80の執務室―
―…
今からいくらか前、ウルトラマンと同等かそれ以上かと思えるほどの力を持った金の超人、”究極生命体アブソリューティアンの戦士、アブソリュートタルタロス”は光の国のみならず様々な時空でその脅威を振るった。その脅威が一時の落ち着きを見せた頃のこと。
―…
ウルトラマン80はこの事件の事後処理として報告書を書いていたところだった。
”助かったのは……我々だけか…っ”
あの時の記憶が逡巡した。
”ええ…”
彼女の声も鮮明に耳に蘇る。
王族専用宇宙船。あの船でユリアンを護送していた80と宇宙警備隊達は、突然のゼットン軍団の攻撃によって80とユリアンを残し全滅した。
―…
宇宙船が爆発した熱は未だに体に染みつき残っている。その熱は決まっていつも、あの時の仲間たちの戦死という寒気で冷やされていた。
―また…失ってしまった…!
机の上に置いた両手を握りしめる。
―…
しかし、悔やむのも一瞬。解いた拳を移動させ、次の行動に移す。
手を伸ばし、別のデータを開いた。展開されるのは”彼ら”のデータ。自らを犠牲にし光となって散った、2人を守った”彼ら”のデータだ。
―…
もう一度、あの時のことが過った。
―――――――――――――――――
王族専用宇宙船内―
あの時私たちは惑星エビルに落ちようとしていた。ただの船の事故なのか、それとも敵なのか、異常事態に私達には一瞬の動揺が巡っていた。
―みんな!この船はもう持たない…!脱出だ!
―”はい!”
私が叫ぶと戦士達は一斉に動き出した。そして私はユリアンの背を押し、脱出口へ向かわせる。
彼らは大丈夫だ。伊達に警備隊で鍛え上げられた体ではない。初めの爆発の時でこそ、大きく揺れる船に体勢を崩したが、それ以降難なく脱出口へ向かっていく。もちろん、この船の最重要人物、ユリアンを囲ってだ。
私はそんな彼らを背に後方を警戒する。何の警報もない爆発が起こったのだ、やはりこれは何かに攻撃されたと言った方が良いだろう。
―さあ、ユリアン王女!…こちらに!
隊員の1人、ブルー族の彼”カイ”が言う。
全く陣形が崩れない彼らの護衛に、私は改めて彼らに強い信頼を感じた。
もう脱出口が見えるか否かというところで、新たな異常が生じた。
―ぐぉっ…!
私の目前、そして隊の陣形の前方でもう一度爆発が起きた。さらには、体がその爆発地点に引き寄せられてゆく。その時、
―くっ…これは…局地的に重力異常が発生しています…!
流石ブルー族か、宇宙警備隊に入隊出来るほどの戦闘能力のみならず科学の知識にも秀でていたカイは、瞬時に発生した異常を分析し報告した。
基本的に宇宙船には、光の国と同様の重力を床に発生させている。しかし設計上、このように身を強く引かれるるほどの力は発生しないはず。
やはりこの異常事態は敵によるものだ。確実に。
爆炎で正確な位置は目視では分からないが、幸か不幸かそのエネルギーの強さは容易に感じ取ることが出来る程だった。そこへ一直線、私と隊員達はその重力異常発生地点に光線を放つ。
”シュワ!”
”ジャ!”
次の瞬間、今までの体が引き寄せられるような感覚は消えた。
しかし、それでも未だに放たれる異様なエネルギーは何だ。
”ゼットォォン…”
答えを知るのに姿を見るまでもなかった。ゼットンだ。しかし煙でぼやけたその姿は、主に見知った形ではなかった。
―まさか…あれは…!
カイはそう言う。しかし彼にしては平静さを欠いた物言いに、周りの隊員達も一瞬の怯みを見せた。
そんな中、数瞬の時を経て煙を払ったゼットンの影は、異様な雰囲気を漂わせてその姿を見せた。
見ただけで分かる。やはりあのゼットンは普通ではないらしい。
―あれは…ゼットン変異種…!
ゼットン変異種。船を襲ったのは、ゼットンの中でも特に希少な個体だった。船に警報も鳴らずに被害が生じたのも納得できる。あの時現れたゼットンは、テレポートで船内部に乗ってきたという事だ。
奴らが船に姿を現してからは、隊員たちがその相手をすると言って聞かなかった。
―80!ここは私達に任せて、ユリアン王女を…!!
―しかし、君達は…!?
そんな叫びも彼らの闘志と勇姿でかき消された。
”ジェア!”
”ダッ!”
赤と青と銀が乱れ、2つの黒い影に迫っていった。しかしゼットンは強い。生半可な攻撃で怯むはずもなく、隊員達の格闘を物ともせず蹴散らし、そして火球、いや、小型のブラックホールを放つ。
”グアッ”
避けようとしても体が黒い球に引き寄せられ避けきれない。しかし打撃を受けても諦めず、彼らの攻撃は続いた。
―80!今彼女を守れるのはあなたしかいない!…早く!!
―大丈夫だ80。ゼットン2体くらい、俺達で何とかする!
彼らはゼットンをなんとか抑え込みながらも私に叫んだ。
あんな状況でなかったら、どれだけ心強い言葉だっただろうか。彼らはあの時ユリアンを守るため、あえて船に残って戦った。どこからテレポートしてきたのかも分からない相手だ。下手に全員で脱出して戦うより、確実に目に見える敵から二人を遠ざける為に船に残ったのだ。
―――――――――――――――――
80の執務室―
―…
短かった。本当に短かった。初めの異常事態が発生してから、惑星エビルに足を着くまで僅か数分間のことだった。80にとってはほんの数十秒にも感じる時間だった。
悔やむことは止めても、忘れることは出来ない事。いや、忘れてはならない。彼らの勇姿を、彼らの故郷への思いを、そして家族への思いを、残されたものに繋ぐために80は今、彼らのデータを見ている。
後方で声が聞こえた。
―80さん、全く休みを入れずに動きっぱなしですよ…少しは休憩を…
いつも80の仕事を補佐している警備隊員が彼に言った。
―いや、私のことは良いんだ。それより、彼らのことだ
80が仲間を失うのは、今回の事件が初めてではなかった。初めて失ったときは、どれだけ自暴自棄になったか。忘れることは出来ない。なかったことには出来ないのだ。
私の彼らとの付き合いは長かった。思えばどれくらいだったろうか、私がユリアンの護送に付き添うようになってから何十年か何百年か経っていた。彼らと接するたびに、彼らの今後の希望を、可能性を感じていった。それだけではない。彼らと会う前に宇宙に散っていった仲間達にも、80はそんな感情を抱いていた。
だからこそ、そんな彼らの姿を皆に伝え、”本当に死ぬ”事のないように次の世代にその心を繋げるのだ。
―あっ…80さん…!
彼の声を振り切って飛んだ。
80はまず、カイの家に向かった。
彼の家族に、彼の戦死を告げるために。
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カイの家―
執務室から遠く飛行し、今まで来たことのない場所に足を着いた。ここが彼の家だ。80の目の先でエメラルドのように輝く扉がスライドした。家の様子を知る前に見えたのは、そこから顔を覗かせたヒトだった。
―あ、あなたは…
不安気な声を発しながら外へ出て、80に近づいてくるのはカイの妻”レシー”だった。そして、シルバー族である彼女の背後で、カイとの子である”セプト”が身を隠していた。ちょうどゼロのような体の色をしている彼は、ほのかに輝く目を80にじっと向けていた。
そんな視線を感じつつも、80はレシーにゆっくりと話し出した。
―今日は、カイのことで参りました
ひどく落ち着いた声には決して暗い雰囲気はなく、むしろ彼女達を包み込むような温かさがあった。
―…っ
レシーは目を伏せた。
カイは任務に赴いて長らく帰ってくることのなかった存在だ。しかも、彼のことでその本人ではなく、上司である80がやってきたのだ。何かを察することは容易だろう。
―おかあさん?
レシーの僅かな変化にセプトは彼女の表情を伺った。そして彼女は彼と目を合わせると、もう一度80を見た。
―…
そして、80はカイの身に起こったことをまとめたデータキューブをレシーに渡した。
―これを…
キューブを手に取る。
―…っ……あぁ…
戦死の報告。冷たく文章にまとめられた事実に、彼女は震える手を止められなかった。
―ねえ、おとうさんは…?
―お父さんは…ね…遠くに行って、帰ってこないの…
そして80に目を向けると、小さく声を響かせる。
―おとうさん…帰ってこないの…?
―ああ…
そしてもう一度、レシーをじっと見る。
―おとおさん、しんじゃったの…?
―…っ
レシーは自ら彼の死を直接言いたくはなかったのか、言葉を詰まらせた。空気が張り詰める。
そんな中、80は優しく語った。
―セプト君。お父さんのことを、忘れないでいてくれ。君がお父さんのことを思い出すたびに、お父さんの戦う姿を想像するたびに、君と一緒に居たときのことを思い出すたびに、彼はとても喜んでくれるんだ
しかし、セプトは崩れ落ちる。
―うぅ…ぅあああああああああ!
結局セプトは、少なくとも80が去るまで泣き止むことはなかった。
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数日後―
宇宙に散っていった者達の報告をして数日が経ったある日、ばったりとセプトに出会った。
―ボク、宇宙警備隊になる!
―警備隊に…?
―うん!おかあさんが、おとうさんのかっこいいところをいっぱい教えてくれたんだ!
―そうか……そうかっ…
―宇宙警備隊になって、お父さんみたいになって、みんなにお父さんはかっこよかったって自慢する!
セプトの心は、プラズマスパークよりも輝いていた。
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レシーはセプトに、80が知らないカイの思い出を語ったという。セプトはそれを聞いて、80のよく知る彼の勇姿だけでなく、彼の優しき心を知り、だんだんと憧れを持ち、そして警備隊に入りたいと思うようになったらしい。
失った者は、失ったままでいることはない。例え多くの者に名を知られることはなくとも、その記憶と心は誰かに語り継がれ、その者の希望となる。
名もなき英雄への愛が、その者に未来へ進む力を与えるのだ。