男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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音が鳴る時

鈴が譫言を言う回数が徐々に減り、今は普通の睡眠が取れる様になっていた。

和成の追体験から脱して来た証拠であるが、いつまでも寝かせておくほど甲龍は甘くない。

搭乗者保護機能によるメンタルケアを徐々に行うことで擬似的に克服経験を踏ませた今、完全覚醒させるために微弱なショックを与えたのだ。

 

「うっ、って私今まで何して……」

 

和成の追体験をしてから曖昧な記憶だったが、それでも刻まれたモノが鈴にはあった。

 

「私は一夏を独占したくて和成に酷いことをした。

 和成は一夏が誘ったのを断って、私達を気遣ってくれてたのに私は最低よ」

 

しばらく動いていなかったからか、すぐには上手く動けない鈴だったが机に辿り着くとレポートに取り掛かる。

 

「初めから全部思い出して書くわ、そして一つ一つ反省する。

 和成の良いところも書いて感謝しなきゃ私は自分を許せない」

 

そう考えて始めに浮かんだのは、迷っていた自分を事務局まで案内してくれた和成だった。

 

「今思えばあそこってアリーナの側よね、なら和成はあんな時間まで訓練してた。

 疲れてたのに案内してくれたから間に合った……。

 こんな事にも気づかないなんて何見てたんだろう、私は」

 

そして思い出す、あの無人機襲撃事件を。

 

「甲龍も白式もシールドエネルギーがヤバくなった時、和成が来て退避する様に言ってくれて。

 

 一夏が戦うって言い張ってた時、和成は無人機の注意を引き付け続けるだけの技量があった。

 あの動きを第二世代機でやったのよ? どれだけ訓練したのか……。

 少なくとも一夏より上の技量がなきゃ出来ないことじゃない。

 

 しかもあの高威力な砲撃に晒されながら一か月も乗ってないのに、きっと怖かったわよね。

 箒の馬鹿が叫んで狙われた時もすぐ腕を抑えてくれたから被害は出なかった。

 その隙に零落白夜も当てられた、和成が我儘を聞いてくれて協力してくれたから。

 

 なのに和成まで処分を受けて、それでも皆無事でよがっだ、っで、うっ、ぐすっ」

 

あれは代表候補生として自分が残り、二人を避難させるべきだったと冷静になった今の鈴にはよくわかる。

 

「和成はただ誰にも傷ついて欲しくなかったから私達に逃げろって言ったのよね?

 自分の方が機体・経験とも私に劣ってるのはわかってた筈なのに……。

 いつ研究材料にされるか怯えてた状況でも和成は勇敢に戦った、いえ守ってみせた。

 

 実際のところ、一夏の作戦は運頼りで瞬時加速できるかさえ怪しかった。

 できたとして砲撃の餌食になったかも知れない。

 上手く行ったから良かっただけで良策じゃなかったわ」

 

こうして目覚めた鈴は想いを込めたレポートを仕上げ、真耶からの謹慎が解かれることになる。

 

◇◆◇

 

本音は生徒会業務に四苦八苦しながらも取り組み、やっとのことで時間を作り出せる状況まで辿り着いた。

 

更識姉妹が抜けた穴の内、埋められる物を布仏姉妹が肩代わりしていたために今日まで和成に会うことすらできなかったがやっと会える。

本音は保健室で眠る和成の下へ向かうと、穏やかな寝息を立てる姿に安堵した。

 

「ごめんね、なかなか来れなくて……」

 

そう言いながら和成の手を握る、その時見えた腕は少し細くなった様に感じた。

 

「寝たきりじゃ鍛えた分も……」

 

当然、衰える。真耶に聞いた毎朝毎晩の特訓の成果が消えて行く。

その努力が報われないことを本音は心から悲しいと思った。

 

ぽたり、ぽたりと溢れ落ちる涙。

自分がちゃんと一緒にいてあげれたらと思うと止めることができない。

だから誓う、二度と一人にしないと。起きたならずっと一緒にいて自分が守ってみせると。

 

その瞬間、本音は見覚えの無い場所に立っていた。

 

「綺麗……」

 

始めに感じたのは不思議と恐怖では無かった。

雲一つない空、豊かな緑、頬を撫でる風は優しく、大きな湖の上に本音は立っている。

 

「どうですか? マスターが育てた世界は?」

 

その声に振り向けば、白く古めかしい服装に黒髪を結い上げた同年代位の美しい少女がいた。

ふと思い出す、防人は奈良・平安時代の兵士。ならこの服装もその時代の物かと。

 

「その通りです、マスターの苗字は崎守。それが指すのは防人。

 かつて北九州の防備にあたった兵士でマスターはその末裔。

 私はマスターの行動に敬意を払い、打鉄・防人とセカンドシフト時に名を変えたのです」

「なんで私の考えがわかるの?」

「この美しい世界はマスターが育てた私の精神世界、一切の虚偽は通用しません。

 そして貴女を招いたのは私、今の貴女ならマスターを再び支える事ができると判断しました。

 マスターをよろしくお願いします、本音様。マスターも貴女を求めていますよ」

 

その言葉に本音は真っ赤になった、本音が心を寄せているのも和成だから。

誰よりも共にありたい存在。そしてただ会いたいと願った瞬間、目の前に本人が現れた。

 

「かずくん、ごめんなさい。私が一緒にいられればこんなことにはならなかったのに……。

 今更だと思うかもしれないけど、かずくんが自殺したって聞いて心臓が止まるかと思ったの。

 私が好きなのはかずくんです、かずくんの側に居させて下さい。」

 

本音はポタポタと涙を零しながらも、そう言い切った。

 

「山田先生も僕を見捨てた訳じゃないってサキモリに教えて貰ったんだ。

 今も頑張ってくれてるって。

 

 弱い僕だけどまた支えてくれる? そうすれば僕はまた生きていける」

「支えるよ、一緒に生きていく。かずくんと一緒にいるのが私の幸せだから」

「ありがとう、僕も好きだよ、本音さん」

 

その声を最後に本音は世界から遠ざかって……、気づけば保健室にいた。

ただ、握った手を握り返す感触に涙を流しながら声を絞り出す。

 

「おかえり、かずくん」

「ただいま、本音さん」

 

こうして和成は遂に現実世界へと帰還したのだった。


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