神喚ぶ鈴に慈しみの雨を   作:夢臥水

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 開花する、生命(いのち)の性(さが)

(※序盤から終盤まで、R-15~R-18程度の性描写がありますので、苦手な方はご注意下さい。最後まで致しておりますが、なるべくまろやかな表現にしました。ただ、境目が微妙で判断できないので、ヤバいと判断されましたら御指摘願います。)

【※設定の濃いオリキャラが登場します。お手数ですが、作品をご覧頂く前に、シリーズ全体のあらすじ概要をご確認下さい。】


幾千一夜の願

 

 二度目の接吻は、何度かゆっくりと角度を変えながら、互いを愛でるように(ついば)むものだった。

 柔く温かい唇が、ちゅ……くちゅ……と重なる度に、其々、恋情と色欲を抑えていた(たが)が、一つずつ外れていく。蕩けるようにまろやかな熱い渦が、じわじわと思考を奪いながら、体全体に沁み渡るのを感じていた。

 彼女の上唇を軽く舐め、義勇が口内を開くよう促すと、すずなは奥に潜めていた舌を自ら差し出す。何時の間にか、互いの求めるものを把握した、恋仲の睦事(むつじ)と化していた。

「ふっ……う……」

 彼女の口元から零れる艶かしい吐息と、花蜜のようなほのかに甘い液に酔いしれる。自分の舌を懸命に受け入れ絡ませてくる、小さな舌の動きが可愛らしくて堪らない。

 互いの唾液が交ざり合い、静かに波打つ妖艶な音色と、次第に強まる心音に合わせ、其々の体に添えた指先に、至極甘い痺れが走る。

 薄目を開け、義勇は彼女の様子を伺った。少し苦しそうにしながらも、すっかり蕩けた朱の瞳に涙が滲んでいる。そんな扇情的な光景を目の前にし、自身の熱も次第に上がってゆくが、慈しみと欲情の狭間で、未だに揺れていた。

 

 互いの口内を揺蕩(たゆた)いながら、いつかの嵐の夜のように、すずなの腰紐を静かに解くと同時に、躊躇(ためら)いながら、義勇は彼女の襟元を緩ませた。以前、手にした覚えのある、柔らかな乳房を手探り寄せると、彼の指先の快い感触に反応し、微かに艶やかな音が鳴った。

「あ……っ……」

 湯浴みで熟れた、彼女の胸元に()る水蜜桃を、そっと掴み取る。節くれ立った義勇の掌にすっぽり収まってしまうそれは、少し指を曲げただけで簡単に形を崩し、しとやかに溶けてしまう。柔い感触を確かめるように、何度か揉み上げた。

 自分の乳房が、そんな風に彼に触られていると意識しただけで、すずなの鼓動は五月蝿(うるさ)く高鳴り、吐息は熱を帯び、更に深くなっていく。

「ふあ……ん……」

 もどかしい甘美な刺激に耐え切れず、羞恥と快楽で震える嬌声が、濡れた口元から漏れる。そんな艶やかな音色が引き金になり、彼女の口内を堪能しながら、一層、意識と力を集中させ、柔い果実を優しく揉み撫でていく。

 義勇の両肩に掴まった状態のすずなは、じわじわと自身を浸食していく、これまで以上の耽美な快楽に打ち震えていた。

 

 乳房の頂に咲く蕾を、くりっ、と指先で弄られた瞬間、びくっ、とした振動が、電流のように走った。以前、触られた時よりも大きな刺激に驚き、重なっていた唇を、すずなは、慌てて力任せに引き剥がす。

「あ、待っ……て……!!」

 脱がされた襦袢(じゅばん)が、申し訳程度に腕に引っ掛かった状態の彼女は、はだけた胸元を両手で隠すように押さえて、薄紅に染まった顔で俯いた。

 突然、愛撫を中断されて残念に思いながらも、そんな可愛らしい反応が微笑ましく、義勇は、敢えて少し、意地悪く問いかける。

「……何故だ?」

「前より、震えます……」

 涙混じりの視線で訴えるすずなだったが、今の義勇には、努め鎮めていた欲情を煽る、生温い追い風にしかならなかった。僅かに口角を上げ、鼻にかかる穏やかな声で返す。

「……それで良い。」

「え……?」

 好いた女を悦ばせられているという状況が、男としては嬉しく、すがるように問いかける彼女から視線を反らした。

 今まで抑え続けていた、経験したことの無い熱量の業火の塊が、狂ったように次々に形を変えて支配してくる。そんな激しい想いを、気づけばそのまま口にしていた。

 

「もっとだ……」

 

 程よく筋のある、彼女の白い太ももを持ち上げ、片膝の上に座らせる。少し驚き、涙の滲む眼で、すずなは彼の顔を見た。義勇の瞳は、何時かの夜と同じく、深い紺碧から萌茂るような蒼色に変化している。

「…………?!」

「少し、手荒くなる……怖くなったら……殴れ。」

 言うが早いが、先程、指先で弄った梅蕾を、そっと口内に含み、舌先で愛撫し始めた。彼女の腰回りに左腕を回し支え、乳房から下腹部へ向かって、柔く滑らかな感触を味わうように、丁寧に舌を這わせる。

「ひあっ……や……あ、あっ……」

 今まで以上に昂る衝撃に耐えきれず、一段と高らかな甘い音が鳴った。激しい羞恥に駆られ、すずなは、思わず口を右手で塞いだ。そんな彼女を見遣り、淫靡(いんび)な欲に溢れた声色で、義勇は制止する。

「……前も言ったが……口は抑えるな。」

「や……ど、うして、です……か……?」

()い声だ……聴いていたい……」

 低音に響く雄の音が、すずなの耳に艶かしく響く。そんな彼の変化に、どくん、と芯から震えたが、ふるふる、と首を左右に振り、必死に抵抗した。

「や……はしたな……です……」

「俺しかいない……大丈夫だ。そんなに嫌か……?」

「…………!!」

 少し不満気に見つめてくる彼に、すずなは困ったように眉を下げた。求められるのが嫌な訳ではない。ただ、至極淫らな姿を曝しているだろう、今の自分を受け入れられないのだ。

 未だ躊躇うすずなの右手首を、義勇はそっと掴み、捕らえた。左手は自身の体を支える為に、彼の肩に乗せているので抵抗出来ない。

 彼女の右手に優しく唇をあて、再び、水蜜桃のような膨らみに咲く蕾に、ぱくり、と喰らいついた。

「ふあっ……?! や、あぁ……ん!!」

 唇や舌を動かす度に鳴り続ける、愛らしい喘ぎ声に気を良くし、義勇は速度を上げた。熟れた果実から柔い下腹部までに口付けては啄み、舌を這わせ優しく舐め上げる、という動作を、小波が幾度も反復するように繰り返す。

 事が満ち足りれば、仄かな灯に照らされ、真珠色に艶かしく揺らめく、細い首筋、鎖骨部分にも濡れた唇をあてる。既に、蕾は膨らみ、今にもふくよかな紅い花を咲かそうとしていた。

 

 

 暫し経ち、とうに()の刻は過ぎた頃。湿度を帯びた呼吸を繰り返し、息絶え絶えに懇願する、すずなの声が響いた。

「……ぎ、ゆさん……それ……も、駄目、です……」

「駄目なのか? 良いのだが……」

 彼女のしっとりした柔い身体と、可愛らしい反応をもっと味わいたくて堪らない、という欲情に呑まれていた義勇は、するり、と本音を溢した。

 少し汗ばんだ彼女の身体から、蜜糖のような魅惑的な香りが漂い、酒に酔わされているような感覚になる。

 間髪入れず与えられる快感に耐え切れないすずなは、義勇の胸元に顔を擦り付け、自身の口を塞ごうと考えた。少し強引に体を傾け、彼の緩んだ襟元を、自由の利く左手で、少しずり下げる。

 

 ──上がっていた呼吸が止まった。すずなの()に映ったのは、義勇の体中に刻まれた、無数の傷痕だった。

 打ち身のような青黒い痣や、治り切らず盛り上がった斬られ痕、出血が止まらず傷を焼いた時の、火傷の赤黒い痕……

 (あま)りに痛々しい光景に、攻められていた事を忘れ、すずなは、涙混じりの(まなこ)を盛大に見開いた。すっかり蕩けていた桃色の顔を、くしゃ、と歪める。

 この数を超える凄惨な夜を、彼は潜り抜けてきたのだと思うと、心臓が掴まれるような苦しみが走ったのだ。

 左手の薬指に光る、瞳と同じ紅珊瑚の護り石に、祈るように軽く口付けた後、傷痕一つ一つをゆっくりと指先で撫でた。両の(まなこ)から大粒の水滴を溢しながら、少しでも和らげば、と懸命に精神を込める。

 

 思いがけない彼女の行為に、今度は義勇の方が驚愕した。燃え滾っていた頭は一気に冴え、代わりに別の焦燥に駆られる。

「おい……?! もう痛くない。大丈夫だ。」

 今にも、治癒能力を発動させようとしているすずなを、上擦った鋭い声を上げ、何とか制止しようとした。代償で、彼女の体に負担がかかるのは承知だったからだ。

「…………っ!!」

 焦りと情欲の狭間で揺れた末、彼女の二の腕を左手で掴み、強引に押し流した。華奢な身体に覆い被さり、敷き布団に組み倒す体勢になる。

「…………?!」

 驚いて茫然とした表情を浮かべ、困惑した様子のすずなに向かって、喉奥から絞り出すように、言葉を溢した。

「やめろ…… 頼む……」

 隣に自身も倒れ込み、ほぼ一糸纏わぬ姿の彼女を、腕も足も全て絡め、全身で抱き締める。

「君だけは……俺の犠牲になるな……」

 こもった声で懇願するように吐く、義勇の身体は微かに震えていた。すずながそっと見遣ると、彼の蒼の()にも涙が滲んでいた。詳しい事情を知らない彼女は、戸惑いながらも優しく、彼の頬に手を当てる。

「犠牲、じゃありません…… 望んでする事です。」

 納得いかないとばかりに、形の良い眉をしかめ、義勇は顔を歪めた。

「義勇さんが悲しむのは……人の痛みばかりですね。」

 嵐の夜。自分の独白に、彼が悲しみの怒りを表した事を、すずなは思い出していた。水柱としても、夜桜の儀式で再会し、共に過ごした日々でも、自身の痛みで悲しむ様子は見たことが無い。

「……それは、君だ。」

 何のことだろう、と言いたげな彼女に、義勇は説き放つ。

「傷つけられたら怒れ。もっと自衛しろ。」

「……怒りたい、ですが、どんな風に表したら、良いか判らないのです…… 義勇さんも、怒り返すというのは、苦手でしょう……?」

 怒り方を知らない。自身の守り方がわからない。生い立ちと経験の影響なのだろうか。それでも、他者の為になら何でもしようとする彼女が、非常に心配だった。

 が、同時にいとおしくもなっていた義勇は、図星を突かれたと、呆れ半分に観念し、ようやく少し微笑んだ。

「……なら、以前のように、俺に吐け。」

「では…… 私も……」

 嬉しそうに呟いた後、すずなは、彼の広い胸元に顔を埋めた。薔薇色の小さな舌で、傷痕一つ一つを労るように舐める。擽るようなもどかしい悦びが、義勇の身体でざわめいた。

「以前、あなたがしてくれたのが……嬉しかったので……」

 また、新しい形の波紋が、心の水面に幾つも広がる。切れ長の蒼の眼を盛大に見開き、再び熱を帯び出した顔で、義勇は彼女に向き合った。この女性は、何時(いつ)もこちらの度肝を抜き、不意討ちに淡い光で包むような言動をする。

 そんな彼の強い眼差しから目を反らし、はにかみながら、すずなは続ける。

「これでは、治りませんが……」

 少し申し訳なさそうに言う彼女の身体を、再び抱き締め、きつく目を(つむ)る。湿度を帯び、しっとりとした柔らかな感触。血の通った温かい素肌から、とくとく、と愛しい生命(いのち)の音が聴こえる。

「……すずな。」

 羞恥と動揺、再燃しつつある激情の合間で揺れていたが、やがて、左手で彼女の頭を包み、丁寧に名を呼んだ。戸惑いで揺れる唇を(さら)い、自身で深く沈め、捕らえた。

 

 

 ──蜜月夜(みつづきよ)に潜む魔術は、心の奥底を少しずつ掻き出し、個を甘美に溶かし、交じる。

 暗闇で影がぼやける分、純白の布地が大きく波打つ様は、鮮烈に冴える。

 幾度も蕩けては呑み込み、この瞬間を逃すまいと、深く沈める……

 

 

 行灯(あんどん)の灯りは、何時の間にか消えていた。下腹部から全身に広がる、生まれて初めての鈍痛に耐えながら、亜麻色の髪を乱して、愛しい人にしがみつく。彼の汗ばんだ広い背に、すずなは、懸命に細い指を掻き立てていた。

「はっ……あ、好……きです……ぎゆさ、ん……すき……」

「辛くないか? 痛まないか……?」

 何度も労る問いかけをする度、安心させるかのように、彼女の額や頬に、義勇は濡れた薄い唇を何度も当てる。ひたすら自分を気遣う彼に、いとおしさが胸奥を締め付け、すずなは、もどかしく苦しかった。

 自分でも見たことのなかった秘所に触れられた身体は、すっかり熱く火照り切っている。蕩けるような思考の中、彼の燃える蒼の()をしっかりと見つめた。恥じらいの中に懇願を含んだ声を、喉奥から振り絞る。

「……好きに、して……く……ださい。」

「何、を言っ……」

 彼女の真意が判らず、義勇は戸惑った。詰まる息を呑み込む。

「もう、大……丈夫です、から……あなたの、望む……まま……お願……い……」

「やめろ!! 煽るな……!!」

 彼女の言わんとしていることを察した瞬間、義勇は頬を一気に燃やし、惑う視線を反らした。

 が、すずなは、その肩に額を精一杯擦り寄せ、すっかり力の抜けた身体で、彼女なりの渾身の欲を、唇から発した。

 

「私が……野花なら……」

 

「──あなたに、摘まれたい。」

 

 

 ────────…………

 

 

 それからの記憶は、朧気だった。自我は何処(どこ)か彼方へ去り、がむしゃらに彼女の全てを曝し、奪い取り、自分だけのものにしてしまいたい、という獰猛な獣のような塊が、自身を乗っ取っている感覚に、始終、義勇は襲われていた。

『これでは、彼女を執拗に狙い、喰らう、鬼と変わらないな……』

 時折、微かに甦る理性が、そのように自分を自嘲的に見ていたようにも思う。

 一方、すずなは、幾度か反転する視界に戸惑い、その度、思い出すと羞恥で震えるような、未経験の体勢になった事を覚えていた。

 先程、指で触れられた秘所に、彼の熱い吐息を感じた。甘噛みのように激しく口吸われた跡を、胸元だけでなく背や手足、首筋に幾つも残された。決して離さないと主張するかのような、古傷に沁み込むように刻まれた刻印。

 この人は、存外、熾烈(しれつ)な情を胸内に秘めているのかもしれない、と何度も遠退く思考の中、すずなは思った。強烈で耽美な衝撃が、何度も全身を貫く度に、苦しくて堪らないのに、こんなにも至福に溢れる痛みがある事も知った。

 粘のある温かい水流が自身の内に溢れ、(まぶた)の下で真っ白な閃光がほとばしる中、癖のある艶やかな黒髪が擽る耳元で、

 “すきだ。”

という、囁くような甘い音色が、薄れゆく意識の中で、幾度も聴こえた気がした。




【おまけ噺】
 今回の話タイトルは、アラビアンナイトの『千夜一夜物語』から捩りました。『千一夜物語』とも称するそうです。
 お姉さんと錆兎を亡くして、鬼殺隊に入ってからの義勇さんにとって、夜というのは、鬼が絡んだ残酷な事柄に向き合ったり、悲しい記憶が蘇ったり、自責に苦しんだりと、まさに拷問のような時間でしかなかったと思うのです。(炭治郎や他の柱も皆そうですね……)
 決戦が終わってからも、安心して普通に眠れるようになるまで時間がかかったでしょうし、妻になる人と愛し合う幸せな夜、なんて考えもしなかったはずです。
 状況は違いますが、シェヘラザードが語った物語のように、彼にとっては御伽噺並みに、非常に耽美な一夜になることを表現したくてつけました。
 一々、ここで説明するのもどうかなと思ったのですが、意味不に思った方もおられると踏んで、弁解しておきます。

*********

 ようやく、結ばれました(苦笑)一応、恋愛小説と謳っているのと、上の解説でもありますが、かなりハードル上げてしまったので、持てる力をフル稼働させて、何とか書き上げました。
 とはいえ、以前もでしたが、濡れ場の描写に不慣れな上、義勇さんが雄味強くなる過程が難しくて、必死に妄想したら爆発しまくりました……
 初めは、前回と同じR-15位の描写で、と思って書き始めましたが、段々、予定より盛り上がってしまったので、抑え方にも悩みました。なんちゃってな未熟な仕上がりだと思います。すみません……

 この物語を書く動機である、『義勇さんに(筆者なりの)ご褒美(救いと愛)を』プロジェクトも佳境に入りましたが、まだ、もう少し続きます。
 ここまできたのに? と思われるかもしれないですが、幾星霜の未来に繋ぐという、仕上げがまだ残っているのです。
 ただ、救いを~なんて、大層な太鼓判売ってしまった割に、何が義勇さんにとっての救いなのか、書いているうちに解らなくなる時があります(汗)
 ただ、彼が幸せに命を全うして、何かしら遺すものがあるよう、うちのヒロインと一緒に頑張っていきたいとは思っております。
 毎度ながら、ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございます!
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