Rise Up to the Dawn   作:Yama@0083

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6. God Bless You

「闇の・・・歌い手?」

「ええ。私は元々、盗まれた『星の歌い手』の細胞から生まれたの。本来なら、成長すれば美雲みたいな外見になるはずだったんだろうけど...かつての私は、フレイアみたいになることを選んだみたい。」

 

その説明で、彼は彼女に抱いていた数々の疑問に納得がいった。

 

「そうか。それで君は、そんなにもフレイア・ヴィオンと・・・」

「そういうこと。だからこの衣装も、実質私が考えた物ってわけ。『歌は狂気!』...ってね?」

 

彼女は小悪魔の様な笑顔で、右手の人差し指と小指をピンと立てる。その仕草はかつて、ワルキューレと対峙し彼女らを苦しめたYami_Q_rayの1人、通称『闇フレイア』のものと瓜二つだった。

 

「...にしては、えらくノリノリでやってくれるんだな、それ。嫌じゃないのか?」

「嫌なわけないでしょ?形はどうあれ、彼女たちは私が初めて生み出した音楽だもの。ルンにチクチク刺さって、聞く人をアブない気持ちにさせるあの歌は、我ながらよく出来てると思うわ。」

 

彼女は少し得意げな表情を浮かべ、写真の中のかつての自分を見る。

 

「とにかく、そんな生まれだったからかしらね。幼い頃からワルキューレに・・・フレイアに、憧れてた。彼女の歌う姿...ワルキューレとして、皆に元気を与える姿を見て、私はずうっと思ってた。『いつかこの人みたいになるんだ、この人たちと歌うんだ』って。・・・でも」

 

彼女は写真を眺めながら、少し声のトーンを落として話を続ける。

 

「大きくなって、色んなことを理解していく内に・・・分かっちゃったんだ。あそこ(ワルキューレ)に、私が入る余地はないって。」

「...そんなことはない。君の歌声だって、凄くよかった」

「ありがと。でもね、そういう問題じゃなかったのよ。彼女が加入する前の曲、加入後の曲、いなくなった後の曲・・・全部おかしくなるくらい、何度も聞いた。だからこそ、分かってしまった...ワルキューレは、あの5人で一つなんだって。」

 

そう言い切った彼女の顔には、それに対する確信と、少しの寂しさが含まれていた。

 

「私が彼女たちと関係無いただの村娘なら、まだよかったのかもしれない。けど、私はフレイアを色濃く受け継いでしまった。そんな私が、彼女の後釜みたいな感じでメンバー入りなんて・・・皆はそんなこと思わないだろうけど、私はどうしても許せなかった。だって私が愛していたのは、あの4人...そして、あの5人で一つのワルキューレ。私はどこまで行っても、フレイアじゃないもの」

 

コウマは一理ある、と思いながら彼女を眺めた。声も外見も、生前のフレイア・ヴィオンとそっくりな彼女だが、その身に纏う雰囲気や本人の気性はフレイアではなく、むしろ美雲・ギンヌメールのイメージを彼に想起させた。

 

「それを認めるのは辛かったなぁ。なんたってワルキューレは、あの時の私の全てと言っても過言じゃなかったから。そこから、色んな暗い気持ちが頭を支配するようにもなって・・・こんな苦しい思いをするくらいなら、いっそ歌う事を諦めた方がいいんじゃないかって、何度も思った。...でも、できなかった」

「ナンセンスな質問だとは思うが・・・どうして、諦めないでいられたんだ?」

 

彼の問いに応える様に、彼女はゆっくりと目を閉じて胸に手を当てた。

 

「...あの歌が、私の中で生き続けていたから。皆の思いが・・・皆の風が一つになって、私の奥にどっと入り込んできたの。あの時の暖かさ、えも知れない幸せな気持ちは、きっといくつになっても忘れない。この感覚が息吹く限り、私は歌への思いを捨てられないわ」

 

彼女はその感覚を思い出し、ルンをほわほわと淡く灯す。それはその記憶に対する彼女の感情を、ありありと示していた。そして、湧き上がる感情を抑えきれなくなったのか、彼女は静かに歌い始めた。

 

 

 

『あおいみひとつ ひかれてふたつ こころもえている』

 

 

 

 (これは...『ALIVE』、か。確か、この国に古くから伝わる民謡をリスペクトした曲だったよな。)

 

 

彼女が優しく、柔らかな声で歌う姿を、彼はじっと見つめていた。彼女の声、彼女の歌を聞くにつれ、彼の体の奥底で熱が籠る。

 

 

 (...ハハッ。全く、なんて幸せそうな顔して歌いやがるんだ、こいつは・・・)

 

 

 

やがてひとしきり歌い終わると、彼女はにこりと微笑み彼の方を向いた。

 

「ごめんなさい。あの時のことを思い出すと、どうにも止められなくて。さ、私の話はもうすぐ終わり。次は貴方の番よ。こんなにいい天気なんだし、外に出て話しましょ?」

 

 

 

 

 

 

 

コウマはヴィアナに連れられ、りんごの木があちこちに植えられた丘にやって来た。きらきらとした日光に照らされた丘の頂上近くまで上った彼女は、一際大きく立派な実をつけている木の前で立ち止まった。

 

「この大きな木は、フレイアのおばあちゃんのりんごの木。一度燃えてしまったそうだけど、ハヤテが守った実の中の種から、またここまで育ってくれたの。フレイアと直接対面したのは、ほんの一瞬だったけど・・・ここにくると、今でも彼女を感じれる。しょっと...」

 

そう言うと彼女は背を伸ばし、丸く実ったりんごを一つもぎ、彼に差し出した。

 

「食べてみて。美味しいのよ、この木のりんご。」

 

彼はそれを受け取り、一口かぶりついた。シャクシャクとその果肉を噛むに連れ、やさしい甘味が彼の口いっぱいに広がる。

 

「美味い・・・朝食べたアップルパイも絶品だったが、こりゃ別格だな。」

 

彼の感想を聞いて満足気に微笑んだ彼女は、その木に背中を預けてゆっくりと腰を下ろした。コウマもそれに続き、その隣に腰掛ける。

 

「フレイアはね、村を飛び出して密航した先で、偶然ハヤテと出会って・・・で、それがキッカケで入っちゃったんですって、ワルキューレに。ふふ、凄いことじゃない?あの超時空シンデレラ、ランカ・リーもびっくりのシンデレラっぷり。」

「へぇ、そんな経緯があったのか。行動力がダンチだな・・・」

「でも、私は彼女みたいなぶっとんだ行動力や、ツキを持ってるわけじゃない...だから、私ができる所から始めていこうって決めた。それが歌のカバー、丁度貴方が聞いたやつね」

「ああ・・・なるほどな。それを銀河ネットワーク上に投稿してるってわけか。確かに、今時はカバーをきっかけに有名になるのも珍しくないし...いいんじゃないか?」

「勿論、誰もがそれで成功するわけじゃないけど・・・やらずにずっとこのまま、なんてありえない。だってこれは、私の人生なんだもの。生まれなんて関係ない、流星みたいに光ってみせないと、つまらないじゃない?」

 

そう語る彼女は、芯の通った可憐な笑みを浮かべる。彼女の生い立ちと、それを乗り越えた現在を知った彼は、苦笑しながらため息をついた。

 

「本当...君は大した奴だよ。自分のコンプレックスに、上手く折り合いを付けてる・・・俺なんかより、ずっと大人だ」

「そう?私はそうは思わないけど。私はまだまだ子供のまま。小さい頃に抱いた夢を、ずっと持ち続けているだけよ。それが叶うまでいつまでも、いつまでも・・・ね」

「俺は・・・君ほど難しい生まれに苦しめられた訳じゃない。ただ親父が天才の飛行機乗りで、俺にもその才能が半端に受け継がれちまった...それだけなんだよ。ほんと、くだらねぇよな。今となっちゃ、なんで俺がパイロットを志したのか・・・何がしたくてこうなったのかすら、覚えてないんだ」

 

彼の自嘲を含んだその言葉に、彼女はゆっくりと首を横に振る。

 

「...ううん、貴方はきっと覚えてる。子供の頃の理想とは、違っているかもしれないけど・・・その夢を叶えたから、今貴方はここにいるんでしょ?」

 

そう言うと彼女はその身を乗り出し、ある提案をした。

 

「ねぇ、ちょっとゲームをしない?ぱっと思いついたこととか、今感じてることを言葉にして、順番に話していくの。例えば・・・『空は高い』、とか。詰まった方が負けね。」

「随分急な話だな・・・けどまあ、悪くない。いいぜ、乗るよ。」

「じゃあ、早速スタートね。...空が、青い。」

「山が・・・緑。」

「雲が、ふわふわ。」

「風が...心地いい。」

「ふふっ、その調子。...りんごは、甘い。」

「空気が、うまい。」

「りんごは、すっぱい。」

「おい、ありなのかそれは」

「何よ、間違ったことは言ってないでしょ?」

「ったく、なんだそりゃ・・・草が、柔らかい。」

「陽射しが、眩しい。」

「日照りが、暖かい。」

「私は、歌う。」

「...俺は・・・・・・飛ぶ、か」

「私は、歌いたい。」

「・・・・・・」

 

彼女はすっくと立ち上がり、彼に聞かせるように堂々と言い放つ。

 

「闇の歌い手、Yami_Q_ray、そしてワルキューレ・・・みんな今の私を形作った、大切な物。その全てを追い風にして、私は歌うの。歌って歌って、私の中に息づくこの温もりを、皆にも伝えたいから。」

 

彼女はそう語ると彼の方に向き直り、再び歌い始めた。

 

 

『...光る風の中で出会った2人 迷わない もう二度と  熱いハート焦がして今すぐ』

 

 

歌う彼女が持つその眩さに、彼は思わず目を背けそうになる。しかし、それを遮るように彼女が手を伸ばし、両手で彼の頬に触れる。そしてクイッとその顔を動かし、逃がさないように彼女の方へと向けさせた。

 

 

『もしかしたら キミは全て分かってたの? ありがとう そばにいて 見守ってくれた日々に』

 

 

 

 

──逃げないで。

 

──本当の思いから、目を逸らしちゃ駄目。

 

──貴方は、何がしたいの?

 

 

歌いながらも、その目をずっとこちらに向ける彼女は、彼にそう訴えかけているようだった。そしてそれを感じ取った彼もまた、目を逸らせずに苦悶の表情を浮かべる中、なんとか言葉を絞り出そうとする。

 

 

「俺、は・・・・ッ!?」

 

 

その時だった。彼は、真っ直ぐ視線を捉えて放さない彼女の瞳に、歌に乗せて何かが映った様に見えた。それは──

 

 

「人力、車...親父の?・・・・・ハッ」

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