その日、IS学園に自家用ジェット機が舞い降りた。勿論、セシリアの関係だが……。
「遠い所、御足労いただき感謝します、ブランケットさん。」
「いえ、お嬢様のことで口頭でしかお話しできない程の御相談。
余程のことと察しましたのでお気になさらず、ミス山田。
こちらこそ連絡いただき感謝します」
そう、今回チェルシーを呼んだのは真耶。未だ表沙汰にできない状況故の苦肉の策だった。
早速場所を移すと真耶はチェルシーに事の次第を口外禁止の上で説明する。
それを聞いたチェルシーはショックを受けたがそこは本職のメイド、表に出すことは無い。
「随分とご迷惑・お手数をおかけした様で申し訳ありません。
その男性操縦者様は基本的に秘匿されているのですね、その方を自殺に追い込むとは……」
「私の力不足でこの様な事態になりましたが、発覚後反省を促しても……」
「お嬢様は今自室においでなのですね? わたくしが手を打ちますのでご安心下さい。
ミス山田が気に病むことではありません、これはお嬢様に問題があるのですから」
そう言ったチェルシーの目には決意の色が見えていた。
◇◆◇
セシリアが死の恐怖に怯えていると部屋のドアがノックされ……。
「お嬢様、チェルシーでございます」
その声にセシリアは一も二もなく飛びつくかの如くドアへ駆け寄り、中へと通した。
「チェルシー、どうして此処に?」
「それはお嬢様自身、よくわかっておいでなのでは?
ミス山田から概要は聞き及んでいますが何があったのか過去の経緯を含めて詳細を」
その有無を言わせぬ雰囲気はメイドとしてではなく、幼馴染で姉代わりとしての物。
これは誤魔化せるものでは無いと悟ったセシリアは最初から話を始める。
隠していたことも包み隠さずに。
そして、その返答はセシリアの頬を痛烈に叩くことで始まった。
「セシリア、貴女は一体何をしにこの学園へ来たのですか?
入学早々他国や男性を貶める発言、代表候補生以前に人として許されることではありません。
貴女がやったことは、オルコット家を上から目線で食い物にしようとした彼らと同じこと。
立場の弱い男性操縦者、しかも初心者に専用機持ちが決闘? 一体貴女は何様のつもりですか!
貴族たる者、その様な発言をせず行動で示すべきです。
勿論、セシリアが誤った発言をしたのですから反論を受容する寛大さが必要でしょうに……。
しかも、そこで織斑様に追い詰められて惚れるなどとは……。
私からすれば第二世代機で果敢に戦った方を評価します。
その方は負ければ死に近づくと知りながら善戦したのでしょう?
恐らく織斑様のファーストシフトまで時間を稼ぎ、それでいて次戦に影響が出ない心遣い。
なんという心の強さと優しさ、思慮深さかと感心してしまいます。
織斑様は零落白夜という切り札に高機動の第三世代機という自身にあった機体。
一撃で勝負を決められる者と様々な手段を講じなければ勝負にならない者。
それを同じ土俵で見るなど、どこまで見る目が無いのか呆れて物が言えません。
しかも、ドイツの代表候補生と私情による戦闘で専用機の大破。
その結果、タッグトーナメントという大切な機会を逃す代表候補生としての自覚の無さ。
ブルーティアーズは何のために与えられたと思っているのですか!
その後も日々死に怯えながら足掻く男性操縦者を織斑様と過ごしたいという我儘で排除。
お門違いにも程があるという物です!
しかも今、セシリアが生きているのはその方の尽力あっての物と何故わからないのですか!
その方がセシリアを恨んでいたなら、猶予無くもう死んでいたでしょう。
それもこれもその方の人間性がコア人格を正しく育て、コア人格もその方を認めた結果。
でなければ、セカンドシフトなどそうそう起きる訳がありません!」
その後もチェルシーの指摘は多岐に渡り、セシリアは質問に答えるたび打ちのめされる。
まるで見ていた様に行動を言い当てられてはセシリアに返す言葉も無かった。
「とにかく織斑様の事を除外して、その方がセシリアに何をしてくれたのか。
そしてそんな方にどんな非道を働いたのか、よく思い出して反省なさい!
その上で心から反省した内容をしたため、ミス山田に速やかに提出。
その後、許可を取りセシリアにできることでその方が回復する努力をするのです!
それまで私は此処に残り、監督する事にします。
死ぬことを恐れるより、貴族として代表候補生として人として大切なことを成す。
それがセシリアのすべきことであり贖罪です!」
こうしてチェルシーに気づかされたセシリアはやっと行動を起こすことになる。
『よく言ってくれましたわ、全くもって異論はありません。
ですが、私も皆に習い悪夢は見ていただきましょう。これは最低限の罰ですから』
誰の耳にも残らないその言葉がセシリアの今後を示す。
それは彼女の優しさであり、期待の表れでもあった……。