「時計の針は巻き戻る」の話を大きく修正しました。
何度もすいませんm(__)m
「すまん、一回寮に帰って準備をしていたら遅くなった」
「なあに?私に会うためにわざわざ準備してきてくれたの?」
「いや。待ち合わせの時間までまだ余裕があったし、荷物をおいて着替えてきただけだ」
案内してくれた店員に礼をいい、席に着く。
「んもう、そこは冗談でも肯定しないとだめだよ?」
「そうか、すまなかった」
「ううん、来てくれただけでも嬉しいから許します」
「来なかったらオレの秘密をばらすといって脅されたんだが」
何のことー?、と星之宮はカラカラ笑う。
来た時から気にはなってはいたが、肩や首元が開いてやや露出の多い私服。元の素材の良さも相まって上品に笑うその姿はなかなか様になっている。
「それで、今日はオレに何の用だ?」
「うーん。ただ一緒にご飯食べたかったからじゃ、ダメ?」
「ダメじゃないが、それならそうと言ってくれたらよかったと思うが」
「せっかちだなあ。せっかく綾小路君顔はカッコいいのに、だからモテないんだよ?」
余計なお世話だ、といいさっそく肉を焼き始める。
「でも、今日はほんとに何でもないんだよ?ただ、一緒にご飯が食べたかっただけ。普通にさそっても来てくれないかなーって思って。だから今日は私のおごりだから遠慮なく食べて?」
「ほんとにいいのか?」
「うん、来てくれたお礼」
「なら、遠慮なくいただくとしよう」
「フフフ、ちょっとした愚痴には付き合ってもらうけどねー?」
聞き捨てならない一言が聞こえた気がしたが、まずは目の前の肉に集中するとしよう。
愛里が退学する前、綾小路グループで焼き肉をする機会があったが、『焼肉は戦争だよ。男も女も関係ない』と波瑠加が言っていた。そのときは啓誠も明人もあの普段大人しい愛里でさえも、豹変したように肉にかぶりついていたな。
今となっては、もう二度と叶わないわけだが。
ある程度ご飯を食べ終わると、一息つく。
「聞いた?秀くんとサエちゃん、付き合ったんだってね」
「らしいな」
あのあと四葉から告白が成功したと喜びのメッセージが送られてきた。どうやら茶柱のほうからも告白するつもりだったらしく、少し想像はつかないが泣いて喜んでいたらしい。
オレは祝福を込めた、あらかじめ用意しておいたメッセージを返信しておいた。
「ほんと呑気だよねー、明日は特別試験だっていうのにさ」
「まあそういってやるな。秀だって相当悩んだうえでの告白だったみたいだしな」
「むー。綾小路君は二人が付き合うのに賛成だったの?」
「お互い合意のもとなら問題ないんじゃないか。それにオレたちはまだ高校生なんだ、恋愛の一つや二つくらいしてもいいだろう」
そう言ってはあ、と星之宮はため息をつく。
「林間学校でさ、私たち4人が一緒の部屋になったとき、あったじゃない?」
「ああ、なんとなくしか覚えてないがな」
「思えばさー、あのときからなんだろうなって。サエちゃんが秀君を意識し始めたの」
林間学校というのは、オレ達が一年生のときに経験した特別試験『混合合宿』のことだろうか。しかし、オレ達のときは男女別々で別れてグループをつくり、寝泊りもそのグループだったはず。
となればこの時代で行われた別の試験か、あるいは年を重ねるごと改良され、特別試験が変更されていったのか。
「やっぱりルームシェアの効果ってすごいよね。恋愛に興味がなくても、異性が近くにいるってだけでドキドキしちゃう」
「思春期の高校生たちにとってはめったにないイベントの一つでもある。普段は見えない部分が見えるというのも大きいかもな」
「そうそう、男女二人がひとつ屋根の下、何も起きないはずがなく…ってね」
異性と異性と密室の空間に二人きりというのはやはり普通の高校生たちにとっては、理想のシチュエーションのようだ。それは恵にとっても同じようだった。
意図的にしろないにしろ、手と手がふれあい、肩と肩がぶつかるその距離感。甘い雰囲気が、脳を刺激しホルモンを分泌する。中には、より脳を刺激しやすいような香りのルームミストもあるらしい。
「ねえ、綾小路君この後暇だよね?私の部屋に遊びに来てよ」
「待てチエ。多少確認したいことが…」
「秀くんもサエちゃんも今頃君らの部屋だよ?だから大丈夫。それとも二人がいる部屋に帰れるのかな?」
なるほど、やはり気のせいじゃなかったか。
朝起きた時に感じた強烈な違和感。あの時は急いでいたため隅々まで観察しなかったが、たしかにベットが二つあったことは確認している。
つまりこの時代の生徒たちはルームシェアをしているということだ。
♦
「ねえ~綾小路くん、ひゃんと飲んでる~?」
「ああ」
あのあと結局誘いを断ることができなかったオレは部屋にお邪魔することにした。部屋の中は思ったよりも女の子らしさはなく、多少のインテリアと机にベットが二つ。意外だと一瞬思ったが、あの茶柱と同棲しているのであればこの部屋になるのもうなずける。
茶柱が可愛いぬいぐるみを抱いて寝ているのは…ちょっと想像できないな。
『綾小路君は何飲むー?』
そういって星之宮が見せてきたのはどう見ても缶のアルコール飲料、それも度数が高めのものだった。
『そんなのどこで手に入れた。お前の今の年齢じゃ普通買えないだろ』
『コンビニの店員さんと仲良くなってね。ちょっとお願いしたら、監視カメラがないところで渡してくれたんだあ』
「わかってはいるとは思うが、ほどほどにしておけよ。明日には特別試験もひかえてる」
「はぁい。気を付けまーす」
そして現在、缶チューハイや缶ビールを合計7本ほど開けたところで徐々に星之宮に異変が起きた。呂律が回らなくなり、ほんのりと頬が赤い。
オレのほうはというと体にはいまだ何の変化もない。興味本位で試しにいろいろ飲んではみたが、特に美味しいとも不味いとも思わなかった。
「…何してるんだチエ」
「えへへ、あったかーい♪」
「暑いから離れてくれると嬉しいんだが」
ベットに腰掛けるオレの膝にもたれかかる星之宮。膝に頭を乗せてがっちり片足を抱え込まれているため身動きが取れない。
「むぅー。せっかくこんな可愛い美少女とお酒飲めてるんだよ?なんか他にリアクションとかないの?」
「オレはチエとお酒を飲めて楽しいぞ?」
「ちっがーう!もうそういうのじゃないのっ!」
はあーっ、と大きなため息をついて彼女はオレの膝に顔を埋める。そしてポツポツと語り始めた。
「…あーあ。最初のころは私のほうが仲良かったのになぁ。いつの間にか仲良くなって、話す機会も増えて、気づいたら追い越されちゃった」
星之宮知恵という人間は、一言でいえば「腹黒い一ノ瀬」だ。
コミュニケーション能力が高く、誰とでも仲良くなれる。容姿もかなり整っており、現在は多少幼くはなったがその分仕草や表情が豊かで、教師のときのそれよりたちが悪い。
「ひとつ疑問なんだが、やっぱり四葉はモテてたのか?」
「はぁ?あったりまえじゃんそんなの!蘭ちゃんにひなちゃんでしょ、それに早乙女さん。このクラスだけで3人から告白されてるんだよ?」
「それは、すごいな」
対して茶柱のほうはどうだろうか。教員同士の人間関係については知らないが、今の彼女を見ると人付き合いが苦手なのはこの頃からだろう。まるで一学期の堀北を見ているようだ。
この学校は何故か容姿が整っている女子が多い。茶柱も十分整っては
いるが、寡黙な彼女と明るく積極的な星之宮とでは、どちらが男子に人気であるかは言うまでもない。
「サエちゃんそういうの興味なさそうだったから油断しちゃったなぁ。
ほーんとずるいよあの子…ズルいって…」
細く震えてかすれたその声は、静まり返った部屋には良く響いた。
「ねえ綾小路君…私ってそんなに魅力ないのかな」
星之宮はこの頃から、いやあるいはもっと前から自分に自信を持っていたに違いない。
だが、その自信は打ち砕かれた。
四葉が茶柱を好きになった理由はなんだろうか。
単に好みのタイプだったのか、ともに激闘の日々を戦い抜いてきた信頼ゆえか、あるいはそれ以外か。
星之宮が本気で四葉を好きだったのかはオレにもわからない。
だが、そんなことは関係ない。
『四葉秀』という男が、他でもない『茶柱紗枝』を選んだ。
その事実が星之宮の根底を揺るがした。
「それは今更オレが言うことでもないだろ」
「ダメ。君の口から直接聞きたいの」
「…チエは美人だと思うぞ。加えて社交的で人の変化に気づけるほどの気配りもできる。正直、かなりモテてたんじゃないか?」
この頃の星之宮をオレは知らない。だから、教師のときのこいつに対して思ったことを素直に伝える。
ピクリ、と動きが止まったのを膝越しに感じ取った。
「…本当に?ほんとにそう思ってる?」
「ああ」
「最初はさ、秀君も言ってくれたんだよ。『チエは可愛い』って。でも結局サエちゃんを選ぶんじゃん。嘘つき…うそつきウソつきウソツキッッ!」
より一層強い力でオレの足を抱きしめる。気づいてか気づかずか、爪がふくらはぎに食い込んだ。
女子の爪ってこんなに長いのか。
「オレは嘘なんてついていないが、お前は信じない。ならこれ以上どうすればいいんだ?」
「…そうだね」
じゃあさ、と言っておもむろに立ち上がった瞬間、オレは押し倒された。対処することも勿論できたが、悪意は感じられなかったのでそれはしなかった。上に覆いかぶされられ、両手をふさがれる。
何を、と言いかけてオレは息をのんだ。
火照りで赤く染まった頬に、喜びと悲しみがごちゃ混ぜになったくしゃくしゃの笑み。酷くいびつで、歪んでいて、それでいてとても綺麗だった。
オレの頬を数滴の雫が濡らしていく。
「抱いてよ、
押さえつけられていたてのひらの指と指が絡み合う。
股の間に据えられていた膝が、オレの股間をまさぐるのがわかる。
「好きも慰めも、くちだけじゃ何とでも言えるよ。大事なのはさ、形にすること。だからさ、体で証明してよ」
頬を上気させ、淫蕩な表情を浮かべた顔が近づく。
親指の先で、ピンクの潤った下唇と肌の境目を撫でた。
重く深く濁ったその瞳は、オレだけを映している。
興味がないわけではない。
ただ、先延ばしにしていた。いずれその時はくると。
事前に予習は済ませており、『教材』も身近にいた。
あとは実践するのみだった。
「チエ。もし…もしもだ」
元の時間軸に帰れる算段はある程度ついている。
しかし、本当にそれで帰れるかはわからない。
「もしお前が二人に復讐できるとしたらどうする?
だが、興味が湧いた。
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