京浜第3シェルターのアイツ 作:FD一枚ケルベロス
もはや勝利は目の前だった。
「
エジプト首都カイロ。
もはや原型を留めず朽ちるだけのカイロを覆うように天使たちが環になって讃美歌を歌っている。
「
淡々と、煌々と歌うは主への賛美。
「
かつて人が生み出した神への讃美歌。
祈りと感謝を込めた司祭が言葉を綴り、その言葉に感嘆された牧師が曲を創り上げたもの。
「
「
おきよ夜は明けぬ。
込められた願いはその目を覚まし、いつか到来する神の国への到来へと備えよという警告文。
「
「
否、決して違う。
それはただの感謝、ただの祈り、あるべき人への模倣。
何時だって正しく生きよ、明日への、来る夜明けに恥じぬように目を開けという祈りの言葉。
人が生み出した賛美の言葉であり。
「
「
決して――神の声も聞こえぬ天使たちが、人に強制する支配の言葉ではない。
支配の言葉を謳う天使に、人の信仰者たちは抗議をした。
天使という名の悪魔に、聖職者たちは戦った。
主を代弁する
そしてその尽くが屈服させられ、異端として吊るされ、
人が生み出した讃美歌を、自分たちの言葉であるように上書き謳っている。
救世主の名を謳う天使たちは迷わない。
救世主の名を掲げる天使たちは考えない。
救世主の代行者とする天使たちは人に仕えない。
それは文字通り
それは正しく機械的であった。
その輪の中央で
一際大きな天使であった。
鷹の翼のように勇猛な翼を生やし、白と黒のタイル模様に編み込まれた衣装、神聖さと邪悪さを調和させた巨大な喇叭を咥えている天使。
その頭部は骸骨であった。
\カカカッ/
| 種族 | 魔人 | トランペッター | LV91 | 属性NEUTRAL |
| 相性耐性 | 物理吸収 銃撃弱点 四属性耐性 破魔・呪殺無効 BSに強い |
「――」
その笛を吹き鳴らす度に、眼下のピラミッドに空から火が降り落ちる。その守りを削り取っていた。
その様子を忌々しく見ている複数の視線があった。
「ちっ、何故あのようなものを」
\カカカッ/
| 種族 | 天使 | LV51 | 属性 NEUTRAL-EX.LAW |
| 所持スキル | ベノンザッパー・ムドラ・マカラカーン・忠義の衝撃 |
「ミカエル様の命令だぞ」
\カカカッ/
| 種族 | 天使 | LV52 | 属性 NEUTRAL-LAW |
| 所持スキル | アギラオ・ムドラ・天使のキス |
「しかし、お前たちは納得出来るのか? あれを
\カカカッ/
| 種族 | 天使 | LV52 | 属性 NEUTRAL-LAW |
| 所持スキル | メギドラオン・ムドオン・マハンマ・天罰 |
「あれが
\カカカッ/
| 種族 | 天使 | LV62 | 属性 LIGHT-LAW |
| 所持スキル | ザンマ・ハンマ・ひっさつ |
「強さはある、しかしそれだけだ。我らとは違う、天使に相応しき気品がな」
\カカカッ/
| 種族 | 天使 | LV51 | 属性 LAW |
| 所持スキル | マハジオンガ・メギド・リカームドラ |
「しくじれば我ら六翼
\カカカッ/
| 種族 | 天使 | LV51 | 属性 LAW |
| 所持スキル | マハジオダイン・メギド・サマリカーム・デクンダ |
「しかり。最初から我々に任せればもっと早く済んだ、その責を贖って貰わねばな」
六翼の主天使たちが一列に並び、腕を組む。
自らが出るまでもない戦場で羽ばたくまでもなく空に浮かぶ超自然存在たち。
「む?」
そのうちの一体が気づいた。
滅びの魔人が突如舞い上がる。
「おい、どこへ――」
まさか戦場を離脱するつもりか!
待ちに待った粛清の機会に、ドミニオンが追うように飛び出す。
それが
―― ウアス ――
何の兆候もなく、現れた巨大なる黒影。
その
「でゅア!!?」
「タロエルぅ!?」
「なんだきさま、は――?!!」
轟音。
砂が舞う、血塗られた赤い砂が渦を巻いて舞い上がる。
血の如く真紅に染まったナイル川が砂塵の嵐に、黒影の羽ばたきと共に荒れ狂う落雷が空を引き裂いていく。
エジプトが震える。
世界が震撼する。
その悪王の帰還に、蘇生に、空を覆わんばかりの轟音を奏でて、かの悪神は咆哮を上げた。
「GYASYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
\カカカッ/
| 種族 | 魔王 | セト | LV85 | 属性 EVIL |
| 相性耐性 | ??弱点 火炎弱点→火炎吸収 BS無効 |
黒き竜にも似た異形。
翼を生み出し、かつて兄たるオシリスを食い殺した弟神にして、エジプトにおける最強の戦神。
この世界ならざる世界においては
「魔王……セトだと!?」
「我らが
――サイレントハウル――
| |サイレントハウル | 魔法スキル | 敵全体に魔封中ダメージ+魔封効果 |
無音の咆哮。
腕を十字に組み、一列に魔法を放たんとした主天使たちが一斉に硬直する。
「でゅわわわわ――」
かろうじて声が出せた主天使が最後に見たのは、振り上げた悪竜の爪だった。
――ティタノマキア――
| ティタノマキア | 物理スキル | 敵全体にクリティカル率30%の物理大→特大ダメージ |
爆散。
五体の主天使共と同時に視線上の天使数百体が捻れて弾け跳んだ。
ただの流れ弾、衝撃でのみ起こった被害。
振り抜かれた空間が捻れて撓み、断末魔のような音を響かせる。
――マハブフダイン――
――マハジオダイン――
その喧騒を引き裂いたのはセトの背に直撃した氷結と落雷だった。
「グルルルUcuuuRURURRU!」
巻き添えになった天使を消滅させながらも、直撃した魔王の全身は健在。
身震いし、唸りを上げながら、血走った目を跳ね上げる。
目線が合うのは喇叭を携えた魔人。
「――……兄殺したる魔王よ。貴様もかの追放者と等しく主に抗う宿命か」
「GAAAAAAAAA!!!!」
「全てはラッパのままに……滅びよ」
悪神が飛翔する。
魔人が降下する。
選択するは――息吐く間も許されぬ闘争。
共に世界を滅ぼし得る破滅が激突した。
・
・
・
パンパンパン、パンパンパンッ♪
世界を滅ぼしかねない脅威と脅威。
パンパンパン、パンパンパンッ♪
天高く互いに火を、風を、雷を、吹雪をぶつけ合う災厄共。
その流れ弾によってカイロの街が、天使が、大地が、荒れ果てていく。
視界を埋め尽くすほどの砂塵が舞い上がり、それを滅びのラッパが吹き散らす。
災厄の魔笛が魂を吸い上げようとすれば、それを魔王が咆哮と共に吹き散らす。
魔人と魔王の激突に、一心不乱に手を叩く者がいた。
「素晴らしい! 実に世界が滅びそうないい天気だな!」
「ネンネンね~~ん」
半ば崩壊したピラミッド、その頭頂部の石団に腰を掛ける偉丈夫が拍手を送っている。
その横に、手に持っていた魔導書を腰掛けにしたトートがブラブラと脚を動かしていた。
「……な、なにをしてい……る」
「おや?」
くぐもった声に、偉丈夫が顔を向ける。
そこには血だらけの、つい数分前までは傷一つない衣装と勝利に満ちた顔を浮かべていたエジプト神の一体。
その右腕はしなびて、片足と片目に関しては食いちぎられたように駆けていた。
「セトに食われたはずだが、運悪く生き延びてしまったかね」
「ネフレン=カ!! それはどういう意味――」
叫び散らそうとしたエジプト神が不意に硬直する。
「な、んだ……そ、その、か」
「ん? ああ、そうか。顔を戻していなかったな」
ネフレン=カと呼ばれた偉丈夫は頭部に手を触れる。
目も口も鼻も、そして顔すらない頭に。
「バステト神であれば我に感づき、戦っただろう。我が相対者であるファラオの末裔、クレオパトラもまた鋭く逃げ出した。鈍いのはお前たちだけだ」
動けない。
恐怖し、目を見開いたままの神であり悪魔でしかない存在は、震え上がりながらゆっくりと近づくそれを待つしか出来ない。
「貴様らは自分たちの
「ば、か、な。お前の名は……と、と、が――」
「そうねぇん。ボクちんは知っている、けど記録には残してないねーん。
ニタリと顔だけ向けて嗤うトート。
その顔は自分たちが知っているラー神族の、相談役であるトートが浮かべたことのない邪悪な顔だった。
「せっかくだ、お前の貌もしばし貰うとしよう」
伸びた手が悪魔の顔を掴む。
本来ならば人間よりも遥かに強大なはずの悪魔が、完璧な成人男性を模った腕一本に吊り上げられる。
「やめろ! やめ! やめて」
「己が魂も顔も、我々のために役に立てるのだ。むしろ喜んで身を捧げるべきではなかったのかね?」
「いやだ、いやだ、いやだあああああああああああああああああああああ!!」
絶叫する。
悪魔でありながら泣き叫ぶ。
「最後に良いことを教えよう」
近づけられる、その偉丈夫の――ネフレン=カの――暗黒のファラオの顔は。
「我が名は――」
深淵の宇宙だった。
ガジャッ ゴリ ゴ ィリ
メゴ
コ゚リュンッ♪
「ふぅ」
「お、そろそろ盛り上がってきたのねん」
「おや?」
トートの声に、顔を人の顔に戻したファラオが見上げる。
分厚く晴れること無き黒い雲空の中、傷ついた魔人は喇叭を吹き鳴らした。
「滅びよ……!」
―― コンセンレイト ――*3
――
| アポカリプス | 万能魔法 | 敵全体に万能魔法大ダメージ、80%→100%魔封状態にする。 |
誰も彼もが逆らえず、スキルを封じる絶対無慈悲の黙示録。
唯一神より授かりし滅びの波動。
カイロはおろかエジプトの土地そのものを荒廃させていく、違う世界であれば神が命じた絶対退去の命令をも打ち消す笛の旋律。
「ワレを縛るな、人形ふぜいが!」
セトの瞳が見開く!
神威が発動!
―― ピラミッド・パワー ――
「な……!?」
打ち消され、
―― パワーチャージ ――*5
―― ウアス ――
| ウアス | 物理スキル | 敵単体に極高クリティカル率の物理or衝撃特大ダメージを与える。 そのダメージの50%分自身を回復する。 属性は相手の耐性状況によって自動で選択され、このスキルのダメージは属性貫通を持つ |
加速し、開かれた魔王の顎が魔人の翼を
―― ウアス ――
錐揉みしながら落下する魔人のもう片方の翼を、
絶叫が上がり、魔人トランペッターは墜ちた。
撃墜された。
その事実を、多くの悪魔たちが目撃をした。
黙示録を凌駕する、大破壊の魔王の悪夢と共に見た。
「はっはっは! 楽しくなってきたなあ!」
放たれた
・
・
・
山梨・ガイア連合山梨支部。
その開発部は荒れ狂っていた。
いつも荒れ狂っていたが、今日は一段と荒れ狂っていた。
「どうなってんじゃああああああああ!!!」
「え、魔人って倒せるもんだったの!?」
「そこからセトってバケモンにはバケモンをぶつけるんだよじゃねえんだけど!?」
速報として入ってきた魔人トランペッターの撃墜。
それに浮足立ち「どうすんのこれ!?」「やばいって、セト倒せる武器とか作れってこない?」「せや! ヒノカグツチなら!」「いやあれ確かセトには効かなかったって描写なかった!?」「はあん、どうやってナカジマ倒したんだよそれ!?」「確か宇宙衛星をなんとかしたような」「落としてぶつけるとか?」「出来るか!」「たすけてスーパーハカー!! お前ならやれる!」「無茶言うなおwww」「ぼすけて、BPS!!」 まさにパニックだった。
「やれやれ、慌ただしいね」
そんな喧騒の中、淡々と仕事する女性がいた。
真っ白な
「おつかれ、フミくん」
「うん?」
そのデスクの隅に紙コップのコーヒーが置かれる。
「ああ、あんたか。珍しいね」
目を向けた先にいたのは見知った同僚だった。
「なに、同じ職場の仲間だから当然だとも」
車椅子姿の彼に、そういうものかねと友人からは無愛想だと言われる態度のまま紙コップのコーヒーを啜る。
福利に力をいれているガイア連合のコーヒーは美味い。
「しかし、君は気にしないのかね?」
「うん? ああ、トランペッターの」
「そう。魔人が次々と倒され、そしてついにはあの黙示録の
眼鏡を輝かせながら語る同僚の言葉に、フミと呼ばれたチーパオの女は短く息を吐く。
「別に驚くことでもないんじゃない?」
「……ほぅ。その心は?」
「神話上、悪魔を、いや神を倒した伝承は存在する。大体は神の血が混じってたとか、伝説の武器があったからっていう理由付けもあるけどね」
「神殺しは起こり得る、と?」
「ドラゴンぐらいは倒す話はありふれてるんだ。神を名乗る悪魔ぐらいは倒されることだってあるんじゃない?」
そう淡々と答えるのは後方担当だからか。
一応覚醒はしているが、ガイア連合に破格の報酬と待遇で勧誘されてから戦場に出ることもなく。
アメリカからのメシア教から入手した天使召喚プログラムの解析や、己が心の赴くままに研究をしている女性はそんな感想しか抱けない。
なんだったらガイア連合の者や、外の者たちが口を酸っぱくして言うほど、悪魔の強さや恐ろしさがピンとこない。
連合内では殆ど素材扱いで日々狩り殺されてるし、彼らが出向ければあっという間に殲滅してくる。
しかし外の者たちからすれば命がけ、連合が関わらない場所であれば恐ろしく、命がけの戦場だという。
今までは連合が特別強いだけだという風に理解はしていたが……外から漏れ聞こえる例の海外派遣組や、デジタルサマナーなどの話を聞くとその考えもズレてきた。
(ヒデトだったっけ。連合の人間じゃないし、提供した装備に関しては厳重っていうほど制限のかかった【規格品】だけに絞ってたけど)
ヒデトという一行、それと同行している元ダークサマナーやら、在野の悪魔召喚士に関しても連合から装備や物資の提供はした。
渡す装備類に関しても開発部一同で議論と、上から指示された注文に沿って揃えた。
【ヒデト一行に渡す装備は量産規格品のみ。機械装備に関しては全てリミッターと式神を応用した技術類は全て撤去済みで統一すること】
使えそうな試作品の一つだって絶対に渡すな、と悪ノリばかりする技術開発班にしても珍しい統一だった。
班長の一人であるエドは少しぐらいはいいんじゃねえの? としぶい顔をしていたが、
(奇跡が起こす余地を与えるな! だったっけ)
誰かが叫んでいたその時の言葉を、思い返しながらコーヒーを啜る。
「ふむ……これも彼の影響か」
「はいはい、いいから仕事戻ったら」
顎に手を当てて意味深げに呟く同僚眼鏡に、用事はすんだろうと手を降る。
遠い海外のことなんぞより今かかっている仕事が多いのだ。
フミにはやりたいことがそれこそ世界が終わっても残っているのだから。
「おや? どうしたバロウズ」
車椅子を翻し、自分のデスクに戻ろうとした同僚眼鏡が上げた声。
何らかの通知か、スマートフォンを開いて、画面に映る彼が開発した
「これはまた面白いことになったな……まさか無限の塔から帰還したか」
「どうした?」
「いや、行方知れずだった知り合いが見つかったみたいでね」
「マツダの知り合い?」
「ああ」
楽しげに両膝の上で手を組み、見慣れたポーズを取りながら彼は告げた。
「私が昔プログラムの参考にした――ある意味オリジンの一人だ」
ガイア連合の技術開発部に務める研究者はそう微笑んだ。
真シリーズの悪魔召喚プログラム
それを創り上げたものは複数存在する
一人は車椅子の観測者
一人は悪魔の闘技場にて勝利せし救世主の少女
そしてもう一人は――