綺麗な三馬鹿の色々と幸せな日々   作:凍結する人

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あらすじにも書きましたが、SDガンダムGジェネレーションDSを最後まで、ライバルルートまでクリアした人でないと絶対に楽しめません。
かと言って、こんなご都合なアナザーストーリーを皆様に楽しんで頂けるかどうかも自信ありませぬ。
ご容赦ください。


綺麗な三馬鹿の色々と幸せな日々

 ピピピ、と青年のポケットの中から電子音が鳴った。

 民生用ノーマルスーツ特有の、ゴワついた手袋の感触を鬱陶しく思いながら、腰から財布よりも小さな板状のデバイスを取り出す。

 グリニッジ標準時18:00。

 目の前に広がるデブリの大群は、今朝と何も変わりなく片付いていない。この仕事は、やった感じがしない、という愚痴をよく聞くのも理解できる。

 しかし、たった一年と、それから七年後に起こったもう一年の戦争で散らばった塵芥。それらを全て撤去するには、おおよそ50年掛かるのだ。

 ノルマ以上の働きをするだけ時間の浪費である。残業代を稼ぐというやり方もあるが、今日はそれ以上に早く帰りたい。

 いや、早く帰らねばならない。

 青年はくるり、とプチモビを反転させて、コロニーの外壁へ進む。その行程は軽快だった。途中にある片付け残しを避けるのだって、訳ない。

 当たり前だ。彼は未だ20代始めの青年であったが、ことモビルスーツの操縦に関しては、回りにいる同業者どころか、このコロニーの警備隊全員を合わせても敵わないくらいに濃密な経験がある。

 今更プチモビを動かすくらいはお手の物。お望みとあらばデブリの真っ只中でスピンダンスをやらかすことだって出来るのだ。

 

 そう考えてしまって、アホらしい夢想だな、と青年は苦笑した。

 休憩中に片手間で読んでいた、ジュブナイル小説の中身に毒されてしまったらしい。

 その内容は、ある日少年が純白のガンダムとお姫様に出会い、悪の組織に利用されてしまうお姫様を助けるため、天才的な操縦才能とガンダムの力を駆使して活躍する、というものだ。

 その中の一節に、プチモビを操縦する主人公が、無表情なお姫様の気を引くためにダンスを踊る、という場面があったのだ。多分、その滑稽さが青年の印象に残っていたのだろう。

 昔ながらのファンタジーに、勇者冒険譚。その中に、時事的な戦争要素と、最近流行りのガンダム伝説をぶち込んだだけの単純なお話だ。しかし、これが結構子供受けが良く、第一巻だけでベストセラーになっていた。

 『あいつら』にこれを読ませたら、どう思うかな、と青年は考えた。

 一人は腹を抱えて、ありえない程英雄的な戦闘描写に笑いこけるだろうし、もう一人はご都合的なストーリーや、戦争美化にも思える作風を一言でまとめて「うざーい」と嘲笑するだろう。

 それは正しい見方だ。大体、青年たちの年齢からすれば、ジュブナイルなんてもう卒業して然るべきだし、それに、戦いが小説の中ほど美しくなくて、綺麗に纏まらなくて、痛快なものでもないことは青年にも分かりきっていた。

 でも、それでも青年は、この小説を嫌いになれない。むしろ、いいものだと思っている。

 こういう小説が世の中に出て、広く読まれている。そして、本を読んだ少年たちが、自分の心の中に各々のお姫様やMSを見つけ出し、自分だけの冒険を想像する。

 そういうことが許される世の中こそ、平和であるからだ。

 戦争の怖さや恐ろしさは、また別に語り継がねばならないことではある。しかし、想像の翼を広げられない世の中なんていうのは、もしかすると、戦争をやっているよりも悲惨ではないだろうか。

 

「お先にっ」

「おう、お疲れさん」

 

 髭面の上司に頭を下げて、タイムカードを提出する。

 青年はこうした周りの人間より一際若いのだが、その違和感を埋めるくらい、この職場に馴染みきっていた。

 

「今日は記念日なんだろ? あの幼妻ちゃんに宜しくな」

「だから、そんなんじゃねーっつの」

 

 にやけ顔で余計な一言を付け加える中年男に、青年は噛み付くような否定の言葉を返した。

 自分の持つスキルを最大限に活かせて、給料もそこそこ良い理想の職場なのだが、これだけは頂けない。

 あいつと自分は、そういう単純な関係ではないのだ。大体、関係を単純化しようとしても、他の二人に抜け駆けだ何だと袋叩きにされてしまうじゃないか。

 それもこれも、弁当を忘れたからといって、わざわざ男だらけのプチモビデッキまでピクニック用のバスケットと一緒に来てしまったあいつが――悪い、とはとても言えない。持ってきてくれた時は、凄く嬉しかったし。

 

「何だ記念日って、誕生日かなんかか」

「兄ちゃん、プレゼントくらい買っておけよ!」

「そうそう、あんなに出来た嫁さんなんだからな! 泣かせたら承知しねぇぞ!?」

「だから、違う!」

 

 だから、嫁じゃない。

 嫁じゃないが――だから何だと言われたら、何なんだろうと考えこんでしまうような、そんな関係なのだ。

 だから、青年には否定するだけで逃げることしか出来なかった。だが、少なくとも、泣かせたら承知しない、という言葉に対してはしっかり反論できた。

 

(アイツを悲しませるようなことなんて、例えカミサマが許しても、俺達が許さねぇよ)

 

 青年――オルガ・サブナックとその仲間達が、ドミニオンを降りた時に交わした、それは神聖な誓いであった。

 

 

 

 

 

 サイド1といえば、気象コントロールすらままならない程の貧乏さが想起される。しかし、それはあくまで戦争が続いていた時のことだ。

 コロニー公社は、近年アナハイムのコロニー製造部門が伸長してきたのに対抗し、このサイド1を宇宙世紀0100年度までに『宇宙最初にして最大のサイド』にするというPRを打ち出していた。

 そのおかげで、新規製造されたコロニーだけではなく、1バンチのシャングリラを始め、各コロニーは大幅に環境を改善し、多数の企業や宇宙移民を受け入れた。

 オルガが、このサイドに居住している理由もそこにある。

 一応、連邦軍から正規の戸籍や身分証明、真っ当な履歴を与えられたにしろ、強化人間、生体CPUとして生み出された過去は捨てられず、その単語が発する腐臭に、真っ当でない人間が引き寄せられるかもしれない。

 だから、身分も経歴も多種多様な宇宙移民の中に紛れ込んだ。正に、人を隠すなら人の中、という訳である。

 

「おーうオルガ! また湿気た面しやがって!」

 

 だから、オルガはこの二人を見ると、かつてγ-グリフェプタンを常用していたのと同じくらい、頭痛薬が欲しくなってくるのだ。

 コロニーを巡回するモノレール、その終点駅は人気が少なく、明かりもそこまで眩しくはない。

 しかし、シルバーのネックレスをじゃらじゃらと付けて、未成年だというのに酒に酔ったような、陽気過ぎる表情で闊歩する赤髪の青年と。

 その二歩後ろ辺りを、イヤホンからデスメタルノイズを垂れ流しながらまるで幽鬼のようにくっついて歩く緑髪の青年は、大いに目立ってしまうのだから。

 

「クロト、シャニ! てめえら、自分が何もんだか分かってねえのか!?」

「何って、ほら、僕はコロニー1のゲームチャンプで」

「マネージャー」

 

 オルガは、こうして羽目を外しまくっている二人を見る度に、俺みたく手に職を付けないからこうなる、と頭を抱えながら思うのだった。

 除隊時にかなりの額の金銭を貰った三人であるが、それでも働かずにずっと食べて行くことは出来ない。

 今まで道具として扱われた境遇から心機一転しようと気合を入れていたオルガは、真面目に就職斡旋所へ出向き、結果、コロニー周辺ののデブリ掃除という、堅実にして安定した職場を手に入れたのだが。

 クロトと、それからシャニが向かったのはゲームセンターだった。目をつけたのは、体感型のMSシミュレーション対戦ゲームだ。

 元軍関係者が最新式のシミュレータのシステムを横流ししたとまで噂されるそれは、ゲームを趣味とし、しかもエース揃いのドミニオン隊で活躍したクロトにとって、天が与えた活躍の場と言って良いものだった。

 瞬く間にランクトップまで登り詰めると、その先に待っているのはプロゲーマーへの道だった。

 本人の特徴的なキャラクターやビッグマウスも相まって、今ではすっかりテレビだのネットニュースだの、様々な所で祭り上げられている。

 シャニも、本来の物静かで大人しい性格が、クロトの良いブレーキ役になっているようで、彼について一番心配していたオルガにとっては喜びたいところではあった。

 とはいえ、なるべく静かに暮らしたいオルガとしては、悪目立ちする二人の行動を、今すぐにでも首根っこを掴んで止めさせたいのだが。

 不安定とはいえ、ファイトマネーが自分の稼ぐ給料よりはるかに高いのだから、文句は言えないのだ。

 

「ったく……あんまり目立ちすぎるんじゃねえよ」

「何それ。まだそんなこと言ってるの?」

「気にし過ぎじゃねーの?」

 

 口酸っぱくして注意し続けるオルガに、クロトは呆れた表情をしていた。

 オルガが言っていることも、目立つ危険性も分からないわけではない。

 しかしながら、元々、普通に産まれてきたわけではなく、普通でない生き方をして、道具のように磨り減って死んでいくはずだった自分たちが、こうして新たな人生を手に入れたのだ。

 だったら、本来与えられなかったはずの青春の日々を、とことん面白おかしく生きてもいいんじゃないか。

 それに、普通に、コツコツ生きるということは、自分たちの性に合わない気もするのだ。

 オルガは何とか真面目に生きようとしているみたいだが、それは本人の性格故のことだから、兄貴分の彼よりも真面目にはなれない自分たちは、真面目でない生き方をしても別にいい。

 クロトもシャニも、言葉に出さないがそう考えていた。

 

「大体、目立つ目立たないって言ったらさ、オルガだって」

「ああん? 俺が何かしたってのかよ」

 

 突然の反論に、内心驚きながらもカッとなって返すオルガ。

 クロトら二人にも、目立つなということに対して、オルガに対して言いたいことが山ほどあった。

 

「ほら、俺達の家」

「なんだよ、新築の一軒家。2階建ての4LDK。駅から10分。文句あっか」

「……一番目立つ」

「なんだと!?」

 

 シャニの鋭い指摘が飛んだ。

 そう、オルガの肝いりで建てた、三人と一人が住む住宅。

 駅前の住宅街や道路沿いではなく、小高い丘の上にぽつんと立っているそれは、どう見ても周りから浮いて見えてしまうのだ。

 

「あんな所に家建てるの、いくら使ったんだっつーの」

「僕らの退職金の三分の二、消えたよね……」

「おまけにさ、確かに駅の近くだけど、エレカも通れない山道だから、こうして歩いて帰るしか無いってのはダメでしょ」

「買い出しとかも、車使えれば、もう少し楽になれると思う」

「……」

 

 歩きながら呟く二人の不満が、オルガの胸に次々深く突き刺さった。

 確かに、少し気合を入れすぎたかもしれないとは思っていた。予算も大分オーバーしたし、家具や調度品にも結構な金を掛けてしまった。

 しかし、彼は拘りたかったのだ。折角自由を手に入れ、自分たちの人生を自分で決められるようになったのだから、出来るだけ良い環境を整えたかったのだ。

 TVドラマに出て来るような、きらびやかでは無くても風光明媚で落ち着いた住居。それはとても素晴らしいものだと思っていたのだが、実際暮らしてみると、外見はともかく、内情は利便さより苦労が目立つ住まいになってしまっていた。

 

「だあああ、うるせえ! いいじゃねーか! お前らだって何も反対しなかっただろ!」

「それは、オルガを信頼してたから」

「あんだけすげえ家だって言ってたのに、見事に裏切られたよな」

「嘘は言ってないぞ、嘘は……」

 

 決して意図的に騙したのではなく、自分も気づかなかっただけだ。何とかそこだけは主張したが、二人の容赦無い指摘にがっくりと崩折れる。

 夜も遅くなっているのに、そうやって馬鹿騒ぎしながら丘へ向かう三人へ向けられる周りの目線は、以外にも温かかった。

 彼らとて、いくら改善されているとはいえ、かつては犯罪者と貧乏人のスラム同然だったシャングリラへやって来るのだ。人に言えない事情の一つや二つは、誰もが持ち合わせていた。

 そして、若いながらも立派に生計を立てる兄と、はしゃぎながら兄のために稼ぐ弟二人、幼いながらに家を守る妹一人の組み合わせ――別に血はつながってないのだが――は、彼らの同情心をくすぐるものだったのだ。

 変わり者だと思われてはいるものの、オルガの心配に反して、四人の強化人間は確実に、この社会に受け入れられて居るのだった。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろだな」

 

 丘を登って、黄色い明かりが見え始めた時。オルガが音頭を取るようにそう言うと、だらだら喋りながら歩いていた三人が、すっくと直立して服を整え出した。

 同居人として、仲間として、そして、一人の女性に向かう青年男子として。はしゃいでヨレヨレになったジャケットとか、急いで着替えて乱れたスーツ等を着て会いたくはない。

 それに、今日は記念日なのだから。三人は、何処からか買ってきたプレゼントを取り出した。

 

「なんだよ、オルガも用意してきたのか」

「当たり前だ。お前らに抜け駆けなんてさせるか」

「右に同じ」

 

 顔を合わせて、ニヤリと笑う。考えることは、皆同じだ。

 例え軍から外れても、モノ扱いされなくなっても。俺たち三人は結局、同じ穴のムジナなのだ。

 

「じゃ、そろそろ」

「いきますか」

「おう!」

 

 ドアを開く。

 玄関のライトに照らされていたのは、三人の男を揃って虜にしてしまった、魔性の女だった。

 

「おかえりなさい、オルガ、クロト、シャニ」

 

 ノーマ・レギオ。

 かのギレン・ザビが、ムーンレィスの持つ技術・知識を使い、人類剪定の道具として生み出したクローン生命体、その中枢。

 人類を粛清する為に作られた少女は、今、丘の上の一軒家で家政婦をやっていた。

 ドミニオンを降りた時、行く当てが無いのなら自分たちも同じだし、一緒に暮らそうと三人から誘われ、それを快く受け入れたのだ。

 

「ああ、ただいまノーマ」

「ただいま」

「ノーマ、ただいま!」

 

 エプロンを付けたまま、首を傾げながらにっこり満面の笑みを浮かべた美少女を前に、オルガは気取って、シャニは微笑して、クロトは抱きつかんばかりのテンションの高さ(実際に抱きついていたらまず制裁を食らう)で返した。

 

「三人共、今日は早かったのですね。嬉しいです」

「まあね、記念日だし!」

「うん」

「……まぁな」

「さあ、手を洗って、リビングへ来てください。今日は私も、今まで一生懸命働いて下さった三人の為に、とっておきのごちそうを作りましたから」

 

 言われたとおりに食卓へ行けば、テーブルいっぱいにノーマお手製のパーティ料理が広がっていた。

 三人はつばをごくり、と飲み込んだ。ニュータイプだの、ガンダムファイターだの、さらにはスーパーコーディネーターの遺伝子を掛け合わせて作った究極のクローンは、勿論料理も大の得意なのだ。

 それぞれ卓について、既に電源の付いているテレビジョンへ目を向ける。

 今朝の番組表通り、今夜は各局、4時間ぶっ続けの特別番組だ。恐らく、このサイドだけでなく全てのコロニー、そして地球上でも同じ番組が流されているだろう。

 

『私は只今、冬の宮殿前に来ています! 二年前のちょうどこの時、地球と月、そしてコロニーの代表によって平和条約が成立し、凄惨な戦いに終止符が打たれたのです!』

 

 それもそのはず。木星帝国との戦いが終わり、月の女王ディアナ・ソレルと地球圏代表トレーズ・クシュナリーダ、そしてコロニー代表キャスバル・レム・ダイクンの名義で、長きに渡る戦乱の終結宣言が出されたのは、ちょうど二年前の今日であった。

 

 そしてそれは、今、豪勢な料理を囲んでいる四人の少年少女達が、過酷な戦いや大人たちの手から逃れ、自らの自由を完全に勝ち取った記念日でもある。

 

「さあ、乾杯しましょう……私たちの自由に」

「これからの人生に」

「共に戦った仲間たちに」

「僕達とノーマに!」

 

 ノーマがシャンパンを注ぎ、四人がそれぞれ、意気揚々とグラスを掲げる。

 暖炉の側の古時計が、20:00を高らかに告げたその時。

 

「乾杯!」

 

 4つのグラスが乾いた音を立てて、今日も賑やかな家族の晩餐が始まる。

 




以上です。
UC最終話を見た勢いで前から書こうと思っていたものを書いてしまいました。


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