正しく圧倒的な勝利、圧勝。結果からすれば順位は3位、圧勝ではないと言われればそうだろうがこの二人に限ってはそうとは言えないのである。
轟 焦凍。獣王 翔纏。
騎馬戦においてタッグチームを組んだ二人、本来は
「翔ちゃぁぁぁぁあああんっっっ!!」
「翔纏ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「ゲボバァァッ!!」
焦凍と翔纏は始まったレクレーションの時間を利用して休憩と食事にしようと思っていた、がそこへ何やら走り込んでくるような音が聞こえてきたのでそちらを見てみると……猛と幻が全速力で駆け抜けながら飛び掛かるが如くに抱き着いてきた。鍛え抜かれたトップヒーロー二人が全速力で跳び付きながら抱き着いてくる、それを当然受け止めきれる訳も無く翔纏は押し倒されてしまった。それを隣で見てしまった焦凍は言葉を失った。
「ンもう翔ちゃんってば大活躍でお母さんってば鼻が高いわ!!近くのプロヒーローから是非スカウトさせてくれって声が続出しちゃってもう嬉しくなっちゃって!!ってあらっ翔ちゃん?翔ちゃん如何したの?」
「―――(良い感じに両親のタックルが入った上に、乗られていて呼吸できない)」
「まっまずい障害物競走と騎馬戦での疲れか!?」
「いや二人が上に乗ってるからだと思いますけど……」
「「ハッそれか!?」」
焦凍の指摘を受けて漸く気付いたのか二人は翔纏の上から退いた、それで漸く翔纏もまともな呼吸が出来るようになり酷く咽せながらも平静を取り戻す事が出来た。
「USJ後の一件からまだそんなに経ってないのに親に殺されかけるとか如何言う事なんだってばよ……」
「翔纏お前、俺以上にっ……!?」
「違う違う……俺の場合は両親が過保護で親馬鹿なだけ。それが暴走しただけ」
焦凍も焦凍で中々に天然なのか、翔纏の殺されかけたという言葉に過剰に反応しそうになった誤解を解きつつも何やら目を輝かせている両親へと紹介する事にした。
「あ~……親父、母さん紹介するよ。最近家で話してた友達の轟 焦凍君です、俺がコンボに慣れる為の訓練の協力もしてくれてました」
「あらっあらあらあらっやっぱり貴方がそうなのね―――冷さんの息子さん!!」
「えっ……あ、あの母さんを知ってるんですか……?」
幻が放った言葉に思わず焦凍は思考がフリーズする。此処で母の名前が出るなんて思いもしなかったのだろう、如何して……と目が彷徨う彼に優しく微笑みかける。
「前に私が病院にいるお友達をお見舞いに行ったの、その時に偶然にお会いしてお友達になったのよ」
「そ、そうなんですか……母さんの……」
「ええっ……会いたがってたわ、お話したいって」
その言葉に思わず身体が震えてしまった、5歳のあの時にエンデヴァーに強制的に入院させられてしまってから一度も顔を見た事も無い母。そんな母が会いたがっていると言われて如何したらいいのか分からなくなってしまった。会いたい、でも会っていいのだろうか、火傷したこの顔を見て母は傷つくんじゃないかと様々な思いが交錯する。だがそれを止めたのは友が背中を叩いた痛み。
「翔纏……」
「欲望に素直になれ、後悔なんてしてから考えろ」
「でも、俺はっ……」
顔を伏せて今にも泣きそうになる焦凍、本当に如何したらいいのか分からない。不安でたまらない、会いたくて堪らない、母が合いたいと思ってくれているならば猶更。だが自分を見て母がまた……自分を責めてしまうかもしれないと思うと怖くて怖くて……。
「お前のお母さんは会いたいって言ってるんだ、それは純粋だと思うぞ―――ただ自分の息子に会いたいってシンプルな欲望」
「俺に……」
「不安なら俺も病院までは付き合ってやる、如何する」
そう問いかけられて焦凍は震える手を見つめた。右と左、母と父。震える右手と握り込まれた左手、酷く対照的だ。それを一度収めて―――前を見た。
「俺っ―――会いに行きます、体育祭終わったらっ母さんの所にっ……来てくれるか翔纏」
「あいよ。その代わり何時か紹介しろよ、お前の友達の翔纏君ですって」
屈託の無い翔纏の笑み、本当に何で此処まで自分を助けてくれるのだろうか、本格的な付き合いを持ち始めてまだそんなに時間は経っていないのに翔纏は何回自分を強く支えてくれたのだろうか。何度目か分からないが心からの感謝をこめて有難うと、返すと翔纏は唯笑みで応えた。
「さてっお話は良いわね、それじゃあもっと翔ちゃんとのお話を聞かせてね。雄英だとどんな感じで過ごしてるのかしら」
「えっと……割と天然な感じで……」
「ちょっと待って!?焦凍お前に天然云々言われたくねぇ!!」
「なんでだ?」
「マジで分かってない……だと……!?」
そんなやり取りを見た猛と幻は本当にこの二人は気心が知れた友人になれたのだなと確信する。友達となってからまだ日が浅い、だけどここまでの絆を築けているのはそれだけ信頼を互いに置いていて信じているから。
「良かったわ、実は心配だったのよ翔ちゃんにお友達が出来るか」
「えっ」
「多分聞いてると思うが翔纏は個性の関係でずっと家に居たんだ」
「はい、暴発すると危険だからって」
個性の関係で家での安静状態を強いられ続けていた、何時暴発するか分からないから。そしてそれを解除するドライバーを得たとしてもまだまだ外には出られない、過保護というのもあるがそれ以上に何年も運動もしていなかったが故に身体を動かして慣らすのと身体作りをしなければいけなかったから、故に雄英に入るまでは基本的に自宅学習ばかり。友人なんて雄英に入ってからが初めて。
「だから焦凍君、これからもウチの翔ちゃんと仲良くして頂戴ね」
「こっちからお願いしたいです。俺も翔纏には助けられっぱなしですから」
「ハハハッそれこそ友人という関係だよ、いやあ健全な関係を築けているようで何より!!」
もっと話を聞きたい、と翔纏への愛が全面的に出る翔纏の両親にやや面を喰らう。だが翔纏の両親らしいなと思えていた、そのまま話をするだろうと思っていたのだが猛は何やら振り向いた。そして幻は懐の携帯を取り出した。
「あらあらあらぁっ……ごめんなさい翔ちゃん、ちょっと失礼しても良いかしら。事務所から電話入ってきちゃったわ、んもう今日の為にどれだけ根回しを―――」
「おい母さん今何つった」
「ゴホンッ!!まあ翔纏と焦凍君、ちょっと私達は席を外させて貰うね。すまない」
「ああいえ仕事ならしょうがないでしょうし……」
「まあしょうがないか……んじゃなんか飯探すか」
「ああ」
焦凍は丁寧に頭を下げてから翔纏の後に続いていく、幻はごめんなさいね~っと手を振り猛は悪いな~と頭を軽く下げた。そして二人の姿が完全に見えなくなってから振り向いて通路の曲がり角の向こう側へと目を向けた。
「……お話があるなら姿を見せてくださいます?其方もそのつもりなのでしょう」
「此方としても色々と話したい事があったから実に丁度いいと思っていた―――エンデヴァー」
現れたのは№2ヒーロー エンデヴァー。息子の友人の父親、だがその表情はとてもそんな立場での登場ではない。ならば此方も相応の姿で迎え撃つのみ、キング・ビースト、マジカル・ビースト、トップヒーローとしてヴィランと戦う気概を持ってエンデヴァーへと挑む。
「息子さん、翔纏君との事で話がある」
「へぇっ……話ですか」
「内容次第、ですね」
そこに居たのは翔纏の知る過保護で過ぎた親馬鹿な両親ではなく―――獣王一族が誇る英雄として、立っていた。
「有難う翔纏」
「んっ何が?」
唐突なお礼に翔纏は首を傾げる事しか出来なかった、何に対しての事なのか全く分からない。
「母さんの見舞い、一緒に行ってくれる事……」
「何だそれか、気にするなって」
「いや俺にとっては大事だ」
ずっと胸に突き刺さり続けていたしこりのような楔、それが母の事だった。あと一歩の勇気を出せずに燻っていた自分の背中を叩いて前に進ませてくれる切っ掛けをくれたのは翔纏、その事に感謝している。幾らしてもしきれない程に……そんな思いを向けられて少々気恥ずかし気にしながらも……笑う。
「だったらよっ―――ガチバトルトーナメントじゃ、手加減無しだぜ」
「―――ああっ当然だ。俺が勝つ」
「上等だ」
獰猛な獣のような笑みを浮かべながらもその言葉を待っていたと言わんばかりの翔纏、当たり前の事を聞くなよっと言いたげな焦凍であった。
「さてそれじゃあトーナメントに備えて飯だ飯!!」
「ああ、如何する出店で済ませるか?」
「それも一興だなっというか俺ああいうの初めてなんだよ早く行こうぜ!!」
「おっおい引っ張るなよ!」
祭りのようなで店に憧れていたのか目を輝かせながらも焦凍の手を取って走り出す、それに慌てながらも合わせるように駆け出していく焦凍。何か言いたくなったが、手の暖かさと翔纏の笑みを見て自分も笑みを作りながら隣に出て走り出していく。
「(―――やっぱり、なんか翔纏と居ると安心出来るな……)」
「あっ二人ともこれからご飯?」
「おうっ緑谷も来るか?」
「……」
「ごめん僕レクレーションにも出るから」
「そっかって焦凍、何で仏頂面になってんのよ」
「……なんでもねえよ」
ちょっと焦凍君、距離感、分かってない感じ。