京浜第3シェルターのアイツ 作:FD一枚ケルベロス
この世界線においてはある歪みが存在しています
決着は付いた。
「まったく、久々に汚れを付けられたよ」
パンパンと煤汚れのついた手を叩く。
十代半ばの少年にしか見えない男性――神主の周囲に無事なのはたった一人だった。
肩で息をし、それでもなお側に神主を守るように立つ妖鬼オンギョウキ。
それ以外は全滅していた。
雑魚だと舐めていたネコマタはフラグを立てたように地面にめり込まされて
強面の傷だらけの男、神主が信用する幹部の霊視能力をもつ男は――
「フィネガンはまだ戦えるみたいだけど、君が落ちれば勝ち目はない。わかるだろう?」
真っ向から式神モードレッドと殴り合っているフィネガンを見る。
そして、未だに剣と銃を構えて、ネコマタを討ち倒し、オンギョウキに手傷すら負わせた少女を見る。
「魔女
転生者とごく僅かな現地人以外にはありえないはずの神主の式神すらも打倒した魔女。
「常世の祈り」
| 常世の祈り | 回復スキル | 味方全体のDEAD/FLY以外のバッドステータスをすべて回復。HPを最大値まで回復 |
ついでにサマリカームを続けて発動、死亡状態のネコマタを回復し、結界*1を構築。
当然のように三回行動を行うそれに、ロザンナと呼ばれた少女は呆れた顔でいった。
「まったく、魔王かなにかかしら」
「よく言われるよ」
「まったく地上でこのレベルって……あー、きっついわ」
ぜーぜーと息を吐き、手足も折れて、吐血をしているというのにまるで心が折れていない。
それどころか未だに戦う気概も消えていない。
その上で奇妙なのが……
(本当に、ただの異能者か……?)
「ぬ。不覚を取ったな、勝負はついたか」
睨み合い、さてどうするかと考えたところで後ろから声が聞こえた。
霊視ニキと周囲から呼ばれる男がむっくりと起き上がっていた。
「大丈夫? 初手で床ペロしてショック受けてない? 覚醒した?」
「やめろ、それで覚醒したなんかいったら魂砕波リンチを覚醒コースにいれるだろ」
「うん♪」
「相変わらず人の心がない」
初手で魂砕波*2を、
「霊視ニキ、アナライズを」
「ああ」
―FULL・ANALYZE――
| 種族 | 人間 | 魔女ロザンナ | LV51/84 | 属性NEUTRAL-NEUTRAL |
| 相性耐性 | 破魔・呪殺無効 精神・神経・魔力に強い |
| 種族 | 人間 | 悪魔召喚士フィネガン | LV38/54 | 属性DARK-NEUTRAL |
| 相性耐性 | 破魔無効 呪殺・精神・神経・魔力に強い |
「ロザンナのレベルは51・限界84。フィネガンは38・限界54だ」
「
(やっぱり転生者じゃない。
多少の個人差はあれども、覚醒の早く遅いはあれども、大半がレベル限界の打ち止めに達したことはない。
成長した霊視ニキの霊視があれば、ある程度の限界点は見えるが、それでもまだ上にいける。
そも、レベル51程度でレベル80オーバーのオンギョウキに手傷を負わせている事態おかしい。
「不躾な観察遊びは終わった? そこの猫ちゃんが、私たちで弄びたがってるけど」
「舐めるな人間が。一度のまぐれで、悪魔に勝てたつもりか。魂まで裂いてくれる」
「下がれ、ネコマタ。彼女はお前で勝てる相手じゃない」
叩かれた軽口に、神主の前で恥をかかされたネコマタが毛並みを逆立てて唸り声を上げるが、神主が制止する。
キャラ付けの語尾も忘れて、殺さんとするのはそれだけ危険視している証拠だ。
あのゴトウ相手にさえ、余裕を持って実験しようとしていた彼女がこれだ。
使われている装備も、レベルも、こちらに比べれば劣るものに過ぎないのに。
探りの意味でぶつけたシキガミも、ネコマタも打倒し、仕留めに入ったオンギョウキの不意打ちを凌いで、神主にかすり傷を負わせた。
もちろん全力でのやり取りではない。
周囲の被害も考えて、全速で走り抜けたわけでもない、が。
彼女とフィネガンは戦えた。
それがどれほどの異常なものか。
「とはいえこれで詰みだ。ピラーを渡してもらおうか、それは人の手には余る品物だよ」
「そうね、同感だわ。穏便に渡してもらおうと思ったらいきなり殺しにかかるわ、物凄い数で追手がかかるわ、ひどいものだわ」
「……色々事情があるんだよ。クソ邪神とか、面子を守るためとかね」
「? 崇拝してる神の指示かしら、貴方レベルなら大抵の邪神ぐらい潰せそうだけど」
「こちらの前に出てくれればね。まあいいや、とにかく渡して欲しい」
悪魔が化けているなら、もう霊視ニキに看破されているはず。
化けの皮を剥がす意味で追い詰めたが、Nが付く奴の化身でもなさそうだった。
(これ以上抵抗するなら、めんどくさいし消そ)
「それで魔界を開いて、終末を早められたら困るからさ」
「生憎、魔界に行くのに必要だから渡せないわ」
「ん?」
「ん?」
「?」
神主が首を傾げた。
魔女が首を傾げた。
霊視が、なんか違くないかと顎に手を当てた。
「……ちょっとまて。それで魔界の門を開くつもりじゃないの?」
「そうね、開く予定よ。まあここの東京だと開けそうにないからまた爆心地を探すけど」
「…………魔界にいくって?」
「魔界に渡るための道具でしょ、これ」
「…………魔界の門を開いて、GPアップとか」
「…………………………あー、開き放しだとなるかもしれないわね」
「………………」
「………………」
何かがおかしい。
二人が沈黙した。
「あのー、ちょっといいか?」
おずおずと霊視の男が分厚い手を上げる。
「どうぞ」
「いいわよ」
「なんのための魔界にいくんだ? 魔界なんかに人間が行ったら死ぬと思うんだが」
極々常識的な疑問に、魔女は「まあ信じないでしょうけど」と前置きをして、言った。
「ある奴を倒しに行くの。そうすれば世界を救えるから」
彼がいないと多分無理だけどね、と付け加えて。
・
・
・
それからしばらくあと。
ガイア支部の特別隔離室にて。
「あ、ヒデト。元気にしてた?」
「ロザンナか。良かった無事だったんだな」
ヒデトが連行されたガイア連合支部で、同じように確保されていたロザンナが再会した。
「いやあ、君も無事だと思ってたが、ここで仕事してたのかい?」
「半分正解半分外れ。ちょっとここのボスに打ちのめされてね、戦っても勝ち目薄いわ」
「アスタロートにでもまた攫われたのか?」
「多分あれより強いわね、アフラ・マズダぐらいよ」
「ん。となると二人でやらないと無理だな」
「そうね。ま、今の装備だとよく考えないと大体死ぬわ」
「だろうな」
二人がそんな会話をしていて、見張りに付いていた強面の男――霊視ニキと承太郎は顔を見合わせていた。
「あの男、あんな感じでいいのか?」
「割と無頓着というか天然だな」
情熱的なハグをするまでもなく、お互いの無事もそこそこに情報交換をしている。
その態度には、当然のようにお互いが無事だという信頼。
そんな絆があるんだろう。
「ヒデト。貴方はいつからここに? 私は二年前ぐらいからよ」
「時間が違うのか? 俺は大体半年ぐらい前だ、ああだからレベルが君のほうが上なのか」
「そうね。ここにきてからかなり弱くなっちゃって、頭痛かったわ。色々常識も違うし、まーた魔女なんて呼ばれるし」
「まあ美人だからな」
「なによそれ。今更口説いてる?」
「事実だろ、君は綺麗だ」
「はぁああ……相変わらずよね。センダがキレたのも当たり前よ」
「別に色香に負けて君の言葉を信じたわけじゃないんだが……」
「はいはい、それならもう飽きるほど聞いたわよ。本当だっていうのものね」
(ぬ。これはかなり甘えているな、うちのと同じ顔をしている)
所帯持ちの霊視ニキはロザンナの態度の変化に目ざとく気づいた。
承太郎は(クールな関係だぜ) と思っていた。
そんな時、扉が機械音を立てて開いた。
「やあやあおまたせ、またせたかな?」
「チェック完了したよ。あの腐れ邪神の気配はなし、安全だ」
神主とその後ろから色白の少年が入ってくる。
承太郎と並ぶペルソナ使いとしての代表だ。
本来ならもう一人ハムネキと呼ばれる幹部級がいるが、彼女は壊滅的にコミュ能力がないため呼ばれていない。
ガイア連合でも実戦派の幹部が並ぶ。国外に出ているもの、国外支部長を除けば神主が信用しているメンツだ。
室内の圧力が増して、武装解除されているヒデトと同じく武装も取り上げられて魔封状態のロザンナが神主を見た。
「さて。こんな狭いところに押し込めて悪かったんだけど、色々事情もあってね。お話していいかな?」
「国津神と天津神の見張りに、何十体と国外の悪魔の監視網が付いてたわね。私も本来ならそこらへん外せるんだけど」
「悪いね。一応こっちでも外すように気を使ってたんだけど、混ざってたかい?」
「ここに来るまでに身支度はさせてもらえたからね。ヒデトのほうは、まあ保食神嫌いの奴が祓ってるはずだけど」
「? 直接仕掛けて来るときでもなければ気にしないが」
「……あんたねぇ」
「?」
慣れ親しんだコンビ漫才をするヒデトとロザンナに、少年が肩を竦め、神主がパンパンと祓いの作法で手を叩く。
「さて、ロザンナ。僕らは条件を守った、ヒデトを保護して連れてきた」
「俺を?」
「彼女の目的を明かしてもらう条件として、君の保護と合流をさせること。これは君が本物かどうかロザンナが確認する意味もあった」
「間違いなく本物よ。私が知っている時よりもレベルは下がってるけど。あ、そうだ。手持ちの悪魔はどうなの?」
「うん? MAG不足で呼べないがあの時のままだ。多少交渉して増やしてるが、ゼウス、アフラマズダ、カーリー、ハヌマーンもいる」
指折りヒデトが数える悪魔の名前に、神主たちが「こいつマジであの悪魔召喚プログラム持ってやがる」という顔をした。
色白の少年に至っては赤い目も相まって、どこぞの通報大好きウサギみたいな顔をしていた。
「おーけー、戦力には十分ね。あとはレベルを上げ直して、装備とピラー集めればいいわ」
「うん? ロザンナ、ピラーを集めてたのか」
「ええ。貴方が協力してくれると思ってたからね、今度こそアレを成し遂げるわ」
「……なるほど。殺し損ねてたか、あの大魔王も手持ちから何故かいなかったしな」
「多分ね。どちらにしろ四大天使も動いてるわ」
「俺の責任か。まあ全員殴り倒すか」
「そういうこと♪」
「そこまで。気になる情報があったけど、それは後で吐いてもらうとして」
神主が口を開く。
「ピラーを集め、魔界に行き、何を倒すつもりなんだ? 魔界の本体や魔王などに戦いたい戦闘狂や復讐者には見えないし、好きに消えてもらいところなんだけど」
「魔界から直接Y.H.V.Hを滅ぼしてくるわ」
「は?」
「殺り直しってところね。ついでに何体か、魔王と邪神も倒してくるつもり。影響を受けてるやつらもいるでしょうし」
「やはり黒幕はあいつか」
「ええ。私も色々この二年間調べてたけど、元凶はあいつとしか思えないわ。そうでなくても北米や、他の国での影響力を削る意味でも倒さないと、この平和な世界が崩れてしまう」
「それは困るな。わかった、やろう」
「貴方がいること前提の目的なんだから断られたら、諦めてたわよ」
「なにいってんだてめーら」
トントン拍子に意見をすり合わせる二人に対して、神主は呆れた顔でため息を吐き出した。
「
どんだけ強いのか想像が出来てないのか。
そんな夢物語に、皆が口を開けた
「すまん、ショタオジ」
「うん?」
「今なんていったんだ? よく聞こえなかったんだが」
「え」
不思議そうに、霊視と承太郎と少年が首を傾げていた。
「神を倒すって言ったんだけど」
「何の神をだ? そりゃあクソざっぱな奴なら俺らでも倒せると思うが」
「邪神はぶっ殺すべきだと思うよ、僕も」
「? なんか食い違ってるんだけど……」
「どうした?」
「信じられないのはわかるけど、真面目よ、こっちは」
「うん? あ」
神主が目を見開いていた。
「……――そういうことか」
「どうした、ショタオジ」
「ちょっとまってくれ――機密レベル最上級指定、結界を最大強化する。監視カメラ、記録を停止。本日分のここまでの情報を破棄、処分しろ」
真剣な眼差しで札を取り出し、それを走らせながら、部屋中に光の文字が舞う。
この場の全員がなにをするつもりだと見つめる中、大きく神主が両手を開いて。
パンっと両手を打ち付けた。
「
「認識阻害? なに、を――――――――――――――――あ」
「あああああああああああああああああああ!!」
「そうか!! ああ、思い出した!!」
目を見開き、三人が遅れて顔色を変える。
「な、なによ。いきなり大声上げて」
「どうかしたのか?」
「神殺し、そうだ。前例がある!!
「……こいつはいっぱい食わされてたってことかな、僕らも」
「むかつくぜ。だが気づけば違和感だらけだった、どーりで誰もそれを提案しなかったわけだ」
「ぼくとしてはまあ死ぬだろうから案としては無しって思ってたんだけどね」
「???」
ガイア連合の幹部たちの騒ぎに、部外者である二人だけがついていけない。
防音を張ったのか、彼らの言葉はすぐに聞こえなくなり、そして五分ほどだろうが。
彼らは話し終えて、ぐるっと二人を見た。
何かしら信じられないものを見るような。
眩しいものをみるような、半信半疑のような目つきで。
「…………えーと、君たちがなにをするって?」
始まりの神殺しは、そう告げた。
この世界における認知の捻じ曲げを受けない観測者として。
これにて造物主の呪いは解かれた。
世界を救うための、終末を齎す造物主へと挑む旅が始まる