男性操縦者の理解者達は許さない   作:しおんの書棚

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目を覚ますは誰が為か

今日のクラスには何か熱を感じる、そう真耶は思いながら授業を行っていた。

その熱の元を辿れば問題を起こした彼女ら、一人を除いて昨日までとは表情が違う。

 

なるほどと真耶は理解する、和成と話した者の自覚と誓いがそうさせているのだと。

そして、この分で行けば解決の日はそう遠く無いだろうとも。

 

加えて真耶はサキモリと他のコア人格達に感謝した、乱暴な方法ではあったが効果覿面。

あれだけ騒がしかったのが一夏がいないとはいえ嘘の様に落ち着いているのだから。

 

◇◆◇

 

放課後、今日も今日とて和成には面談が待っている、しかもあまり接点の無い簪。

 

和成が簪の専用機製作に裏で手を差し伸べたのには訳がある。

それは一夏の専用機に起因するある意味被害者という共通点、そしてその努力が報われないのは許せなかったのだ。

 

別に感謝して貰おうなどと思ってはいなかったが、まさか一夏に惚れてこちらに実害が及ぶなど予想もしていなかっただけにショックは大きかった。

和成からすれば何がどうしてそうなったと言いたくなる事態、その気が無くても結果的に恩を仇で返された訳でどうしてと思うのは当然だろう。

 

その簪がこれから来ると思えば、箒とは違った意味で身構えてしまうのは仕方ないことだった。

 

「更識簪ですが、崎守くんはいらっしゃいますか?」

 

控えめなノックと共に聞こえて来た声の主、簪との面談が始まる。

 

◇◆◇

 

簪にとって一夏は当初迷惑で嫌いな存在だった、自分の専用機開発を間接的に打ち切る原因を作ったから。

ところがそんな一夏が簪に接触して来てタッグを組むことになってしまった。

 

だが、それは楯無に依頼されてという納得できない理由からだと知り拗れに拗れる。

そして実機テスト中のトラブルで簪は墜落しかけた、それを救ったのが一夏だったのだ。

簪はその姿に自分の求めるヒーロー像を重ね、楯無との和解もありいつの間にか好きになっていた。

 

そこからの日々は一人だった簪に考えられない色を齎す、そして輪が広がり随分と明るくなって……。

そんな時、一夏との時間を邪魔する存在がいた。それが和成であり、密かに独占欲の強い簪は排除するよう無意識のうちに動いていた。

今まで自分が疎まれていたにも関わらず、疎み排除する側に回る。そこに何も感じなかったのだから救えない。

 

そうする内に和成が自殺、自分に非があるなど思っていなかった簪だが加害者の一人だと知り、命の危機にすら直面。

布仏姉妹から専用機製作に裏で尽力してくれていたと知らされ、やっと自分の罪深さに気づいた。

 

(私は卑怯で礼儀知らず、しかも自分が嫌だった事を崎守くんにするなんて最低だ。

 正直に話して謝る、今はそれしか思い浮かばない……)

 

「どうぞ」

 

そう言って和成は部屋へ招き入れるが、正直に言って簪の事を知らなすぎる。

元々交流は無かったし、気がつけばサンドバッグになっていたのだ。

まあ、一夏の側に居たくなくても居た結果、他の専用機持ちと一緒で嫉妬なり邪魔だった。

そして周りがそうだから、同じ様にしていたといったところか、そう予想はするが。

 

「申し訳ないんですがなんとお呼びすればいいのかもわからないんです、僕には」

 

面談が始まって早数回、和成から話すのは初めてだった。

そして、その問いかけに簪はそんなことすら伝えていなかった事実に自己嫌悪する。

 

「……お姉ちゃんと区別がつかないので、簪でお願いします」

 

「そうですか、それでは簪さんと。まともに話すのは初めてですが僕は崎守和成です。

 お好きな様に呼んで下さい」

 

そう言った途端に簪は綺麗な姿勢で土下座していた。

 

「崎守くん。

 この度はなんと言ってお詫びすればいいのかわからないほど酷いことをしてごめんなさい。

 

 私と崎守くんには交流すら無かったのに、専用機開発に陰で協力してくれていたと知りました。

 お陰様で打鉄弍式は完成してタッグマッチに出る事ができたこと感謝しています。

 

 それなのに私は……」

 

そこで和成は珍しく待ったをかける、今聴き逃せない発言が挟まっていたからだ。

 

「ちょっと待ってくれませんか、簪さん。

 その言い様だと専用機開発に協力していなかったら謝る気が無かったとも取れてしまいます」

 

簪はその指摘に青くなった、勿論そんなつもりで言った訳では無い。

けど、本当に? という迷いが一瞬生まれたのが悪かった。

 

「即返答できない時点で納得して無いんじゃないかなって僕には見えるんです。

 

 こう言ってはなんですが簪さんの境遇に自分を重ねて勝手ですが協力させていただきました。

 同情ではなく同じ様に理不尽を強いられたという意味でです。

 

 けれど簪さんは“同じ理不尽を強いられた者”から脱した途端に“理不尽を強いる者”になってしまいました」

 

簪は違うと言いたかった、けれど結果を見れば事実。

ここに来て対人経験の少なさが徹底的に足を引っ張っていた。

 

「……どうも心では納得していないんだと思えます、僕には」

「ち、違う、本当に私は」

 

簪の言葉に和成はゆっくり首を横に振った。

 

「実は本心から謝罪した人達には共通点があるんです、簪さん」

「共通点?」

「そうです、最初に自分の何が悪かったのか話して謝罪を始めたという共通点です。

 

 簪さんは自分が何をしてどう悪かったのかすら話さないで謝罪をしました。

 酷いことと濁すのではなくて何に起因してどんな事をしたからと言う自己分析が無いんです。

 その後もそれが出る前に別の話に移ろうとしました。

 こう言う話し方は往々にして納得いってないと出る代表的なものなんです。

 

 勿論、本当は違う可能性もあります。ですが、その場合は感情に則した態度が出ると思いませんか?

 その点、簪さんにはそれがありません。“誰かに言われてそう思ってる”だけだからでしょうか。

 感情が何も乗ってないので伝わらないんです。

 

 これでも僕は感情の機微に敏感な方で予想するとしたら……。

 優しさと厳しさを持った信頼できる人に諭されたのではありませんか?

 そして何らかの事実に怯え、そのつもりになったのではないかと予想します。

 

 関係者で行けば虚さんが該当しそうですが、どうでしょう?」

 

その指摘に簪は震えた。気持ちがわからなくなって、でも和成の指摘に心当たりがあり過ぎたから。

 

「……」

「正解みたいですね、もう一度ご自分を見つめ直す事をお勧めします」

 

その後、簪はどうやって帰って来たのかすら思い出せないまま気づけば自室で項垂れていたのだった。


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