満場一致試験をもう一度   作:猫タクシー

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息抜きで書いているので、続かないかもです。
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茶柱紗枝は変わる

 

 

 その日はいつもの朝とは少し様子が違った。

 

 先日行われた特別試験『満場一致試験』において、オレたちのクラスは退学者を出した。

 

 試験失敗という最悪な結末を回避し、貴重なクラスptを得たものの、その弊害は目に見える形で表れていた。

 

 ひとつは、佐倉愛理という一人の少女がこのクラスから消えたこと。

 彼女がいなくなったことで、オレたちのグループはこのまま自然消滅してもおかしくない状況だ。波瑠加はまだ学校には来ておらず、明人はそれを心配しており、幸村は心ここに在らずといった様子。

 そしてもうひとつ。

 

「分かってはいたけれど…残酷ね」

 

 櫛田桔梗という少女の周りから人間が消えたこと。

 先日の試験でオレに自身の闇を暴かれ、やけになり次々と友人の秘密をクラス全員の前で暴露した。本性を知った彼女の周りの人間は姿を消し、それどころかヒソヒソと陰口を叩いている。その本人はといえば、当然というべきか学校には来ていない。

 そしてその櫛田の暴走によって、洋介への秘めた思いを暴露されたみーちゃんまでもが学校を休んでいた。

 

「当然の結果なんじゃないか。それにオレたちを退学させると決めた以上、櫛田もこうなることを覚悟していたはずだ」

 

 賢い選択だったとはとてもじゃないが言えない。この試験で早まってオレと堀北を退学させようとした線も考えられなくはないが、あるとするなら誰か第三者から唆されでもしたか。

 そうオレがいうと、堀北は黙り込んだ。チャイムの音がなり、茶柱が教室へと入ってくる。

 

「先日の特別試験、ご苦労だった。私としても佐倉が退学になったことは非常に残念だ」

 

 クラスの雰囲気は重い。下を向き、俯いている者がほとんどだ。いつもは朝でも騒がしい池も、今日ばかりはそのなりを潜めている。

 

「すでにお前たちも1年の頃から知っているだろう。昨日まで仲良く話していた友人が、明日には消えている。そんなことが起こってもおかしくない、ここはそういう学校だ」

 

 勉強だけできても、運動だけできても、この学校では通用しない。それを両立できてやっとスタートラインに立てる。

 正に、実力主義。

 

「10月には体育祭、11月には文化祭が控えている。私は、できればお前達にはこの件をそれまで引きずって欲しくない」

 

 櫛田を中心として、一部を除いたクラスメイト達は疑心暗鬼になっている。このままいけば、次の特別試験に必ず支障をきたすだろう。そうなれば、来月でBクラスとなるオレ達も、すぐに下のクラスに逆戻りだ。

 

 

「だから───乗り越えて見せろ」

 

 

 茶柱の雰囲気が変わった。

 

「退学者が出ることに慣れることはおそらく無い。受け入れがたい、納得がいかないことだってこれから山ほど出てくるだろう。だが、その度に立ち止まるな、なんとしてでも前を向け。どんな方法でもいい、目が腫れるくらい泣いても、友人や私に相談してもいい。それでも前を向け」

 

 今まで聞いたことの無い茶柱の熱意と感情のこもった言葉に、一人またひとりと生徒達は顔を上げていく。隣の堀北も珍しく驚いている。

 

「実を言えば、一年の一学期の頃の私はお前たちにはなんの期待もしていなかった。教師としての役割を最低限しか果たさず、クラスのテストの範囲が変更したのを伝え忘れていたこともあったな」

 

 懐かしい記憶を掘り起こす。須藤が赤点により退学になるのを、オレと堀北とで阻止した最初の学力試験。茶柱は伝え忘れていたと言ってはいるが、本当はわざと伝えなかった。

 

「本当にすまなかった」

「え、ちょ、ちょっと!?茶柱先生!?」

 

 一際大きく放たれた池のその言葉にその場の全員が顔を上げ、そして驚いた。あの茶葉先生が頭を下げている。

 

「だからここで約束しよう。私はなんとしてでもお前達をAクラスへと連れて行く。しかしもちろんそれには、お前たち自身の力と協力が必要不可欠だ」

 

 驚いたな、ここまで変わるか。

 確かに先日茶柱と話していた際には、それなりの覚悟は見て捉えれた。それがここまでわかりやすく、表向きな形でとは思わなかったが。

 

「お前達自身が、そして───私がAクラスにあがるためにお前達の手を貸してくれ。頼む」

 

 静まり返る教室内。生徒たちはざわつき始め、隣同士顔を見合わせる。

 

「やってやろうぜ皆!佐倉のことは残念だったけどさ、あの茶柱先生がここまでして頼んでんだぜ?男ならやるしかねぇだろ!」

 

 そう池が口火を切ると、それを皮切りにして熱はクラス全体へと広がっていく。

 

「賛成~。ていうか茶柱先生私達のことそんな風に思ってるなんて、普通に感動しちゃったんだけど」

「ね!普段がアレだから余計にそのギャップがっていうかさ」

「紗枝ちゃんせんせぇ!拙者、感動したでござるよ」

 

 オレたちのクラスは感情で動く者がかなり多い。その事に気づいてかまぐれか、そこを上手く利用したな。

 ここまで言いきったからには、それ相応の活躍をしてもらう必要があるが、茶柱はそれも全て承知の上だろう。

 

「…ありがとう」

「え、待って。今先生笑った!?」

「マジでか!?最悪だ、見逃したぁ!」

「先生もう一回だけ、ね?お願い!」

 

 茶柱のおかげでオレたちのクラスは息を吹き返した。だが、全員とまではいかない。具体的にいえば、櫛田と三宅だ。彼らには、彼女の言葉はまるで入ってこなかっただろう。

 

「調子に乗るな池。もうすぐ授業が始まる、席につけ」

「えぇー」

 

 渋々と言った様子で池は席に着いた。

 

 

 

 放課後となり部活がある者は部活の、何もない者は帰る準備を始める。あれから長谷部は学校を休むものと思われたが、昼から学校に来たため、茶柱もクラスも驚いていた。何より驚いていたのは、明人と幸村だ。特に明人にいたっては人一倍心配している様子で、大丈夫かと質問していたが

 

「ごめん、みやっち。今は一人にしておいて」

 

 その言葉を聞き、素直に明人はその場を引いた。幸村も何か言葉をかけようとしていたが、いかんせん昨日の愛里と波瑠加の退学とAクラスとを天秤に掛け、後者に傾いたことも後ろめたかったのだろう。波瑠加と話すことはなかった。

 

「綾小路君は彼女と何も話さなくていいの?」

 

 オレたちのグループを気遣ってか、そう堀北が声をかけてくる。

 

「珍しいな、お前がオレの事を心配してくれるなんて」

「今はそんな冗談に付き合う気は無いわ」

 

 こちらの方は見ずに淡々と帰る準備を始めているが、その声の調子で本気でこちらのことを心配しているのが分かる。

 

「今はそっとしておいてやるべきだろう。何より、他でもないオレが今あいつに話しかけるのは、あいつにとってもオレにとってもいいことはない」

「…それもそうね」

 

 最終的に佐倉愛里のクビを切ったのはオレだ。全ての責任はオレにあるという言い方に堀北は否定したかったようだが、諦めた。

 

「話は変わるけれど、あなたこれから時間あるかしら?今後の試験について───」

 

 と、その時スマホのバイブ音が鳴った。無言で出なさい、と言うので悪いと思いつつスマホのトーク画面を開く。

 

『今日の放課後、屋上に来て』

 

 そのメッセージに「わかった」とだけ返事をし、席を立つ。

 

「すまん、急用ができた」

「そう、なら明日にするわ。今すぐに行ってあげなさい」

 

 何かを察したのか、こちらを探ってくることもなく堀北はそそくさと教室を出ていった。オレとしてもそうしてくれてありがたい。

 

「清隆、一緒に帰ろ」

 

 オレが堀北と話終えるのを待ってくれていたのか、恵が教室の外からこちらに駆け寄ってくる。

 

「悪い、恵。急用ができたから今日は先に帰っててくれ」

「…それって」

「心配するな、お前が今考えているようなことじゃない」

 

 不安がる恵をなだめるため、できる限り優しく答える。

 

「わかった…。なら明日はいいよね?」

「あぁ、もちろんだ」

 

 その返事に満足したのか、「わかった!」とだけ言うと恵は廊下を走っていった。その先には佐藤と松下もおり、元々一緒に帰る予定だったのか合流したようだ。それを見届けると、屋上へと足を運ぶ。

 

 屋上といえば、先日の茶柱との会話を思い出す。思えば色んな話を聞かされた。

 

 茶柱も高校時代同じ特別試験を受けたこと。

 最愛の人を守ることを優先し、結果試験を失敗したこと。

 その選択を今でも後悔していること。

 

 しかしそのことをオレに吐きだしたことで、過去を精算し、彼女も一歩前に踏み出した。教師とて人間だ、生徒と同じく成長していく。

 屋上へと繋がるドアの鍵は開いていた。屋上に出ると扉を閉め、そこに佇む少女に声をかける。

 

 

「待たせたな、波瑠加」

「…いいよ全然」

 

───お前はどうだ?長谷部波瑠加。

 

 

 

 

 

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