吹き飛ばされていた。
変身が間に合っていなかったら大怪我をして……大怪我では済まなかったかも。事実、未だ杖の先端に居る海老の構えたハサミの数メートル程度先までの地面、アスファルトがグツグツと融解していた。少なくともアレは近距離から食らっていいものじゃない。
『4400度に達するプラズマを生み出し衝撃波を発生させるテッポウエビ。……この時代の知識は実に役に立つ』
4400度って……下手したら初手で終わってた。ちょっと殺意高過ぎないかな?やっぱり話を聞いてはくれないのかな。なんとかヴィエティを止めて話が出来る状況にしたい。
「
ワタシの予想通り、ヴィエティは避ける素振りは見せない。魔力弾はヴィエティの右手に真っ直ぐ吸い込まれていって……当たる直前に黒い何かに弾かれた。何あれ?ヴィエティの顔くらいの大きさの黒い盾が右腕に現れ……いや盾じゃない、形は瓢箪っぽい?虫?
『これか?クロカタゾウムシ。世界一硬い虫だよ。私の制御下ならばルニの剣すら弾く』
生物を支配出来るってのは厄介過ぎる。ヴィエティはあらゆる能力を高々水準で使えるって事か。ちょっとズルくないかなぁ?
ヴィエティが左手の指をパチンッと弾く。上空からハエの頭をした人型デーモンが4体、降りてくる。その全ての左手にヴィエティと同じクロカタゾウムシが付いてて、右手にはクロカタゾウムシと同じくらいの大きさの……蜂?体が濃い茶色で頭頂部と腹部が黄色?になってるけど蜂が付いてる。駄目だ、一度距離を取って各個撃破していくしかない。ヴィエティと話すのは次の機会になっちゃうかも。
『無駄だソアレルイ。もう遅い』
ヴィエティの言葉と同時。ワタシの背中に何かが張り付く。ちょっと、これなんか六本足っぽい……ってハエに付いてるのと同じ蜂だ!?ヤバっ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!
バチバチッと音を立てて。電流がワタシの全身を襲う。長い時間だったのか一瞬だったのかは全く分からない。気付いたらワタシはその場に仰向けに倒れていた。
「…………?………………!?!?」
口の中いっぱいに何かが詰まってる。舌も固定されてて喋れない。息は……鼻からなら吸えるけど早くコレを掻き出さないとどうなるか分からない。口へと伸ばしたワタシの両手は、2体のハエ型デーモンに両脇から掴まれ呆気なく拘束された。そのまま無理矢理その場に立たされたワタシと、ヴィエティの仮面越しの目が合った。
ヴィエティが左手をワタシに向かって突き出して、掌を開く。その中にあったのは、粉々に砕かれた銀色の何かの残骸。
『奴等の作ったヘアピン。お前を鏡面結界に取り込む前にすり替えさせてもらった。助けなど来ない』
つまり、今のワタシの髪に付いてるヘアピンは最初から偽物って事?いつの間に……じゃない、ヤバいヤバいヤバい。なんとかこの拘束から逃れないと本当に殺され……。
『さてソアレルイ。取引だ。お前は首を縦に振るだけでいい。妖精共に協力するな。この争いから手を引け。そうすればお前の命と安全は保証してやる』
ワタシは勿論首を横に振る。信じられるわけが無い。きっとワタシが手を引いて魔法少女を辞めて油断した瞬間殺すに決まってる。
そうやってワタシや月ちゃんが殺されたら、次はきっとヴィエティが黒幕に消される。だから絶対ハイと頷くわけにはいかない。
『そうか……仕方ない』
ヤレヤレ、と言わんばかりにヴィエティは頭をフルフルと振って。次の瞬間。ワタシは呼吸が出来なくなって、同時に腹部……鳩尾に激痛。酸素が足りなくなって視界が霞んで、お腹の激痛も治まらない。その場に蹲ってのたうち回りたい所だけど、両脇をガッチリとホールドされていて出来ない。
ワタシの鳩尾にめり込んだヴィエティの左拳は微かに光っていて。ソアレルイの腹部の装甲がインナーごと粉々になって消えていた。
『もう一度言う。ソアレルイ、妖精共に手を貸すな』
酸素が足りず、回らない思考でも。ワタシは首を横に振った。『ハァ』と小さく溜息をついたヴィエティは。やっと少しばかり呼吸が出来るようになってきたワタシの下腹部に左拳をめり込ませた。3度程連続で。
再びの激痛。それとお腹の奥に鈍い、苦しい鈍痛。女子中学生の下腹部にそれは流石に鬼畜の所業じゃないかな……いだい、いだいいだいいだいいだいいだいいだい…………。
思わずその場に座り込みそうになるけど、やっぱりガッチリとホールドされていて出来ない。鳩尾も辛かったけど、今度のも駄目だ、無理……。
ボロボロと涙が溢れてくる。それと、さっきの下腹部への攻撃のせいで小さい方だけどお漏らしもしてる。泣き叫べれば少しは紛らわす事も出来るのかも知れないけど、変わらず口の中には何かが詰まっていて叫べない。さっきから念じてはいるけど
ヴィエティの左拳が、今度はワタシの左足の脛へと吸い込まれる。ベキャという音と視界がパチパチと弾けるような感覚。それと共に、ワタシの脛は真っ二つに折れた。痛みは最早形容も出来ない。
……死んだフリとかしたら、見逃してもらえたりしないかなぁ。痛みに、人生で本当の意味で『必死に』耐えながら。呼吸を止めて、胸の動きも止めて、全身の力を抜いて。それだけじゃ足りないかな?こう、死んで魔力が周囲に霧散する感じにするとかしてみる……。
『…………えっ……うそ……』
……ん?なんか分からないけどヴィエティがその場にへたり込んでる?いや駄目だワタシ、反応するな、このまま演技を続けろ、じゃないと本当に殺されちゃう。
『うそ…………だよ…………』
今までの高圧的なそれではなく。ヴィエティの声は弱々しく震えていた。もしかして上手く騙せてる?でもこの反応は……何で?
〈落ち着いてくださいマスター、ソアレルイは死亡していません。バイタル未だ健在です〉
ん?今の電子音声?なに?
『うそ……やだ……』
〈止むを得ません。
電子音声が言い終わると、デーモン共々ヴィエティが消えた。本当に助かった……の?
開放されて、その場に倒れ込む。鳩尾はまだ痛いし、下腹部は変わらず苦しいし。左足は痛いし。あんな反応をしたヴィエティはよく分からないけど、生き延びた。
「陽里先輩〜~!!」
あ。遠くから月ちゃんの声が聞こえる。来てくれたんだね。でももう少し早く来て欲しかった、かも。
「陽里先輩、大丈夫で……す……か……」
駆け寄ってきた月ちゃん、固まってる。そりゃそうだよね。ワタシこんなボロボロだし。でも怪我や骨折くらい魔法で治せるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとね。
「
オレンジの光の柱に包まれ、腹部や足が治っていく。魔法は確かに強力だけど弱点はどうにかしなくちゃね。口……口を覆う何かか……。
って月ちゃん、固まったままだ。あ、漸く口開いた。
「陽里先輩ッ!おしっ……お漏ッ……とっ、ととと兎に角、水で洗って拭きましょう!そのまま変身解除したら制服とかアレな事になりますよ!」
あー、えっと、そっか、まあ、うん。ソウダネ、ソウダヨネ、ハイ。
恥ずかし過ぎる。
月ちゃんはバッグからミネラルウォーターのペットボトルとハンカチを取り出して……いや待って自分で!自分でやるから!!
「駄目です!魔法で治したとはいえ陽里先輩はさっきまで戦闘してたんですから!ここは全部ボクに任せてください隅々までキレイにしますから取り敢えず全部脱いでください! カフス型カメラを動画対応にグレードアップした甲斐がありましたグエヘヘヘ」
いやでも!殆ど残ってないかもだけどワタシの先輩としての威厳ががががが。
…………後輩にお漏らしの処理をされる先輩が誕生しました。月ちゃんに全部見られたし拭かれました。ついでに臭いまで嗅がれました。威厳はもうどっかに行きましたシクシクシクシク。
「本当は全部ボクが舐めてキレイにしたかった所ですが仕方ありませんね……このハンカチは真空パックして永久保存ですね」
「月ちゃん、今何か言った?」
「いえ、今度は1人で危ない真似はしないで下さいね」
「……ハイ」
邪馬台国と神功皇后については諸説あります
まほあこまさかの無事最終回とは。よく放送出来たなアレ。
次回は来月……だといいなぁ