(2021年の春から、他サイトで現在も連載している話になります。設定の濃いオリキャラが登場しますので、苦手な方は閲覧を控えて頂けますよう、どうぞお願い致します。お手数ですが、閲覧前に、作品全体の概要をご確認下さい。)
【※原作204話後の大正軸で展開する、冨岡義勇の遅咲き青春浪漫譚。
義勇さんと固定オリキャラのダブル主演、第三者目線(ヒロインの詳細設定を後書きに記載)になります。女夢主の夢小説ではありません。】
終焉と芽吹き
時は大正。幾百年もの月日を懸け、膨大な痛ましい犠牲と引き換えに取り戻した、ありふれていながらも何よりも尊い、平穏な日々がそこにあった。
繰り返される暮らしの営みの中の、ささやかで温かい命の灯火が、ある時突然、残酷極まりない、血生臭い形で奪われるという悲劇は、もう無い。
しかし、遺された人々の生は、終わってはいない。託された煌めく想いは在れど、その場所は、光と闇、表裏一体の世界。美しいものがあれば、醜いものも存在し、諸行無常なのが常だ。傷ついた体と、癒えることのない心の痛みを宿しながら、“彼ら”は、今日もそんな世界で生きている。
これは、その中の一人である、凪いだ水面の如く闘い抜いた剣士の、後日譚である。
──事の始まりは、かつての戦友であり、弟弟子の竈門炭治郎からの誘いだった。
鬼舞辻無惨との闘いが幕を閉じてから、およそ一年程経った、麗らかな小春日和の午後。
ついこの間まで、素肌にぴりつくような冷えた空気が、ほんの少し和らいだような中、ようやく日の光が射し込み始めた空を、いつもの鎹鴉が、軽やかに浮遊しながら文を届けて来た日のことだ。
『…こんな風に、季節の移り変わりを感じるようになったのは、何時以来だろうか。』
鬼殺隊の一員としてのやり方と同じ形で、同じ仕草で文を受け取るだけでも、今は違う景色を見ているかのように感じる。
『…春がまた来たのだな。』
久しく穏やかな気分になれていたため、今年は、一人でのんびりと桜を見に行こうか、等と考えていた。
炭治郎は、今でも時々、他愛ない内容の文を送ってくれている。口下手な上に筆不精のため、あまり返事を返せない自分に、甲斐甲斐しく近況を知らせてくれる弟弟子からの文を、何時も困惑と微笑ましさの混ざった気持ちで読んでいたが、今回はいつもと趣が違うと、封を開ける瞬間から、俊敏に勘づいた。
高揚を抑え切れていない、踊るような文面は変わらないが、読み始めて直ぐに、一気に血の気が引いた。
要約すると、柱仲間の胡蝶しのぶの継子である、栗花落カナヲの案で、初代花柱の命日に、今は彼女の家である、かつての蝶屋敷の庭に植えられた、『必勝』という名の、桜の木の下で催しを行うので、義勇にも是非参加してほしいということだった。
我らが鬼殺隊の長年の悲願であった、鬼がこの世界からいなくなって初の命日に、勝利の祝杯と、散っていった仲間の鎮魂を兼ねて集まる、厳粛な宴である。
カナヲを始め、竈門禰豆子、我妻善逸、嘴平伊之助、神崎アオイ、宇髄天元と奥方三名、煉獄父子、産屋敷家一同まで参加するという状況に、これは重大案件だと悟り、義勇は、静かにため息をついた後、頭を抱えた。
厳かな催しとはいえ、大勢で集まる宴のような類いは、大の苦手なのだ。何しろ、あの派手好きな宇髄や、騒がしい善逸と伊之助、陽気な煉獄父子もいる。
不死川実弥は、『いくら輝利哉様も参加するとはいえ、そんな辛気臭い行事は苦手だ。仲間の追悼は個人でやる。』と言って、断ったらしい。
宇髄らとは先日、半ば強引に連れ出されて温泉に行って来たが、あれとはまた訳が違う。今回は、盛大な酒の席だ。儀式が終わった後は、今夜は夜桜見物だと、彼を中心に、延々飲み明かすに決まっている。そして、またいつものように、面倒な思いをするのが関の山だと予測していた。
自分も不死川のように、宴席は苦手だと言って、断ろうかとも思い悩む。しかし、未だに名前負けしていると自負してはいても、元水柱としては、弟弟子が参加する、殉職した仲間の慰霊行事を断るというのは、兄弟子として面目が立たない。それだけは、断じて有り得ない。
『ご都合がよろしければで構いませんし、決して無理強いはしませんが、義勇さんが来て下さると嬉しいです!』
と、屈託のない笑みが、透けて見えるかのように締められた弟弟子の手紙を、義勇は複雑な気持ちで見つめ、眉間をひそめた。
「…断れる訳ないだろう。」
どのような催しかは知らぬが、取り敢えず返事をどう書くか、先ずはそれからだな……
先程の落ち着いたのどかな気分は、とっくに消え失せている。脳裏にほのかに浮かんでいた、麗らかな桜の像は、この窮地をどうしたら最善に乗り切れるか、という思考に掻き消された。今は、その場で自身がひたすら狼狽えている様子しか、想像出来なかった。
一ヶ月後の、新月の春の夜。まだ少し、ひやりとしてはいるものの、どこか優しい空気に満ちている。見事に咲き誇った、満開のソメイヨシノの幹の陰に隠れるように、義勇は座り込んでいた。
月明かりの無い、漆黒と藍色を混ぜたような夜空の中、その場だけ薄紅色の雲がふわりと覆ったような空間を、辺り一面に灯された松明の炎が、幻想的にゆらゆらと照らしている。
例の桜の宴に参加すると返事を出した後、その日のうちに、炭治郎の歓喜溢れる文が届けられた。
何故、あえて夜に行うのか、と質問し返すと、何でも夜更けにしか出来ない、特別な儀式があるらしいからだと言う。なんだそれは…と義勇は困惑した。やはり、これは、夜通し呑み倒させられる兆しだと、投げやりな気分になる。
『…景色は悪くないのだがな。』
顔を見せるや早々に、禰豆子やカナヲ達と共に駆け寄られ、
「お久しぶりです! 義勇さん!」
と、太陽のような満面の笑顔で迎えられ、そのまま左腕を引っ張られながら、彼らの近くに座らせられた。義勇に会えて嬉しさを隠しきれない炭治郎は、
「今日は来て下さって、本当に嬉しいです!有難うございます!」
という類いの言葉を連呼しながら、茶や菓子を次々に差し出している。
「いや、お前達が変わらずで良かった。」
それでも、弟弟子や禰豆子達の、久方ぶりに見る笑顔は、本当に嬉しく思った。
あの死闘から生き残った者が、変わらず幸せそうにしているのを確認できて、心から安堵したばかりでなく、熱い感動さえ覚えた。心無しか、自身の口元が少し綻んでいるのさえ感じる。
「お前はお前で、相変わらずだねぇ~」
と、此れまた相変わらずの宇髄天元に、背中をバシバシ叩かれながら絡まれ、
「最近はどうよ? いい加減、浮いた話の一つくれぇねぇのか?」
と詰め寄られても、以前程の不快感や、疎外感は感じない自分に驚いた。(まだ、彼に酒が入ってなかったからかもしれないが。)
もう鬼殺隊の水柱という責務はない、冨岡義勇という一人の人間として、ここに居るからか。それとも、あの凄まじい闘いを経て、自分の中で何かが変わったのか……
しかし、やはり気持ちはどこか思わしくない。居たたまれないというべきか、今までにはなかった類いの後ろめたさが、心の底に、ぽこん、と時折湧き出すのだ。
決戦後、蝶屋敷に入院中と退院後、仇討ちという生きる理由を急に失ったからか、暫し間、自身は少々気がふれて、不安定になっていたと、宇髄や不死川などから、義勇は聞いていた。
残された余命という時間を、何をどうして過ごしたら良いのかわからず、無気力で自棄気味になっていた事は、自分でも覚えている。
多大な犠牲と労力を賭け、姉と親友の仇を討ち、鬼のいない世界を創るという悲願を成し遂げた。共に闘った戦友達は、皆、前に進んでいて、しっかりと生きている。
自分の望みは全て叶った。もう良い。もう十分だ。いつ寿命が尽きて、召されても良い。心からそう思ってしまっていたが故だろう……
今は、炭治郎達、後輩の幸せと行く末を見守るのが、自分の役目だと考え、だいぶ心は落ち着いていた。にも拘らず、以前の自虐的な後ろめたさが減った代わりに、絶えず脳裏によぎるのは、その炭治郎始め、鱗滝師匠にまで言われた言葉……
『義勇さんは、絶対に幸せになって下さい!!』
『姉や仲間の分も生きて、命を繋げろ。義勇。』
…………──────────
「冨岡さん。」
意識が彼方へ飛んでいた中、頭上から小鳥のさえずりのような声が降ってきた。はっ、と我に返り、背中の痛みはどこかに忘れ、義勇は顔を上げる。
睫毛の長い、藤色の澄んだ大きな瞳が、こちらを見つめている。竈門炭治郎の同期である、栗花落カナヲだった。少し緊張したような面持ちで、義勇の目の前に、彼女は佇んでいる。
「今夜は、初代花柱様の大事な日に、わざわざお越し頂き、本当に有難うございます。」
律儀な態度で丁寧に挨拶し、カナヲは、ぺこりと頭を下げた。
閲覧頂きありがとうございました。こちらにも簡易的に詳細を記載しておきます。
【※生存キャラ、ほぼ登場。原作準拠。ファンブック2のネタも絡みます。(小説は未読)縦読み推奨。原作程度のグロ表現、中~後半にR-15程度の性描写があります。
ヒロインと結ばれ結婚、子供が誕生する過程までをメインに描きますので、出産や子育て描写はさわり程度になります。
痣の死ネタ前提なので、全体的にシリアスですが、恋愛小説なので甘さもある物語です。一応、ハピエン方針。】
(誤字脱字や加筆があれば、予告無しで随時訂正していきます。個人的な願望と妄想が盛大に炸裂している、素人の不定期マイペース更新なので、温かい目で読んで頂けたら幸いです。)
【固定オリキャラ設定】
●名前→久世すずな(草花のスズナから。花言葉:慈愛、奉仕、晴れ晴れ。実になるカブは大変滋養があり、古来から神を呼ぶ食物とされている。)
●瞳→珊瑚色の朱眼(古から御守りや薬にされていた珊瑚から)
●髪→蜂蜜色がかかった亜麻色ストレートロング(蜂蜜も亜麻から採れる食用油も、滋養のある食材の一つ。
●実家は由緒ある神社。家族全員を鬼に殺された、訳ありの元巫女見習い。三人姉妹弟の長女。相手の纏う“気”(オーラ)を得る感覚が鋭く、身体治癒能力がある。
●義勇さんより二つ年下。儚げ癒し系。見た目は恋雪や琴葉の雰囲気に近いですが、妙に芯の強い頑固さや天然な面も有り。