書きたいとこだけ書きました

一応当て書きというか、参考にしたキャラがいるので○○っぽいな?と思うかもしれませんがオリジナルです

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フライング

「明日世界が終わるから、遊びにいこうぜ!」

 

目の前の相手からの唐突なその言葉に、きょとんとするよりもまず先にああまたか、と思った。

大袈裟なくらいの誘い文句はいつもの事で、前は風邪をひくから、その前は死んでしまう前に、とかだったか。

とにかく適当な理由をつけては遊びに誘われるから、もう慣れた。

ときには駄々を捏ねると言ってもいいほど強気に(あの時はたしか事故に遭うから)、かと思えば弱々しく手を引かれてゲームセンターや映画館、果ては日帰りでは済まない距離を遠出するのだ。突発的に訪れるこの行為を、しかしながら私は全く嫌いではなかった。

何時までも言い慣れない様子でもがる口が好ましい。わざと目を尖らせて中途半端に強引にしている事がバレバレなそれが、相手の照れ隠しの為に取って付けられたものだと理解している。

手を握られた時の手の平の熱が、じわりとこちらに移る事が喜ばしかった。

 

さて、内心ではこんな事を思っているが私たちは告白すらまだ、当然付き合ってすらいない状態だ。

おそらく、いや確実に私は好意を抱かれている。そうでないのならあんなにも誘われないと思うのだ。そして私も相手が好きだ。

もちろん、付き合ってもいない相手とふしだらな行為はしていない。

唯一の接触といえば、手を繋ぐことだけ。ただまぁ、少し照れ屋な相手からするとそれで十分なのかもしれないが、私は健康な若者だ。

いい加減先に進みたい。

 

目の前でパンを齧りながら、トロトロと目を緩める隣の存在を感じる。好きなものを食べる時は鋭い目尻が柔らかく下がる。そんな様子が好きだ。私の視線が刺さっていることに気づいてん、と食べかけのパンをちぎって差し出してきた時の、食べないの?と言いたげな顔に「添い遂げたい」と心は決まった。

 

いつもは誘われる側の私だが、肝心な時は好きな相手に積極的になりたい。

端末に登録されている番号を呼び出して言った。

『来週デートしないか?』と ──

 

「……で?」

待ち合わせ場所で合流して早々、不機嫌そうに眉を寄せる相手に、私は思わず苦笑した。

「そんなに怒らないでくれたまえ。ほら、始まってしまうから早く行こう」

すまない、と謝るとふんっと鼻息荒くそっぽを向いてしまった。しかし繋いだままの手はしっかりと離さない辺りが素直ではなくて可愛らしい。

今日の観劇のチケットはすでに用意しておいた。事前にリサーチした評判の良い物だからきっと気に入ってくれるだろう。

館内に入り席に着くまでずっとむすーっとしてたが、上映が始まって暫く経つといつの間にか夢中になって舞台を見つめていた。

余程面白い作品だったのか、時折ちらりと隣を見てみれば大きな瞳をさらに大きくさせて、じっと見入っている横顔が見える。

それを見るだけで連れてきて良かったと思った。

しばらく同じ姿勢のまま眺めていると、不意に手を握る力が強くなる。あ、と思いつつそのままにしていれば、さらにぎゅっと力を込められて指の間を割り開くように絡めてきた。

(わ……)

自分の行動に気付いたのか、びくりと肩を震わせて慌てて離れようとするが許さなかった。むしろ逃がすまいと力を込めて握り締める。

逃げられない事を悟った相手はそのまま、それでも恥ずかしくなったのかぎこちなく顔を伏せた。

真っ赤に染まった耳が愛おしい。

――

「これやるよ」

突然渡された袋に疑問符を浮かべたまま受け取る。中には色とりどりの飴玉が入っていた。

「いきなりどうしたんだい?」

「べつに。余ってたから押し付けるためにだな。それに、甘いもの好きだろ?」

確かに好きだけれど、と口に出そうとするがそれよりも先に包み紙を開いて一つ口の中に放りこまれる。コロコロと転がすと甘酸っぱい味が広がった。レモン味だ。

「美味いか?」

こくりと首肯すれば満足そうな表情をするものだからつい見惚れてしまう。最近気づいたのだが、この子は結構無邪気に笑う。

もっと笑顔が見たくて、今度はこちらからも口を開く。

「もうひとつ貰えるかい?」

何気なくはい、と差し出されたそれをぱくりと食べる。

「うん、甘くておいしいね。ありがとう」

相手の反応がいまいちなのでもう一回口を開けると、渋々といった様子でまた一粒入れてくれた。

餌付けされているようで嬉しい。

――

行儀が悪いと分かっているが携帯を取り出して文字を打つ。

少しして出てきた結果に、まだ残っていた飴玉を丸ごと飲み込んでしまう。

ぐぅ、と変な風に喉が締まり噎せてしまった。突然のことに慌てた様子で背を擦る相手を、俯いたまま髪の隙間越しに見上げた。

その手は熱いくらいで、触れられた背中もじわりと熱を持ち焼けるようだ。

「大丈夫か!?」

心配してくれる声が耳に心地よい。咳が治まるまでずっと撫で続けてくれる手が嬉しくてたまらない。このまま時間が止まってしまえば良いのにと思った。

「大丈夫、問題はないよ。それより……」

呼吸を整え正常に戻した。背筋を伸ばして普段通りに立てば、先程の心配そうな顔などどこかにやってしまい顰め面にもどっている。

「心配させてしまったお詫びに、カフェなど行かないかい?」

「別にいいけどさ」

「よかった。そうだ、そこは甘い物が美味しくてね、マカロンやマロングラッセが特におすすめなんだ」

「へー」

横に並んで歩く。自分に向けられた感情には見事に気付かない様子に、苦笑いしか出てこないが持久戦なことは分かっていた。じっくりと、慎重過ぎるほど丁寧に、相手の心に食い込めばいいのだと考える。

 

 

 




季節違いですがバレンタインの前日のお話です
飴玉とマカロン、それとマロングラッセの意味は調べてみてください

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