満場一致試験をもう一度   作:猫タクシー

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お久しぶりです。
やることが終わって落ち着いたので、続きを書きたいと思います。
ちょくちょく修正している部分があると思いますので、また一から読んでいただけると幸いです。
個人的には茶柱から告白したとは思ってるんですが、秀君とのからみを書きたかったのでこうゆ感じになりました。

ようじつ2年生編7巻めっちゃ面白かったです。




四葉秀は悩んでいる

 

 

 

「お前に相談があるんだ、清隆」

 

 放課後になり、いつもの賑やかな教室は今はがらんとしている。

 今この部屋の中にはオレと四葉しかいない。

 

「それで、一体どんな相談だ」

「その前にちょっといいか」

 

 本題に入る前に、四葉はオレになにか言いたいことがあるらしい。

 

「清隆、お前最近なんかあったか?」

「最近?すまん、話が見えないんだが」

「俺の勘違いだったらいいんだけど、今日一日様子が変だなって思って」

 

 目敏いな。そこまでオレを気にする素振りは見えなかったが、四葉はオレの些細な行動の変化に気づいたらしい。

 

「気のせいじゃないか?」

「じゃあ聞くが清隆、お前今日一度でも俺の名前を呼んだか?いつもは『秀』って呼んでくれるだろ」

 

 たしかにオレは今日一度も彼の名前を呼んでいない。

 いや、正確には呼ばなかったのでは無く、呼べなかったが正しい。

 それは単純に、オレが今まで彼をどう呼んでいたのかがわからなかったからだ。『四葉』なのか『秀』なのかはわからないが、いずれにしても呼び方を間違えれば怪しまれただろう。まあ、結果的にみれば逆にそれが仇となって今現在こうして怪しまれているわけだが。

 

「そうか?お前の気にしすぎだろ。それに、コミュニケーションをとるのに必ずしも名前を呼ぶ必要はないだろう」

「そこは『俺とお前の仲だから、さ』とか言ってほしかったぜ」

 

 面白い冗談だ。

 

「まあ、雑談はここまでにして、さっそく相談の内容なんだが」

 

 それまでの陽気な雰囲気から一変し、真剣に悩んだ顔で四葉は口を開く。

 

「俺は───今日サエに告白しようと思ってる」

 

 それを聞いて思い出されるのは先日での屋上での茶柱の告解。

 茶柱にとってのリーダーであり、友人であり、誰よりも大切の恋人、にこれからなるであろう人物はやはり目の前の男なのだろう。

  

「元々告白することは決めていたんだ。今日という日は俺にとって、サエにとって、いやオレたちにとって『特別な日』だから」

 

 そして同時に、二度と後戻りできなくなる関係になる男であることも。

 

「それで?」

「俺は今躊躇してる。特別試験のことを聞かされてから嫌な予感がしてるんだ。今回の試験ではおそらくなにか良くないことがおきる」

「それはなにか根拠があるのか?」

「ない。俺の『勘』だよ」

 

 『勘』、か。これはまたずいぶんと抽象的だな。

 だがたしかに、やけに勘の鋭い人物というのは不特定多数存在する。かくいう四葉の言う勘も、オレから言わせれば当たっているわけだしな。

 

「そんな中でクラスのリーダーである俺が、恋愛していいのかなって思っちゃって。だから、清隆に相談することに決めたんだ。俺は、いったいどうするべきなのかって」

 

 どうするべき、か。

 普段であるならば、どんな恋愛をするかなどすべて当人たちの自由だ。しかし、いまのオレたちは最後の特別試験をひかえた3年生であり、Aクラスとのクラスポイント差は73ポイント。そのクラスのリーダーともなれば抱える重圧は相当なものだろう。

 

 それと並行して自由気ままに恋愛を楽しむというのは、たしかに難しいことなのかもしれない。付き合った事実をクラスメイトが知れば、なにを呑気なことをと思う者も少なからずでてくるだろう。

 そして、ここにきて急に行われる追加の特別試験。そこで感じた言い知れぬ不安感。慎重になるというのもうなずける。

 

「告白するのは絶対に今日じゃないといけないのか?」

「正直いって、今日をおいて他にないと思ってる。明日の特別試験が終われば、俺たちは最後の特別試験に向けて動き出す。そうなれば、今よりいっそう恋愛などしている暇なんてなくなる」

「だから、今日告白しなかったら俺はこの気持ちを抱えたまま卒業するつもりだよ。サエも今日の呼び出しの意図にははなんとなく気づいてるだろう。返事を先延ばしにするのも、あっちに不安を与えるだろうからな」

 

「告白しないと決めたら、どうするつもりなんだ」

「明日の試験について、これからの最終試験についての話だったて誤魔化しとくよ」

 

 今日告白すると事前に決めておいたのなら、その言い訳はだいぶ無理があるだろう。         

 それこそ茶柱に不安を与えかねない。本当にこの男がDクラスを引っ張ってきたのか一瞬疑問におもうが、どちらかといえばこれは。

 

「四葉。いや、『秀』。お前のそれは甘えだ」

「…続けてくれ」

「今のお前は茶柱のことを考えているようで、結局自分のことしか考えていない」

「ッ!そんなことは…」

「ある」

 

 たった一言。それでも有無をいわせず断言することで、四葉は押し黙る。

 

「たしかに特別試験が一つ増えた、それも予定日の前日に告白するとなれば不安になるのもわかる。だが言ってしまえばそれだけでしかない。今のところ退学者が出ると決まったわけでもなければ、その根拠もおまえの勘という不確かのものでしかない。オレには、そんな不透明なもので茶柱に告白しない理由付けしているようにしか思えない」

 

 とっさになにか反論をしたかったようだが、思い当たることでもあったのだろうか。四葉は口を閉じた。

 

「一応聞いておくが、おまえは本当に茶柱が好きなのか?」

「ああ、好きだよ。大好きだよ。でも…」

「違うな、今のは『リーダー』としてのお前の答えだ。おれは『四葉秀』という一人の男に対して聞いている」

「…愛してるさ!心の底から!世界中の誰よりも!」

 

 そうか。

 しかし、よくもまあ今時そんなクサい台詞が言えたものだ。

 

「ならあとは簡単だ。お前のその本心を、そのまままっすぐに相手に伝えるだけでいい。今は、今日この一日だけは余計なしがらみなど忘れてしまえ。大事なのは後で後悔しないような選択をとることだ」

「後悔、しないように」

 

 人は生きているうちにどこかしらで後悔をする生き物だそうだ。ふと過去を振り返り、ため息をつき、後悔する。

 そして次こそは後悔しないようにと意気込み、忘れたころにまた思い出す。

 

「もう少しすれば夕日も沈み始めるだろう。それで?お前はここでじっとしている暇はあるのか?」

 

 聞いていた待ち合わせの時間まで残り数分。今から走れば余裕で間に合う距離だ。

 

「…やっぱり敵わないな、清隆には」

「なにが」

「特別試験で困った時も、4人が喧嘩したときも、お前は俺を助けてくれた。清隆のアドバイスひとつでみんな魔法みたいに解決するんだ」

「よしてくれ。俺はそんなに大したことはしてない」

「それでもだよ」

 

 椅子から立ち上がって、荷物を持ちこちらを振り向きなおす四葉。その顔は先ほどとは打って変わって自信に満ち溢れている。

 

「俺、ちゃんと伝えてくるから。もし断られたとしても後悔しないように、俺の全部をぶつけてくる」

「大丈夫だとは思うが、安心しろ。ダメだったときは骨くらいは拾ってやる」

「いやさすがに死なねえから!?」

 

 そういうと笑いながら四葉は教室の出口へと歩き出す。

 

 それにしても、茶柱が言っていた『平田と池を合わせたような人間』、か。言い得て妙だな。

 四葉はクラスのリーダーになるだけの素質はある。能力的にも荒木の言う通りだとすれば合格の水準を優に満たしているだろう。

 つまり、四葉秀という人間は壊滅的に恋愛が苦手なのだろう。いや、不器用というべきか。あくまで予想ではあるが。

 

「清隆」

「ん、どうした」

「ありがとな」

  

 やはりだ。なぜだろうか、オレはまだこの男と話したいと思っている。こんな感覚初めてだ。どこか心地いいようなそんな感覚。

 この男ならば、あるいは。

 

 四葉の背中を見送ってからしばらくして、オレも帰る用意を始めようとしたところでブーッ、と通知がなった。

 それはまるで狙っているかのようなタイミングで、今オレが最も興味を持っている人物からのお誘いだった。

 

 

 

 

 

 

 あたりはすっかり日も落ち、暗くなってしまった夜。普段なら寮にいる時間帯だが今夜は違った。

 ある人物の誘いを受けたからだ。

 オレは今外にいる。正確に言えば、様々なお店が立ち並ぶ飲食店にきていた。目当ての店をみつけると、合流であることを伝え、中に案内してもらう。そして、そのこじんまりとした個室に彼女はいた。

 

「あ、きたきた。もおーっ、遅いよ綾小路君」

 

 前Bクラスの担任、星之宮知恵本人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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