誤解から始まる英雄譚〜クズで弱っちい俺が何故か周りに最強認定されているんだが?〜   作:くろひつじ

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第一話:出会い

 

 顔を上げれば空は快晴。

 雲ひとつない青空だ。

 いやぁ、気持ちが良いもんだな。

 雨はどうにも苦手だし、有難いことだ。

 

 乾いた風が吹いて火照った体を冷ましてくれる。

 これで酒とタバコがありゃ最高なんだが、生憎とどちらも持っていない。

 仕方ないし、さっさと仕事して街に帰るか。

 

 さてと、現実逃避終わり。

 視線を朗らかな空から地上に落とすと。

 

 見渡す限りの死体の山。

 乾いた風が血の香りを撒き散らす、戦場跡。

 敵軍も味方軍も死屍累々。相変わらず嫌な光景だ。

 

 しっかし味方さんもちったぁ頭使ってくれないかね。

 数で勝ってても地形が不利だから負けるの分かってたろうに。

 きっと司令官が無能だったんだろうなー。

 ともあれ、あの惨敗加減じゃ国が滅ぶのも間近だわな。

 

 まぁ俺みたいな雇われの傭兵からしたら、自分に被害が無けりゃ何でも良いんだけどな。

 しかもずっと隠れてた奴に言われたくは無いわな。

 まぁ今はとにかく、飯の種を回収しますかね。

 

 そこら中に転がる兵士の装備を回収して街で売り払う。

 それが俺の仕事だ。

 いわゆる火事場の泥棒って奴だな。

 傭兵なんておっかない仕事をしてるのは、他の奴らよりも早く装備を回収出来るからだ。

 我ながらクズだとは思うが、背に腹はかえられん。

 金が無いと飯が食えない。かと言って俺みたいな身分証明できる物が無い奴はロクな仕事に付けない。

 

 だからまぁ、勘弁してくれよ、味方さん。

 俺だってまだ死にたくねぇんだわ。

 

 ※

 

 しばらく探してみたが売れそうな装備は見当たらなかった。

 敵軍の紋章入りの剣があったからそれだけは確保。

 でもこれだけじゃ今日の飯代にしかならないし、今回味方が使っていた砦に行ってみることにした。

 残兵が居るかもしれないからリスクもでかいけど、あそこならまともな剣くらいはあるだろう。

 

 そんな事を思いながら砦に近寄ると、すぐ側の小屋から男同士の口喧嘩が聞こえてきた。

 

「クソッタレが! 俺が連れてきたものをどうしようが俺の勝手だろ!」

「ふざけるな! こいつは俺のもんだ!」

「うるせぇ! 死にやがれ!」

「殺してやらぁ!」

 

 こっわ。少し様子を見た方が良さそうだな。

 

 足音を殺して小屋に近付くと、剣を打ち鳴らす音が響いてきた。

 次第に激しさを増していく剣戟はやがて、一際高い音を鳴らした後にピタリと止んだ。

 終わったかと思って小屋の中を覗き込むと、首を突かれて死んでいる男と、肩に深い切り傷を追ってフラフラしてる男の姿。

 そしてその向こうには、なんかめちゃくちゃ可愛い女の子が転がっていた。

 

 窓から注がれる光でキラキラ輝く長い銀色の髪。

 顔立ちは整っていて、まるでどこかのお姫様みたいだ。

 背は俺と同じくらいで胸はでかい。

 すらっとした生足がこれまたセクシー。

 いいね、実に俺好みのスタイルだ。

 

 だが、服がボロボロなのはどうしたもんか。

 拐われて来たのか捕虜なのか、何にせよロクな事じゃないだろう。

 可哀想に、綺麗な顔も土で汚れてしまっている。

 

「ぐへへへ……これでコイツは俺のもんだ!」

 

 うわぁ、やべぇなアイツ。血まみれでニヤニヤ笑ってるとか変質者にしか見えん。

 げ、ズボン降ろしやがった。

 尻見えてんじゃねぇか。嫌なもん見せやがって。

 

「久しぶりの上玉だぁ……楽しませてもらうぜぇ」

「てぇりゃ!」

 

 あまりに見苦しかったので後ろから剣で一突き。

 変質者は呆気なく地面に倒れ込んだ。

 いかん、ついやってしまった。

 ……まぁいいか。変態だし。

 

 さぁて、何か持ってないもんか……お、こいつ上質な魔石持ってるじゃねぇか。

 これを売れば三年は遊んで暮らせそうだな。

 よっしゃ、ツイてるぜ!

 

 んじゃ、そろそろこの子を起こしますかね。

 こんな所に置き去りにする訳にも行かねぇし。

 

「おい、生きてるか?」

「……んっ……ここは……?」

 

 おし、目が覚めたな。

 しかし見れば見るほど可愛いなこの子。

 座っていると地面に着きそうな程に長い銀髪に、意志の強そうな翡翠色の瞳。

 声も最高に可愛いし胸もデカいし、文句の付け所が無い。

 凛とした佇まいが似合いそうな女の子だ。

 よく見たら高価な服を来てるし、どっかの貴族様かね。

 

「我は、賊に襲われて……痛っ!」

「怪我をしてるのか。見せてみろ」

 

 押さえていた腕に触れてみると、血は出てないし折れてもない。

 ただの打ち身なら持ち合わせの塗り薬で問題ないな。

 

「これで良い。他に痛むところは無いか?」

「大丈夫だが……もしや我を助けてくれたのか?」

「まぁ、結果的にそうなるのか?」

 

 すみません、あまりに見苦しい光景だったからやっちゃっただけです。

 でもそんな事言えないしなぁ。

 

「すまない、礼を言おう。貴様殿の名を聞かせて貰えぬか?」

 

 ……貴様殿ってなんだ?

 

 それはともかく、こちとらただの火事場泥棒なんだが。

 でも可愛い女の子の前では格好付けたいのが男ってもんだし、ここはそれらしくしておくか。

 

「俺の名はジェイド。流れの傭兵だ」

 

 どうだ、このキメ顔。この角度が一番イケメンに見えるらしいからな。

 

「ジェイド……改めて礼を言おう。我はネフリティス・グリーンランドだ」

 

 お、笑うと可愛いのな、この子。

 普段は美人さんで笑うと可愛いとかマジチートだわ。

 

 だが待て。いまグリーンランドって言ったか?

 

「驚いた。その名前、エルフか?」

「うむ。だが我はハーフ、人間とエルフの子だ」

 

 言いながら横髪をかき上げると、その耳は僅かに尖っていた。

 へぇ、ハーフエルフなんて初めて見たな。

 森に引きこもってるエルフ達より珍しいって聞いたけど。

 

 あ、てかハーフだから胸がでかいのか。

 エルフってスレンダーな奴が多い種族らしいし。

 この子も胸以外はすらっとしてるもんな。

 

「是非とも貴様殿に礼を尽くしたいのだが、生憎と持ち合わせが無くてな……」

 

 あぁ、そりゃそうだわな。

 何なら体で払ってくれても良いんだけど、この空気で言える訳も無い。

 俺から言い出す勇気なんて微塵も無いしな。

 

 うーん。とりあえず、ここに居ても仕方ない。

 

「気にするな。とにかく着替えを用意しないといけないな」

 

 この子、服がボロボロでめっちゃ肌見えてるし。胸とか溢れそうだもんな。

 俺的にはエロくて良い感じなんだが、童貞にはちょっと刺激が強すぎる。

 

「……なんだ? その、落ち着かないのだが」

 

 胸を隠すように身をよじる巨乳美少女。

 いやぁ、眼福ですよ、はい。

 出来ることならガン見したいもんだ。

 でも今の俺はイケメンモード。イケメンはそんな事はしないのだ。

 かなり勿体無い気はするが、ここは仕方ない。

 とりあえず俺の上着を羽織らせておくか。

 

「服を買うまではこれを着てくれ」

「ふむ……貴様殿は優しいな。ありがとう」

 

 晴れやかで輝くような笑顔を返されて、俺の汚れきった心は大ダメージを喰らった。

 ぐふぅ……と、とりあえず、街に行くか。

 

 

■視点変更:ネフリティス■

 

 ジェイドに連れられて砦を出ると、そこに広がっていたのは正に屍山血河の光景だった。

 見渡す限りの死体。戦があったのだから当たり前だが、両軍共に被害が大きいのは珍しい。

 此度は余程の激戦だったのだろう。

 

 しかしその戦を、ジェイドは怪我ひとつなく生き抜いた。

 それも傭兵という最前線で戦う職業でありながら、だ。

 更には我を捕らえていた二人の手練を無傷で(ほふ)り、我を助け出してくれた。

 

 話を盗み聞いた限り、あの者達は軍の中でも有数の武芸者だった。

 それを意図も容易く倒したという事は、ジェイドは相当な腕前なのだろう。

 

 しかも、この男は戦が終わって尚、警戒を解かない。

 常に周囲に気を配り、たまに我の様子を確認しながら慎重に歩みを進めている。

 どれだけ用心深く、どれだけ戦慣れしているのか。

 正に戦の為に生きる者。恐ろしいものだ。

 

 それに、その。ジェイドは優しい。

 怪我をした我に手当をし、服を貸してくれ、それを恩に着せない度量を持ち合わせている。

 良い男だ。このような男に中々出会うことは無いだろう。

 願わくばこの縁を大事にしたいものだ。

 次第によっては我が伴侶として……いや、いくら何でもそれは飛躍しすぎか。

 我としたことが少し同様しているようだ。

 

 しかし、そうだな。

 このような物を何と呼べば容易のだろうか。

 ただの傭兵ではない。かと言って騎士でもない。

 ふむ……敢えてこの者を表す名を用意するとしたら。

 

「貴様殿に『全てを屠る断罪者(エクスキューショナー)』という名を送ろうと思うが、どうだ?」

「……よく分からないが、良いんじゃないか?」

「だろう? 我も良き名を考えついたものだな」

 

 いかん、つい上機嫌になってしまった。

 思わず顔がにやけてしまったが、まぁ見られていないようだから問題ないか。

 ……ふふ。しかし、実にこの者に相応しい名だ。

 

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