ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
ブラッキーが力尽き、カグヤの足元に静かに倒れ伏した。
シュートスタジアムの観客席は、一瞬の静寂ののち、数万人のどよめきと興奮が入り混じった爆発的な歓声へと変わる。ついに、互いの手持ちは最後の1体ずつとなり、このワールド・チャンピオンズ・トーナメント決勝トーナメント1回戦の決着をつける最後の一体が出揃ったのだ。
「よくやった、ブラッキー。あとは僕たちに任せて……!」
カグヤは深い感謝を込めながらブラッキーをボールへと戻し、腰から最後の一つのボールをしっかりと抜き取る。その手のひらは、これまでの激闘の熱気と緊張でわずかに汗ばんでいたが、瞳の奥に宿る闘志の炎は、かつてないほどに強く、鮮やかに燃え盛っていた。
カグヤの隣でボールから解き放たれたカイリューは、じっと自らの足元を見つめ、そしてゆっくりと顔を上げて対面の巨影を睨み据えた。
(……あの時とは違う)
カイリューの胸中には、かつての苦い記憶が鮮烈に蘇っていた。
カロスリーグでのアランとの激闘、あの圧倒的な強さの前に自分が何もできず、ただ仲間が傷ついていくのを見ているしかできなかった不甲斐ない自分。自分の無力さに歯噛みし、もっと強くなると誓い続けた無数の夜。あの悔しさが、今こうして己の血肉となり、四肢の隅々まで漲っている。
仲間たちが魂を削って繋いでくれたこの舞台。もう二度と、無力に立ち尽くすだけの自分には戻らない。今度こそ、主人の背中を支えるのではなく、並び立ち、この世界の頂点を引きずり下ろすための翼になるのだと、カイリューの魂が猛烈な熱を帯びて咆哮した。
「行くぞ……! 僕たちの旅のすべて、ここで証明してやる! 行け、カイリュー!!」
カグヤの魂の叫びに呼応するように、カイリューが天を突くような凄まじい雄叫びを轟かせる。
対するフィールドの反対側では、カントー・ジョウトの絶対王者・ワタルが、深紅のマントを風になびかせながら悠然と立っていた。その傍らには、世界の頂点に君臨し続ける絶対的エース――ワタルのカイリューが、静かに凄まじい威圧感を放ちながら控えている。
「ふっ……待っていたぞ、若き王よ。お前の積み上げてきた絆の深さと、我が最強の相棒が誇る龍の血統、どちらが本物か……ここで徹底的に見せてもらおう!」
ワタルの重厚な号令に応え、絶対王者のカイリューが圧倒的な気迫を放つ。
ゴオオオッ! と周囲の空気が一瞬で歪み、アリーナ全体を押し潰さんばかりの「龍」のプレッシャーが観客席の足元まで波及した。ナオが「うわぁ、あの威圧感だけで息が詰まりそうになるよ……!」と冷や汗を拭い、マリアンヌも「ああっ、これが世界の頂点の気迫……!」と両手を握りしめて身構えた。
フィールドの中央で、互いに威厳と誇りを背負った2体の巨大なドラゴンが、真正面から激しく睨み合う。体格、気迫、そして背負うものの重さ――そのすべてが極限の緊張感の中でぶつかり合う。
「負けない……! こっからだ、カイリュー、全霊で行くぞ。『りゅうのまい』!」
カグヤの鋭い指示を受けたカグヤのカイリューが、闘気を纏いながら素早くしなやかに身体を翻す。己の肉体を極限まで研ぎ澄まし、過去の無力さを振り払うかのように、スピードと攻撃力を一気に跳ね上げていく。
しかし、絶対王者のカイリューは、その強化の隙すらも余裕の表情で見据えていた。
「小賢しい小細工など、我が龍の怒りの前には無意味だ。――叩き潰せ、『げきりん』!」
ワタルの冷徹な合図と共に、王者のカイリューが全身に凄まじい逆鱗の赤きオーラを爆発させ、目にも留まらぬ神速の突進を仕掛ける。その突進軌道は空間を引き裂くような暴風と化し、先ほどまでのポケモンたちの攻撃とは次元の違う、まさに圧倒的な暴威そのものだった。
「来る……! 防ぎきれないなら、正面から受け流せ、カイリュー、『ドラゴンクロー』で迎撃だ!」
カグヤの絶叫に呼応し、カグヤのカイリューの両腕に鋭い硬質の龍の爪が眩い光を帯びて浮かび上がる。かつて無力に震えていた自分はもういない。いまや世界の頂点に牙を剥く最強の翼が、絶対王者の巨撃へと真っ向から突き進む。
激突の瞬間、アリーナの中央で凄まじい衝撃波と爆風が吹き荒れ、観客席を揺るがす轟音がスタジアム全体を激震させた。互いに一歩も引かない、意地と誇りをかけた至近距離の激しい爪と牙の削り合いが開始された。
【カグヤ】 【ワタル】
ゲッコウガ ✕――◯ ギャラドス
ハッサム ◯――✕ ギャラドス
ハッサム ✕――◯ サイドン
ジュカイン ◯――✕ リザードン
ジュカイン ✕――◯ プテラ
ルカリオ ◯――✕ プテラ
メガルカリオ◯――✕ サイドン
メガルカリオ✕――◯ キングドラ
ブラッキー ◯――✕ キングドラ
ブラッキー ✕――◯ カイリュー
カイリュー ―― カイリュー