テイオーがキタちゃんのうまぴょいを眺めるだけの話です

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 これはある日のトレセン学園での出来事である。

 

「おーい後輩ちゃんたちー、いるー?」

「わわっ、テイオーさん!? どうしたんですか?」

「ふふー、テイオー様が可愛い後輩ちゃんたちの様子を観察に来てあげたのだよ」

 

 トウカイテイオーに後輩ちゃんと呼ばれたのは、キタサンブラックとサトノダイヤモンドである。特にキタサンブラックはテイオーに強い憧れを持っており、テイオーとしても大分可愛がっており、こうして暇を持て余した際にはキタサンブラックらの部屋に訪れることがあった。

 

「二人は何してたのかなー?」

「えーと、うまぴょいしてました」

 

 可愛い後輩の口から平然と放たれた言葉に、一瞬硬直するテイオー。が。

 

「……えーっと……うまぴょい伝説の練習をしてたのかな?」

「? はい」

 

 それ以外に何が? とばかりに首を傾げるキタサトコンビの姿を見て、テイオーは内心安堵しつつ大きく頷いた。

 

「だよねだよね! うん、うまぴょい伝説はみんなの憧れだからね」

「はい! いつか私たちもセンターで歌いたくて……」

 

 数あるウイニングライブの楽曲でも、うまぴょい伝説を歌うことが許されるのはURAファイナルズを制覇したウマ娘だけだ。並のウマ娘ならばセンターはおろか、そもそも舞台のバックダンサーになることすら不可能である。が、テイオーは自身の贔屓目を除いてもこの二人ならばあの舞台に立てるに違いないと思っている。

 

「キタちゃんとサトちゃんならきっと歌えるよ! どっちがセンターかはわからないけどね」

「「私に決まってるじゃないですか」」

 

 声を揃えて同じ科白を口に出し、その後むっとした表情でお互いを睨み合う二人を見て、テイオーはうんうんと頷いた。普段どれだけ仲が良い友人であっても、ことレースの勝敗だけは譲ってはならない。それでこそ一人前のウマ娘だ。

 

「まぁまぁ。それで、もう練習は終わっちゃったのかな?」

「えっと、サトちゃんのは終わりましたけど、私はまだです」

「ほほう。じゃあこのテイオー様にキタちゃんの歌を聞かせてくれたまえ!」

「ええっ!?」

 

 その場のノリでうまぴょい伝説の披露を要求するテイオー。レースでは凛々しい彼女だが、普段の生活では悪ガキのような部分があるため、時折こういった無茶ぶりを他人に要求することがあった。無論、某ウマ娘ほどではないが。

 

「いいじゃないキタちゃん。聞いてもらおうよ!」

「う、う~。わかりました。じゃあ、歌わせていただきます」

「そうこなくっちゃね~♪」

 

 というわけで、キタサンブラックの歌がテイオーに披露されることとなった。

 

「ふふー、楽しみだな~♪」

「う~。テイオーさんの前で上手く歌えるかな」

「大丈夫キタちゃん。いつも通りに歌えばいいよ!」

「そ、そうだよね」

 

 どうにか緊張を落ち着かせていつも通りの歌を心がけるキタサンブラック。そして。

 

『世間知らずでチビのガキだったキタは、いつの間にやらこんな名門トレセン学園に入っちまいました』

「…………へ?」

 

 何やら口上が始まった。

 

『歴戦のウマ娘が集う戦場のようなこの学園で、キタはひたすら走り続ける日々。あぁ、いつか追い付きてぇ。あの日、私の心を奪っちまった……あの人の背中に!』

「お、おお……」

 

 なんかよくわからないけどすごい感情が入ってる。テイオーはそう思った。

 

『あの日見たのはあのレース。憧れたのはあの背中。いつかは私が追い抜いて、背中を彼女に見せるのさ』

「サトちゃんまで!?」

 

 とか思っていたら、今度はサトノダイヤモンドが口上を始めていた。まるで歌謡ショーである。

 

『それでは歌っていただきましょう。キタサンブラックで「うまぴょい伝説」』

「うーーーー うまだっち♪」

「あ、そこは普通に始まるんだ」

 

 口上から一瞬違う曲が始まるんじゃないかと思っていたテイオーだったが、普通にうまぴょい伝説が始まった。キタサンブラックの透き通った美声が響く。

 

「うーーー うぅまぴょい う~まぁぴょいぃ~♪」

(んっ?)

「うーー すきだっち♪ うーー う~まぁぽぉいぃ~♪」

(んん?)

「うまうまうみゃうにゃ 321 Fight!!」

 

 ……が、開始早々内心で首を傾げていた。何やら妙な違和感が……。

 

「んおぉひさまぱっぱか快晴レース」「はいっ♪」

「ちょぉこちょこなにげにィ」「そーわっ So What♪」

 

「第一第二第三しぃごぉ」「だんだんだんだん出番が近づき」

「めぇんたまギラギラぁ 出走でぇーす!」「はいっ!」

「今日もぉ めぇちゃめちゃはぁちゃめちゃだっ!」「ちゃー!」

 

「ンがぁち追い込みィ!」「糖質カット!」

「コメくいてェー!」「でもやせたーい!」

 

「あぁのこはぁ?」「ワッフォー!」「そぉのこはぁ?」「ベイゴー!」

「どぉいつもこぉいつも あぁららァ?」「リバンドー!」

 

「泣ぁかないでぇ~」「はいっ!」「拭くんぢゃねェー!」「おいっ!」

 

「あぁかちん塗ってもォ!」「なおらないっ」

「はァ~~んっ!」

 

(いや個性強いなぁ!?)

 

 大人しく聞いていてテイオーは違和感の正体に気付く。キタサンブラックの歌い方に個性が出まくっているせいだ。

 

「今日の勝利の女ぇ神はぁぁ~♪ んあぁたしだけにチュゥするゥ~♪」

(主張が強い! こぶしの主張が強いよキタちゃん!)

 

 そう、キタサンブラックの歌い方はめちゃめちゃこぶしが入っていた。まるで演歌である。お陰で音程は完璧なのに違和感がすごい。

 

「虹のぉ~かなたへ~ゆこう~♪」

「かあぁぜをきいぃってぇ♪ だあぁいちけえぇってぇ♪ きいぃみのなぁかにぃひぃかりぃとぉもすぅ~♪」

(もうなんか江戸弁みたいになってる!?)

 

 このパートに至っては、『大地けって』の『けって』の部分がこぶしのあまり『帰って』の江戸弁みたいになっていた。ほぼ原型がない。

 

「きみの愛が!」

(おお、ここはさすがに完璧に決めるね。サトちゃんもテンションが上がって扇子振ってるし)

 

「……って扇子!? 扇子どっから出したのサトちゃん!?」

 

 そう、一瞬スルーしかけたテイオーであるが、「きゃー! キタちゃーん!」などと声援を送っているサトノダイヤモンドはどこから取り出したのか扇子を振ってキタサンブラックを応援していた。しかも扇子にはキタサンブラックの似顔絵と『愛ラブキタちゃん』などと書かれておりガチ勢感がすごい。

 

「ずきゅんどきゅん はあぁしり出しぃ~♪」「ふっふー♪」

「ばきゅんぶきゅん かぁけてぇゆぅくぅよぉ~♪」

(うん、もうこれ一種の才能じゃないかな?)

 

 こぶしを強調するだけでもうここまで雰囲気を別物にしてしまえるんだから、これはある意味では曲を完全に自分の物にしてるに等しいんじゃないか。テイオーはそう思った。ちなみにサトノダイヤモンドの扇子はあまり深く突っ込まないことにした。

 

「こんなぁ~レースはぁ~♪ はぁぁ~んじめてぇぇ~♪」

(うん、ボクはこんなうまぴょいを聞くのが初めてだよ)

 

 多分みんなキタちゃんのうまぴょい伝説聞いたらこう言うんじゃないかな。テイオーはそう思った。

 

「ずきゅんどきゅん むぅねがぁ鳴ぁりぃ~♪」「ふっふー♪」

「ばきゅんぶきゅん だいすぅきぃだよおぉ~♪」

(あ、この辺は割と普通だ……いや、普通だっけ?)

 

 このあたりまで来るとテイオーも大分感覚が麻痺してきており、既に普通のうまぴょい伝説がどんな感じであったか思い出せなくなってきていた。むしろこの後に通常のものを聞いたらこぶしが入ってないことに違和感を覚えそうである。

 

「今日もぉ~かなでえぇるうぅ~♪ はぁぴはぴだぁりぃん♪ 321GoFight♪ うぅぴうぴはぁにぃ♪ 321 うーーFight!!」

 

 曲が一区切りつき、ここで間奏に入る……のだが。

 

『キタちゃんの友達をやっていられるのは、多分私ぐらいだと思います』

「またなんか始まった!?」

 

 さっきまで完全にただのファンと化していたサトノダイヤモンドがいきなり何やら口上を述べ始める。

 

『だって、こう見えてこの娘は、向こう見ずの大鹿娘なんですから』

『そいつぁ仕方ないよサトちゃん。私が大鹿になるのは決まっちまってたんだ。あの日、あの背中に憧れた時に!』

 

「今日のステージの女ぇ神はぁぁ~♪ んあぁたしだけにギュッとするゥ~♪」

(突っ込まない。突っ込まないよ)

 

 テイオーは突っ込まない。こぶしはともかくさっきの口上は完全に演歌のノリじゃないかとか、じゃあこぶしは無意識じゃなくて意図的に入れてるのかとか突っ込んだりしない。

 

「虹のぉ~かなたへ~ゆこう~♪」

「あぁせをぬぅぐいぃ♪ なぁみだふぅういてぇ♪ きいぃみのなぁかでえぇやぁあみをてえぇらすぅ♪」

(うん、このパートのクセ強すぎでは?)

 

 前半といい、このパートのクセが特に強い。これで音程などは完璧なのだからすごいものである。

 

「この気持ちぃ~届くならぁぁ~♪ 君のいぃろにぃそまぁるよぉ~♪」

「こんなぁ~んあぁたしじゃぁ~♪ だ~めぇ~だよねぇぇ~♪」

(いややけにマッチしてるなぁ!?)

 

 この部分はウイニングライブでもまず歌われないレアなパートなのだが、演歌っぽい歌い方と歌詞がやたらとマッチしていた。

 

「こんなぁ~おぉもいぃはぁ~♪ はぁぁ~んじめてぇぇ~♪」

(うん、全くだね)

 

 この歌詞にここまで共感したのは今日が初めてかもしれない。そうテイオーがうんうん頷いている間にもう曲もラストに入ってきていた。

 

「今日もぉ~かなでえぇるうぅ~♪ はぁぴはぴだぁりぃん♪ 321GoFight♪ うぅぴうぴはぁにぃ♪ 321 うーーFight!!」

 

 曲が終わり、歌い終えてポーズを取るキタサンブラック。サトノダイヤモンドが「キタちゃーん! 良かったよ~!」などと黄色い声援を飛ばしている。

 

「ありがとうサトちゃん! テイオーさん、どうでしたか?」

 

 テイオーとしてはどうと聞かれれば色々と感想はあるのだが、とりあえず一言で言うなら。

 

「キタちゃんらしさがすっごく出てたよ! ここまで自分のものにできてるならいっそデビューした時は独自にカバーしちゃっても売れるんじゃないかな!」

「やだな~、テイオーさんってば大袈裟ですよ!」

 

 ──後に、ウマ娘として大成したキタサンブラックが『うまぴょゐ伝説』なる楽曲で演歌デビューしたというニュースを見て、テイオーが飲んでいたはちみーを吹き出すことになるのはまた別の話である。

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