時を超えて新参者   作:栗竹17号

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Q.何故一か月以上かかった?
A.多忙で目が死んでました。あとはそうですね……文才のなさに絶望してました。

 アプリではクリスマスイベにファインが来てましたね、如何でしたか?(震え声)
 筆者はタイシンの可愛さに輸血パックが必要になりかけました。
 今回も独自解釈マシマシ味濃いめです。色々と妄想は捗るんですが、いざ文字にすると……違うかもと考えて書き直しがち。物書きさんや先駆者たちに頭が上がりませんね。


第一話 ー 蹄跡は今再び刻まれて ー

  ウマ娘は自己研鑽(じこけんさん)に熱心な生き物である。

 これは一般的な共通認識である。そうあるのは、誰しもが頂点を目指して鍛錬に励み、レースに全力でぶつかり合い競い合いながら、一方でいち教養人としての勉学にも励む姿があるから。そう、彼女たちは同世代の一般的な中高生と比較すると、余裕がないのだ。平日は勉学にレースの練習とウィニングライブの演練と三つに時間を割かれながら忙しなく過ごし、土日にはレースへ出場し舞台にも立つ。時間の使い方がかなりシビアであるといえる。勉学とダンストレーニングに励む毎日。また努力してもレースに勝てるのはほんの一握り。そんな厳しい世界の中で日々を過ごしている。事実として、負け悩み落ち込んで挫折する人も少なくはないのだ。

 しかし、彼女たちはそれでも努力するのをやめない。それは何故か。

 ――単純だ、一番になりたいからである。

 誰よりも先頭を駆けていたい、ライバルに負けたくはない、この風を浴びて人一倍多く浴びたい、ステージの真ん中で輝きたい、誰にもこの先を譲りたくない――理由は十人十色だが、誰しもがそう"走ること"に傾倒(けいとう)する。

 テレビ画面の向こう側、あるいはレース場で、ステージの上で――応援してくれる誰かのために背負って駆け抜ける。

 ひたすらに、ただ一生懸命に。

 だからこそ人々は彼女たちの姿に惹かれるのだ。

 唯一無二のその輝きに、夢を託して。

 

 

 

 夕暮れ時、トレセン学園のグラウンドのトレーニング場。

 この時間帯はまだ次のレースに備えてトレーニングに励む時間であった。本来ならば色々な喧騒で賑わっているのが普通のはずだ。

 だが、今日に限ってはそんな喧騒はない。トレーニングこそしている人がいるものの、いつものような騒がしさがないのは、ここにいる二人の影が立っていたからだろう。

 

 

「多事多端の時期で忙しい中、このようなことになってしまいまして申し訳ありません、理事長」

 

 

「ご苦労ッ! 起きてしまったことには気にするのではない生徒会長! むしろ――感謝ッ! 迅速な対応にいつも助けられておる!」

 

 

 つばの広い白い帽子に明るい(オレンジ)色の少女がツカツカと歩きながら答える。

 理事長――そう呼ばれた彼女は「だからわざわざ頭を下げんでよい!」と言い放ちながら、(こうべ)を垂れた生徒会長の前に立つと扇子をバッと拡げた。

 この一見幼げで壮語な語り口調で話す小柄の女性は、秋川やよい。対面の生徒会長――シンボリルドルフが言っていたとおり、このトレセン学園の現理事長である。

 そう、この二人がいるからいつもの賑やかさは控え、真剣な面持ちでトレーニングに励んでいるのだ。

 「しかし……」と深く下げていた(おもて)をほんの少し上げるシンボリルドルフ。目を伏せていた彼女の表情は、(かんば)しくはない。その原因はこの日、ここで起きてしまった騒動と関係している。

 

 

「さて、本題ッ! ――に入る前に、副会長とたづなは何処に?」

 

 

「はい、エアグルーヴは現在ナリタブライアンと一緒に関係生徒たちから事情聴取をしています。たづなさんはちょうど今しがた……理事長とすれ違いで相手方の対応に向かわれました」

 

 

「了承ッ! ならば心配あるまい! では、聴聞(ちょうぶん)ッ! 今回の騒動のことについて判明してる限りを話してたまえ!!」

 

 

「わかりました。では不詳ながら生徒会長――シンボリルドルフが誠心誠意説明します」

 

 

 そう言って彼女は当該生徒と被害者側の関係に焦点を当てつつ、理事長へ報告し始めた。

 その内容について述べる前に、今日はどんな日であったかそれを知る必要があるだろう。

 本日はトレセン学園の公開日であった。学園とこの本番レースさながらのよく整備されたグラウンドを始め、図書館、ダンススタジオ、カフェテリア、野外ステージにグラウンド、ありとあらゆる施設と場所が一般開放される日だったのだ。いつもなら自由に立ち入れない場所を見られるということもあってか、一般の人が学園内を歩き回っている。しかし、入場には人数や持ち込みをはじめとした制限が掛けられており、カメラでの撮影や動画等の撮影も禁止、学園生徒と過度な接触と交流及び迷惑行為の禁止と、あらゆる制限が設けられている。各所にも案内係がおり、風紀委員が警戒にあたっているため、下手なことすれば即刻折檻(せっかん)されることは間違いない。

 そのため、ファン感謝祭ほどの盛況はない。外部の人が疎らに学園内を歩く姿がそこそこ見られる程度の人入りである。だが、普段中々触れることができない中央の学園生活を体感できることもあり、トレセン学園への入校を志望する面々は勿論、一般の普通の人間でも練習風景を見学しにやってくるものだった。中には地方の学園から中央の視察を兼ねてくる関係者もいる。

 "併走体験"というものがある。大雑把に言えばそれは、中央(トップクラス)たるトレセン学園の選手と一緒に走り比べができるというもの。レース場の向こう側、もしくはテレビ画面越しでしかその姿を見ることができなかった活躍していた生徒と交流する機会であり、実際に勝負できるというもの。当然参加できるのは同じウマ娘であることが前提だが、これを見たがる観客は意外と多いのだ。学園生徒たちや一般人だけでなく、トレーナーたちもこれを遠目に見ている。いち早く才能ある子を見つけるため、将来スターウマ娘となりうる可能性のある者をマークするため――といった思惑がトレーナー間では頭の片隅にあったりするのだが、単純にただ見てて面白いからと学園名物の一つとして定着していた。

 勝負好きなことが多い彼女たちにとって、この催しに参加する人はそこそこいる。だが、勝てるのは稀だ。その相手こそ――中央の名立たる実力者たちなのだから。大概はその実力者たちによって余りにも高い中央の壁を思い知らされることになるのだが、仮に中央(トップクラス)たるトレセン学園の生徒に勝つことができたならば、学園側からスカウトされることもある。

 学園側も併走係として抜擢(ばってき)する生徒もそれなりに拘る傾向にある。素行も模範的なこともさながら、中央で戦績を残している実力者が選出されるようになっているのだ。つまりこの係に指名されることは学園側にも認められた存在であることを意味し、人によっては名誉なことともいえる。

 事が起きた背景には、そういったことがあった。

 そんな最中で、事件が起こった。

 学園の生徒が掴みかかって殴りかかろうとした、という通報が届く形で。

 

 

「――幸いにも首元を掴みかかってただけで止められたので、暴力沙汰にまで発展はしていません。それ以上の危害が及ぶ前に他の生徒たちによって取り押さえられました。そこにエアグルーヴが仲介が入りましてからは現在事実確認を行っている次第です」

 

 

 不祥事――それは日本を代表する中央のトレセン学園にとってできるだけ避けねばならないこと。その相手が同じウマ娘であれ、大きく問題を起こせば只事ではすまない。それは、トレセン学園の位格(いかく)にかかわる問題なのだから。だから、注意を払って事を進めていたつもりであった。

 故に、シンボリルドルフは責任を感じていたのだった。

 

 

「信否! 何度考えても彼女はそのようなことをする人物であるとは思い難い!」

 

 

「実のところ私も信じられません。彼女は芯の通った強い誇りのある生徒でした。その反面、後輩たちにも慕われるほど優しい人柄の人物でもありました」

 

 

「そして、最も強いウマ娘が勝利するといわれる菊花賞ウマ娘。心体ともに勝負に勝らねば獲れぬといわれたそのタイトルを、彼女は獲っているのだぞ! 怪訝(けげん)ッ!! やはり何かあったのではないか?」

 

 

「それでも、中央のウマ娘に恥じるべき行為。……私は生徒の代表として遺憾(いかん)に感じています」

 

 

「会長、これは其方ら生徒だけのせいではない。 ――責任ッ!! それはこの学園の理事長たる私にもあることだ!」

 

 

「しかし――」

 

 

「……盛り上がっているところ悪いが理事長に会長、戻ったぞ」

 

 

 ポニーテールを靡かせながら一人のウマ娘が姿を現す。

 力強く切長の目尻が、目を引く黒栗毛のウマ娘。

 風に揺れる枝を咥えながら、右腰に手の甲を当てて立ち止まった。

 

 

「ブライアン……」

 

 

 彼女もエアグルーヴと同じ役職につく、もう一人の副会長ナリタブライアン。

 彼女はエアグルーヴとは対照的にレース以外であまり熱を上げることがなく、サボりがちであるがこういうやるときはしっかりとやってくる人だった。

 ここに戻ってきたということは、尋問が終わったということだろう。

 

 

「報告だ、生徒たちの聞き取り調査が終わった。エアグルーヴは引き続きメンタルのケアをしている」

 

 

「了解した。それで、何かわかったことがあったか?」

 

 

「…………まあ、あったな」

 

 

「……話してくれないか?」

 

 

「そのつもりだ。だが、ちょっと予想外のこともあってな。少し内容を整理する時間をくれ」

 

 

 手に顎を乗せて考え込むナリタブライアン。

 秋川やよいとシンボリルドルフは互いに顔を見合わせて「?」と彼女に向き直る。

 五分程の時間を要して、ようやくハァと一息をついて口を開いた。

 

 

「まずアイツが粗相(そそう)をしでかした原因は、"(あわ)せ"で負けたことで間違いない」

 

 

「なんと!」

 

 

「……そうか」

 

 

「……その程度のことでつっかかるヤツだとは思っていなかったのだがな」

 

 

 "併せ"とは基本的に二人以上で横に並んで競り合う模擬レース、又はトレーニングの形式の一種である。疑似的にレースのような競り合いをする競走状態を作ることで勝負根性を焚きつけ、能力を引き出す効果がある。新入生の授業としても取り入れられるときもあるが、生徒間においても勝負事が好きなウマ娘同士でよく競走しているのを見かける。それだけ学園内においては日常的にあることであり、勝ち負けの内容で文句や言い合いはあれど殴り合いの暴力沙汰にまで発展する事例はあまりない。

 ましてや件の彼女は菊の勝ち星こそあれど、それ以上に着外での負けた経験を多く積んできた努力家でもある。勝つ喜びも負ける悔しさも、酸いも甘いも知りながら、それでも走り続けている彼女を慕う者も多い。格上の併せ相手に負かされることも少なくなかったが、それ以上に自身と向き合う強さと誇らしさを――かのウマ娘を強く尊敬していた彼女は持っていたはずだ。

 

 

「で、だ。何故勝敗ごときで大声をあげながら掴みかかったのかについてだが……これが少しややこしい」

 

 

「ふむ、それは何でだ?」

 

 

「何で、か……説明するのは少し難しいな」

 

 

 眉をひそめながら「どう言い表せばいいものか」と(まぶた)を閉じて腕を組む。

 シンボリルドルフと秋川やよいは不思議そうに首を傾げた。

 

 

「被害者と加害者の間に入り組んだ事情とかがあったのかい?」

 

 

「そういうわけでもない。まあ、キッカケこそ勝ち敗けであったらしいが、それ以上に当人が言うには……名前と態度が気に食わなくてカッとなったらしい」

 

 

「む? 疑問ッ!! 態度はともかく名前で許せなくなるとは?」

 

 

「……普通なら考えにくいですね」

 

 

「…………だろうな」

 

 

 「でもな」とまた少し唸るように黙ってしまう。

 いつもなら淡々と内容をまとめながら報告をする彼女の言葉が珍しく続かないようだった。

 

 

「なあ会長、一つ訊ねていいか?」

 

 

「……何をかな、ブライアン」

 

 

「何と名乗ったと思う? ソイツの名前」

 

 

 「ふむ」とシンボリルドルフは顎に手を当てて思い浮かべる。

 (しゃく)に障る名前。ウマ娘の名前は千差万別、色々とあるため心当たりがつかない。

 

 

「わからないな」

 

 

「そうか」

 

 

「だが、少なくとも彼女を負かすほど強いのならば、理事長が何か知っているはず……。そうですよね? 理事長」

 

 

「無論ッ! むしろ日々パイプラインを駆使し、情報収集に尽力してスカウトしているッ! たづなも協力してくれるからな!」

 

 

(時たま学園を空けていない期間がある理由の一つがそれですか)シンボリルドルフは心中こっそりとぼやいた。

 

 

「だが、否定ッ! そのような者に心当たりがない!」

 

 

「……だろうな」

 

 ナリタブライアンは迷っているようだった。どう言ったらいいものか、と。

 口下手な彼女にとっては()()をどう表現すればいいのか思いつかないのだ。

 

 

(話が進まないな、このままでは)

 

 

 見かねたシンボリルドルフは切り出してみることにした。

 

 

「ブライアン、結局なんと名乗ったんだ?」

 

 

「そうだった。名前、言ってしまった方がいいか。

 ……誤解がないように言っておくが、これは私じゃなくアイツの口から本当に出た名前だぞ?」

 

 

 顎を置かれていた右手をぎしりと握り拳に作り出し変えながら正面を見据える。

 

 

「――"シンザン"」

 

 

「「ッ!!?」」

 

 

 沈黙。一陣の風が凪ぐ音に、しばしの静寂。

 その名前はこの国のウマ娘ならば誰しもが一度は耳に触れる御名だ。

 そして――件の彼女が憧れ抱き信奉した、その人である。

 

 

「……確認! 聞き間違いではないか?」

 

 

「聞き間違いではないらしい、何度も確認したようだが、そうだと言い張った」

 

 

「類似した名前ということではなく?」

 

 

 首を横にフルフルと振る。「四文字だけだ。"シンザン"、これだけ」ナリタブライアンは改めて強調した。

 彼女たちが虚偽を疑うのは無理はない、むしろ当たり前だ。

 特にその御名はこのトレセン学園においては歴史や功績から、何より大きな意味を持つ。

 今日(こんにち)の施設と設備が、生活が、地盤を築きあげたのは他でもなく、たった一人の功績のキッカケによって大きく発展できたのだ。トレセン学園の今があるのは、彼女の功績があってのものでもある。

 昭和のあの時代、この国が高度に成長していく中で、彼女があるべき未来のトレセン学園の道標(みちしるべ)を示した。

 「シンザン()を越えろ」彼女が残した提言である。この言葉があったから、トレセン学園もあのURAも、ウマ娘に関わりあるありとあらゆる組織は目標を失わずに邁進することができた。

 故に、秋川やよいは扇子をバチンと閉じて握りしめ、怒りを(あらわ)にする。

 

 

「――納得! そして、なんと無礼!!」

 

 

 普段の彼女から想像できない――激昂(げっこう)の表情。

 引き絞られた瞳は、誰もいない地面の先を睨む。

 

 

「少し腑に落ちたよ。彼女にとっては許し難い妄言でもあっただろう」

 

 

 その名前を(おご)(うた)う相手に打ち負かされたとなれば、その心の苦しみはどれほど膨らむものか。

 誇り高い彼女は想像通り、ぐちゃぐちゃに搔きまわされて間違いを犯してしまったのだろうか。

 

 

「だが――気になるのはそれだけじゃない」

 

 

 ナリタブライアンは突如、シンボリルドルフと理事長の間を走り抜ける。

 

 

「ブライアン!? どこに行くんだ!!」

 

 

「んなっ?! こらっ二人とも! 理事長たる私を置いていくでない!」

 

 

 その後ろを戸惑いながらついていく。

 立ち止まってみたそこには――そこにあったものは、

 

 

「これか、あいつがしきりに呟いていたのは。チッ……なるほど」

 

 

「どうしたブライアン、何を見……て……」

 

 

「二人共いきなり走り出してどうしたのだ!――って、おわぁっ!?」

 

 

 そこは最終コーナー、直線に差し掛かるところ。ゴールに向かって幾つかの痕跡が残っていた。

 均等に、正確に踏み抜かれた――

 

 

驚愕(きょうがく)ッ! 深く穿つような足跡! こんなものがありうるのか!?」

 

 

 トタトタと跡の傍に膝をかがませると、人差し指をスッと潜り込ませる。あっさりと付け根のところまで入ってしまい、「おぉ!」という声が漏れてしまっている。

 それが意味することは二つ。シンボリルドルフは分析する。

 一つは並外れた脚力の持ち主であることと、もう一つは――非常に鍛錬を積んで練り上げられた実力者であるということ。いくら豪脚(ごうきゃく)の持ち主でも、これほど力を絞って強く踏み込まれているのは今までに見たことなかった。

 

 

「ルドルフ、今コレらを刻んだヤツは何処にいる?」

 

 

「……学園本校の応接室だ」

 

 

「わかった」

 

 

「待て! ブライアン!」

 

 

 シンボリルドルフは呼び止めた。

 

 

「どうする気だ? ……その人に会って」

 

 

「……決まっている、()()()()()()

 

 

 ナリタブライアンは振り返る。その表情は――笑っていた。

 獣が覗く。その興奮は――高揚(こうよう)は隠しきれていない。

 

 

「そのほうが、ああだこうだ口にするよりわかりやすくていいだろう?」

 

 

 ――夕暮れ時、間もなく陽も沈む黄昏時、言葉とは裏腹に滾る。

 金色の瞳は、沈む夕日以上に妖しくギラついていた。




今年中にあと二話は投下したいなあ……(希望)無理かなあ(弱音)
シングレを大人買いしながら、アニメを視聴して考える予定です。
世界観的にどんな感じに近づけようか妄想しながらゆっくりマイペースに書きます。にやり。
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