転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。   作:”蒼龍”

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皆様おはようございます、第9話目更新でございます。
今回は漸く本格的なバトル回になります。
それがどんな内容かお楽しみに下さいませ。
では、本編へどうぞ。


第9話「エミル達、遭遇する」

 エミル達とサラ達、互いの馬車は街道を並びながら走行し、荷台からアルが顔を乗り出し自らの武勇伝、ゴッフに弟子入りするまでの話を始めていた。

 

「それで俺様は20にして他の武具職人達の研鑽して来た匠の技術を上回り、これならゴッフ(ジジイ)が俺を弟子にする筈だ、そう天狗になってたのさ。

 ゴッフ(ジジイ)は生涯現役とか抜かして弟子を取らずにいたからな、俺様がその初弟子になってやる、それが俺様の夢だった。

 だが…いざゴッフ(ジジイ)の下に向かうと職人勝負をして勝ったら弟子入りさせてやると言われ、其処で俺は周りを泣かせた武具作りの腕を見せたんだ」

 

 そのエピソードは彼が他のドワーフ達よりも才覚があり、ゴッフの弟子入りに相応しいのは我こそだと天狗になってたと自ら語る所から始まり、ロマンは興味津々に聞きエミルもあのゴッフが弟子入りをを認めた者の話には興味が引かれ耳を傾けていた。

 そして職人勝負をしたと話し始めた辺りで1つ溜め息をアルは吐いていた。

 

「だが…其処で俺様は天狗になってたと気付かされた。

 ゴッフ(ジジイ)が鍛え打った武具の輝きは当時の俺なんかが足下にすら及ばない本当に凄ぇもんだった。

 負けた、完膚無きまでに負けた。

 それからはもう天狗の鼻は折れて、あの輝きに1歩でも近付こうと踠いた。

 その度に負けて、だがそれでも諦め切れなかった、ゴッフ(ジジイ)の弟子になりたい、それは嘘偽りの無い夢だったからな」

 

 更にアルはゴッフに真の武具職人の業の輝きを見せ付けられ完全に負けて天狗の鼻は折れたと話し始めた。

 エミルもライラの時に見たあの鍛え上げられた武具の輝き、それはアルも言う通り真に武具職人の魂が乗った物だったと思い浮かべていた。

 そのゴッフの武具に何度も助けられた事も。

 そしてアルは夢を諦め切れずに何度も挑んだと語り、エミルやロマンは歴史の裏側を見ているかの感覚に浸っていた。

 

「そして50の時…俺様は遂にゴッフ(ジジイ)に負けだと言わしめる事になった。

 それは今も俺様が使っているこのミスリルアックスだ」

 

「えっ、そうだったんですか⁉︎」

 

「ああ、そしていざ弟子入りしたんだが…ゴッフ(ジジイ)はワシから教える事は無い、只管職人の道を歩めとか言って現役引退しやがったんだ。

 初めは何やってんだって癇癪を起こしそうになったが………思い返せば、あの職人勝負こそが俺様を弟子として鍛え上げていたのでは? 

 そんな単純な事に気付いたんだ、天狗の鼻が折れてたからな」

 

 そして50の時に今も武器として使っているミスリルアックスこそが弟子入りを決めた逸品だと話しエミルとロマンはその斧を見て確かに10年や20年じゃない、かなり使い古された戦斧だと改めて伺い知り歴史ある武具だと初めて気付いた。

 そして弟子入りした直後の引退宣言もあるの話を聞けば腑に落ちる物であり、エミルは立派な弟子を取る事が出来たと思い感慨に耽るのであった。

 

 

 

 しかし、その談話を嘲笑い、そして魔力を込め始める者が居た。

 そう、エミル達に狙いを定めた名も無き魔族である。

 

「キシシシ、コイツで殺してやる! 

 灼熱雨(マグマレイン)‼︎」

 

【ゴォォォォ‼︎】

 

 魔族は火の最上級魔法、本来なら拡散し辺り一体に名前通りマグマの雨を降らせる灼熱雨(マグマレイン)を収束し、巨大な灼熱の焔の塊にして手で抱える様に待機させ、そして腕を振り下ろしてその業焔がエミル達に迫る。

 

 

 

 エミル達はアルの話を聞き終えて馬車を走らせ、後2時間でアグ山に辿り着こうとしていた。

 

『ヒヒィィィン‼︎』

 

「うわっ、どうしたの⁉︎

 どー、どー‼︎」

 

「うわサラ、何馬を暴れさせてやがんだ、早く落ち着かせろ‼︎」

 

 その時、エミルとサラが手綱を引いていた馬達が暴れ出し、サラが宥めようと声を掛けたり等をし、アルは突然馬が暴れた事で荷台が揺れた為早く落ち着かせる様に叫ぶ。

 そしてエミルもまた馬を落ち着かせようとした

 

【ゾクッ‼︎】

 

「っ、殺気‼︎」

 

 その時、エミルは明確な殺気を感じ取る。

 それはこの時代の海賊達が放った矮小な物でも、魔物達の様な方向性の無い物でも無い、明らかに自分達を狙っている。

 しかもそれは500以上年前に明確に肌で何度も感じていた物………魔族が放つ圧力ある地上界の者への絶対的な殺意だった。

 エミルはその方向を見ると、収束された灼熱雨(マグマレイン)が放たれようとしていた瞬間だった。

 

「エミル、どうし…何、あの焔の塊は⁉︎」

 

「…来る…来る………悪意が、魔族の悪意が…‼︎」

 

「魔族だとぉ⁉︎」

 

 エミルが視線を向けた方にロマン、サラが向くと其処には巨大な灼熱の焔の塊があり、それが今放たれようとしていた。

 全てを灰燼に帰す為に。

 更にルルの予知が発動し、魔族の悪意が来ると告げ、アルはそれを聞き驚愕していた。

 何故ならサラ達も魔族を直に見るのは初めてなのだから。

 

【ゴォォォォ‼︎】

 

「っ、あの焔こっちに来てる‼︎

 エミル、ロマン君早く逃げ」

 

「もう逃げるのは間に合わない‼︎

 なら………相殺する‼︎

 火には水、土には風、闇には光‼︎

 相反する属性の魔法をぶつけ合わせた時威力が同じなら相殺される‼︎

 行け、大水流(タイダルウェイブ)‼︎」

 

【シュゥゥ、ドバァッ‼︎】

 

 サラはエミル達に逃げようと提案しようとしたがエミルは即座に間に合わないと切り捨て、ならばと火の最上級魔法に水の最上級魔法を打つけて相殺を狙う選択肢を取る。

 するとエミルの杖から巨大な水流が収束し、巨大な瀑布となり上空から迫り来る灰燼の焔と衝突する。

 

【ゴォォォォ、ドバァァァァ‼︎】

 

「っ、焔の塊を水流が穴を開けた‼︎」

 

「つまりエミルの方が勝った⁉︎」

 

 そして幾許かの衝突の末にエミルの放った清浄の瀑布が灰燼の業焔に穴を開け、水流が灼熱雨(マグマレイン)の放たれた方角へと向かう。

 更にエミルの千里眼(ディスタントアイ)が捉える、業焔を放った悪意の塊が水流を避けてエミル達の前方に向かう姿を。

 そしてそれは降り立った。

 

「キッシシシシ…! 

 結構真面目に撃ち込んだ灼熱雨(マグマレイン)を相殺所が打ち勝つとは…中々やるじゃねえか、矮小な人間の魔法使い!」

 

 褐色肌と漆黒の鎧、更に悪意に満ちた笑み、極め付けはその額に赤い水晶があるダークエルフともかけ離れた存在………エミルの記憶にあるそれと寸分違わない存在、魔族がエミルの放った大水流(タイダルウェイブ)で自らの魔法を打ち破ったのに感心しつつも、矮小な人間と付け加え明らかに見下した態度を取りながら漆黒の槍を構えて5人に絶対的な殺意を向けて来た。

 

「アレが魔族………アル、ルル、戦うよ‼︎」

 

「よし来たぜ、魔族に俺様の武具の力を見せてやる‼︎」

 

「…うん…‼︎」

 

 先ずサラ達が馬車から降り、サラが後衛、他2人は前衛に立ちそれぞれ弓、戦斧、そしてルルはフードを外し、小さな双剣を逆手で持ち、その表情はフード越しに見ていたオドオドとした態度から想像出来ない程眼光が強く、魔族の殺意に飲まれていない勇猛な物であった。

 

「ロマン君、私達も行くよ‼︎」

 

「わ、分かったよ‼︎」

 

 そのサラ達の直ぐ後にエミルとロマンも馬車から降り、エミルはサラの隣、ロマンはアルの隣に陣取り、サラの弓矢が通る陣形を整える。

 すると馬達は魔族の殺意に飲まれている為、乗り手が降りるとそのまま馬車を引きながら走って逃げてしまう。

 

「キシシシ、レベル150オーバーが5人も…これは殺せば大手柄だぜ! 

 他の奴らを出し抜いてアギラ様の幹部に上り詰められるぜ、シィィ!」

 

「…コイツは三流ね、獲物を前にして油断し過ぎてる。

 自分が逆に獲物になる可能性を考えない時点で救い様が無いわ、魔族だから元から救う気なんて無いけど、ね」

 

「確かにそうだなルル! 

 俺様達に狩られる恐怖ってもんを見せてやるぜ‼︎

 おぉりぃあぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 魔族はエミル達を前にして油断し過ぎてる様で自らの手柄の事しか考えておらず、己が斃される可能性を思考していない三流とルルは普段の口調と違う強い口調で魔族を睨み付けながら話す。

 それにアルが同調し狩られる恐怖を叩き込むとして真っ先に突撃し、魔族もその突撃に乗り槍のリーチを活かして突きを連打し、足がやや遅いドワーフの身体を悪意で貫こうとする。

 

「けっ、そんなトロい突きじゃあ俺様は止められねぇぜ‼︎

 うおらぁ‼︎」

 

「おっと危ない!」

 

【ドガァァァァァァ‼︎】

 

 しかしアルはその突きの連打を強引に潜り込むことで回避し、その勢いで土の上位絶技『震撃斧』で大地を力任せに穿つ。

 これが直撃すればこの魔族も一溜まりも無かっただろう。

 しかし魔族は前にジャンプして回避し、次はロマンに狙いを定める。

 

「させないよ、『暴風弓』‼︎」

 

【ビュゥゥゥンッ‼︎】

 

 其処にサラが風の上位絶技暴風弓を使用し、暴れる風を纏い速度の上がった矢が魔族に一直線に向かい鎧の間を撃ち抜こうとした。

 

「ははっ、『爆炎槍』‼︎」

 

 しかしそれを火の上級絶技『爆炎槍』を使い矢を弾きながら燃やし、そのまま着地しロマンに襲い掛かる。

 

「『疾風槍』‼︎」

 

「くっ、疾風剣‼︎」

 

 魔族は先ず小手調べなのか風の下位絶技同士で互いの武器を弾き合わせ、両鎌槍の穂とロマンの刃毀れしながらもまだ折れる気配の無い剣の刃が何度も打ち合いその度に周りに風が吹き荒れていた。

 もし冒険者でもレベルが低かったりそもそも常人がこの風を受ければその部位が両断されてしまう程の鎌鼬であり、それに近付こうと言う者は両者のレベルに近いか愚か者しかいないだろう。

 

「(なんて重い一撃、そして最初の不意打ちの魔法と言い明確な殺意を感じる攻撃なんだ…これが、魔族‼︎

 エミルの言う通りだ、話し合いの余地が無い‼︎

 何方が殺されるか、ただそれだけしか無い‼︎)」

 

 その中でロマンは魔族の攻撃1つ1つの重さや殺意に溢れたその突きを前にエミルが話した事を理解する。

 魔族は思想統一されてる、話し合いの余地は無い、それを肌で感じ嫌な汗が流れ始めていた。

 

「うぉらぁ、『極雷斧』‼︎」

 

「『氷結剣』‼︎

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「おっと、『暴風槍』‼︎」

 

「っ、『爆炎剣』‼︎」

 

 そんな暴風にアル、ルルが突撃しそれぞれ雷、氷の上位絶技を使用し戦斧に極雷を、双剣に絶氷を纏わせ魔族を攻撃しようとし、それを見た魔族は爆風を槍に纏わせ、対するロマンも火の上位絶技で爆炎を剣に纏わせ4つの絶技が衝突する。

 

「ちぃ‼︎」

 

「…」

 

「くっ、強い‼︎」

 

 そしてそれぞれ技の衝突で地面を滑り距離が開き、更に重鎧や軽装の鎧等に傷が付いたり、頬や額に切り傷が出来る等の軽傷を負う。

 しかしロマンの鎧は魔法祝印(エンチャント)で強化されてる為か鎧やガントレットに傷が付く事が無かった。

 

「キシシシシシシシ‼︎

 矮小な地上界の者共にしては中々やる‼︎

 流石はレベル150オーバーと言った所か‼︎

 だが、それでも俺が勝つ‼︎

 何故なら我々は魔王様の忠実な僕であり選ばれし戦士だからだ‼︎

 貴様等矮小な存在に勝ち目は毛頭」

 

乱風束(バインドストーム)超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

「其処だよ、『光流波』‼︎」

 

「っ、エミル、サラ!」

 

 同じ様に傷付いた魔族はロマン達を嘲笑しながら自分は負けないと高らかに宣言し、選ばれた戦士とも言い完全に地上界の生命全てを見下していた。

 だがそんな話を長々としている隙にエミルが遂に動き、仲間が密接状態だった為撃てなかった最上級魔法で魔族の動きを止め、更にサラが光の上位絶技を発動し、光を纏い閃光の矢となった物が風と闇の中を突き切り出す。

 

「ぐっ、矮小な存在はこんな小賢しい手しか使えんか‼︎

 だが無理も無いな、貴様等は劣等種なんだからなぁ‼︎」

 

 その閃光の矢は明らかに魔族に当たったらしく、吹き荒れる風に血が…しかし地上界の者と違い青い血が混じりサラに手応えありと感じさせる。

 

「今だ、皆に身体強化(ボディバフ)IV&ロマン君達に『回復魔法(ライフマジック)IV』‼︎

 まだまだ戦いはこれからだよ、油断しないで皆‼︎」

 

「回復と身体の強化か、ありがてぇぜ‼︎

 さあ魔族め来やがれ、職人王ゴッフの弟子のアル様の力を見せてやるぜ‼︎」

 

 更にエミルはタイミングを図り身体強化(ボディバフ)とロマン達3人に回復魔法(ライフマジック)を使い強化と体力を全快にさせ、それを受けたアルも魔族の粘り強さからか素直に礼を述べた後職人王の弟子の力を見せるとして戦斧を構う直した。

 

「お前の末路は予知するまでも無い、その魔法が消えた瞬間がお前の死だ!」

 

「…そうだ、僕の背後にも仲間が居るんだ…さあ来い魔族‼︎

 エミルやサラの方には僕達が行かせないぞ‼︎」

 

「ほざけ、下等生物が‼︎」

 

 更にルルが予知をするまでも無く敵の死を確信しながら双剣を構え、ロマンも盾と剣を構え直し背後に居るサラ、そしてエミルを守るべく弱気な自分を抑えて自らを奮い立たせる。

 そんなロマンに魔法の攻撃が収まった瞬間サラの矢の貫通痕が見える魔族が襲い掛かり、再び先程の風の下位絶技同士で弾き合う。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「っ、このガキバフを受けただけの筈なのに俺を上回り始めただと⁉︎」

 

 しかしそれは先程の焼き直しでは無い。

 ロマンはバフを受けた事、そして後衛の2人を守る為に奮い立った結果、剣に勢いが乗り魔族の槍を弾く回数が明確に増えていた。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「うお、ぐ、懐にぃ‼︎

 ぬおおあぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

 そして遂に懐に飛び込み斬撃と突きを連発し魔族を後退させ始め槍の持ち柄等で魔族は徐々にガードをするしか出来なくなっていた。

 そしてその背後にアルとルルが回り込み、無防備なその後ろ側から攻撃を開始する。

 

「今度こそ食いやがれ、震撃斧ぅぅ‼︎」

 

「はぁぁぁぁぁ、『暴風剣』‼︎」

 

「な、ぐぁぁぁぉ‼︎」

 

 そしてアルとルルの攻撃をまともに受けてしまいアルの斧で右腕を肩から叩き斬り、ルルの双剣は鎧の背面の間を縫いながら突き刺され刃が背中に突き刺さり、それを更に間を縫いながら滑らせ抉り斬り魔族のバランスが崩れる。

 

「ロマン君ちょっと退いて、『暗黒撃(ダークバースト)』‼︎」

 

「『爆炎弓』‼︎」

 

 そしてエミルがロマンに退く様に叫ぶと、ロマンはエミルとサラの2人の射線上から離れ、アルとルルも既に離れてた為闇の上級魔法で放たれた闇の波動と火の上位絶技により爆炎を纏った矢は魔族の肉体に直撃し、それぞれのダメージを重く乗せる。

 

「グフッ、だがまだまだだぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 すると魔族は斬り落とされた右腕を取り、回復魔法(ライフマジック)で全快と行かずとも斬り落とされた右腕を癒着させて再び槍を構え、更に身体強化(ボディバフ)も掛けたのかロマンと再び弾き合いになった瞬間最初の焼き直しが発生する。

 

「くっ、さっきからダメージを与えているのに弱る気配が無い⁉︎」

 

「当たり前だ、我等魔族は高等生命、下等生物の貴様等と肉体の出来が違うんだよぉ‼︎」

 

【バキッ‼︎】

 

「うわっ‼︎」

 

 更に魔族はロマンのダメージを与えてる筈なのに堪えて無いのを魔族が高等生命だからと叫び、そして懐に入り蹴りを食らわしロマンをエミルの側まで吹き飛ばす。

 

「先ずは邪魔な後衛と勇者だ、死ねぇ、大水流(タイダルウェイブ)‼︎

 超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

「死なない、こんな所で‼︎

 灼熱雨(マグマレイン)極光破(ビッグバン)‼︎」

 

 魔族はエミル達を殺そうと大水流(タイダルウェイブ)を使いエミルが不意打ち迎撃の際に使われた物と同等の大瀑布と魔族を押さえた時のと同等の闇の孔が押し寄せる。

 しかし、エミルは悲願達成の為にもこんな『名も無き魔族』に殺される訳には、ロマンを失う訳には行かない。

 その為今出せる『全力』の灼熱雨(マグマレイン)極光波(ビッグバン)を放つ。

 

【ゴゥゥゥゥゥ‼︎】

 

「な、何ぃ、お、押し返され…先程と違い本気で放った魔法が何故⁉︎」

 

「魔法は体内魔力の強度や熟練度によって威力が左右される。

 だからこそ言えるわ、お前如きより私の方が何方も上だったって事よ‼︎」

 

「そ、そんな、地上界の者共の中で更に矮小な人間如きが魔族の魔法を上回るなど…それではまるで…ぐあぁ‼︎」

 

【ドォォォォォォンッ‼︎】

 

 魔族はまさか全力の魔法を押し返されるとは思ってもみなかったのかエミルの魔法に驚いていた。

 しかし、エミルにとってみればこんな事は500年前にも出来た事。

 そして現代に転生してからその領域に近付く、否、上回る為に修行を重ね当時の250に1歩1歩近付いていた。

 そして魔族側もこの事象に思い当たる節があったのかそれを口にしようとしたが、魔法が直撃し遮られてしまう。

 

「やったの⁉︎」

 

「いえ、相手は未だ生きています‼︎

 しかも逃げようとしてます‼︎」

 

 サラがエミルに倒したのかを確認するが、エミルは現在透視(クリアアイ)観察眼(アナライズ)を併用し使っている為敵が逃げようとしている事を察知し、体内魔力回復用ポーションを飲み次の魔法の準備をしていた。

 すると爆炎の中から魔族が右腕は吹き飛び、左手で槍を持って空を飛び逃げようとしていた。

 

「逃がさない、乱風束(バインドストーム)‼︎」

 

「なっ、うおぁ‼︎」

 

 そして飛び去ろうとした所で乱風束(バインドストーム)に空中で捕まり、動けなくなりながら嵐を超える吹き荒れる風の中心で身体を漆黒の鎧ごと切り裂かれながら防御しようと結界魔法(シールドマジック)を使うが、その結界すら破られ始めてエミルの眼から見て魔族は焦り始めていた。

 

「今よ皆、あの中に攻撃を‼︎」

 

「おっしゃあ、行くぜぇ‼︎」

 

「分かったよエミル、此処で………斃す‼︎」

 

 そしてエミルの指示により全員が武器や杖を構え、絶技と魔法を乱風束(バインドストーム)内に叩き込もうとする。

 ロマンもあの魔族を逃したら駄目だ、そんな確信めいた物を感じ取り意志のある敵の命を奪う覚悟をして剣を構えた。

 

「くらえ、極雷斧‼︎」

 

「はぁぁぁぁ…『暗黒破』‼︎」

 

「爆炎弓‼︎」

 

「光流波‼︎」

 

超重孔(ブラックホール)‼︎」

 

 そしてロマンやアル達が雷、闇、火、光の上位絶技により戦斧から極雷と暗黒の闇を纏った逆手から普通の持ち手に変えた双剣による重ね一閃、弓から真っ直ぐ放たれた爆炎の矢、光を纏った剣の閃光の斬撃、そして闇の最上級魔法による暗黒の孔による超重力の拘束と圧殺が魔族を襲い、それぞれが直撃して大爆発を起こした。

 

「今度こそやったよな、エミルさんよぉ‼︎」

 

「爆煙の中から力尽きて落ちて来る姿が見えます…」

 

 アルは今度こそやったかとエミルに叫ぶと、爆煙の中から力尽きて落ちて来る魔族を確認していた。

 そうして飛ぶ力も失った魔族は地面に叩き付けられ、その場を転がった。

 また力尽きた際に鎧の一部が破損したり槍を手放してしまい地面に突き刺さる等勝利は確定した瞬間だった。

 しかしエミルは杖を構えたまま魔族に近付いて行き警戒した様子だった。

 

「エ、エミル、戦いは終わったんじゃ」

 

「まだだよロマン、魔族も魔物の様に死ねば熟練度元素(レベルポイント)が発生すると書物やお母様の話にあった。

 つまりは」

 

「まだ生きてやがんのか、しぶとい奴め、首を刎ねてやる‼︎」

 

 ロマンはエミルの様子に戦いは終わった筈と話したが、其処にルルが書物やリリアナの話から魔族も死ねば熟練度元素(レベルポイント)が発生する事を話した。

 ロマンはそれを聞き、自身の強さが変わった感覚が無かった為魔族が死んでいないと判断し、アルもサラも武器を構えてゆっくりと近付き始めた。

 

「………やっぱりアレで死んでないなんて、私もまだまだ修練不足ね。

 それで、お前には何か逆転の手はあるの?」

 

「は、はははは、今からアギラ様や他の仲間を呼び逆転を図ってみせる! 

 アギラ様のレベルは280、お前達が今勝てる様な相手では無い! 

 さあアギラ様、そのお力でコイツ等を………はっ? 

 な、何を仰られているのですかアギラ様‼︎

 早くコイツ等を………そ、そん、な………」

 

 エミルは魔族に逆転の目はあるかと聞くと、魔族はベラベラとアギラと言う名の魔族を口にし、更にそのレベルは280とエミルも流石に驚くべき数値を耳にしてしまう。

 それは自身がライラだった時の勇者一行のレベルを優に超えるからであった。

 その為矢張りかつての自分超えをする事が急務とプランに急変更を入れると、魔族は何故か独り言を話し、勝手に絶望して空を見上げてしまっていた。

 

「何だコイツ、独り言を話しやがって」

 

「アル、魔族はあの額にある赤い水晶を介して念話が可能なんだよ。

 お父様やリリアナ様が確かにそう言ってたよ、ね、ルル?」

 

「言ってたわ。

 そしてアギラ様とか言う魔族の名を出した後勝手に絶望した所を見るにそのアギラに見捨てられたと推察が可能よ」

 

 アルはブツブツと独り言を話した魔族を怪訝な目で見てると、サラとルルが魔族は額にある赤い水晶で念話が可能、更には勝手に絶望感に満たされている所を見てルルはアギラと言う魔族が死に体のこの魔族を切り捨てたと推察しながら次にエミルが何をするのかを見届ける気で居た。

 

「…逆転の目は無くなったわね。

 じゃあ心置き無く止めを刺すわ………但し、コレは貰うわ‼︎」

 

【ググッ、ブシャァ‼︎】

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 エミルは逆転する事が無くなった魔族に止めを宣言し魔法で殺す………かと思った次の瞬間、エミルは魔族の赤い水晶を引き抜くと言うロマン達も理解し難い行動に出た。

 そして水晶を引き抜かれた額からは青い鮮血が噴き出し、その血がエミルに掛かりながら魔族は踠き苦しみ始めていた。

 

「それじゃあ止めよ、消えなさい、『星珖波(スターバースト)』‼︎」

 

【キィィィィィン、ドォォォン‼︎】

 

 そうして漸く止めに入ったエミルは光の上級魔法を使い、星の光を集約して炸裂させ魔族を消滅させた。

 容赦無く、問答無用に。

 

「エ、エミル、何でその水晶を引き抜いて態々苦しめる真似を…?」

 

「別に苦しめさせる意図は無かったわ、ただ将来的な事に必要な物だったから引き抜いたのよ。

 それより…そろそろね」

 

 ロマンはエミルの行動について本人に問うと、エミルは将来的に必要だと話すだけだった。

 ロマン達には分からないがエミルにはしっかりとした目的があった。

 それは前世に残して来た課題であり、絶対にその課題を終わらせなければならないのだ。

 そしてエミルがそろそろと告げた次の瞬間、ロマン達はレベルが自分自身で明らかに上がったと感じる実感を持ち自身の手を見ていた。

 

「これって…レベルアップ? 

 でも明らかに強くなり過ぎてる気が…」

 

「当然よ、相手はレベル173と私達を上回ってた魔族よ。

 でもお飾りのレベルみたいで魔法も絶技も余り強く無かったわ……兎に角、サラ達もロマン君もレベルが20以上上がったわ。

 正確にはサラがレベル180、アルが184、ルルとロマン君が182よ。

 おめでとう」

 

 ロマン達は明らかに上がり過ぎたと感じる自分のレベルに違和感を感じていた所、エミルは黙っていた相手のレベルを明かし、その数値は173と明らかに自分達1人1人を上回る物であった。

 しかしエミル曰く飾りらしく、魔法も絶技も強く無いと言い放ち、しかしエミルもやや肩で息をしながら話を続けてロマン達全員はレベルが22も上がると言う違和感の正体を話していた。

 

「ほう、レベルが22も上がるか。

 なら魔族狩りでもやってみるか?」

 

「駄目よ、故意に魔族に挑むのは危険よ。

 特に名前がある魔族は全員レベルが220を優に超えてるって文献であったわ。

 そしてアギラと言う魔族のレベルは280だとさっきの名無しの魔族は言ってた。

 この事から私とロマン君はレベリングをしながら探し物をする事になったわ。

 アル、もう一度だけ言います、魔族狩りは駄目。

 名ありの魔族に当たれば死ぬわ」

 

 アルは此処で冗談半分で魔族狩りをしようかと提案した所、エミルは猛反発しライラの時の記憶や遺された文献から名前のある魔族に当たれば確実に死ぬ事を警告で伝え、2度も同じ事を念押しで言い放ちサラやルルもアルを心配した目で見ながら魔族狩りは駄目だと雰囲気で伝えていた。

 

「…けっ、冗談だよ、真に受けるなよ」

 

「それで良いわ。

 後、皆に言って置く事があるわ。

 500年前に冒険者推奨レベルが150以上必要だったのは何故か、よ」

 

 アルは冗談だと言い切り戦斧を背負いながらそっぽを向き少し地雷なジョークだったと内心感じていた。

 するとエミルは500年前の冒険者推奨レベルが何故150以上必要だったかを言うと話し始め、サラやルルは親から聞いてる為改めて復習を兼ねて聞く様にし、ロマンとアルは先程の名無しの魔族との戦いの後にそれを言う事にある程度予測が付き、しかし黙って聞いていた。

 

「それはエンシェントドラゴン等が今より居たのもあるけど、本当の理由は名無しの魔族の時点でレベル150オーバーだったからなの。

 これは王家の中に秘匿されたライラ様が残した検閲文献の中にそう書かれていたからよ。

 だから私は魔王討伐に当たりフィールウッド国の最北の世界樹で千里眼(ディスタントアイ)転移魔法(ディメンションマジック)が使えるレベル140を最低ラインにしてレベリングしたのよ、10程度の差は工夫すれば埋められるから。

 実際は163になったけれどね」

 

 エミルはライラの時の記憶や検閲文献内に書かれたその理由、名無し魔族の時点で最低150オーバーのレベルを持っていたからである。

 そしてエミルが最低140を目指したのも千里眼(ディスタントアイ)転移魔法(ディメンションマジック)を支える最低ラインでもあり、レベル10程度なら差を埋めるが可能な為でもあった為である。

 

「…そして、こうやって魔族が平然と現れた…つまりお父様達が言っていた戦いの刻が来たってことになるね…」

 

 それ等を聞き場の空気が重くなる中でサラが最後に賢王ロック達の言っていた戦いの刻が来たと告げるとルルも頷き、エミルも実感として持っていた。

 名無しの魔族が自分達の前に現れ、名ありの魔族に念話をしていたと言う事はそれ即ち、門の封印が完全に解けている事の証明であるからだ。

 更にそうであるならば魔界からの侵略が再び始まるのもそう遠くないのだと、その場に居た5人は理解せざるを得なかった…。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
ルルはフードを取るとスイッチが入り性格が超強気になる一癖ある子でした。
そして名無し魔族でレベル150オーバー、500年前の世界は魔境だったのです。
さて、今回は属性の関係についてです。
火と水、風と土、光と闇は反発し合い、雷は水系に大ダメージを与え、氷は強ければ火すら凍らし、雷と氷も反発しない様に見えて反発作用が発生します。
そしてこの反発作用の中で威力が上回った方の魔法は打ち勝ちますが威力がその分減らされます。
そして火は風と土に、水は土と風に対しては互いを助け合って片方の威力を上げたり拘束力を上げたりと副次効果が発生します。

次回もよろしくお願い致します。

追記:乱風束のルビ振りが初期案とごっちゃになって投稿されていたのに気付き過去投稿分の物までを修正しました、大変失礼致しました。

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