Rise Up to the Dawn   作:Yama@0083

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3. WANNA BE AN ANGEL

「インメル、マン・・・」

 

 

その男の名を聞き、彼は目を見開く。するとそこで、ハヤテの端末の着信音が鳴り響いた。

 

「おっと悪い、連絡だ。はい、こちらハヤテ少佐。お、赤騎士さんか・・・はは、悪い悪い。これでいいだろ、ボーグ?おう、例のパイロットは見つけたぞ。今から連れて帰るから、そいつの機体の回収は任せたぜ。んじゃ、また後で」

 

手早く通信を済ませた彼は、変わらない笑顔で再びコウマの方を向いた。

 

「てなわけだ。事の顛末を聞かなきゃなんねぇから、俺と同行してくれ。」

 

彼はそう言って、親指で後ろのバルキリーを指さす。それが意図することを汲んだコウマは、即座に彼の機体の後席に乗り込んだ。彼が搭乗したのを確認したハヤテは、自身もさっさと操縦席に戻り、慣れた手つきで発進準備を整えた。

 

「よし、良いな?そんじゃあ出発!」

 

2人を乗せたバルキリーは大地から離れ、脚部を折り畳みグンと空へと飛び立った。すると早速、ハヤテが彼に向かって操縦席から陽気に話しかける。

 

「そういや、お前の名前を聞きそびれてたな。なんてんだい?」

「はっ、失礼しました。S.M.S所属、コウマ・ダイソン准尉です。」

「だーから、そう固くなんなって。階級は違うが、お互い気楽にいこうぜ?ここにはそういうのを気にするお偉いさんもいないんだしさ。」

「...なら、お言葉に甘えて。にしても、あんたがあのインメルマンか・・・まさかこんなとこで会えるとはな」

「おっ、同じ飛行機乗りに知られてるってのは光栄だな。ちなみに、どのインメルマンで通ってんだ?」

「ええと・・・ケイオスの問題児筆頭、Dancing in the moonlight、それに...」

「オーケー、もう分かった。やっぱその方向で知られちまってるか・・・ま、今までだいぶハチャメチャやったからなぁ、無理もねぇや。」

「はは...でもあんたの実力は、こっちでも皆が認めてるよ。そのダンスのセンスもな」

「ハハッ、ありがとよ。よし!じゃあせっかくだ、そこから俺の十八番を見てってくれよ。」

「は?いや、別に体感したいとは一言も・・・」

「サービスだよ、サービス!んじゃ行くぜぇ・・・そおらっ!」

「ちょ、待っ...うおおおおおっ!?」

 

彼の制止も虚しく、機体はグンと高度を上げ、次々と形態を変えつつアクロバティックな飛行を繰り広げた。

 

「ハハハッ、今日の風もいい感じだ!!」

「ぐぐぐ...こんなサービス、いらねぇってえ!!」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

ハヤテの操縦で王都ダーウェントに到着したコウマは、そのまま彼に連れられ、ケイオス・ウィンダミア支部の一室に通された。そこで彼は、先程自身を救助した騎士団の男に、これまでの事の経緯を説明することとなった。

 

「成程。つまり君がアル・シャハルに向けて移動していた時、フォールド・ブースターが突如暴走し、ウィンダミアに辿り着いてしまった、ということか。」

「ええ、概ねその認識の通りです。」

 

彼が質問に応じるその男は、名をアレクと名乗った。彼は空中騎士団において栄誉ある称号『白騎士』に相当する『碧騎士』の名を賜っている者だという。

 

「アレの暴走とは...信じ難いが、有り得ない話ではないか。メカニックの不備等に心当たりは?」

「いえ。主観ではありますが、俺の機体を今回担当した者は、機械の整備において手を抜く人物ではありません。彼が今まで整備した機体たちの中で、メカトラブルを起こしたものは一つもないとも聞きます。」

「腕は確か、ということか・・・了解した。他に何か、不可解なことは?」

「・・・そうだ、歌だ。俺がフォールドをしている最中、あの空間の中で歌が聞こえました。曲は確か・・・」

 

するとそこで部屋の扉が開き、赤髪で顔の一部に白い模様が浮かんでいる壮年の男が入室してきた。彼の姿を見たアレクは、即座に起立し姿勢を正す。

 

「ボーグ様!まさか貴方がいらっしゃるとは...」

「いつも言っているだろう、アレク。今はお前が騎士なのだ、前線を退いた私に気を遣う必要などない。」

「何を仰るのです、貴方は今も訓練教官としてご活躍されているではありませんか。貴方は未だ皆が敬愛する『赤騎士』なのですから、もっとそれに準じた行動を・・・」

「分かった分かった、とりあえず今はこれを片付けさせろ。」

 

彼はそう言ってコウマを見、モニター上に資料をずらりと表示させた。

 

「コウマ・ダイソン准尉、S.M.Sマクロス18船団支部に所属。西暦2063年生まれの20歳で、両親はイサム・アルヴァ・ダイソンにミュン・ファン・ローン...間違いはないな?」

「はい、間違いありません。」

「今回の件をS.M.Sに問い合わせたが、確かに貴様の証言と合致する情報が得られた。それを踏まえて陛下にご報告をしたところ、今回の一件は不問として下さるそうだ。そちらに悪意は無かったといえ、陛下のご厚意に痛み入るのだな」

「そうでしたか・・・ありがとうございます。」

「礼はそこのアレクに言え。貴様が少しでもウィンダミアの大地に被害を出していれば、こうも簡単にはいかなかった。」

 

そう言われて彼がそちらの方を向くと、件の男は初めてにこやかな笑顔を見せた。

 

「あの村の周辺には広いりんご畑がある。あそこに突っ込まれるようなことは、どうしても避けたかったのでな。騎士としての義務を果たしたまでさ。」

 

 

 (そういや・・・この星は、りんごが主産品だったっけか?なるほど、そりゃあ無茶してでも守りたいよな)

 

 

彼がその返答に一人納得していると、ボーグが話を次に進めていく。

 

「そして何故あのような事が起こったか、だが…貴様の機体を調べさせてもらった。」

 

彼は続けて、コウマが乗ってきたVF-171の検査結果を表示した。ポップアップされた機体データには、破損状態を示す赤い円が所々に見受けられる。

 

「無理なデフォールドや高エネルギー体との接触により、機体全体に軽〜中程度の損傷。特に、エンジン周りの消耗が顕著だった。報告によると、貴様はカーライルの跡地より飛び出してきたらしいな?あそこには次元兵器による時空の裂け目がある。前代未聞の話だが・・・それが出口として選ばれたのなら、この次元断層に囲まれた星に直接フォールドできたことへの説明はつく。」

「次元兵器・・・あれが」

 

彼は深淵の如くどす黒いあの場所を思い出し、表情を強張らせた。

 

「また、航行中のログ等を全て覗いた所、このようなデータが出てきた。これによるとフォールド・ブースターが起動する前から、貴様の精神は異常な反応を見せていたそうだ」

 

彼が提示したデータには、彼の脳波が大きく波形を描く様子が映し出されていた。

 

「これって・・・まさか」

 

その独白に、ボーグは静かに頷く。

 

「あの機体には、BDIシステムが組み込まれていたそうだな。まだ確定事項ではないが、それが貴様の精神に反応しフォールドを発動させた...と見るのが妥当だろう。」

「そんな・・・しかし整備士は、あくまで制御できるのはエンジンだけだと」

「確かに、そのように設定されてはいた。しかし生物の脳や精神というのは、まだ未知の領域が多い。ましてやこのシステムはそれに多大な影響を受けるのだから、それに引っ張られて異常をきたす、ということも起こりうる。」

 

コウマはその言葉に唖然とし、机の下でぐっと手を握り締めその場で俯く。

 

 

 (そんな・・・じゃあこの騒動は全部、俺の心が引き起こしたものだってのか...?)

 

 

その静かな悩みを知ってか、ボーグは少し優しめのトーンで彼に語りかける。

 

「まあ、何が貴様にそうさせたかは知らんが・・・何にせよ、航行中に心を乱すことは褒められたものではない。今後、精進することだな」

「なーに言ってんだよ。お前だって、昔はいつもルンピッカピカだったじゃねえか。」

「やかましいっ!全く貴様という奴は...」

 

やいのやいのと騒ぎ始めた二人に、アレクは『また始まった』というような顔をして、俯いているコウマに向き直った。

 

「すまない、話の腰を折ってしまったな。それで、歌が聞こえたのだったな?」

「あ...ああ、はい。俺がフォールドゲートの中に飛び込んで少しした後、聞こえたんです。不思議な声だったな・・・そう、それにあの曲は確か、ワルキューレの...『破滅の純情』、だったか」

 

彼のその証言に、仲良く喧嘩をしていた二人が同時に振り向いた。

 

「また懐かしい曲だなぁ、16年くらい前のあいつらの曲だ。」

「ああ・・・ルンにジクジクと刺さる、良い歌だった。それで、あの歌が聞こえたというのか?そのような音声記録は残っていなかった筈だが・・・」

「え...そんな、まさか。俺は確かに聞いたんです、それはワルキューレが実際に歌ってるとか、音源が流れてるとか、そういうのじゃなくて。今まさに別の誰かがそこで歌っていた、みたいな・・・」

「それがその『不思議な声』の持ち主、ということか・・・どんな声だったか、覚えていることは?」

 

その質問に、コウマは大きく頷く。

 

「はい、鮮明に覚えています。あの声は、早くして亡くなったフレイア・ヴィオン...彼女の声にとても似ていた。でも一方で、かの美雲・ギンヌメールのような雰囲気も感じられました。」

 

すると、彼ら三人が一斉に目を見合わせた。

 

「なあ、その特徴ってもしかして」

「ああ、ヴィアナの歌声だろう。」

「だよな。なんだってそんなことが・・・」

「如何しましょう、ボーグ様。ここは一度、彼女の下を訪ねてみるのは...」

「む...だがこの男は、一応問題行為をしたのだ。そう易々と民と接触させる訳には・・・」

「大丈夫だってボーグ、何なら俺が監視についてやる。これはきっと偶然なんかじゃない...こいつがここに流れ着いて、あいつの歌を聞いたってのには、何かの理由がある気がしてならねえんだ。」

「・・・・・・ハァ、分かった。確かに、未知の要素を残したままにすべきではないな。陛下に進言してくる、少し待っていろ」

 

ため息をついて部屋を出る彼を見送ったあと、コウマは新たに抱いた疑問をぶつけた。

 

「...あの、そのヴィアナってのは一体?」

「悪い悪い、置いてきぼりにしちゃってたな。ヴィアナは色々と事情があって、俺が10年前に引き取った子なんだ。」

「養子ってことか・・・どんな子なんだ?」

「そりゃあお前、ぶっちゃ可愛いぞ!会った時に腰抜かすなよ〜?」

 

そこからハヤテの娘自慢が始まって少しした後、ボーグが再び部屋に戻ってきた。

 

「陛下より許可が降りた。これより貴様を、あ奴が住む村へと案内しよう。私と此奴が監視役として同行する。」

「あんま気にすんなよ、あくまで形だけのもんだからさ。景色の案内とかもしてやるから、ゆるく観光気分で行こうぜ。」

「フン。なんでも構わんが、くれぐれも逃げ出そうなどとは考えんことだ。我らはいつどこで貴様が姿をくらまそうが、追跡し捕縛することができるのだからな。」

「逃げるなんて、そんな・・・けどまあ、よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

その後3人を乗せ出発した乗用車は、王都から少し離れた地点にある村の前で停止した。

 

「よっし、着いたぞ。ここがヴィアナの住んでるレイヴングラス村だ。」

 

彼に続き車から降りたコウマは、辺りをゆっくりと見回す。遠くに見える無骨で圧倒されるような山と、いくつもの小高い丘に囲まれたその村は、のどかな雰囲気で彼を出迎えていた。

 

「ここも綺麗なとこだな・・・さっきの王都も洒落た感じで好きだが、ここも味があっていい。」

「だろ?このゆったりした感じがいいんだよなあ。あと、ここのりんごは特に絶品でさ、何個でもいけるんだ。せっかくだし、あとで食ってけよ。」

「おい、話は歩きながらでもできるだろう。私としては、長時間この男を外に置くことは望ましいことではない。なるべく手短に済ませ、必要であればヴィアナも連れて王都に戻るぞ。」

「へいへい、分かってるって。んじゃコウマ、俺について来てくれ。おっかねぇガイドさんも一緒にな。」

 

ハヤテは宣告通り、コウマに見える景色や村の紹介をしながら、歩みを進めていった。彼らがそうして歩いていると、何人もの村人がハヤテやボーグの下にやってきて、楽しげに会話を交わすこともあった。彼はその光景を見るたびに、この星は平穏を取り戻したのだと再認識するのであった。

 

 

 (地球人とウィンダミア人が、こんなに仲良く話を・・・教本に載ってた歴史が嘘みたいだ。ほんとに平和になったんだな、この国は...)

 

 

やがて、彼らは広々としたりんご畑に突き当たった。ハヤテはそこでヴィアナなる少女を探して、きょろきょろと辺りを見回した。

 

「あいつはこの時間、この村の畑を手伝ってるんだ。えーと、今日は多分あの辺で...お、いたいた。おーいヴィアナ、ちょっといいかー?」

 

ハヤテがその少女に向かって、大声で呼びかける。するとその声に気付いた彼女が、遠くで髪をたなびかせ振り向いた。

 

「・・・!!」

 

コウマは振り返った彼女の顔を一目見た瞬間、思わず目を疑った。彼女の顔は遠目からでも分かるほど、亡きフレイア・ヴィオンにそっくりだったからだ。そして──

 

 

 (なんっつう綺麗な子だよ・・・今までで見たことねぇぞ、ここまでのは)

 

 

彼はその可憐さと、どこか感じる彼女の神秘性に、我を忘れて惚けていた。

 

「あら?随分早いのね、ハヤテ・・・あっ」

 

彼女は彼らを...否、二人に連れられたコウマを見るなり、りんごでいっぱいになった籠を地面に置き、そそくさと彼らに駆け寄ってきた。

 

「...ねえ、ボーグ様。この人は?」

 

彼女はボーグに話しかけながらも、興味深げにちらちらとコウマの方を盗み見る。

 

「この男は先程、トラブルからウィンダミアに流れ着いた者だ。この者に関してお前と話したいことがあり、こうしてここまで連れてきたのだ。」

「そういうこった。今少し・・・あれ。どうしたんだよ、コウマ?」

 

ハヤテは先程から呆けた顔をしている彼に気付き、声をかけた。彼はその声に反応したのかしていないのか、依然とぼんやりとした顔で呟く。

 

「・・・天使って、ほんとにいるんだな」

「・・・えっ?」

「...あっ!?いや、これはその・・・」

 

彼女がすっかり目を丸くしているのを目にし、口を滑らせてしまっていた事に気付いた彼は、必死に弁明を図る。しかしそれを気にもしないように、ハヤテが豪快に笑った。

 

「ハハハハッ、だから腰抜かすなって言ったろ?ホントに可愛いんだからよ、うちのヴィアナは!そう簡単にゃくれてやらねぇぞ。」

「ちょっと...もう、ハヤテも貴方もからかわないで!!話、聞いてあげないよ!?」

「監視者と保護者の前で堂々と軟派とは・・・つくづく見上げた根性だな。」

「も、申し訳ない・・・」

 

彼は頭を下げながら、自分の無用心さと己の中にある父の面影を呪った。

 

 (ナチュラルに口説いちまった・・・くそ、こういうとこはあの人の息子なんだな、俺は)




劇場版ラストで誕生したあの子(本作品では、『ヴィアナ』と言う名前を独自で付けました)のこの話での外見は、あの派手な格好を取り除いた闇フレイア、と想像していただければ分かり易いかと思います。目の色も、オッドアイではなく左右対称の普通の目です。
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