京浜第3シェルターのアイツ 作:FD一枚ケルベロス
今回のお話では
あなたは えらは゛れたにんけ゛ん なのです
を読み返してもらえるとより楽しめると思います
映像は流れ終わった。
「以上です。質疑応答は三十分後、それまで一旦休憩とします」
口火を切るように見た戦闘映像に対する言葉、感想がけたたましく飛び交う。
それだけ先ほど見た映像に対する内容が不満だった。
なんせ――それまでとほぼ変わらず、ひたすらアルトリアだけを働かせて削り倒した塩試合としか言いようがないものだったのだから。
そんな中、頭を抱えていた人物がいた。
「イカれてんのか……?」
映像を見終えたと同時に頭を抱えたのは男女二組のグループの一人。
「どうしたのです、フリスビーニキ?」
右に座るぬいぐるみを抱えた群青色の髪をしたどことなくお姫様のような少女が、頭を抱えたフードパーカーの青年に声を掛ける。
小さな唸り声を漏らして頭を抱えた青年に左に座っていた少女と同じぐらいの幼い栗色の幼女がうろうろと困惑し、群青色の少女の隣浅く焼けた肌を持つ偉丈夫は腕を組んだまま様子を見ていた。
(いやいやいや、まて。なんで誰も気づかねえんだ! いや気づいてるのは何人かいる、いるはずだがどう考えてもやべえだろ!)
そんな三人の声掛けと様子を、フリスビーニキと呼ばれた青年――八角ジュンは気づかない。
それどころじゃなかった。
(何なんだあの動き)
今さっき見終えた映像を、目の前の映像端末――用意してあったタブレットではなく、自前の端末で操作。
空間投影型のモニタを手早く操作し、映像を再度再生する。
この映像端末を含めて講義室内の大半の開発、設計に関わった張本人だからこその滑らかな操作。
(あのヒデトの動き、いやロザンナもそうだ。ひたすら攻撃を捌いて、距離は詰めてるのに攻撃はしていない)
アルトリアたちを加えた戦闘の映像。
あれは傍目からするとアンティクトンに吹き飛ばされる度に、五体がかりで態勢を立て直し、アルトリアだけが後方から魔法攻撃をする。
それだけの繰り返しだ。
いやそれは間違いじゃない、間違いじゃないが、前列に立っていた二人と降天使の動きがおかしい。
(
マタドールのアンティクトン。
まあ、ローマ支部のツナが使うニヤリでの全能力低下*1だろうが。*2
それでも喰らって、
距離を取れば、
痛みや怪我には今更怯むような
(反応速度、動きの速さは高レベルの俺らと比べれば一段も二段も劣る。これは間違いない)
本人の固有時間を加速させる<アクセラレーター>*3
相手の動きを空間ごと萎縮させるような<獣の眼光>や<龍の眼光>*4
これらのスキルの発動でもなく、マタドールが複数回動いているのは純粋にバトルスピードが高い。*5
匹敵するレベルの転生者や、速特化の修羅勢ならば追いつけるし、あんな三回も動きを差し込まれたりはしないだろう。
言うなればヒデトたちが一度動く相手に、三度動けるぐらいに魔人が隔絶している。
ヒデトたちがマタドールの動きに追いついてないだけなのだ。
なのに戦えている時点でおかしいが、八角ジュンが注視したのは更にその先だった。
「モモメノ」
「あ、ニキ。どうしたの」
「この五人ってどれもペルソナ使いじゃないんだよな?」
「うん、そうだよ」
モモメノ――ペルソナ<エウリュディケ>を使いこなすナビタイプのペルソナ使いが頷く。
「だとすると、マジでナビなしで連携してんのかこいつら」
転生者八角ジュン。
彼とこの場にいる三人、あともう一人所要で東京に残っている一人を加えたチームは、ガイア連合でも特殊な連携を得意とするPTだ。
司令塔であるジュンがまとめて定めた行動方針を随時GUMPで発信されたショートメッセージ送信。
それを受け取ったモモノメがペルソナによってシンクロ、各人のステータスや意思疎通を統一、高度な連携を可能にする。
必要なタイミングで一心同体になれる彼らは、まだ荒削りだが三つの戦闘スタイルを使いこなす。
相手の隙を突いて戦闘における呼吸を奪い合う『
弱点への殴打、致命打に意識をかき乱し、一呼吸分の隙間をチャンスに変える『
己たちが速度のままに自由に乱戦を行い、戦う無秩序なる原初闘争『
まだ荒削りだが、女神転生の、アトラス作品での戦闘システムをモデルにした。
自分ありに原作再現が出来ている自信があったからわかった。わかってしまった。
(ナビなしで連携なんて、こんな事が出来るのかよ!? バーヴァンシーたちは即席なんだぞ!?)
ヒデトたちの動きを見る。
必死に距離を詰め、アイテムを使って魔人の強化を解除、回復を飛ばし、自分たちの弱体を解除し、命中・回避を阻害させるデバフ、そして自分たちを強化する魔法に、アルトリアの魔法。
特出する要素を抜き出すとこれだけになる
おそらく戦闘スタイルはスピートバトル。それも
「…‥…‥…‥…‥…‥…‥…‥いや正気で言ってる?」
「ニキ?」
「アホか、アホじゃねえのか。スピートバトルでプレスターンってなんだよ…‥!」
頭を抱える、抱えるしかない。
映像に映るヒデトたちの動きの順番には規則性があることがわかる。
時折、
(確か開発部が提供したブラックデモニカ、式神とかのブラックボックスのコアいれてないやつ。だから式神同士のリンクはしていない、出来ないはず。技術部のほうで主人公のやつに強化なんていらねえだろって方針で決まった、最低限きちんとした仕様にしたけどガイア連合の無線リンクとかはされていない。で、背負ってるあのアンテナってまさか『メタボ・チェッカー』か? 連合と協力関係入る前の自衛隊の、対悪魔部隊の予定されてた装備! あくまでも保有者と同じ部隊の奴のざっくりしたコンディションぐらいしかわからねえ奴で、型遅れ品だったはずだろ!? 悪魔も悪魔召喚プログラムで繋がってるだけでモニタ対象になってるだけで、いちいち目で見るなりしないと確認出来ねえ不便なやつで速攻で没になったお蔵入り! のはずなんだけど、なんでそれでいけてんの? 撤去せずにそのまま通したんだっけ、技術部さぁもっといいの渡してやれよ! なのにダメージ総数とか計算どうしてんだよ?! まさかカン? カンなのか? 経験則だけで死ぬか死なないかわかってるとか? 強化・弱体の回数も切り合いながらしてる? サマナーってそういうのだっけ? ライドウじゃねえんだぞ!)
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛」
「ニキ? ニキー!?」
「この世の不条理を見つけてしまったような目をしてる……!」
(プレスターンなら五回分の手番を、いや、全部無駄にしてる。弱点はついてないし、一人一回ずつ動いてるだけ。アルトリアの魔法攻撃はクリティカルしてないし、弱点じゃなさそう。耐性貫通する性質あるんだよな、まあそれでも6人分動いて、マタドールが三回動いてる。カポーテ→挑発→攻撃 アンティクトンとか、一回挑発してからすぐ切りかかったけど、一人斬り損ねたから最後しくじった。でもそれ以外はろくに動いてない、あくまでも三回ずつ動いていやまて。プレス、ワンモアする暇もなかった? 万能攻撃がひるまない、弱点じゃないからってリアルでそんなわけあるか! リアルだと弱点ならより怯むってだけで、そうじゃなくても痛いなら怯むしダウンだってする。俺らみてえなショタオジの地獄コースで麻痺ってなければ、普通の悪魔なり覚醒者でもよろけるぐらいする!)
だけど、マタドールの攻撃に怯まないということはそういうことじゃないのか?
俺等に匹敵するガンギマリ共なんだ。それなら説明が出来る。
だというのにゲームの戦闘システムみたいな挙動を、なんでこいつらはわざわざ狙ってやる?
この世界はリアルなんだあんな戦い方なんてお互い本気なら偶然なってるとでも――も――?
「は――?」
え、まて。
まさか。
「どうしたフリスビーニキ?」
「んあああん、マスターの瞳孔から開いてますぅ!」
ま さ か。
ゲーム的な都合じゃなくて。
お互い極めたガンギマリ同士が殴り合ったら、こんな
――
――――
―――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――えぇ?
(いやいやいやねえよ! ないわ! 幾らなんでもアトラスの、というかこのメガテン世界を高く見積もりすぎだろ、俺!)
八角は直視を避けた。
これを認めるということはこれまでの修羅勢の、皆の戦い方を否定することになる。
アクション系ゲームであったはずなのが、お互いの殺し方を、効率的に突き詰めたらどれかに落とし込まれることになるなんて。
そんな事は言えるわけがない。
ゲームとして真シリーズに限らず、デビルサマナーとか、デビサマとか、関連作品では戦い方に違いがあれども最初から最後まで基本は変わらなかったし。
確かに、ただのスライムから、世界を滅ぼせそうな悪魔とか神を相手にだって
アクションゲームになったライドウとか、ペルソナ5とかの例もあるんだから一緒くたに出来ない。出来るわけがないのだ。
あくまでも通じやすいから、ジュンたちはこの三つの連携バトルスタイルを今は使いこなしているだけで……
(通じやすいってことはそうなるように世界が出来てるってことなんじゃん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛)
悶絶した。
暴走しがちな自分の発想の妄想、妄想だということにした。する、するしかない。
だって何の証拠もないんだもん――!
「オィイ、グラットンでも持ったのかフリスビーニキは。頭がおかしくなって死にそうだぞ」
「誰が暗黒だよ!?」
「あ、気づきましたね」
「どうしたんだ、死にそうな声を上げてたが」
「あ~ちょっと、うん」
まさか最終的にメガテンバトルが大正解なのかもしれないとは言えない。
「なんというか、自分のやりたかった戦い方の答案を見せられてさ」
「答案?」
「そ、バチバチにバフ・デバフやりとりしてるじゃん」
八角ジュンの適性はもっぱら補助ばかりだ。その上、使える武器が手のひらサイズで丸くて投げつけられるようなもの限るなんてピーキーなもの。
おかげで覚醒当初からしばらくはショタオジのお家の煮物とかに活躍していた鍋の蓋で「ドラクエかよぉおおお! 盾でもねえし!」と木っ端悪魔と殴り合ってレベル上げをしていた懐かしき微笑ましくすらない思い出がある。
幸い今は仲間も増えたし、レベルと経験を積み上げたおかげでそれ以外にもやれることが増えた。
といってもシンプルに得意分野は変わっていない。
「威嚇に、ダイ・ハード、ラクカジャに、ぶち抜かれたけど全体と単体のテトラカーン。戦局の流れをしっかり握ってる」
特にデカジャ、デクンダを惜しまず必要な時に使ってる判断力がやべえとしか言えない。
カポーテで反応速度を上げられたのをすかさずに打ち消し、挑発で下げられた頑丈さをデクンダで解除。マタドールにかかっていた攻撃弱体が切れる前に決着を付けられたのは運がいいのか、狙ってたのか。*6
自分たちも戦いでは強化と弱体を飛ばすからこそ、よく見えた。
「ふむ。たしかにな」
「ですが、マスター。所詮彼らのは魔界魔法でのバフ・デバフです。マスターの力のほうが優れています」
「そうですね、重ねがけが出来ますし」
「別枠だから別々にかけないといけないけどな」
アタックゲイン*7やディフェンスゲイン*8といった
とあるシリーズ*9にある超能力のような八角の力は、魔界魔法のバフ、デバフ効果とは別枠にその効果を乗せる事が可能だ。
カジャ類の強化状態に更に乗算で別枠のスキルを重ねて強化を乗算させる事が可能となったり、ンダ系のデバフの上から更に弱体化を重ねたりと結構な悪さが出来るようになった。
これは魔界魔法とそれに準ずるスキル効果しかないメガテン・ペルソナ系には真似出来ない強みなんじゃないか? と自分なりの自身にもなっている。*10
なんかモモメノにはガイアの力って言われたけど……*11
(まあ、転生者なら珍しくねえしな)
日々自分の力の開発、悪ノリする技術部に、前世からのフィクションを元ネタにした再現魔法やオリジナルスキル。
IMAGINEとか、D2とか、デビサバ2でもあるあるだったコラボキャラがメガテン世界に来た時に持ち込んでる再現系みたいなスキルなどが俺達には珍しくない。
強みを否定するつもりはないし、決して腐らないが、カジャ・ンダとは重複しない強化と弱体なんてのも探せば幾らでも出てくる。
逆を言えば……
「ん~、ここまでの動きを見る限り、純粋なメガテンだなぁ」
メガテンでしかない。
「隠し玉はないということですね」
そうなのだ。
隠し玉はない、結局のところ旧約2主人公とその手持ちの悪魔――仲魔は
ガイア連合のデータベースは日々転生者たちの記憶や検証によって蓄積を行っている。
この世界がごちゃまぜメガテンだとわかってからは特に念入りにメガテン、ペルソナ、デビルサマナー、デビサバシリーズ、諸々関係ありそうなやつを片っ端から調べて上げ、検証班と呼ばれてる面々が人柱的な意味で試している。
だから言える。
メタ的な意味でメガテンを知っている俺たちほど、メガテン情報を網羅している奴らはいないと断言出来る。
オカルト知識が根絶させられている現地の連中よりもノウハウも、スキルも悪魔の知識だって豊富なのだから。
「そうですね。アルトリアさんはちょっとわかりませんが、ヒデトさんたちは女神転生の魔界魔法や悪魔の力しか使ってないように見えます」
「だな、アルトリアのは世界樹っぽいが……カス子ネキは違うスキルだしなあ」
見た目は世界樹の迷宮のカースメイカーそっくりなのに、あっちのはメガテンオンリーだ。
いやそんな事を言うにはおぞましいし、空まで飛ぶが。本霊パワーってすげー。
「しかしすげえな。この火力」
確か相性無視、特大火力の疾風魔法だったか。
俺達や高位悪魔の使いマハガルダイン級のをまだ幼い少女が使っている。現地人だからというよりも転生者同士の子供だからだろうか。
まああの子の
(でもなんか気になるんだよな、この子)
彼女の動きというかスキルが流れる時に、なんかしらわからんが目が吸い寄せられる。
前世でセイバー推しだったわけでもないんだが。
まさかモーさんそっくりの顔だからか? 邪神プロトセイバー*12のトラウマのせいだろうか。
胸がドキドキするのは、これPTSDだろうか。
(いやいやいや、俺はロリコンじゃねえぞ。そう言われることも多々あるが、好きになったやつがロリなだけですぅ!)
「便利なスキルだね」
「あ、ああそうだな」
自分の性癖証明になってる、魂の年齢低下で出来上がってしまった
「しかし、懐かしい戦い方だな」
「なつかしい?」
モモメノの横に座る男が腕組みをしながら言った。
「うむ。近頃はハッキング・ワン*13からの弱体操作で大体勝負がついてるだろう?」
「まあね、強敵相手にならまたゲイン類はばらまいてから挑むぐらいはするけど」
最近は強くなったこともあり、レベルが高くて手こずりそうな奴らには精々手番が余ってる自分が二種のゲインを展開して前列の面々を強化することに事足りる。
昔ほど躍起になって重ねようとすることもない。
まあ今では魔界魔法の性質もなくなって、ゲイン類では重ねがけ出来ないんだから当然なんだが。
(そういう意味だとシンプルなんだろうなあ、このメガテン主人公の戦い方は。カジャ撒いて、ンダぶつけて、バフ1段階に、デバフ2重とか、メガテンでの戦闘あるあるっていうか)
見応えはないが懐かしさを感じる。
使う難易度は桁違いだが、一度仕様を理解すればシンプル過ぎてわかりやすいほどだ。
(雑魚だった頃は躍起になって安全策みたいにラクカジャ三重に重ねたりして、それからタルカジャをかけて鍋の蓋でも目に見えるダメージになるまで重ねながら殴ってたら、ラクカジャ切れたりして、大怪我したりして、大変だったなあ)
今は仲間の火力も十分足りてるし、防御も硬い。
少し足りないぐらいならゲインだけで十分、わざわざ魔界魔法で駆け引きする必要もな――――――
(ん? あれ)
そういえばなんで今重ねてないんだっけ?
ゲインは別枠なんだし、魔界魔法で使えるスロットいれておけば必要あるか?
便利に戦えるだろういやもうレベル足りてるんだから手数がかかるだけで、同じレベルぐらいなら十分削れるしな。
うっかり即死しそうな馬鹿火力がいたなら使うぐらいで戦える、
精々めっちゃ重ねられた時にデカジャ、デクンダを使うぐらいで戦術は十分だ。ハッキングワンからのほぼ
小細工としては十分だ。
レベルも5ぐらいは上なら倒せる自信もある、もちろん八角一人だと無理だが。
「いやまて」
おかしいおかしくない。
おかしいだろおかしくない。
なんで今5レベル程度ではない。
今見てるのは20以上も上の悪魔との戦いでたった一体相手だろう。
いや、まあ六体で囲んで殴れば余裕だろう数さえいれば雑魚でも勝てる。
俺たちだってやろうと思えばやれる戦う必要もないが。
まあやらないけどな、海外なんだし態々向かう理由はない。
こんな戦い方は、俺たちには向いていない不要だとも。
俺達には俺達なりのやり方がある学ばずにから。
から――から?
思 考 お し
が か い
「ぐぅ!」
「ジュン?!」
八角の手が震える。
胸を抑える。
画面に映るのはヒデトたちの戦いかたの再生、そしてその最後に何度も何度も魔法を放たせられ――違う、自分から使命を担う少女の姿。
英雄の姿。
心臓がカチコチと音がする、胸が熱い、同時に固く感じる。
目を閉じよ
心臓がガキコチと音がする、胸が熱い、とても硬く滾る血脈を感じる。
口を閉ざせ
抗えと、誰かがいっている。
耳を塞げ
眠れと、誰かが命じている。
我を受け入れよ
ガンガンと頭が割れそうな頭痛がする、心臓が、何度も何度も地獄の覚醒特訓で停められた時よりも痛いぐらいに動いている。
「ふ、ざ、え……」
震える手を、むりやり頭に伸ばす。
――干渉されている、
――――なにに?
――――――わからない!
――――――――だが、止めるには!
「ハッキング・W「やめとけ」」
ガしりとその手が掴まれた。
とても力強い手だった。
――ょぅじょの手だった。
続けざまに側頭部に石を叩き込まれる、パリンと割れて、精神回復の光が灯った。
ガイア連合製のパトラストーンを叩き込んだのはもうひとりの幼女だった。
「カス子ネキに、幼女ネキ?」
「おはょぅじょー」
「今は昼過ぎだ。目が覚めたか?」
「あ、ああ」
頭痛は収まった。
祈りに迷いは不要なり。
「大丈夫か? フリスビーニキ」
なにやら様子がおかしくなっていたフードパーカーの青年――フリスビーニキが、ふるふると頭を振って、息を吐いた。
「ああ……おれはしょうきにもどった」
「戻ってない件について!」
「茶化すな、カス子ネキ」
「正気に戻ったっていってるんだから戻ってるんじゃないの?」
ケラケラと笑うカースメイカーそっくりの幼女、カス子ネキ。
それにいつもの半眼でムスッとした顔つき――不機嫌そうに見えて特に怒ってるわけでもない幼女ネキ、その後ろにはカス子ネキのお目付け役として(最近は同じようにはっちゃける事が多い)邪眼ネキの三人だった。
「三人ともどうしてここに?」
「いきなり苦しそうな声を上げてる奴がいたら見にくらいはする。同士だからな」
対外的には公平で筋が通らないことには例えショタオジにだろうが噛みつくと有名な幼女ネキだが、身内には親身に気配りをするのだ。
まあそれでも苛烈な人ではある。
見た目も実年齢も幼女だが。
「それでなにがあった?」
「あーいや、ちょっとメガテン主人公SHOCKを受けたみたいで」
「ああ、なるほどな」
画面に映るマタドールとの戦闘映像を幼女ネキは一瞥する。
「奴の戦い方は刺激的だろうからな」
「なんか含みある言い方だよねー」
「まあな」
「
「――悪路王の?」*14
「ああ。ヒデトが連れているトート、それとクーフーリンや他数体は
『!?』
次期十六代目ライドウ――今は受け取れないと本人が保留している実質内定している幼女ネキの言葉に、ざわりと場が震えた。
「ライドウの仲魔だったって、え?! パクられたってこと?」
「違う」
「悪路王異界とは別の異界で楔として奉じられてたのを、ヒデトが開放して使役してたみたいでねー。なんでも日本各地で民間の依頼を受けて、異界潰しや悪魔事件の解決をしてたんだってさ」
端的な幼女ネキの言葉を補足するカス子ネキ。
歩く姿はもしもしポリスメン、口を開けばネラー、中身はおっさんのまさにカスな残念幼女だが、その有り余る行動力と強引極まる這い寄るコミュ力で顔は広い。
言動実行の動く暴力的な行動力の塊が幼女ネキとすれば、魔法攻撃力的な行動力の塊がカス子ネキという正反対な幼女二人の相性は悪くない。
「私はやりあってないが、奴が悪路王異界に訪れたことがある。ライドウの手持ちだったクー・フーリンからの情報で場所を知ったようだ」
「え、それじゃあ彼も悪路王異界で修練したの?」
転生者もかなりの人間がお世話になっているスカアハブートキャンプ。
<経験加増>*15の特技もあって、そこでの特訓は凄まじい修行効率を誇る。
十四代目のライドウの手持ちだっただけもあって恐ろしく強く、地獄を見るがその分を上回るレベルと強さを得られる。
そこで鍛錬を受けたというならばあのヒデトの現地人ならざる強さも納得出来るものであるが。
「いや、利用はさせていない。同士でもないし、当時はただの
「? でもスサノオがやりあったって」
「ああ。アテルイがキレた」
「なんでそんな奴に従ってる! ラーイドのことも忘れた裏切り者かぁ!!」
と、猛将アテルイは激怒した。
悪路王異界での戦いで、幼女ネキの一撃でその妄念は断ち切られたとしても生来の激情家なのは代わりはない。
史実では朝廷からの圧力にもっとも抵抗した猛将であり、かの英雄坂上田村麻呂との激戦の果てに彼の人柄と辛抱強い交渉によって休戦。彼を信じて京都まで上がったところを彼のカリスマと強さを危うんだ朝廷からの騙し討ちによって処刑、無念の内に死した人物。
奥州三鬼の悪路王とも混同され、それとの別離の復権運動はされているが今のなお多くの書籍や人間からは無念からの鬼と化したものと思われている伝承から産まれた悪魔、アテルイは当然裏切りに対する怒りは何よりも深く重い。
ライドウの仲魔だったクー・フーリンや、トート他を連れていたヒデトに対してあえて異界内部に招き、そこで有無を言わさずに戦いを挑んだ。否、不意打ちをしかけたという。
自らの京都上がり伝承の意趣返しのように、他からの干渉を遮る形で戦いを繰り広げたと聞いている。
(私がそれを知ったのは全てが終わってからだったが)
「ど、どうなったのそれ?」
「見ての通りだ」
画面に映るヒデトたちの健在な姿を示すように、幼女ネキが顎をしゃくる。
「アテルイとスカアハにスサノオの三体がかりでも殺せなかった」
「はい?」
「無論、アテルイ以外は本気ではなかっただろうがな。それでもだ、アテルイを退けている」
アテルイ曰く。
「ラーイドの仲魔がいたのだからそれでやられただけだ、奴だけが強かったわけじゃない、お前とは違う」
痛み分けだ、痛み分けで負けてはいないなどという負け惜しみ。
スカアハは「しばらくみぃへんかった弟子がおったから稽古つけてやろと思たんよ。まあやれてなかった免許皆伝の代わりってやつやね」と楽しげに笑って反省していないし。
スサノオに至っては「なんかやりたくなったからやった! 悪いか!」と完全に開き直ってたので、一発いれてやった。全然こらえてなかったので、そのあとの定例
(【奥にいるやつを引きずり出してやれなかっただけがムカつくが、まあ悪いようにはならねえだろ。オレだからな】といっていたのが気にかかるがな)
意味深な事をいうだけ言って、濁すような奴は幼女ネキは嫌いだ。
とはいえ外様でもない身内の悪魔だ、ちゃんと理由があるのだと考えて我慢している。
そんなことがあったからこそ幼女ネキとしてもヒデトへの感心は低くない。
「……悪魔召喚プログラムの力は凄まじいな」
「? そんな凄い? カス子ネキちゃんのほうが数は多いけど」
「ふっふっふ。褒めてくれることはょぅじょ嬉しいしもっと褒めて欲しいが、同じ幼女仲間のネキが見ているのはそこじゃないんだなぁ」
同じなのは年齢が近いことと外見的なタグだけだろう?
「
「ああ。なんとも羨ましいものだ」
「縛られない……?」
原典である女神転生シリーズの知識がない邪眼ネキはピンと来ていないが、これはプレイしたことがあるものでもなければわかりにくいだろう。
「悪魔合体の強み、いや、真骨頂とも言えるが。ただの悪魔と、悪魔合体した悪魔はその強さがまるで違う」
「シリーズによって異なるけど、前悪魔からの成長分の経験値やステータスの引き継ぎ強化に~」
「継承スキルだ。フリスビーニキ、前半の序盤シーンを」
「わかった」
幼女ネキの言葉に、フリスビーニキが端末を操作して映像を巻き戻す。
まだアルトリアが加わっていない前哨戦の冒頭、言うなれば1ターン目の映像に、幼女ネキが指指す。
技芸属トート。
かつて十四代目ライドウが、悪魔合体を駆使して作り上げた悪魔。
「このトートはライドウが悪魔合体をもって創り上げた悪魔だ。レベルは50程度だが、所持スキルは<マハ・ラギオン>*16<マハ・ブフダイン>*17<マハ・ジオダイン>*18<マハ・ザンダイン>*19<テトラカーン>*20<メ・ディア>*21に<外法の壁>*22、思い出特技に<ファイの時報>*23や<経験豊穣>*24、<回復高揚>*25や<魔脈高揚>*26他にも複数いれてるらしい」*27
『化け物か??』*28
「レベルは低く、スサノオやアテルイ曰く二軍の
周囲の転生者数名が慌ててヒデトの手持ちデータを見直し始めるが。
「端末に載ってるトートのスキルデータは使われたものだけでしかない。思い出特技や、頻度の低いスキルはスサノオやスカアハから聞いた私しか把握してなかったんだろう」
「おぃぃい! なんで公開してねえんだよ。規制か!? 検閲してんのか!?」
「悪魔合体でしか作れないからな、こんなもの」
それも当時のバリバリ現役のキレてる
ヴィクトルの頭脳がフィーバーでサタデーナイトしないと出来ないフィーバー合体などを駆使しないといけないこの悪魔に費やした悪魔合体の時間はどれだけあったのだろうか。アテルイとか、スサノオとかなにげに<破壊神の愉悦>*29とか、ゾロ目フィーバー合体でしか合体で覚えさせられなかったはずだが、14代目ライドウは一体悪魔合体にどれだけの時間を溶かしたのだろうか。
興味本位で聞いたスカアハや超力兵団の前より古参らしいドアマースが総じて口を閉じて激しく目を逸らしているため、詳しいことは不明だ。
ドアマースとアテルイたちはようやく受け入れたことだが、本当に十四代目ライドウが死んだのか疑わしく考えることがある。
こんな頭のおかしいやつが果たしてメシアンごときに大人しく殺されるだろうか。
いやたしかに死んだことは裏付けされているし、その弟子の孫である自分は十四代葛葉ライドウの愛刀、赤口葛葉を受け継いでいるが。
(超力兵団前後での使っていた刀<霧羅魔又>とか、アバドン王で【錬剣術】で作っているはずの合体刀が所在不明なのだよな。あれ普通に依頼で何本か手に入る刀経由でも作れるから、赤口葛葉以外にも保持していたはず)
剣神と英雄の力が宿ったこの赤口葛葉は間違いなくライドウの刀だ。
メシアン共の徹底さを考えれば他の刀は破壊され、あるいは奪われて利用されていると考えるべきだろう。
だがしかし、時折不安になる。
まあまだ
「こんな情報を公開したらみんな悪魔合体をしたくなるだろう。出来もしないのにな」
「まあスキルカードぽこじゃか入れれば時間かかるが作れるしな」
式神の利便性は大変素晴らしいものである。
「ヴィクトルやっぱり外に出すべきだったんじゃなくね?」
「だな。開発部で働かせるべきだったんだよ」
「他のキャラだってあっちで働いてんだしよ」
「給料でもケチったのか?」
「外で働くとか、あいつ馬鹿だろ」
ざわざわと思い出したように喋り出す
「あれはライドウが守った男だ。モチベーションが向かないなら無理強いは出来んし、させないと私が決めた。文句があるならかかってこい」
ヴィクトルのアメノトリフネ行きに反対する声は多かったのだ。
ヒデトなんていう得体のしれないメガテン主人公と共に行動を共にさせるなんてとんでもない!
悪魔合体なんてさせたらどれだけ強くなるか、メガテニストならば知ってるリスクから批判はあった。ガイア連合以外に加わるぐらいならいっそ殺しちまえ! なんて声も少なからずあったのだ。
だがそれを説き伏せたのは幼女ニキであり、その他数名の賛同者だ。
本人が生きたいように生かせるべきというのは、ガイア連合の設立からの信念であり、自分たち転生者のもっとうである。
ふざけた悪魔やメシアン共ならばともかく、悪事を働いたわけでも無礼を働いたわけでもない技術があるだけの者を縛り付けるならばそれはメシアン共と何が違うのだ。
だから渋い顔とするどちらかというと反対派のショタオジに対しても直談判して、ヴィクトルの自由を幼女ネキが通したのだ。
仕事が減らせると思っていたショタオジは泣いた。
「まあ悪魔合体は今まで通りショタオジがなんとかするでしょう」
「カス子ネキも頑張るんだよ!」
「カルトマジックで悪魔合体とか出来るのあるんだからさぁ」
「もう32時間戦えますから突破してるんだよなぁ……」
カス子ネキ(分身)の目からフッと光が失われた。
「あっ(察し」
誰もがその無惨なレイプ(目)惨状に口を閉ざした。目を逸らした。
転生者といえども掲示板越しじゃない残酷な世界に悼む心はあったのだ(一部例外は除く)
(とはいえ悪魔合体自体は重要な技術だ。メガテンでも多様していたし、それがなければゲームのクリアなんて無理だっただろう。縛りプレイでもなければやりたくもない)
悪魔合体。
原作小説デジタル・デビル・ストーリーには存在せず、ゲーム版であるデジタル・デビル物語 女神転生から誕生した概念だ。
悪魔同士を合体し、より高位の悪魔を生み出すというメガテンの代名詞とも言えるシステム。
原作小説ではあくまでも交渉や、召喚、自らの由来である力などで悪魔を味方につけて、己が力でロキや大破壊を起こしたセトなどの悪魔たちと戦っていたが、ゲームであるそれらは一点して悪魔合体による悪魔の作成で進めている。
それで最終的には大魔王ルシファーを打倒しているのだから、ゲームという万民向けのストーリーとはいえ凄まじいとしかいえない。
(まあ悪魔合体をしようにも、日本国内の霊的組織はほぼ根絶されていて、邪教の館はもちろん悪魔合体士なんて生まれてすらいないのだが)
出来て転生者の一部が目覚めた<コンバック>*30やTRPG200Xとやらであるダークサマナー類がレベルを上げて覚える悪魔合体類だが、リアル補正のせいかゲーム通りにはいかない。
技術力が足りなく、安定して作れるのはショタオジのような熟練者のみだ。
そもそも悪魔などに頼るのは、我々としても必要がないから使いたくはない。
天津・国津神共のあの有り様を見て、悪魔を信用するなど愚者の言葉だ。
必要ならばこれまで通り開発部やショタオジが働いて開発した装備やスキル、成長して覚醒して会得した<力>で十分だ。
己の霊格で戦えぬものなどおるまいよ。
そう思えばヴィクトルを国外に逃がした、殺せばよかったのに出したのも正解だ。
ライドウの無念を取らせる責務はあったのではないか?
いや、彼には責任はないのだから。
ガリッ。
「?」
唐突な痛みに、目を向ける。
幼女ネキの――鵺原リンの手の爪が伸びていた。
(ここのところなかったのだが)
自傷行為のようなそれに、人間らしい生活から久しくなかった暴発を造作もなく収める。
流れた血は数秒と経たずに消えた。
涙のように流れ落ちた。
「はいはい、そろそろ休憩は終わりですよー。皆様、着席してください」
パンパンと手を叩く音に、時計を見れば休憩が終わる時間だった。
「幼女ネキ、戻るぞー」
「ああ」
鵺原リン――幼女ネキがカス子ネキに呼ばれて自分の席に戻る。
ここからが話の本番なのだから一々抵抗するわけがなかった。
室内の皆が席に戻り、段々と静かになっていくをを見てから司会進行の事務員が口を開いた。
「えーそれでは、これより質疑応答を開始します。解説にはブリテン支部の『大変だ!!』 ふぁい!?」
戦闘映像を流していたモニタから接続されて映ったのは
「どうした、プーサーニキ」
「おいおいメガテニストだから興奮してるのはわかるが少しモチツケって……」
『全員落ち着いて聞いてくれ――エジプトに魔人トランペッターが出没している』
魔人トランペッター。
その単語にざわりと講義室の空気に緊張が走るが、動揺は少ない。
何故ならば。
「そりゃそうだろう?
黙示録を告げる終末の喇叭。
それがエジプトの、正確に言えば【約束の地】を守護するように降臨し、メシア教の絶対的な守護人になっているのは転生者にとっても共通事項だ。
あれのせいで、メシアン共のある意味本拠地といえども聖地に攻め入る事は出来ず、そこからなる
如何に渡航組の転生者たちであっても原作ゲームにおける最強の魔人を倒すのは至極困難であり、過去に現地組織への扇動や、海外悪魔たちの集合組織多神連合による総決戦でもトランペッターを倒す事は出来なかった。
まあそれに関してはもっとも現地近くにあり、重要なポジションを担っているはずだったエジプト勢力の薄汚い裏切りのせいもたたあるんだが。
「まさかついにエジプト神共が全滅したか?」
「ざまぁwww」
「クレオパトラどん、ゲームだと優秀だったし嫌いじゃなかったけどエジプト支部は負け組じゃけん」
「成仏しろよ」
『違うんだ』
当然の扱いとしてせせら笑うものたちの声に、アーサーは青白く染まった顔を左右に振った。
『トランペッターが撃墜された』
「「「「は??」」」」
「エジプトの馬鹿ども、大破壊の化け物を呼び出しやがった!!!!」
世界は、歴史は正史より更に激しくねじ曲がり始めた。
科学による科学と魔術による対立する異能を巡る物語となっており
自分だけの現実を現実に投影することによって作中の超能力は発現している
この世界でもフィクションであるが、八角ジュンは自分の力の解釈として引用している
幼女ネキの管理する宮城に存在する特殊な異界
かつての永世(14代目)ライドウの仲魔たちが封じられ、現在は幼女ネキが開放した異界
ライドウの仲魔であるスカアハ、スサノオ、ドアマース、アテルイなどが管理している
所持者が召喚された状態で戦闘に勝利すると、味方全体の獲得できる経験値が50%上昇する
技芸属スカアハを含む三体しか所持していない希少特技
使用するする特技の消費MPが80%に減少すると扱う※アバドン王
他のダメージを増加させる思い出特技や特技とも効果が重複する
【カオ転三次】滅亡を防ぐ為、汝第七の竜を狩れ
作:日λ........様よりキャラをお借りしています
この世界線ではセブンスドラゴンの襲来及び発生予定がないため、モモノメ及びその兄などの設定がラストバイブルシリーズに準拠して変化しています
第五惑星は黒いガイアによって滅びました