京浜第3シェルターのアイツ 作:FD一枚ケルベロス
「それで? 支援をすることに決めたと」
「うん♪」
「軽やかに言うことじゃないんだよなー」
そこは日本のとある人工島。
ガイア連合の技術力と火山神によって生み出された神々と悪魔と異能者たちが集う協議場――ではなく、
ひっそりと静まり返ったガイア連合山梨支部のデジタル会議室。
悪の秘密結社じみた暗がりに、無数のモニタが浮かんでいた。
『しかし、なんでまた今回はWEB会議で? 通信回線はなんとか回ってきた電霊のおかげで繋げてるが』
『だね。ゼウスに電力の消費量を誤魔化すのにマグバッテリーをこそこそ用意するはめになったし』
そう質問するのは地獄と化しつつある欧州、イギリスと
見目麗しい金髪の美青年(既婚、娘持ち)に、未だ年若く燃えるような髪型をした少年。
そんな二人の質問に、会議室の中心でいつものように足を組んだ神主は、側に立つふとましい電子作業担当者に目を向けた。
「
『?』
『なんだって?』
神主の言葉に、モニタの向こう側の全員が目を丸くしたり、首を傾げる。
「……どうだい、今の音声はちゃんと信号化された?」
「ちゃんと信号化して送っているはずだけど、ブロックされたのか、あるいは認識出来なかったのが判別が難しいお。あとこちらで改変した悪魔召喚プログラム(メ)を使った電子通信機で、同じ情報を流した途端、プログラムの加護が一見分からない程度に劣化したお」
「あー、奇しくも最悪の予想通りだったと」
「マジでうちらの技術でも解析不可能な領域があったってことですわなー」
「最悪だね、それだけ恐れてるってわけだ。いや、僕も逆の立場だったらヘラヘラ笑ってられなかったけど」
『あーすまん、話が読めないんだが、つまりなにをするんだ?』
米国からの通信に、僅かにノイズ混じりで通信を繋げている男が声を上げた。
彼が救出をしたのだろうシェルターの一角、うす汚れた壁を背に、深く帽子と全身を覆い隠すコート姿の男。
通称狩人。
米国で起こったクトルゥー召喚及び呼び出された天使たちに寄る浄化と言う名の虐殺の地獄に、単身と餞別に渡された物資を背負い、米国中で天使を狩っては、素手で内臓をぶち抜き、ゲットワイルドを流しながら難民を救出し、米国にて行方不明の友人を捜索しているガイア連合屈指の猛者である。
その映像には膝の上で狩人の胸元に頬ずりを繰り返す
「うーん、
『は? 唯一神を倒す?』
『いや、それが出来れば確かに逆転の一手だが……』
『そんな事出来るの?』
「うーん、これなら通じるのか。こりゃあそれが出来る、出来たってことだけを歪めているとみていいかな」
「だな。とはいえショタオジに解除して貰わないと信じることも難しいだろう、それが可能だという
神主の言葉に、頷く霊視。
「まったく厄介だね。とはいえ、やれることはある。例の画像を」
「おkマル」
ふとましいプログラマーの男はポチポチと、操作を行う。
スクリーンに写し出されたのは太く、柱のような形状の祭具。
『これは?』
「これはピラーと呼ばれる祭具だ。今日本国内を全力で探してるが、まだ3本しか見つかっていない」
「全部で7本あるはずですが、日本国内だけではなく国外に流出した可能性があります」
神主の横に立つ会計事務をまとめる女性は、続いて映し出された幾つかの船と契約書らしき画像、そして幾つかの日本国外の風景を指差した。
「ピラーと思しき品が、イギリス、イタリア、エジプト、そしてアメリカに渡ったと思しき記録が発見されました」
『イギリス、こちらにか?』
『んーどっかでみたような……』
『アメリカってことは、GHQ辺りに押収されたのか』
「こちらでも僕が占術をした結果、おそらく今上げた4つの国にあるのは間違いない。君たちにはピラーを捜索確保しておいてもらいたい」
『了解。イタリアの美術品にあるかもしれない、詳しい人がいるかもしれないから確認してみる』
『突撃使える物資探しの合間でいいなら探しておく』 『レアアイテムかしら? 見つけたいわ』 『イベントアイテムってところだな』
『わかった。イギリス中のコネクションを通じて探しておくが』
イタリア、アメリカ、イギリスの担当者たちが快く頷く中、思い出したように金髪の美青年は片目を細めた。
『エジプトはどうするんだ? あれは多神連合を裏切り、メシア勢力と単独で交戦し続けている敗戦土地だぞ』
「それはこちらで回収にいく予定だよ」
『回収にいく?』
「ああ。例の二人、ヒデトとロザンナの二人と幾人かの希望者を乗せる高速挺を今用意している」
その言葉にモニタの全員がざわめいた。
「彼らが世界中を渡り、ピラーを回収……最終目的地で魔界へと突入してもらう。僕らはそのサポートってわけだ」
シンと音が止んだ。
そして、数秒遅れて、イギリスの支部長が手を上げて発言する。
『最終目的地とは?』
「悪いけど今は言えない。どこから情報が漏れるかわからないからね」
イタリアの支部長が口を開く。
『あの、それって俺たちも魔界にいくってことなのか? 希望者とかもう募ってたりする? ゼウス辺りならノリノリでいきそうなんだけど』
「それはしない。あくまでも魔界にいくのは例の二人だけだ。
首にしがみつく少女をそのままに、狩人は低い声を上げた。
『そいつは、二人を鉄砲玉にするってことじゃないか?』
「はい。その通りです」
平然とした声が響いた。
同席していた女性が、涼やかな顔で書類に目を通しながら言葉を続ける。
「私たちガイア連合は、ヒデト・ロザンナの魔界突入計画を支援しますが、最終目的地以降は支援を打ち切り。あくまでもサポートとして支援します」
「打ち切り?」
「ええ。順当にいけば終末までのメシア勢力影響力の減退、失敗してもこちらへの損害は軽微。装備、物資の支援こそすれどもあくまでも一個人レベルで、私たちの終末対策計画には一切影響は出させません」
涼し気な顔で。否、正確に言うなれば飽き飽きしたような顔を彼女は浮かべていた。
――なんでこんな無駄な手間を取らされているんだろうか。
そんな言葉が顔に浮かんでいると断言出来るぐらいに。
『さ、さすがにそれは人でなし過ぎないか?』
『だよな。いや魔界にいくとか、たった二人で天使も悪魔もどばって出るだろう場所にいくとか、なぁ』
「まあ……お前らからすると当然だろうな、口で説明するのも難しいんだが、うぅむ」
認識の食い違い。
転生者特有の原作知識での前提が通じない、すり合わせが出来ないもどかしさに、霊視は困ったように顔を歪めて。
「うーん、ぶっちゃけるとね。成功の確率殆どないんだよね、これ」
『え』
「『お、おい、ショタオジ』」
「いやもう言っちゃったほうがわかりやすいでしょ。というわけでいいまーす、唯一神の推定レベル~、幾つだと思う?」
『100ぐらいか?』
『いや、108とか煩悩数じゃないか』
『確か真1のセラフが110ぐらいだっけ、となると130とか』
「150だよ」*1
『――』
沈黙が満ちた。
言われた言葉に自信がなく、お互いの顔を見合わせる。
嘘だろ、なにいってんだこいつ、いやもり過ぎでは、そんな言葉が誰かしら上がって、信じたくないようにざわめいて。
「いやーびっくりするよね、マジインフレおかしいっていうか、まあ勝てないよねー」
「ああ。まあそれが今でもそうなのかはわからないがな」
絶望を通り越して実感がわかない。
ファミコン時代、初期のガバガババランスで盛り上げただけのレベルの可能性がある。
認識が正され、正しく原作知識がある面々からすれば実感があるのは
「勝てる見込みはありませんが、投資分の遅延成果は見込める予定です。皆様方にはご足労ですが、ご協力をお願いします」
「この計画のコードネームはプロジェクトイカロスでよろしく。んじゃ、そういうことで」
パンパンと手を叩き、神主が話を締める。
幾つかの短い通達を終えて、会議は終わりを告げた。
彼らの計画も目的も変わらない。
ただ生き延びるために、終末に備える。
それだけなのだから。
今は、まだ――
・
・
・
「どこまで手を貸してくれると思う?」
「最高で、魔界への突入まででしょうね。それ以上は無理でしょ」
「そんなにか?」
目を丸くして驚くヒデトに、ロザンナは月夜の下で艶めく髪を掻き上げながら息を吐いた。
「貴方は不遇に慣れすぎよ、ここ普通なら怒るところでしょ」
「そうか? 正直装備をくれるだけでも十分だし、海外にまで送ってくれるとか親切過ぎると思うんだが。マッカとか払ったほうがいいんじゃないだろうか」
そわそわとお互いに現代じみたラフな格好で、落ち着かない様子のヒデトに、ロザンナは呆れた顔を浮かべて。
「もぉ」
苦笑へと唇を変えた。
「本当に変わってないのね、アナタは。
「不器用なんだ。そもこれから海外にいくとか言われて、魔界より遠いんだろうかとちょっと怖くなってる」
「違う次元にいくより、海を隔てた先のほうが遠く感じるわね」
他愛ない。
とぼけたような会話をしながら、なんとなく空を見上げた。
「月が綺麗だな」
「……! そ、そうね」
「異界とかにいかないと、こんなに月が綺麗でも悪魔が襲いかかってこない。いいよな」
「…………そうねぇ」
「……? なにかおかしいこといったか?」
「自分が考えなさいよ、このゲーム脳」
「あ、かなり久しぶりの罵倒だな。最初の頃だったか、それ。脳が変異してるのかとびくびくしてたぞ」
「貴方の脳もわりとおかしいと思うわよ。右腕千切れておいて、あ、どうしょうなんて平然としてたじゃない」
「いやああんまりにも現実感なくて。サイバネ博士のこと忘れてたら死んでたなー」
「止血しながらでも、普通に歩き辿り着いたのはおかしいわよ」
「頑張りました」
「知ってる」
「そうかー」
「……褒めたほうがよかった?」
「今褒められたんじゃなかったのか」
「50%ってところね。残り半分は呆れよ」
「知ってるか? この世界、バファ○ンってやつで風邪にも効くんだ。半分が優しさで出来てるらしい」
「キャッチコピー普通に信じてるし?!」
「つまり俺にも効く」
「大事なのは優しさ以外だと思うんだけど」
「大事なのは気持ちだろ」
「まあ気合も必要だけど、魔法を受けたときとか使うときとか」
「気合で防ぐからな*2」
「反論しづらい流れね」
「いぇーい」
「悪魔交渉成功したみたいなポーズ取らないでくれる??」
他愛ない。
他愛ない会話をしていた。
たった二人の人間が、魔界の空の下を、ひたすら歩いていた時のように。
他愛ない話がたくさんあった。
たった二人の人間が、魔界の大地の上を、ひたすら旅してた時のように。
他愛ない関係だった。
偉業を成した今の時代ではない英雄たちは、他愛もないことをよく喋っていた。
それが人間らしいのかどうかなんて、彼と彼女にはわからなかったけれど。
二人はそんな旅をしていた。
「お二人さん」
声がした。
驚きもせずに、二人が目を向ける。
窓際に、月の色めいた色合いのファッションに身を包んだ女が腰掛けていた。
「色々気になってる目と耳が来てるんだけど、ちょっとシメとく?」
「ん、国津神と……天津神か。あらやだ、貴方がいるの気づいてない感じ?」
「多分姉貴のやつ、あたしがいることも気づいてないわね。まーた引きこもってそうだし。まーた馬でも投げ込んでやろうかしら」
「やめなさい。太陽陰ったら困るわ、また追放されるわよ」
「まあ、どうせ魔界にいくんだろうから関係ないんだけどね。母上も父上ももうちょいあいつら締めておきなさいよ」
やれやれと歯を剥き出しに、女が床に降りる。
ズンと少しだけ音が響き、おっとっとと慌てて床を見直した。
「うっわ、すげえ頑丈。ヒビ入ったかと思ったぞ」
「化けるのが中途半端だからでしょ、体重とか手を抜くからあんな跡が残ってたのよ」
「酒飲ましてぶっ殺すまでの一時しのぎだし」
ゴキゴキと首を動かし、ヒデトの側まで女は歩み寄ると、その義手に手を乗せた。
「あそこには昔の俺がいる。メシア共の数に負けたなんて思い込んで、天津と国津での殺し合いにばかり気にしてる俺らがな」
声音を変え、否、本来の声色――荒々しい戦神の声で、己が認めた男に告げる。
「今の私なら大半は従えられるだろう。どうする、サマナー?」
「いや、その必要はないだろう」
「何故だ。アホ共を締め上げるのはガイア連合とやらにも恩が売れる、今の私なら昔よりは上手く話を運べる自信がある」
「それでも」
ヒデトは、自らの仲魔を見た。
魔界に自分を追って、力を貸しに来た戦神を。
「力づくで従え、それが正しい、なんて押し付けても人も悪魔も変われはしない。ただ生き方と選択で変われる、そうだろう?」
スサノオ。
口に出さず、声にせず、ただその唇だけで名を呼んだ仲魔は笑って、悪魔召喚プログラムに従い、送還された。
「ふふ。口にした以上、頑張らないとね」
「ああ」
「でもちょっと見てみたかったわね。神々に顔合わせにいって、いきなりどーん! って出すとか観物だと思わない?」
「……ろくなことにならない未来しか見えない」
「ま、それも有り得た選択ってやつよ」
くるりと、ロザリンドが軽く身を廻す。
自分たちを科学の目で、あるいはそれを上回る術で、監視しているだろう彼らに笑いかけるように、くるっと回り。
黄金の髪を靡かせた、魔女と呼ばれた少女は、彼女を選んだ救世主の男に微笑んだ。
「さあ。世界を救う旅を始めましょう、貴方と私で」
「ああ。もう一度手探りで、何かが出来ることを旅しながら探そう」
「この世界はまだ終わっていないのだから」
「まだこの世界は終わってないから」
「悪魔を斃しましょう」
「天使も倒していこう」
「仲間を探しましょう」
「手を貸せる人を探そう」
「また長い旅になるでしょうけど」
「またいつまでかかるか分からないが」
「貴方がいればきっと上手くいくわ」
「君がいればなんとかなると思う」
「やりましょう」
「やろう」
「「自分たちの旅をはじめよう」」
新 約 女 神 転 生
デ ジ タ ル デ ビ ル ス ト ー リ ー
ガイアの章
今話で第二章終了
ガイアの章 国内編が終わり
次回より海外編 の開始となります