動き出す事態
一夏はもうISを動かせない、だから白式を返そうとしたのだが……。
「は、外れない!?」
待機形態のまま腕にある白式はどれだけ力を入れようとビクともしない。
今のところ、一夏がISを動かせなくなったことは秘匿されているが……。
動かせないのに返せなければどうなるか想像した一夏は青い顔で千冬に相談した。
「不幸中の幸いと言うべきか、今はまだ秘匿されている。
だから他に漏らすな、山田君と理事長に相談してみよう」
それを聞いていたのは束。
「へえ、白式は見込みありって思ってるのかな?
まあ、ちーちゃんの男性版がいっくんだから切欠があれば動く可能性も……。
でも、まだ何か足りないんだろうね」
そう言いながら出来上がった物を束は見る。
「んー、攫ってこようかな? 動かせないってバレたら腕切られるだろうし。
これを使って経過観察も必要だしね、んじゃまずはっと」
そう言うと束は電話する、勿論相手は……。
「ああ、ちーちゃん?
何切ろうとしてるの? いっくんを助けてあげようとしてるのに。
え? どう言うことって匿ってあげるって話だよ。
白式も見ないとダメでしょ? 束さん以外に原因わかる訳ないんだから。
すぐ行くから話通しておいてね。
パッと見てわかる状態じゃないから時間かかるって言っといて。
じゃ、また後でね〜」
千冬が何か言ってたがもう伝えることは無いとあっさり切った束。
本当の目的を言わない辺り、流石天災といったところだった。
◇◆◇
なんだかんだで束のラボに来た一夏、学園には束が有無を言わさず連れ去った事にしてある。
「いっくん、ちょっと白式見せて」
「お願いします、束さん」
そう返事すると臨海学校の時の様にケーブルを繋ぐ束。
「相変わらず変わったフラグメントマップだねぇ、ん? んん?
ちょっと白式何やってんの!? だから外れないのか、なるほどねぇ」
「何かわかったんですか? 束さん」
呑気な一夏に束はまあね、と答えて素早く首筋に一撃。一夏はあっさりと気絶させられた。
「ごめんね、説明するといっくんが壊れそうだから」
そう言うと束は出来上がっていた特殊治療用ナノマシンを一夏に打ち込む。
このナノマシン、外科手術に必要な各種機能を持つ特別製。
「こっちが本命だからね、しばらくはここで暮らしてもらうよ。
白式も時間がかかるから丁度いいし、ほいっと」
「束様、個室の用意が出来ています」
そこに現れたのはクロエ、束は一夏が過ごす部屋の準備を頼んでいたのだ。
軽々と一夏を担いで束は部屋に向かうと一夏をベットに寝かせた。
「起きたらご飯楽しみにしてるね、しばらくの間おやすみ〜」
自分で気絶させておやすみ、やはり束は束だった……。
◇◆◇
「束様、結局あのナノマシンでどのような治療を?」
クロエはナノマシン自体はよく目にしているし、束が自身に投与していることも知っている。
しかし、時間がかかるナノマシンだけは聞いたことが無かった。
「ちーちゃんといっくんは、クーちゃんと一緒で生み出された存在。
そしていっくんの目的は“交配による超人の誕生”だったんだよ。
そこでいっくんには高性能であればあるほど惹かれるフェロモンが組み込まれてた。
そしてそれに見合った知識や感情をインストールする予定だったんだけど……。
その前に束さんがちーちゃんを超えてるって証明しちゃったんだよね。
で、一時停止している間に研究者二人とちーちゃんがいっくんを連れて脱走。
だから、恋愛感情がわからないんだよ。
ちーちゃんの異常なブラコンといっくんのシスコンはこれが原因。
ほら、他の子はともかくちーちゃんの水着見て赤くなるとかおかしいでしょ?
弟に水着選ばせようとするのもね?
それはちーちゃんが優秀すぎるのと元々交配させるつもりだったから。
束さんはそういう外的要因をナノマシンで排除してるから対象外」
「では、今行っているのは……」
クロエの理解が追いついた。
「そ、いっくんから異常なフェロモン発生機能を除去・常人並に調整してる。
そして、いっくんを遠ざけることで今の異常な執着心の元を絶ったら誰が残るか。
結果的に今の環境は目を覚ますのに丁度いい。
ただ随分一緒にいたからすぐには効果が切れないかもね。
ちなみに白式はね? いっくんが気に入ったんだけど今すぐ起動条件変更はできない。
だから外れない様にして自分をいっくん専用に書き換えようとしてる。
まあ、説得するよ。コア人格にそれを一度許したらコアネットワークで拡散。
最悪、全てのISが操縦者を選ぶ様になって面倒な事になるからね」
そう言った束は困ったもんだと言わんばかりの表情だった。