昨夜、セシリアの件が片付いた後で鈴から薫子とダリルが訪ねて来たと聞いた真耶。
ダリルは不明だが薫子はわかりきっている、記事のネタだろうと。
千冬が気を利かせて既に全員分見終えた上で、重要な部分に付けられた付箋。
それを読んだ真耶は全員の謹慎を解き、合わせて和成を復帰させた。
とあるわかりやすい理由で生徒を納得させることにした。
「皆さん、おはようございます。
お休みしていた崎守くんが今日から復帰します」
「先生、他の専用機持ちのみんなは?」
予想された質問に想定していた回答を示す。
「実は皆さんもご存知の通り、織斑くんを巡って……」
ああ、と何か納得した雰囲気が漂う教室。
専用機組は事前に言われているが居た堪れないことこのうえない。
「それにですね、崎守くんが巻き込まれて検査入院。
原因の彼女達は自室謹慎だったという訳なんです」
和成に集まる同情の視線。
「その、頭を打ったので一応検査とか経過観察で僕は休んでいました。
クラスの皆さんにはご心配をおかけしました」
こうしてなんとか煙に撒いた関係者達、一夏がいないからこそ言える理由でもあった。
……主に乙女的理由で。
◇◆◇
「ぶわっはっはっは、ちょっと君面白すぎでしょ!」
束はお腹を抱えて、過呼吸になりながらも笑うという器用な事をしている。
「あー、笑った笑った。いや、妙案妙案、普通にあり得るし。
みんな納得するくらい今までが今までだしね。
ちーちゃんの取ってつけた理由よりよっぽど現実味があるよ。
見てよ、あの顔。ぶふっ、ちょっと束さん、笑い死んじゃうから! やめてって」
そう言って涙を流しながら、転げ回る束だった。
◇◆◇
クラスのみんなに憐れまれるという苦行を乗り越えた放課後、和成は真耶と同室になり“今は”シャルロットがいた。
「和成、僕は何も知らなかった。一夏に聞いたんだ、和成が僕を助けようとしてくれてたって」
それを聞いて、ああと和成は心当たりを思い出す。
「僕は馬鹿だった。自由になったって浮かれて、もっと苦しんでる和成に暴力を振るったんだ。
わかってた筈だったのにね、和成の状況が最悪だって。でも、僕は自分を優先したんだ。
バチが当たったんだよ、そんなことだから。僕の状況は正直言って詰んでる。
だからこそ和成にはちゃんと謝りたかった、酷いことをして本当にごめんなさい。
いつまでここにいられるかわからないけど僕はもう間違わない。
和成に嫌われても僕は僕の意志で、行動で反省を示していくよ」
和成は一通り聞いて鈴やセシリアに続きシャルロットの謝罪を受け入れる。
「うん、シャルロットさんが言った最後の一言。それを守ってくれれば僕は責めないよ。
嫌いになったりもしない、これからもよろしくね」
シャルロットは唖然として、堪えていた涙は勝手に零れ落ちた。
許された訳じゃない、けれど嫌ったりもしないという和成の優しさに触れて……。
◇◆◇
和成は一夏から聞いたことしか知らない、けれどそれには一夏の主観が入っていて信憑性にかける。
そこでシャルロットの意思の確認と客観的な目線での情報収集を試みることにした。
「聞いてもいいかな? シャルロットさんはこれからどうしたいの?」
「僕は……、僕は自分の人生を自分の意思で生きたい。
ううん、生きるための行動を起こすつもりだよ」
以前は受け身で一夏が出しゃばったのは知っている。
けど今は違う、自分で道を切り開こうとしていると和成は理解した。なら……。
「シャルロットさんの意志はわかったよ。
それでできれば過去から今までの経緯を聞かせてくれないかな。
僕なら客観的に情報を整理できると思うんだ。
一夏も頑張ってたけど熱くなってて冷静じゃ無かったし、どうかな?
もしかしたら何か見落としている事がわかるかも知れないよ」
シャルロットも和成が言っていることは理解していた。
だから、自分のこと、自分の知ることを全て和成に伝えた……。
◇◆◇
和成には違和感しか無かった、あまりに杜撰で突然の転入から始まった学園生活。
そして問題はその前。態々自分のウィークポイントを引き取り、育てたという行為。
酷い言い方をすれば邪魔にしかならない存在、なら
「これは僕が立てた予想であって真実じゃないかも知れない。
だから怒らないで冷静に聞けるかな」
「うん、わかったよ。約束する、冷静に聞くって」
その答えを待って和成は推理を含めた予想を話し始めた。
「まず、アルベールさんは間違い無くシャルロットさんを愛してる。
理由はデュノア社にとってシャルロットさんはアキレス腱。
邪魔にしかならない筈なのに“態々”引き取ったよね?
シャルロットさんは利用するためって言ったけど……。
引き取る時にはIS適正とか何もわからなかったんでしょう?
しかも、育てる時間もお金もかかる。
そんな不確定要素しか無い有害な存在を引き取る理由、他にあるかな?」
シャルロットは考える、されたことは全て除いて和成の言った事だけを。
「僕なら無いかな、邪魔なら消すと思う」
「そうだね、じゃあ何故IS操縦者にしたかだけど……。
専用機持ちにすれば“IS以外では殺せない”。
現代における最高の守りを与えるためじゃないかな」
「最高の守り……」
そう言われてみればそうかも知れない、シャルロットは深く考える。
「それで冷遇の件だけど、これもシャルロットさんを守る手だと思う。
次期社長と見做されれば、いつ消されるかわからない、内部からね?
だから不仲を装って、早いうちに消され無いようにした。
せめて専用機持ちの代表候補生になるまでは、ね」
シャルロットは、はっと顔を上げる。
「ここで質問、シャルロットさんは女性としてIS学園に正規転入できたかな?」
「それは……」
無理だ、IS学園の転入試験は尋常じゃないレベル、確実性が全く無い。
「無理だったみたいだね、でも簡単で確実に転入できる方法が生まれた。」
「男性操縦者……」
「そう、あとはシャルロットさんが不思議に思った定期連絡の催促。
追加装備の開発・受領、どうかな?
全部元を辿ればシャルロットさんを守るためってことに集約されると思うんだけど」
シャルロットは愕然とした、理路整然と並べられた覆しようの無い証拠の数々に……。
「じゃ、じゃあ父さんは僕のために?」
「僕がアルベールさんならそう考えるかな。
だってシャルロットさんのお母さんを愛していたんでしょ?
それでお母さんはアルベールさんを悪く言った事がないんだよね?
きっと知らなかったんだと思うよ、ロゼンダさんと結婚した時には妊娠していたってことを。
知ってたら結婚しなかったかも知れない、そしてお母さんが身を引いた理由がある」
和成はシャルロットから聞いたロゼンダについて語り出す。
「ロゼンダさんは富豪の娘だったって聞いたけど、政略結婚だった可能性があるよね?
デュノア社について前に少し調べたんだけど15年前位に資金難に陥ったっていう記事があったんだ。
それをシャルロットさんのお母さんが知れば、どうするかな?
きっとアルベールさんは悩んでいたと思うんだ、会社の存続は社員の命に関わる。
でも、シャルロットさんのお母さんを愛してるのに政略結婚するのかって。
言い方は悪いけど、シャルロットさんのお母さんが消えれば政略結婚を確実に選ぶ。
それが社員を守るっていう社長の責任だからね」
「だからお母さんは父さんを悪く言わなかった……。
自分で選んだ結果だから……」
シャルロットの口から零れ落ちた言葉を和成は拾うとさらに続ける。
「ところでロゼンダさんに子供はいないんだよね?」
「え? うん、いないから僕が、僕、が?」
「ねえ、普通に考えて後継者を産まない社長夫人っているかな?
いないよね? ということは不妊症かも知れない。
自分の子供を産めなくて、愛人の子を旦那さんが連れて来たら冷静でいられるかな?」
シャルロットはロゼンダについて考えた事がなかった、だから思い浮かばなかったが……。
「泥棒猫……、確かにロゼンダさんにとってはそうかも知れない……」
「ただね?
本当にシャルロットさんが邪魔ならその時点でロゼンダさんは養子を取ってでも消すよ。
女の人は怖いからね、僕は身を持って知ってる。ちょっと意地悪かも知れないけど」
うぐっとシャルロットは言葉に詰まる、身に覚えがあるからだ。
「ここで問題。シャルロットさんは今日まで生きていて呼び出しも無い。
冷たく扱われたけど、衣食住で不自由はしていない。
勉強や訓練だってちゃんと施されてる。
アルベールさんの一存でできるかな?
その気になればロゼンダさんは生地獄を見せられるのに?」
そうだ、その通りだとシャルロットは思う、なら……。
「ロゼンダさんも父さんに同調した?」
「僕はそう思うよ、最初だけなんでしょ? 殴られたのは。
その後は冷遇だけっていうなら、悔しかったんじゃないかな、産めない自分が。
だからカッとなって暴力を振るったけど、後悔したから以降の暴力は無かった。
ロゼンダさんもある意味では被害者かなって僕は思うんだ。
これも僕の予想だけど学園でシャルロットさんが安全な内に社内をまとめ直す。
内敵を排除して、シャルロットさんが帰って来られる様に。
ただね? 全部当たってたとしても見積もりが甘いとも思うよ」
その言葉に何故とシャルロットは思う、言葉通りならいつか幸せに暮らせる筈だと。
「理由は簡単だよ、今回の件は全て犯罪行為に該当する。
性別詐称、実行していないとはいえスパイもしくはハニートラップと見做されるシャルロットさん。
恐らく金銭でフランス政府や国際IS委員会への干渉をしたデュノア夫妻。
殺されはしないと思うけど、どちらも重罪。
わかっていてやったと仮定した場合、デュノア夫妻は全ての罪を被ると思う。
ここでシャルロットさんが冷遇されていた事実が生きてくるんだ。
シャルロットさんは脅されて仕方なく学園に来たけど何もしなかった。
悪いのはデュノア夫妻で性別詐称させたのもデュノア夫妻。
シャルロットさんは被害者だからってシナリオが使える。
後はどれだけの温情がかけられるかだね、被害者とはいえ犯罪は犯罪。
なんらかのペナルティーはあると思う。
上手くいっても利用された側の人達が難癖つけるのは目に見えてるから。
酷な様だけど言っておくよ。
これを全て解決するには時期を逸してる。
もしするというなら関わった人とその関係者は全員消す位の大事。
もしくは弱みを全員分握らないと無理だね。
そして、それでもデュノア夫妻は救えない。
シャルロットさんが女性だって言うのは、もう周知の事実だからね
最高でシャルロットさんの無罪だけって言うのが僕の予想だよ。
それも望み薄だと理解した方がいいと思う。
後は亡命位だろうね。
勿論、フランス政府や国際IS委員会を脅してのね。
この場合は楯無さんや織斑先生、学園長の協力が必須。
手段は限られてるよ」
和成はシャルロットを助けたいとは思う。
けれど、現実はそう甘いものじゃ無い。
もしもこれを解決できる人間と言えば一人だけ、最初にアドバイスした束の力のみだと和成はよく理解していた。
黙らせるほどの価値がある物、ISコアでも提供しない限りは無理だと。
◇◆◇
「かーくんの推理、ちょ〜っと調べてみたけど当たってるねぇ。
実はかーくんも天才なんじゃないのかな?
で、束さんも結果の予想は同じだね。
手段も大凡その通り。
まあいっくんに言ったらしいけど束さんが本気で動けば別。
ただ動く理由とメリットが無いかな。
あの子だけなら、かーくんの言う通りにすればいいだけだしね。」
束はそう判断した、別に石ころがどうなろうと知ったことでは無い。
特に前回と違って生死がかかっている訳でも無く、和成が悲しむレベルが極端に低いのだから。
シャルロットの実情は現実的に見てこうでしょうという私の解釈です。