男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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突き付けられた和成の現状

 千冬はその日、和成は体調不良のため保健室にいるが訪ねずゆっくり休ませるよう告げる。

 そして迎えた放課後、心当たりがある関係者全員を生徒指導室に集めると、こう切り出した。

 

「崎守が投身自殺を試みた、意識不明ではあるが無傷で今のところ命に別状は無い」

 

 それを聞いた全員が驚く、特に顕著だったのは真耶と本音だった。

 

「織斑先生、目覚める見通しは……」

 

「いつ目覚めるのかは予想がつかないそうだ」

 

「なんでだよ! 和成がどうして自殺なんかしなきゃいけないんだよ!」

 

 生徒指導室に一夏の声がこだまする、それを見る専用機持ちの面々は鎮痛な面持ちで一夏を見ていた。

 

「それに苦しんでるなら俺に相談しろよ! 友達だろ!?」

 

 無力感と相談して貰えなかった悔しさから一夏が吠える。だが、一人だけ冷ややかな雰囲気を漂わせる存在、真耶が千冬に問いかけた。

 

「織斑先生……、遺書があったんですよね? 見せて下さい」

 

「あ、ああ、山田君」

 

 そして真耶は知った、正確にはより一層詳細に知ってしまった。

 

「こんな酷い扱い……、崎守くんはできる限り穏便に済むよう協力してたのにそれを……」

 

 真耶は後悔しながらも読み進める、握りしめた手に爪が食い込んでいることすら気づかぬままに。

 

「ごめんなさい、和成くん。私に力が、いえ覚悟がもっとあれば……」

 

 真耶は涙を溢しながら詫びる、そして強い意志を持って告げた。

 

「織斑先生、もう貴女には任せられません」

 

 遺書を読んだ真耶は千冬が和成との重要な約束を破ったと知ってそう告げる。そして、視線を千冬から専用機持ちの面々へと移し続けた。

 

「加えて加害者のプライバシーより被害者である彼の命が大切です」

 

 私は絶対に許さない……、布仏さんを除くこの場の全員を!

 さあ、しっかり聞いて理解しなさい! 貴方達が犯した罪を!」

 

 そう言うと真耶は遺書を読み上げ、和成の想いを全員に叩きつけた。

 

◇◆◇

 

 一夏は、まさか自分に落ち度があったとは、まったく思っていなかった。

 しかし、真耶から朴念仁の意味、一夏と和成の置かれている状況の違いを説明される。そして理解した、自分が加害者だということを。

 

「俺はISを起動したけど織斑先生や束さんに守られてたんだな、でも和成を守る物は無い。それどころか和成とお姉さんの人生をめちゃくちゃにしてたなんて……。

 

 しかも皆の想いに気づきもしないから、あいつを追い詰める原因になった。ははっ、何が守るだよ。何も守れて無いじゃないか、最低だ……」

「一夏くんは守ってきたわ、少なくともここに居る一夏くんを想う人だけは間違いなく」

 

 そう言ったのは適切で無いと思いつつ、一夏の苦悩を少しでも軽くしたいと思った楯無だったが……。

 

「更識さん、欺瞞は許しませんよ、崎守くんがどれだけ身を削ったと思ってるんですか?

 

 織斑くんだけの力で守ったんじゃありません。崎守くんも守れるように手を尽くしたんですから、あえて言うなら二人でです。

 

 なのに貴女達は彼のことを顧みないで、織斑くん、織斑くん、織斑くん。

 ええ、そうでしょう、見た目には格好良い織斑くんが解決した様に映るんですから。

 

 実際は違うのに都合のいいよう解釈して好みの男の子と恋愛ごっこ、見る目が無い専用機持ちの貴女達に崎守くんは勿体無いですから、それは構いません。だからと言って彼を傷つけていい理由にはならないでしょう!」

 

 真耶は怒りながらも逃げ場を潰していった、誰が何と言おうとも一歩も引かず悉く論破して。

 

「布仏さんを除くこの場の全員は織斑先生も含め過去の経緯を纏めたレポートを提出、自分の行いを客観的に見た物だけを受理します。

 それができるまで生徒は自室謹慎、お互いの接触も一切禁止します、自分の行いを見つめ直すにはそれしかありません。

 

 理事長には私から報告して正式な処罰を追って連絡します、いいですね、織斑先生?」

「……山田君に全て任せる」

 

 千冬の一言で、重苦しいその場は解散となった。

 

◇◆◇

 

 真耶は保健室に向かうと和成がこうなった経緯を伝えて現状説明を求めた。

 

「率直に言って、いつ目覚めるか全く予想がつきません。

 

 山田先生のお話からいけば、彼の精神は起きるのを拒絶しています。最悪、精神が死んだと認識しているかもしれません……。

 

 何かあれば私を呼び出して下さい」

 

真耶を気遣い彼女は部屋から去る。

 

「ごめんなさい、崎守くん」

 

 そう言いながら手を握る真耶は泣いていた。

 

「崎守くんがいつ起きても苦しまない様に先生、頑張るから。だから今はゆっくり休んで心を癒やして下さい。

 

 そして起きたなら今度こそ私が守って見せます、だって私は先生ですから」

 

 そこに気弱な真耶はいなかった、覚悟を決めた彼女の精神は鋼の様に。愛おしそうに和成を見ると真耶は保健室を後にした、理事長への報告と自分の意志を貫くために。

 

◇◆◇

 

 本音は後悔していた、わかっていた筈なのに和成を一人にしてしまったことを。

 

 元々、和成の味方だった本音は、真耶が告げた内容・やり取りを思い出して表情を歪める。

 今更かも知れない、けれど自分に会えて良かったという和成の気持ちが本当に嬉しかった。そして、そんな和成を追い詰めた全員に怒りを覚える。

 

「ごめんね? 苦しかったよね……」

 

 真耶と入れ違いで保健室を訪れた本音は和成の手を握りながらそう呟く。

 

「もう一人にしないから早く元気になって……、起きたら謝って仲直りして、いっぱい楽しいことを一緒にしようね?

 

 私はずっと待ってる、だから……」

 

 それ以上、本音の言葉は続かなかった。ただ啜り泣く声が保健室に響く、泣き疲れた本音が眠りに落ちるまで、ずっとずっと……。


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