京浜第3シェルターのアイツ 作:FD一枚ケルベロス
旧約以外にも偽典女神転生の設定、ストーリーなどが混じっています
ずるずる。
ずるずるずる。
中華街、その片隅で見つけた中華料理屋でヒデトは担々麺を啜っていた。
(美味い)
ずるずる。
この時代、この世界の飯はどこも美味いと感じる。
思い返すのはシェルター暮らしの限られた配給制と、外に出てから雑多な食えるだけでいい飯。
探索の最中には大体期限もわからない缶詰や、携帯食料品を齧りながら、悪魔と戦っていた気がする。
(いや、魔界でも美味いのを食べたな)
ビストロアングリー。
魔界の怒りの地で立ち寄ったレストランで食べた記憶が蘇る。
自分がスタミナ定食(白蛇の蒲焼き 電気鰻丼 朝鮮人参のケーキ)で、彼女が珍味ディナー(フォアグラ ニライタメ定食 キャビア丼 トリュフの土瓶蒸し)だったか。
(意外と人間界の食料も、魔界人の口に合うんだったか)
あそこの店主はゾンビだったわりにはいい腕をしていたし、あそこのテイクアウトでモーラと交渉も出来た。
(また魔界にいったら寄るのも悪くないな)
懐かしい思い出に浸りながら、担々麺の汁を啜る。
辛い、痛さにも似た味だが、心地よく感じる。
この世界に来てから数ヶ月、様々な場所にいったら悪魔も探さなければ見つからない程度に少ないし、表立って悪魔を信仰する教団もいない平和さだ。
過去の記憶資料などから見たことがない人間らしい生活というのだろうか、それがある。
戦力の確保とレベル上げに全国を回りながら、ヒデトはその生活を見て回り、様々なものを口にした。
遠い記憶というにはまだ生々しく、まだまだこの世界の暮らしには馴染みきれていないが、それでもこういうのは嫌いではない。
自分にそんなことを思える感性があったことに我ながら苦笑している。
(次は何を食べるかな)
腹の心地を確かめながら、片付けていたメニューを開く。
全国を廻り、もう一度邪教の館を探そうと都心部に戻ってきて寄った中華街だったが、この店は当たりだ。
「ヴィクトル! 次運びなさい! ちんたらしないの!」
「ええい、何時に成ったら終わるのだ! ようやく念願のプログラムが手に入って、いざ研究というのに! 私は会計だったのでは?!」
「休日にやりなさい休日に!! 電気代嵩むし、またブレーカー落としたら只じゃおかないわよ! 家賃分は働け!! 手が足りないのよ!」
「ぬおおお! いらっしゃいませー!! 太陽があつーい!」
黒髪の美人店主に叱られれながら、血色の悪い店員がわたわたと働いている。
ゲコゲコとどことなく悪魔な気配もするメイド(とかなんか見かけた?)風味の店員が、それ以上にせかせかと働いている。
とても忙しそうだ。
まあここの飯は美味いし、美人がいるとなれば客も来るだろう。
(お金を稼ぐというのも大変だな)
こっちは道具を揃えて悪魔を殺すだけで大体事足りるが、そうでない場合はもっと大変な気がする。
そういえば彼女と魔界の魔王全部斃したら、悪魔も地上に出てこなくなるかもね。
なんて会話をして、そしたら何をやるか笑いながら話したような気がする。
(ネットで調べたところ、プログラマーというのも悪くないが、どこかの会社で研修受けながら覚えるんだろうか。新しい言語はたくさん出てるみたいだし、あ、その前に高卒認定テストの対策もか)
さすがに大卒認定試験は色々勉強が足りない。
戸籍はなんとでもなったが、そろそろどこかに拠点を作るべきか。
幸い金はある程度溜まってきたし、ガイア連合の貸し出し工房サービスなどもあるが、それらは大体予約がいっぱいか、大きな組織の紹介状がないと門前払いだ。
おかげで旅の途中とサイバネ博士のところで身につけた知識技術で義手を整備し続けているが、どこかで一度オーバーホールをしたい。
サタンとの戦いに、唯一神との戦いから動かしっぱなしだ。
ある程度は
(いやしかし、まだマグネタイト屋も見つけてないし、封印されてるという悪魔も一部残ってるしな)
どこのダンジョンにいっても、たまに遭遇していたマグネタイト売り*1に遭遇していない。
そして、どこかしらにいた悪魔使い*2も殆ど見かけない。
(サイバネ博士も悪魔召喚プログラムを研究していたくせに、存在していたことを知らなかった)
この世界に存在しているかかわからないが、自分の義手をかなりの値段で接合手術をしてくれた博士の言動を思い出す。
まああれは研究し過ぎて頭わりとおかしくなってたけど。世界征服するとかいってたし。
いや、他の悪魔使いはたしか……滅んでいたレジスタンスの使っていたものを再利用してたか?
(魔王バアル、東京を支配し、天使すらも従えた超越存在)
俺と親友がシェルターにいた時代よりももっと前に人類の反撃は終わった。
ICBMで世界中の人間は死んで、放射能や、出現していた悪魔に対して、機械技術などで装備していたデビルバスターなどが必死に応戦していたという。
東京を支配していた悪魔に対しても、レジスタンスが結成され、戦っていた。
だがそれも結局全滅した。
女神イシュタルを崇めていたイシュタル信仰や、魔王バールを崇めるバエル信者などが東京にいたらしい。
まだ人間と悪魔が争って抵抗していた時代で。
だがそれも結局滅んだ。
俺と親友がシェルターから出たのは何もかも終わった時代だった。
悪魔に支配され、無力な人々はサバトを行い、何もかもが悪魔に置き換えられた世界で。
魔王ルシファーは斃されて(まあ結局は氷漬けに封印されていたが)、その混乱していた時に出ただけで。
全てを殺し尽くすだけでは何も変わらなかったのか。
(難しいな)
彼女のように、自分は魔法も使えないし、プログラムなしでは悪魔も呼び出せない。
やれることは悪魔を殴り、斬り、銃で撃つぐらいだ。
悪魔に苦しめられている人がいればその悪魔を倒すか、交渉する。
人に苦しめられている悪魔がいれば話を聞いて、取り成すか、どうしょうもないならそいつを倒す。
それしか出来ない。
「色々考えることも多いな…………」
ため息が出る。
まあ何か腹に入れればいいアイデアも出るだろうと、追加を頼もうと手を上げようとして。
――ENEMY ALERT――
サイバネアームが警報を表示していた。
「全員伏せろ!!!」
感じた寒気と、外窓から見えた魔力の輝きに声を上げて、荷物を手で掴んだ。
窓ガラスが粉砕された。
・
・
・
メイガス。
そう呼ばれるメシアンたちの指導員となり得るほどの
秘密裏に向かったのは横浜の中華街。
すなわちチャイニーズ共がいる異端の依代であり、必然中華戦線とも縁が強く、安全な日本へと逃れた華僑の縁者も多い。
(ガイア連合を、毒婦たるチャイニーズ共から引き剥がす。さすれば正しき信仰にすぐ目を覚ますに違いない)
メシア教ガイア派に対して、そのメシアンは盛んに叫ぶ自称穏健派の言葉を
故にそれを毒す多神連合や、中華戦線、信仰を違う者たち全てを敵と見なしていた。
意見を共にする同士たちも動き、中華街を囲うあちこちで一斉に
「なにしてくれてんだてめえら!!」
「やめろや! 人どんだけいると思ってんだ!」
「これだからメシアンは」
「デュエル開始ぃ!」
だが呼び出さんとした同士たちの多くは、その寸前で飛び込んできたガイア連合の戦士たちに阻まれ、あるいは天使を封じる結界にて討たれ、一部はプログラムの発動を阻害された。
「くそったれ! 天使召喚プログラムの対策システムなかったらアウトだったぞ!」
男を逃さんと、その身をもって立ちはだかった仲間を聖書型COMP諸共両断した戦士が叫んでいた。
(
逃げる、必死に逃げながら、ついに天使を裏切った異端共めと男は罵倒を繰り返していた。
サタニスト、魔女、天使を裏切る、神へとツバを吐く行為を行った者共へ、無限にも思える義憤の怒りが漏れ出し、その足のままに中華街へと飛び込んだ。
本来使うはずの聖書型COMPは初手にて叩き落されていた、同時に腕は折れている。
だが震えながら懐から取り出したのは携帯型ゲーム機。
与えられた天使召喚プログラムを、改造を施した携帯型ゲーム機にインストールしていたそれは戦士たちの目を免れていた。
(呼び出す、我が生命を全て捧げてもよい、汚らわしい神を信じぬものたちに鉄槌を!)
設定されたのは中華の偏見たるもので
これを暴れさせ、中華戦線の者共による日本への被害を出す。
さすればその本心をついに彼らも理解するだろう。
「ふぁはーははは!! いでよ、天使様!」
必死に走り出し、十字路のど真ん中で叫び声を上げた老躯の男に怪訝な顔をする通行人たちに、狂った笑みを浮かべて。
彼はスイッチをいれて。
―― ERROR ERROR ――
「は?」
起動しなかった。
「
ドドドドドという音が聞こえそうなほどの気配が後ろに。
男はゆっくりと振り返り、それを見た。
両手をポケットにいれて、黒い学ランを着た青年を。
「な」
「オラァ!!」
学ランの青年の拳が腹部にめり込み、ゲーム機が吹き飛ぶ。
上げられる悲鳴を、
見た目からはガクッと倒れた男を、学ランの青年が受け止めたようにしか見えなかっただろう。
「まったく、ちょっと医者に連れていくぜ。大人しくしていろよ、じいちゃん」
口を塞ぎ、見えないところで骨を数本へし折って、びくびくと痙攣するのを抑えながら、アピール。
通行人たちがあ、そういうこと。という雰囲気で目をそらしたのを見ながら、彼は帽子のつばを抑えた。
「やれやれだぜ。デビサバされたらたまったもんじゃねえからな」
完全に失神してるのを確認し、目を落ちた携帯型ゲーム機――奇しくもCOMPと呼ばれるだろうものに向ける。
「悪知恵だけは本当に働くな。これもメガテン補正ってやつか、くそったれめ」
確かプログラムを入れるだけで加護が入る、ゲーム機でも異界でも動くようになる。
そんな説明を思い出しつつ、彼はゲーム機を拾い上げて。
見た。
―― OPEN FULL SUMMON ――
「なに?」
手にした端末機からぎゅるぎゅると音を立てて、マグネタイトが奪われる!
「馬鹿な、こいつは!?」
―― JESUS ――
救世主を
―― DESTROY ――
破壊せよ
「ス○ープラチナ!!!」
空間が膨張する、即座に
その拳がゲーム機に叩き込まれ……――
「!? シアーハー○アタック並の耐久力だとぉ!!」
物理無効か、あるいはそれ以外のギミックか。
とにかくまずいと距離を取り、飛び上がった地面が揺らいだ。
(まずい!!)
この兆候を、青年は知っていた。
幾度にも挑み、破壊し、あるいは生み出されたものを。
異界。
世界が変貌する。
「承太郎さん!!」
「ジョータロー!!」
「下がってろ!! こいつはやば」
駆けつけてきた転生者の仲間に声をかけながら、彼は視界が白い光に塗り潰された。
なにかまずいことが始まる、始まっていた。
その予感を確信しながら。
・
・
・
世界が一変した。
転移した時にも似た感覚、掴んでいた荷物と武器をチェックしながら、起き上がる。
「……異界化か」
店の配置は変わっていた。
正確に言えば、外と内側の光景が変わっていた。
悪魔の気配がところどころからする。
(人は、いない、いや取り込まれたか)
一定以上の異界となると、覚醒していない人間では変換された異界に取り込まれてしまう。
早く解除しないと、どれだけの人間が廃人化するか。
(店員も、店主もいない。取り込まれたか?)
ざっくりとアナライズした時は全員とも
どちらにしろ早く助けないといけない。
銃と武器を確認し、フル装備に身を固める。
最後にマントを羽織り、外へと出る。
空は……黒く染まって、月は銀色に輝いていた。
悪魔の気配が濃い。
これは取り込まれた人間の影響か?
―ANALYZE――
悪魔召喚プログラムを起動、内包エレメントから神話体系を抽出、解析する。
(【仙族】と【ヘブライ神族】……仏教と大陸系か? インドもあるだろうが)
あとは直接戦って、基礎レベルと傾向を見ないといけない。
―SUMMON――
| 種族 | 天使 | ニケー | LV36*3 | 属性 CHAOS-LIGHT |
| 相性耐性 | 火炎弱点 氷結・電撃・爆発・破魔に強い 呪殺無効 |
≪勝利を捧げるは我がサマナーのみ≫
| 種族 | 飛龍 | パイロン | LV35(64)*4 | 属性NEUTRAL-NEUTRAL |
| 相性耐性 | 火炎・氷結無効 ガン・神経・精神に強い 破魔無効 呪殺反射 |
≪ぅぅぅう! まったくようやくの出番だナァ!≫
「頼むぞ、ニケー、パイロン」
≪任せてオケ! 飛ぶか?≫
≪私が護衛に付きましょう≫
「空の警戒を頼む、まずは地上から取り込まれてない人がいれば助ける。情報収集だ」
加速度的に激化する戦いの中で出せずに、眠らせていたかつての仲魔たちに手早く指示をしながら、周囲を警戒。
何が起こったのか。
何者かの戦いの余波?
だがここには人が多い。
(また人が殺され回る光景を見るのはうんざりだ)
ヒデトは決意し、天使と龍を連れて歩き出した。
今のこの環境で悪魔を、天使を引き連れて歩む意味を理解せずに。
「見つけたぞ、メシアン!」
「ぶっとばすのじゃ!」
二度目の、ガイア連合との戦いが始まる。
次回 VSガイア連合精鋭です
転生者のデタラメさをお楽しみに