というわけで。
放課後の現在、ボクは陽里先輩を絶賛尾行中です。
あの後モヤモヤしつつも陽里先輩と分かれ、本ッ当に不本意ながらも授業を受けました。本当なら二年生の陽里先輩のクラスに突撃したい所でしたけどボクもこれでも一応優等生ですからね。伊集院月子の名もあるし実家の名誉の為にもサボって抜け出すような事はしません。
それと陽里先輩に悪い虫が付いていたら正義の鉄槌を下さないといけないのでボクの尾行は当然許容されて然るべきです。
あっ、陽里先輩が漸くスーパーから出て来ましたね。こんな庶民向けのスーパーに行くならボクに言ってくれれば全部買ってあげるのに……。
先輩はいつもそうです。ボクが好意で買ってあげようとしても遠慮するし。この前の先輩の誕生日なんか、最初は指輪を買ってあげようとしたんですけど全力で拒否されちゃいましたし。挙げ句「生活雑貨とかちょっと役立つようなものだと嬉しいかな」って言いますし。そういう奥ゆかしい所も先輩の魅力の一つなんですけどね。
仕方ないのでオーブントースターをプレゼントしましたよ全く。あ、ちゃんと庶民的な値段のヤツにしましたからね。流石に何度も陽里先輩に貰ってもらえなかったらショックですし。自分で買うかどうか悩んでたみたいだったので喜んでくれましたね。あーもー、嬉しそうな表情も可愛いですよね陽里先輩は。
ですがそんな笑顔はボクに向けるか、或いは多数の人に向けるなら納得できるものであって、特定の男性が独占しようなど言語道断です。ボクの将来の奥さんである陽里先輩に手を出そうとした罪はキッチリ償ってもらいますよ!
出てきた先輩のマイバッグにはそこそこの量の食材が……ウムムム、一人で消費するような量じゃないですね。まさか糞野郎と一緒に……いや、でもまだ分かりませんね。安い食材を買いだめしただけかも知れませんし。食材の事はボクには良く分かりませんからね。
おや?陽里先輩、そっちは学校の寮とは反対方向……まさかまさか本当に男に会いに…….いやいや、きっと先輩の後見人になってる施設の方達の為に料理を振る舞いに行くんですよ、流石先輩ですねそうに決まってます。
陽里先輩に限って男の影なんて有り得ませんよね!
あれ?先輩、何で住宅街に向かうんですか。施設があるのはそっちじゃないですよ、先ぱ~い?
いや、いやいやいや。マンションの前で止まりましたよ!?陽里先輩駄目ですよ、入っちゃ駄目です!あっ、階段上がって……二階のあの部屋に!えっ!?鍵を差し込んで迷い無く入った!?合鍵ですかっ!?合鍵まで持ってて健気に通って料理を作るとか完全に通い妻じゃないですか!このマンション住んでるなら相手は完全に社会人男性……。さっきチラッと見えた陽里先輩の顔、心なしか恋する乙女の表情だったような……ボクの見間違いですかねアハハ、アハハハハ……。
ふざッッけるな!!
陽里先輩はまだ中学生ですよ!!ロリコン許すまじ!!先輩に手を出して良いのはボクだけなんですよ!!社会的に抹殺してやりましょうか、それとも裏から手を回して闇に葬ってやりましょうか!!
あー、やっぱり陽里先輩の事となると駄目ですね。どうも自分をコントロール出来なくなるというか、情緒不安定になるというか。まぁ陽里先輩を好き過ぎるのが原因なんですけど…………それにしても随分時間経ちましたけど、陽里先輩まだ出て来ませんね。
まさか先輩、本当に中であんな事やこんな事されてるんじゃ……。どっ、どどどどうしようボクの陽里先輩が傷物にされちゃう……相手を確認したいですけどボクもそろそろ時間が……。
仕方ありません。変態糞野郎の居場所は分かりましたし、素性の確認と制裁は後でじっくりやる事にしましょう。
一応明日も先輩の尾行はするとしましょうか。
★☆★☆★☆
朝怒られなかったぶん、放課後に「今後の進路相談」って理由で佳織に呼び出されたワタシは改めてコッテリ絞られました。いやまあ、中学生が深夜に外出した上に命の危険があるような事してたわけだからね仕方ないね。
それで今は学校は終わって佳織の家。スーパーで買い物して、夕飯の準備は済ませてある。佳織が帰って来たら一緒に……なーんて甘い事にはならず、今日も遅いんだってさ。残念。
『今、なんかモノスゴイ殺気を向けられた気がしたぴょん』
まだ仕舞われてない、フローリングに敷かれた白いカーペットの上に設置されたままの黒い炬燵にあたってたらイプレがそんな事を言い出した。妖精って殺気とかも感知できるの?
「まさかデーモン!?」
『違うと思うぴょん。きっとボクが陽里と一緒なのを妬んだスレ民とかだぴょん』
そっか、デーモンじゃないなら良かった。イプレが他の妖精に妬まれるぶんには別に何の問題も無いや。ワタシのプライバシー無視して画像勝手に貼ったりした自業自得だしね。というか女子中学生と一緒に居るのを妬むとか他の妖精も相当ヤバいよね、今更ながら。
『心配してくれないぴょん?』
「そりゃしないよ?デーモンなら兎も角相手は妖精なんでしょ?」
『陽里が冷たいぴょん……いやでもツンデレとかそういうプレイだと思えばアリぴょん?』
この距離、しかも室内だから聞こえてるんだけどなぁ。駄目だこの変態、早くなんとかしないと……。
っとそうだ、そろそろ晩御飯の仕上げでもしとこう。2日連続外泊ってわけにもいかないし。名残惜しいけど炬燵から出て、キッチンへ向かおう。
「仕上げしたらワタシは帰るからね。ちゃんと明日のお昼御飯の分まで用意してあるから。あ、先生が帰って来たら『お弁当用のおかずは冷蔵庫に入れといたからちゃんと明日お弁当に入れて食べて下さいね』って伝えてよ?」
『了解ぴょん。流石陽里ぴょん。毎日カップ麺の生活にならなくて本当に良かったぴょん』
これは佳織かイプレにちゃんと料理教えないと駄目かもなぁ。ワタシだって毎週来れるってわけじゃないし寮の門限もあるし。佳織とイプレ二人だけだと食生活ボロボロになりそう。コンビニ弁当とかカップ麺とか酒のつまみとかばっかりだと体に良くないよねぇ。
味噌汁は再度温めるだけ、焼き魚も軽くチンするだけ、ブロッコリー&ツナサラダとお漬物と御豆腐は冷蔵庫に入れたし御飯も炊けたし……まあ流石に大丈夫でしょ。
火元の確認を確りして。佳織に許可をもらって作った明日のワタシのぶんのお弁当のおかずをタッパーに詰めて。「イプレ、また明日ね」『陽里も気を付けて帰るぴょん』って挨拶を交わして玄関を出た。佳織の帰宅はまだまだ先。待ってたら外が暗くなっちゃう。魔法少女になっちゃえば何の問題も無いけど素の状態だとワタシってフツーの中学生だからね。イプレみたいな変態に遭遇しないように明るいうちに帰らないと。
あー、夕焼けだ。キレイだなぁ。前世♂の時はゆっくり見たりした事無かったな。
西に沈んでいく太陽を横目に大通りの右側の歩道を南方向へ歩いてたんだけど、ふとワタシの右目の視界の端に何かが映り込んだ。今のナニ?コンクリートブロックの塀で囲まれた脇道の奥に紫色っぽい何かが居たような……。
気になってちょっとだけ道を戻る。何かが見えた脇道の奥の方を目を細めてジーッと見てみると……あー……うん。何か居るね。ワタシの腰くらいの高さの紫色の楕円形の、ポヨポヨ動いてるヤツが。どう見ても地球上の生物じゃないよね。
「イプレ聞こえてる?なんか紫のスライムっぽいヤツが居るんだけどさ、あれって妖精の仲間とかじゃないよね?」
『違うぴょん。ソイツは間違いなくデーモンだぴょん。下位クラスの雑魚デーモ……ってそこに居るぴょん!?』
あー、やっぱりね。もしかしてイプレの言ってた殺気ってコイツかな?でもそんなの全然感じないけどなぁ。
どうしようかな。ここでイプレを待っても鏡面世界の魔法展開したら周りにモロバレだし……ちょっと変身してパパッと倒せばいいよね?よし、やっちゃおう。
「トランスフォールマ!」
道の奥へと走って、鞄の中からカードを取り出して宣言。一瞬で光に包まれてワタシの姿が第一形態の赤とピンクのドレス姿へと変わる。壁に囲まれた路地の奥だしまぁバレないバレないへーきへーき。
おー、持ってた鞄とかも一時的に消えるんだね。変身解いたら再構築されるのかな?便利だなぁ。
「デフォルマーレっと」
カードの変化したグレネードランチャーを構える。スライムといえば核を壊せばってのが定番だよね、さてさて核は……あるある。体の中心からちょっと上くらいの位置だね。あれなら撃ち抜けるかな?
「よっ」
思った通り。ワタシの放った魔力弾がスライムの体を貫通、撃ち抜かれた核が消滅してスライムも溶けるように消えた。前の二体と比べてホントに弱かったね。被害も無し。さーて、それじゃ帰ろっと。
路地を更に進んで右に曲がって。念のため大通りから完全に見えない位置で変身を解いてっと。
「リーフト」
再び光に包まれて、ワタシの姿が元に戻る。周囲に人も居ないね。うん、バッチリ。
じゃあさっさと帰ろっと。大通りに……じゃなくて念には念を入れてこの道進んで奥から回り込んで帰ろう。
佳織、晩御飯喜んでくれるかな?
その翌日。
何故かちょっとだけよそよそしかった月ちゃんに疑問を感じつつも登校したワタシは、お昼休みに「生徒会の用事で」って理由で佳織に呼び出された。周りの子達には「また芦田さんが生徒会に勧誘されてる」とか思われたかな。
ちょっとした通い妻状態に加えて一緒にお昼が食べられる、って浮かれてたワタシはスッカリ忘れてたんだよね、昨日の事。
生徒会の子達も常に生徒会室を使ってるわけじゃなくて、お昼は当然自分達の教室で食べてるわけで……つまり今の生徒会室にはワタシと佳織の二人きりなんだよ。何も起きないって分かってても心臓が高鳴る。あードキドキする。二人っきりでお揃いのお弁当……しまったおかず交換とか出来るように中身別にすればよかったぁぁワタシの阿呆ぉぉお。
「芦田……今日呼び出された理由は分かるか?」
「え?お弁当の事とかですか?もしかして嫌いなおかずとか入ってました?」
あれっ、機嫌悪い?おっかしいな?幼馴染みの佳織の好みは把握してるから嫌いな食べ物は入れてない筈だけど?確り味見もしたし変な所は無かった筈だよね?
ハッ、まさかイプレがお弁当用のおかずまで食べちゃってたとか?
「コレを見ろ」
佳織がスマートフォンを差し出して来て、ワタシは言われるままにそれを見る。SNSのとあるアカウントが投稿した動画が映っている。うわー、9万再生越えてる。でもこれがなんなんだろ?ワタシ、スマートフォンまだ持って無いから分からな……んんっ!?
あー……これは今から佳織に怒られるヤツだ……この動画、昨日ワタシが紫のスライムと戦ってた所が映ってる。幸い変身する場面は無くて途中からだし遠目だし後ろ姿だからこれがワタシって断定するのは無理っぽいけど。まさか動画撮られてたなんて……。うわー、倒した後にワタシの姿は見えないけど曲がり角の向こうで光が漏れてるから変身解除の時間くらいまで撮ってたのか。変身解除する時わざわざ見えない位置まで移動しておいて良かったぁ。
「全くお前というヤツは……何か言い訳はあるか?」
「マコトニモウシワケゴザイマセンデシタ」
久しぶりに土下座したよ。
それとたっぷり絞られた。
この投稿者は否定してるけど、どうやら今のところ『こういう動画』、つまりフィクションの特撮風動画だと思われてるからそこまで大事にはなってないみたいだけど……次撮られたりすると面倒な事になるかも。
後輩の尾行に全く気付かず通い妻がバレる陽里さん。
弱すぎて監視網を素通りして現界したスライムを倒す所をバッチリ撮られる陽里さん、の回。
次回は陽里が……
お怒りの月子が……