「マジで辛すぎる……水を飲んだら余計に喉にまで押し寄せて来て……もう本気で炎を吐くかと思った……」
「吐いてたぞ、炎」
「えっ」
ロシアンたこ焼きで大ハズレを引いてしまった翔纏、後で屋台の人に聞いてみたら中には唐辛子とワサビとカラシ、止めと言わんばかりにデスソースが配合されている超激辛仕様だと聞かされてもう二度と買わない事を誓うのであった。
「まさか屋台がこんなに危ない物だったなんて……アニメとかニュースでやってた縁日もこんな感じの地獄なのか……!?」
「多分それはないと思うぞ」
若干呆れている焦凍だが同時に思い知る、翔纏は自分が思っている以上の存在なのだと。巨大な獣王一族の子というだけではなく個性の影響でドライバーを手に入れるまでまともに外にも出られなかったのも影響して世間知らずな所がある。これでも大分マシになっている部類。
「にしてもガチバトルトーナメント……第二回戦で当たるとは思わなかったよ」
「ああ」
最終種目、それはガチバトルトーナメント。毎年最終種目は1対1のバトル形式で昨年はスポーツチャンバラだったらしい。そして今年は場外アウトのガチバトル、大怪我や致死に至る攻撃は原則禁止だがそれ以外は基本的にOK。例え怪我をしてもリカバリーガールの治療が待っているから問題ないとの事。
「俺はまさかのいきなりの激突だからなぁ……漫画みたいに決勝戦で対決とかやってみたかった」
「漫画だとそうなのか」
「うん。超燃えるよ、勝ち上がった先での頂上決戦って」
「確かに……それが良かったな」
「だよね……」
と何だか別のベクトルで落ち込んでいる二人だが、この二人は一回戦の第二試合で早々に激突する事が決まっている。その時に思わず周囲は驚きの声で溢れた、他にも強い奴が互いを潰しあうと喜んでいた声もあったが……何方が勝つのかという興味を抱く者も多かった。
「訓練だと結構ぶつかりあったけどそれも結局手合わせでしかなかったもんな」
「あくまでも個性を鍛える事が目的だったからな」
だが実際問題早々に戦える事を二人はそれ程残念がっていない。戦う相手が決まっている上にダメージや疲れを残さずベストコンディションで挑めるという点では嬉しい、あそこで疲れていなかれば……と考える隙が無くなり全力でぶつかり合う事が出来るから寧ろ感謝するべきなのかもしれない。
「負ける気はねぇぞ」
「こっちも同じだよ、何ならまだ見せてないコンボで焦凍の本気でも引き出そうか」
「そりゃ有難いな、もっと俺が強くなれるって事だろ」
何時になく獰猛な笑みを見せ合う二人、既に友人としてではなくライバルとしての意識に切り替わっている。特に翔纏は口角を大きく持ち上げながら牙を剥き出しにするかのような顔をしてしまっている、獣の一族は伊達ではないという事なのだろうか。
「んじゃ俺はこれで―――また後でな」
「ああ」
そう言いながら去っていく翔纏。親しい相手が今度はライバルとして自分に立ちはだかる、それに酷く心が踊ってしまっている自分に少しだけ戸惑うがそれ以上に本気で翔纏と戦える事に狂喜してしまっている。疼く身体と沸き立つ精神、それを必死に抑えつけようとするが如何にも武者震いが止まらない。燃え上がる様に興奮する身体、不意に左腕から炎が漏れている事に気付いて殴り付けてしまった。
「すっこんでろ……!!」
彼にとって自分の炎は忌むべき物、しかしこれでもよくなっている方で以前は翔纏のタジャスピナーの火炎弾にも嫌悪感を示していた。それをされて翔纏は悲しそうな顔をして落ち込んでしまったので慌てて謝りもした焦凍は、自分が嫌悪しているのはエンデヴァーの炎と改めた。だからこそ自分の炎に此処までの事をするのだが……
「翔纏との勝負に勝てばあいつだって……いや翔纏との勝負でそんなこと持ち出したくないな」
自分の事情は自分の事情、それに巻き込んで考えるなんて失礼に当たる。唯翔纏との全力の戦いを楽しむ事だけを考える事にする事にする、控室で待機する。そして間もなく自分達の時間が迫っている中でその前にトイレを済ませようと向かっていると翔纏を見かけて声を掛けようとするのだが―――
「お疲れさん緑谷って指大丈夫かそれ……?」
「だっ大丈夫だよ有難う……」
先客がいた、緑谷である。先程終わった第一回戦の第一試合、彼の相手は普通科の心操という生徒。その戦いで相手の個性:洗脳を受けるが、それを破って勝利した緑谷だがその代償は指二本の負傷だった。
「相変わらずリスキーパワーだな……俺のドライバーみたいにアイテム制御考えた方が良いんじゃないか?」
「大丈夫だよっ……少しずつだけど制御出来つつあるから」
「ならいいけどさ……友達が毎回毎回身体を切り崩しながら戦うのは結構見てて辛いんだぞ?」
友達、その言葉を聞くと胸騒ぎがする。如何してだろう、何でこんな風にざわめきを覚えるのか。何かを不安に思っているのか……分からない、聞けば分かるのだろうか。
「僕も何とかしようと思ってるんだけど……5%位が今は限界かな」
「5%……いやあのパワーのそれなら十分なのかもしれないのか……あっそうだっ俺と特訓してみないか?」
「えっいいの!?」
「ッ―――!?」
それを聞いた時、突然訳の分からない感情に襲われる。自分でも理解不能なそれに苦しみそこに留まっていられずにそのまま走り去る、兎に角その場から離れたかった。焦凍の胸の内に沸き上がる言い表せない不安が身を焦がしていく。
「―――んっ?」
「如何したの獣王君」
「ああいや、なんか焦凍の気配を感じたような……まあいいや、今焦凍と一緒に特訓してるんだけど焦凍の許可さえ取れれば一緒にやろうよ。実はオールマイトにも良ければ一緒にやってくれって言われててさ」
「うっうん是非お願いしたい!!っていたたたたッ!!?」
「あっゴメン早く医務室に行けって!!」
「うっうんごめんね!!獣王君も轟君との試合頑張って!」
頭を下げながら医務室へと向かっていく緑谷を見送る翔纏、第二回戦開始まであと10分と言う所だろうか。今は試合間の準備時間のような物、今のうちに出場口に移動する。
「あれっ君って心操君だよね、廊下に来てた」
「……ああ。覚えててくれたか」
出場口の前まで辿り着くとそこには緑谷の対戦相手だった心操が居た。何か自分に用があるのだろうかと、と首を傾げていると何やら顔を背けながら恥ずかしそうな声で言った。
「……偉そうにアンタに勝ちたいとか言いながら負けちまった……悪かった」
「―――えっ態々それを謝りに来てくれたの?」
意外な事に素直に質問してしまった、心操は酷く恥ずかしそうに頷いた。気にしなくていいというか態々謝りに来る辺り律儀というかそれだけ本気だったというか……何とも面白い人だと素直に翔纏は好感を覚えてしまった。
「ねぇっ心操君、ちょっとした提案ていうかお願いがあるんだけどいいかな」
「詫び……って訳じゃないけど言ってくれ」
「それはさっ―――」
それに被せられるように聞こえてくるマイクのマイクパフォーマンス、だが翔纏と心操は確りと会話出来ているのかそれを聞いている心操は酷く驚いているようだった。何かを問いただすかのように矢継ぎ早に質問を飛ばし続けるが翔纏はそれに笑顔で応えて行く。そして―――
「なんで俺にこの話を……?」
「単純だよ―――さっき、如何してヒーローになりたいか聞いたよね。俺はその欲望が気に入った、とても大きくて透明な欲望を。だからだよ」
「……少し、考えさせてくれ」
「勿論。それじゃあ俺試合あるから」
そう言いながら翔纏は持っていたオーズドライバーを装着し―――遂に試合へと足を踏み入れた。
なんか痴情のもつれみたいな事になっとる……!!
尚そっち系ではないです……いや筈……あ、あれだよ焦凍初めての友達だからちょっと依存してるだけだよ!!……だよね……?