Rise Up to the Dawn   作:Yama@0083

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2. 風は予告なく吹く

「そーのさーきはー、破滅の純情・・・・よし、今度の分の収録も完了っ...と」

 

ウィンダミア星のレイヴングラス村。フレイア・ヴィオンの故郷であるこの村のある家で、一人の少女が椅子に腰掛け、卓上の端末に向かっていた。机の上には、彼女が自前で用意したのであろう収録用の機材がずらりと並んでいる。

 

「さてと。じゃあいつもみたく、いい感じの編集を...っ」

 

意気揚々と次の作業に取り掛かろうとした彼女だったが、何かを感じルンをその手で覆った。

 

「何、この感じ・・・何か、来る?」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

ウィンダミア星のある地。そこにはかつて、カーライルと呼ばれた場所があった。第一次独立戦争時、その町は大地に落とされた次元兵器によって消し飛び、爆心地には今も痛々しい時空の裂け目が残っている。

通称『カーライルの黒い嵐』。その中心部に突如デフォールドのゲートが開き、そこから颯爽と現れた黒いバルキリーに、かのコウマ・ダイソン准尉は乗っていた。

 

「な・・・なんなんだよここは、地獄か!?」

 

彼は周囲の禍々しい景色に身震いし、そして上に美しい空の青が見えるのを確認すると、水を得た魚の如くまっすぐそれに向かっていった。しかしそれを遮る様に、彼の目の前を黒い稲妻が奔る。すると次の瞬間、モニターに次々と赤い警告画面が表示された。

 

「うっ、今度は何だって...おいおい嘘だろ、エンジンに異常!?」

 

目の前の計器は、全てのエンジンの出力が低下し、その他各部にも様々な問題が発生している現状を知らせていた。更に、彼がその事を認識した時を見計らったかのように、機体をいやな揺れが襲う。

 

「ぐうッ...マズイ、このままじゃ・・・!」

 

彼は緊急脱出を考えたが、付近に村々が広がっていることを認識し、その択を抹消した。頭に浮かび上がる最悪の事態に冷や汗を流す暇もなく、彼の機体はどんどん高度を失っていく。

 

「クソッ、俺はまだ銀河の星々に名を連ねるつもりはねぇんだ!何か、何か方法は...!?」

 

彼は周囲の状況や計器に表示されている情報から、今とれる選択を必死になって考える。そして、ある一つの道を導き出した。

 

「ここは風がよく吹いてる!そんでコイツには、もう使い物にならないファストパックがある!この二つがありゃ...多分できる、『アレ』が!映像でしか見たことはないが・・・」

 

大きな不安が頭の中に残るが、彼はそれを押し退け腹を括った。機体の姿勢を無理矢理に調整し、やけくそ気味にメットの奥で笑う。

 

「ええい、どうせやらなきゃ死ぬだけなんだ、やってやる!お前も腹ァ括れよ、カワイコちゃん!!」

 

彼は自らを鼓舞し、意を決してエンジンを完全停止(・・・・)させた。続いて脚部のファストパックをパージし、来る衝撃に備える。すると瞬間、あらかじめ起爆するように設定したパック内蔵のミサイルが爆発し、それが燃料を巻き込んで激しい爆風を起こした。その煽りを受け、機体は一気に上昇していく。

 

「うっ、ぐうぅ・・・行けるか!?行ってくれ、頼む!」

 

そうして上空に浮き上がった機体は、そこに吹く風に乗ることに成功した。再び滑空し始めた己の機体に、まさか本当に成功するとは思っていなかったのか、彼は思わず目を白黒させる。

 

「で...できた、のか?あの技(竜鳥飛び)を、俺が・・・?」

 

機体の姿勢もすっかり安定したのを確認した彼は、はぁぁ、と脱力して深く息を吐いた。

 

「クラゲ座の下に召されずに済んだ...か。ここの風と、ファストパックに助けられたな。まったく不細工もいいとこだ、さっきの竜鳥飛びは」

 

あの人ならもっと・・・と考えたところで、彼はその思考を中断した。

 

 

 (何はともあれ、助かったんだ。ひとまずは喜ぼう...)

 

 

そうして気を取り直した彼は、首を回してぐるりと周囲の様子を伺う。

 

「さて、と・・・マジでどこなんだ、ここは」

 

彼がデフォールドしたその場所には、雄大な山々に囲まれた美しい緑の大地が広がっていた。風に吹かれて草花が揺れるその様子は、見るものにあまねく安らぎを与える。

 

「とりあえず、あの村からは離れられたみたいだな。てか、随分と緑が多いな・・・お、ありゃあ街か?えらく古風というか、洒落た感じの建築...っと、ゆっくり見てる場合じゃねえか。早いとこ、不時着できるとこを見つけないと」

 

のどかな情景に、彼が見惚れていたのも束の間。コクピット内にけたたましくアラート音が鳴り響き、消えていた焦燥感を蘇らせる。

 

「ロックされた!識別番号は...Sv-262!?それにあの紋章は・・・なんてこった。俺、ウィンダミアに来ちまったのかよ!?惑星国家に直接フォールドしちまうなんて・・・大丈夫なのか!?」

 

新たに訪れた危機に、彼は悲鳴を上げた。更にそれに追い打ちをかけるように、相手のパイロットより彼に通信が届く。

 

『我々は空中騎士団、ウィンダミアの大地と風を守護する者。VF-171のパイロットに告ぐ。貴官の行為は密航、もとい侵略行為であり、許容されるものではない。直ちに投降せよ、さもなくば撃墜する。』

「向こうから警告が!?もう時間が無い、救助要請を!」

 

彼は即座に通信を繋ぎ、なりふり構わず必死で呼びかける。

 

「こちらS.M.S所属、コウマ・ダイソン准尉!そちらへの敵対の意思はない!!フォールド・ブースターの原因不明の異常により、この国に直接フォールドしてしまったことについては、謹んで謝罪する!だが当機もその影響か、エンジンを含めた飛行能力が著しく失われている状態だ!どうか無礼を承知で、この地への着陸の許可を願う!!」

 

彼の懇願に対し、通信の主は少しの間沈黙した。しかし彼の切羽詰まった様子を感じ取ったのか、敵対的な雰囲気を鎮めて再び彼に話しかけた。

 

『・・・成程、事態は把握した。正式な許可は私の一存では出せないが、一刻を争うのだろう?特例としてそちらを「遭難機」として扱い、このウィンダミアの大地への不時着を認める。我々の後ろにつき、機体を然るべき段階まで減速させろ。後は我々が空中で受け止め、地面へと下ろす。いいな?』

「寛大な対応に感謝する!では、頼むっ!」

 

先導に従い彼は機体の機首を上げ、その場で大きく旋回し、機体の速度を徐々に下げていく。それを幾度か繰り返し、一定まで速度が落ちた時、再び彼らより通信が入った。

 

『よし、頃合いだな。これより回収作業に移る、準備は良いか?』

「こちらはいつでも良い!俺の機体とこの命、一時そちらに預ける!」

『フ...心得た。各機、位置につけ!4番機・5番機は周囲の村の保護、2番機と3番機は対象の左右にて待機!』

 

その号令と共に、二機が離れて地上へと降りていき、残った三機が彼の機体のスピードに合わせ、ゆっくりと正面・左右から近づいてくる。そして、前面のリーダーと思しき機体がバトロイド形態に移行し、彼をそっと受け止めた。それは逆方向にスラスターを吹かし、更にスピードを落としにかかる。

 

『現在の速度は?』

「もうじき機体制御可能な領域を下回る、姿勢が崩れるぞ!」

『承知した。両機、来い!』

 

その一声で、待機していた両機がガウォークに変形し、同じように両脇から機体を支えた。それにより機体はバランスを崩すことなく、やがてゆっくりと空中で制止した。

 

「止まっ、た...あぁ、肝が冷えた・・・」

『無事のようだな。では一度、この機体を地面に降ろす。その後少し待機していろ、迎えの者が貴官を回収しに来る。』

「了解した、そちらの助力に感謝する。命を預けて正解だったよ」

 

そして機体は騎士たちの手によって、そっとその体を大地に横たわらせた。それを確認した彼らは、再びガウォーク形態に変型し宙に浮いた。

 

『では、また後ほど会おう。全機、発進!』

 

飛び立っていく彼らを見送ったあと、彼は深々とシートに体を預けた。その時彼は初めて、自分の体が汗で湿っていた事に気がついた。

 

「はぁ・・・うわっ、汗が凄いな。ちょっと外に出てみるか・・・」

 

彼はキャノピーを開けて立ち上がり、メットを勢いよく脱ぎ捨てる。その瞬間、なんとも心地のよい風が、彼の茶色がかった黒髪を揺らした。それはしっとりと濡れた体を優しく乾かし、彼は目を細めて全身でその感覚を堪能した。

 

「んん〜っ...ほんっと、いい風だな・・・ここが風の王国、ウィンダミアか。エデンのといい勝負...いや、それ以上かも」

 

彼がしばしその身を風に預けていると、辺りに一際強い風が吹き始める。それに目を開けた彼の眼前では、ちょうど一機の青いバルキリーが上空から飛来し、近くの地面に着陸しようとしていた。そしてそれは変形するとスラスターを巧みに操り、滑らかに彼の前に着地してみせた。

 

「アンタかい?大気圏内に直接フォールド、なんて事をやらかしちまったのは」

 

ハッチを開き操縦席から降りてきたその男は、軽い調子でコウマに話しかける。

 

「申し訳ありません。その事については、後ほど詳しく説明を・・・」

「まあまあ、そう固くなるな。お前がこの国を襲いに来たって訳じゃない限り、それを厳しく責める気はねぇよ。それに、お前はそんなことしなさそうだし。」

「...?なぜ、そんなことが・・・」

「そうだなあ、この星なりに言えば・・・お前の風は、いい奴の風だからだ。」

「は、はあ...?」

「ハハ、分からなくても無理ねぇさ。っと、自己紹介がまだだったな。よっと...」

 

ヘルメットを脱いだその中身には、青い髪をツンツンとさせた男がいた。その顔に快活な笑顔を浮かべ、彼は形式的な敬礼をする。

 

 

 

「俺はケイオス・ウィンダミア支部所属、ハヤテ・インメルマン少佐だ。よろしくな!」

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