京浜第3シェルターのアイツ 作:FD一枚ケルベロス
「お父様のバカー!!」
「ま、待つんだアルトリア!」
扉を蹴破らん勢いで飛び出した愛娘に手を伸ばすも、一足早く視界の外に消えてしまう。
幼子時に必死に追いかける親の気持ちとは裏腹に、楽しげに逃げ回っていた頃を思い出す見事な飛び出しっぷりだった。
「ええいもう!」
「しばし放っておいたほうがいいわよ、アーサー」
覚醒者特有の尋常ならざる速度に、慌てて追いかけようとするアーサーを妻が制した。
銀糸を月の光で溶かしたような髪、怜悧さを象徴する切れ長の瞳に、娘にも受け継がれた整えられた美貌。
女性としては長身の豊かな体躯を、顔ひとつ分上回る長身の夫へと腕組みながら彼女――モルガン・エヴァンスは告げた。
「それより本気なのですか。アーサー王の戴冠を延期するなど」
「ああ、本気だとも」
妻の見上げる視線に、アーサー・エヴァンスは目をそらすことなく返す。
「幸い……幸いなんて言ってはいけないけど、ブリテン島の情勢はまだ完全に不安定だ。魔人討伐の祝いはあるけどね」
「それと共に合わせてアーサー王の戴冠式、ブリテン連合王国の成立を公式に宣言するはずだったのでは?」
「ああ。民衆をまとめ、民意……アーサー王を求めるイギリス人共の声に応えるって意味ではね」
やや汚い口調と共に端正な顔をしかめるアーサー。
娘の前では決して見せないその表情の意味するものを、モルガンは重々承知だった。
アルトリア・エヴァンス。
別世界からの転生者であるアーサーとモルガンの二人の愛娘は、アーサー王の転生体だった。
同じ転生者であっても意味も次元も違う。今思えばウカツにも過ぎる名前に、結ばれた二人。
型月ファンだったなんて安易なノリで名付けた名前が、まさかのアーサー王の魂と器を呼び寄せるなんて。
創作でしかないと思っていた神話と神秘の連なる世界の裏側を、神主たちの掲示板とオフ会で理解してから血の気が引いた。
それはFate的に言えば運命であり、女神転生として考えれば宿命の導きなのだろう。
幾度となく戸籍変更などによる改名をしようとして頑固に反対され、この国に来る前後に覚醒の予兆、そしてあのヴィヴィアンによる姦計。
前世でプレイしていた真・女神転生IMAGINEで起きたアレのまんまだった。*1
「エクスカリバーは必須じゃない。こうして君の技術で、同じアヴァロンソードは出来上がった」
「デザインは違いますが……伝承補正でしょうか」
「いや、普通に素材さえあれば鋼の剣からプレイヤーが改造強化できたしね。君の技術なら当たり前さ*2」
「メガテンは本当にやりたい放題してますね」
「いやまあ現実とごっちゃにするのもよくないんだけどね」
呆れた顔で
「ともかく、エクスカリバーの授与は、この決められたレールから外れるチャンスだ。君の作っていた
「……
「これがフェイトならありそうだと思うが、多分違う。大きな運命の宿命、あるいは神の定め、原理的に言えばダグザ神か」
「? 何故ダグザ神が……」
「
「えっ」
「真4Fにおいてエクスカリバーは天羽々斬剣と同一視されていて、妖精の森ティル・ナ・ノグの奥地の沼に沈んでいたんだ」
モルガンが宇宙猫した。
「ま、まってください。なんでエクスカリバーが日本神話の神剣と同一視?」
「それに特攻相手が
「め、メガテン!! いつもそうですね、私たちの伝承を何だと思ってるんですか!?」
「東京を滅ぼす道具」
「ひどいものだな」
モルガンのマジレス。
「ともかく、そういう事情もあってあの時、実家に襲撃してきた悪魔や神話生物共、それからのヴィヴィアンと妖精共の祭り上げ。これらはダグザの仕業だと考えている」
彼らからすればメガテン知識なんてメタ知識は想定外だろうけどね。
そういって戯けるアーサーに、言葉の内容と吟味しながら考えていたモルガンがふと疑問を覚えた。
「いえ、それはそれとして悪魔の襲撃ならともかくクトルゥフの神話生物の襲撃は事故では? あれらは邪神の影響では」
「フォーモリア神族」
「フォーモリア? いえ、フォモール族ですか。確かあのバロールがいたという異形の巨人たち」
「うん、バロールとかブレスとかそういうのもメガテンだとでてたんだけどね」
同じ転生者である四条翔から聞いた話を思い出し、さらにメガテニスト御用達の掲示板、そこに書かれていた記述にアーサーはあるひらめきを得ていた。
「偽典女神転生において、イアイア連中は全員ダナーン神族と対立していたフォモール神族に分類されている」
「北の海の果てからやってきた奴らを、かつてダナ―ン神族が支配し、それから追い出した。今イギリスに襲いかかってきてるのは?」
「かつてフォモール神族が支配していたこの土地に襲いかかってきたパーソロン族は、その武力で成功し掛けたが、
「奇妙な符号だろう?」
色白い肌が死人めいた顔色になるのを、同じような顔色になってるだろう自覚をしながらもアーサーは最後の言葉を締めた。
「僕らのイギリスは、この神話再現の図式に組み込まれているのかもしれない」
・
・
・
「お父様のバカ! 考えなし! イケメン!」
「バァウ……お嬢様」
ペンデニス城の外、のしのしとアルトリア・エヴァンスは如何にも不機嫌ですよという態度で歩いていた。
その少し後ろを獣形態のアーサーのシキガミ・カヴァスが追従している。
「エクスカリバーは私の王権です!」
「はい」
「エクスカリバーは私の武器です!」
「ええ」
「現状めっちゃ強くて専用スキルも出せます!」
「そうですね」
「なのに、どうして、エクスカリバーを捨てろなんて……!」
「お嬢様……」
常に腰に履いている聖剣に手を当てる。
エクスカリバー。
私の剣エクスカリバー、私の力にしてブリテンの王権、そして私の運命を決めたモノ。
これに手を当てるといつも落ち着いて、心の乱れが静まります。
「お嬢様。マスターは、貴方のためを思ってあの提案をなさったかと」
「わかっています。父も母も、私のこれからを案じてることは」
アルトリア・エヴァンスはアーサー王の転生者だ。
王の魂を継ぎ、このイギリス、ブリテン島の皆を見捨てられない。
ここには友達もいる、お爺ちゃんとお婆ちゃんたちに、知り合った多くの民たちがいます。それをどうして捨てられようか。
この身が王として相応しく立てば一人でも救えるならば立つべきだと私は考えている。
それが父上と母上を悲しませている現状は理解しているけれど……
「そも、彼らは何者だ……ん?」
歩き、その視界の端に見えた人影たちに足を止める。
ペンデニス城の結界内、テントを張りながらイギリス支部から発行されるクエストの納品と受注を行う高レベル(といってもお父様たちと比べたらずっと下だけど)人外ハンターたちに、それらと会話する日本から来たガイアの人たちが見えた。
どうやらバイクを弄ってるらしく、お母様がよく手入れをしているモータードキュイラッシェ*3にもよく似た車体を囲んでにぎやかに会話をしていた。
「なにをしてるんですか?」
「ん? おお、アルトリアの嬢ちゃん。見ての通り、バイクを弄ってたのさ。対悪魔用のな」
「対悪魔用……お父様が乗ってるモータードキュイラッシェみたいに?」
なんとなく乗ってみたいんだけど、まだ私の背丈が足りないという理由でバイクには騎乗させてくれない。
だからお母様が手入れと改造したバイクに、お父様が乗って、それを何故かキャーキャー言いながら写真を取ってた記憶がある。オルタも捨てがたいとか行ってたけど。
「覚醒者といっても徒歩で音速を超えたり出来るような化け物は殆どいないからね。持続性、安定性を考えれば騎乗するものがあったほうがいい」
「悪魔に乗ればいいんじゃ?」
「おいおい嬢ちゃん。悪魔にまたがれるような強者はそんな多くねえよ、そも頑張ってはいるが調教にも時間かかるしな……馬型じゃないのもあるし」
「馬型じゃない?」
知り合いのハンターさんの目線を追って、別の方角を見る。
そこにはくるくると回るでかいヒトデみたいな悪魔の上に、緑のジャケットを着た人が必死にバランスを取りながら乗っていた。
「うおー! もう少し大人しく!」
「ほれほれほれー!!」
「ぬわー!!」
勢いよく回転したのをしばらく頑張っていたが、ぽーんと放り出されて、あ、受身取って着陸した。
「まったくナオキの奴、あんなんで戦えるわけないだろ。ま、ガッツは認めるがな」
「だな。あの男は本当になんていうかおかしいぜ」
「魔人なんて倒せる奴はどこかぶっとんでるんかね」
(魔人を倒した奴)
「ヒデトさんでしたっけ。あの人どうです?」
「うん? なんだアルトリアのお嬢さん、ヒデトの奴ならまたクエストに行ってるが……話したんじゃないのか」
「いえ。一応話はしたんですけど」
(お父様が凄いテンションで話していて、あまり会話出来なかったっていうか)
ヒデトとロザンナ、それからフィネガンやナオミにレイジさん、それ以外にも志願したシロフネの中心メンバーを招いて昨晩は夕食会だった。
その時の父ときたら物凄い高めのテンションで、終始母が呆れた顔をしていたのを覚えている。
(たくさんの興味深い話は聞けたけど……あれでエクスカリバーが奪われそうになった)
忘れるわけがない屈辱。
握れるわけがないと考えたエクスカリバーがあっさりと、あのヒデトという男にも、ロザンナという魔女の手にも握られたのだ。
アーサーに強く言い含められたとはいえ、そのままに軽い手合わせまでされた。
アーサーのアヴァロンソードに対して、スキルもなしで一振りで2・3回もの斬撃を繰り出された。*4
この手に吸い付き、私を王だと認めている聖剣が、我が物顔で振り回されたのだ。ガヴェインほどの騎士でもないというのに!
それから聖剣は返して貰ったが、その後の記憶が曖昧だった。
あまりにも悔しくて、いやびっくりして? 朝までふて寝していたような気がする。
だからあまり人となりというのもわかっていない。
そういった旨をやんわりと伝えるとハンターさんは顎に手を当てて、言葉を選ぶように答える。
「そうだな、いっちゃなんだが……不思議なやつだな」
「不思議なやつ?」
「ああ。やっこさんら、まあそこのナオキもそうだが、魔人を倒したんだろう? ここまで旅をしながらだ、とんでもねえ強行軍だわな」
「ですね」
フランスを横断し、イギリスにまで魔人や他の悪魔たちを蹴散らしながら辿り着いたなんて今でも信じられない。
フランスは未だにメシア過激派に対して現代聖人を抱えた穏健派に、デジタルサマナーの有志たちが抵抗を続けている。
フランス由来の神話はあまり中心になるものがなく、多民族の集まった国だからこそ一致団結は難しいが、飲み込まれるのもまた簡単ではない。が、それでも過激派の勢いは異常だ。首都は既に占領され、多くの土地に天使が我が物顔で飛び回っていると聞くのに……
(突破しながら旅をしてきたなんて本当なんだろうか?)
それともそれだけガイア連合本部からの支援が手厚く、物資を転送しているのだろうか。
父と母でさえ、現地でダナン神族などと協力し、何も役に立てない移民労働者共の世話を焼いているというのに。
「?」
(今なにかおかしかったような「それが昨日の今日でまたクエスト行きだ、まったく頭が下がるよ」
「クエスト、ですか?」
「ああ。塩漬けになりそうな、今シェルタータウンの開放に向かってるような連中じゃないと手が出せないクエストを片っ端からな。本人は素材稼ぎなんて行ってたが、そんなんで出来る量と難易度じゃねえよ、まったく」
「仲間の分の装備素材も稼ぐとか行っていたが、照れ隠しだろうな」
仲間を数人と、レベルの高い悪魔を連れて旅立ったという。
確か、父が手配したという祭具が届くまであと一週間、休んでいてくれって言われていたはずなのに。
「まるで救世主様だよ、ありがたいこった」
「――
「ん? いやそんなことはいってないんだが」
「え、はい?」
何を言ったんだろうか。
よく聞こえなかったが、ハンターの人が青ざめた顔をしている。
「なんか悪いことを言ったか? ……おっかない顔をしてたぞ」
「え? そうですか」
私がそんな顔をしただろうか。
「お嬢様、もう城に戻って休まれては? そろそろマスターたちもおちつかれ」
ヴー! ヴー!
カヴォスの言葉を遮るように、スマホのバイブレーションが震え出した。
いや、アルトリアのだけではなく視界の中のハンターたち全員が一斉にスマホを取り出す、それを見る。
「緊急収集?」
「アルトリアー!!」
「お姉ちゃん!!」
城から物凄い勢いで駆け込んできたのは、モリガンのシキガミ・パーヴァンシ―だった。
「全員、緊急性Aを除くクエストを中断!! これより発令される即応クエストに対処しろ!! いいな!」
「なにがあったの?!」
「アルトリア、お前は城に戻れ。お母様から話がある」
「答えて!! 普通じゃないことぐらいわかるから!」
「……魔人だ」
その言葉に、周囲の空気が凍りついた。
魔人。
それは不吉の象徴、ようやく振り払ったばかりの絶望であり。
「スペインから北上し―――イギリスに向かってくる膨大な数の
「ワイルドハントの如き
イギリス編のボスはこいつです