欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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翔纏と焦凍、激突の欲望。

『さあ緑谷対心操の戦いも中々に熱かったなぁ!だっがっ!!!テメェらがみてぇはこの試合だろう!!!さあぁとっとと始めちまおうぜ俺も待ちきれねぇよ!!』

 

マイクの言葉に同意するかのように会場は熱狂していく、緑谷と心操の戦いなどさらに温度を上げる為の前段階でしかないと言わんばかりのヒートアップ。太陽の光の下へと姿を現すこれから死闘を演じるであろう二人を熱狂が迎え入れる。

 

『大本命コンビのご登場だぁぁぁ!!!A組 轟 焦凍ぉ!!!同じくA組 獣王 翔纏ぁ!!!どっちが勝つのか全く予想もつかねぇしどんな戦いになるのかも予想できない!!分かるのは唯一つ、この対決は誰もが待ち望んだ最大級の物になる事は確定的に明らかって事だぁ!!!』

 

熱狂を更なる熱へと導いていくマイクの実況が耳を劈くように響く中で既に自分達の世界に入ろうとしていた翔纏、実況なんて如何でも良くて唯のBGMにしかならない。唯焦凍との戦いに挑むだけでしかない―――と思っていた、そう思えると思っていたのに焦凍の顔色は優れなかった。何かを必死に食いしばるように堪えている姿に心配が過った。

 

「如何したの焦凍?なんか、顔色が……」

「……」

 

何も答えない、唯鋭い瞳を自分へと向けてくる。それに込められている感情は怒りに近い何か、自分が何かしてしまったのか。だが全く身に覚えがない、焦凍と別れるまで怒らせるような事をした覚えはないし此処まで姿を見てもいない―――もしかして緑谷との会話に感じた気配は本当に彼だったのだろうか。

 

「焦凍、もしかして緑谷と話してる時に―――」

「うるさいっ……他の奴の名前を出すな……今は俺とお前だけの舞台だろうがっ……!!」

 

益々様子が可笑しくなる焦凍に主審ミッドナイトも気付いた、体調が悪いのかと尋ねるがそれに対して今すぐにでも飛び掛かりそうな姿勢で応えられてしまう。これ以上は辛抱堪らないのだろうかと思いつつも試合の開始を急ぐ。

 

「獣王君、試合開始は貴方の個性発動に合わせるから変身しちゃっていいわよ」

「あっ……はい、分かりました」

 

自分と焦凍だけの舞台、確かにそうだろうが……それが如何関係している、何故緑谷の名前を出した事に怒っているのか。何も分からないままメダルをセットする、兎に角試合に集中するのか最善。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

「変身っ!!!」

 

タカ!

トラ!

バッタ!

 

タ・ト・バ!バ!タ・ト・バ!!!

 

変身の完了、それによっていよいよ始まるのかと観客席が騒がしくなる。これから戦いが始まるのだと、それはミッドナイトも同じく。待ち侘びた時だと言わんばかりに開始の合図を出した。直後―――翔纏へとビルを容易く飲み込めるであろう巨大な氷塊の雪崩が迫っていく。

 

「セイヤァァッ!!!」

 

それを瞬時に脚に力をためて跳躍、その勢いのまま後ろ回し蹴りを放ち一息に砕く。太陽に照らされる氷の奥へと抜けると氷柱が無数に飛び出して壁のように此方を突き刺そうとするような勢いで迫ってくる。それにトラクローを展開してそれを切断して対応する、がっ翔纏は如何にも強い違和感を感じずにはいられなかった。余りにも力押しすぎる。

 

「なあ焦凍、お前っ……何のつもりなんだ」

 

自分との特訓前に戻ってしまっているような戦い方、個性による力押しばかり。何がしたくて何が目的なのか全く分からない、自分との時間を否定するかのようなそれに翔纏自身も怒りを感じてしまった。

 

「俺の我儘だ、俺がそうしたいからそうしている……そう言う欲望だ、ああそうだ今は俺とお前だけだ……!!」

「お前がそのつもりならっ俺はそうする、ああそうだ―――お前がそうさせたんだ」

 

翔纏はドライバーからメダルを抜いた、それは全く別の姿へと変化を告げる。そして手に取ったのは―――灰色のメダル群、それを装填しオースキャナーでスキャンする。

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

サイ!

ゴリラ!

ゾウ!

 

サッゴーゾ……サッゴーゾッ!!!

 

その身に宿すのはサイ、ゴリラ、ゾウという超重量系の動物ばかり。陸の重戦車とも呼ばれるサイの強靭な角、森の賢人とも謳われるゴリラの腕、陸上最大の哺乳類のゾウの脚。それらを全て併せ持つその存在感は圧巻の一言。

 

『此処で獣王新しい姿に変化したぞぉ!!メダルの色を揃えた、これがコンボって奴だなぁ!!!』

『使用したのはサイ、ゴリラ、ゾウ……どれも酷く重い上にパワーのある動物ばかりだな。文字通りのパワー特化型の姿という訳か、轟の個性に対応するためにパワーで押すつもりか』

 

唯々重く、唯々強い、それを体現するかのような姿に誰もが言葉を失う。唯一それを見て声を漏らすのは焦凍一人のみ。

 

「ああそうだ、俺を見ろ、俺だけをっ……見ろぉ!!!」

 

地面へと手を置くと一気に大地は氷に侵食されていく、それは翔纏の身体にも到達するがそんな氷が如何したと言わんばかりに一歩一歩を踏みしめながら近づいていく。直後、四方から巨大な氷柱が伸びるとまるで生きているかのように動きながら中心にいる相手を押し潰さんと迫る。

 

「フンッ!!ムヴゥン!!」

『マァジかっ!!?』

 

マイクの驚愕は会場の反応のその物、最早ビルのような太さのそれを裏拳で打ち砕きながら左右から迫るそれを腕を立てるような打撃で粉砕して最後は重々しい回し蹴りで根元から圧し折った。大地へと降ろされた脚が響かせる音は重々しく鐘を打ち鳴らしているのかと思う程。そしてそれは焦凍へと向き直ると―――腕を打ち鳴らした。A組の皆は知っていた、あれはゴリラのメダルを使っている時にするルーティーン、それが意味する次の一手は大きな物だと。

 

「ォォォォォォオオオオッ!!!ォオオッ!!オオオオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

雄叫びが辺り一帯に木霊して震える大気、重いゴオォォンという音と共に打ち鳴らされるドラミング。怒り狂ったゴリラのそれを思わせるような行動に何を意味するのかと皆が思う中でミッドナイトはそれを感じ取った、バトルフィールド全体が激しく揺れていて徐々にそれは大きくなっている。焦凍も思わず立っていられずに膝を突くながら地面に手を付こうとする―――のだが

 

「なっ!!?」

 

焦凍の身体は重力を無視するかのように浮かび上がっていく、氷も次々と浮かび上がっていくというとんでもない光景が広がって行く。

 

『おいおいおいおい何が起こってんだぁぁぁぁ!!?轟が浮いてるぞぉ!!?』

『まさか……あの姿は重力を操れるのか……!?』

『重力操作だぁぁぁ!!?なんだそれどんだけすげぇんだよもう一人で出来ていい範疇越えてんだろぉ!!?』

 

マイクの驚愕の言葉など無視するかのようにドラミングをし続ける翔纏、無重力状態となり身動きを完全に封じられた焦凍。だが直後に一気に大地へと叩きつけられる、今度は地面に身体が埋まるほどの高重力の井戸に叩き落とされてしまった。重力を我が物とする重戦車、それがサゴーゾコンボ。そしてその本領を発揮する。

 

スキャニングチャージ!!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

能力が解放されていく。サイヘッドの角はより大きく鋭角に強靭な物へ、ゴリラアームは更に巨大に屈強に、ゾウレッグはそれらを支える為に大きくなりながらもゾウそのものが脚となったような圧倒的な存在感を放つ。能力開放した姿は最早スーパーロボットの領域に足を突っ込んでいると言っても過言ではない姿。そんな姿となりながらも重量を感じさせない程に軽やかに跳び上がる、そしてそのまま着地すると同時に無数の光の輪が展開されて重力の井戸で拘束され続けている焦凍を捕縛する。

 

「ぐっ……!!」

 

だがそれだけではない、今度はサゴーゾ自体が超重力を発する天体のように自らの身体が引っ張られていく。必死に抵抗を試みるが全く出来ない、同時にその時に見た。翔纏の角が凄まじい輝きを纏い、両腕にエネルギーが集められている事を。あれを一気にぶつけるつもりだと理解するが抵抗も出来ない、このままあれを喰らうのか……!?と嘗てない程の危機感を感じる焦凍。

 

「これでっ終わりだぁ……!!」

「っ―――終わり……?」

 

腰を落とし腕を引く翔纏の言葉に血の気が引いた、終わり、もう終わりなのか。もう終わり……!?

 

「嫌だっ……俺は、こんな所で、まだ一緒にっ……オオオオッッ!!!」

「オオオオオオオッセイヤアアアアアァァァァァァァ!!!!」

 

射程内へと入った焦凍へと頭突きと両腕のパンチ、必殺のサゴーゾインパクトが炸裂する。

 

「焦凍ぉおおおおおおお!!!」

 

思わず、観客席でそれを見続けていたエンデヴァーが叫んだ。息子の勝利を信じて疑わず、それを見届けようと思っていた男の初めての叫びかもしれない、息子の危機への叫び。自分でもそれに驚きながらも大声で叫ぶ。焦凍は吹き飛ばされる―――が場外になる直前に氷壁が焦凍の身体を受け止める。氷壁に埋まってしまっているがそれでも場外にはなっていない、そして焦凍は―――

 

「ッッ―――ガハッゴハァッ……!!!」

 

苦し気な息と共に胃液を吐き出してしまった、とんでもない重圧の一撃を受けて呼吸が正常ではなく狂っている。それを必死に整えようとする中で視界の奥では能力開放を解いた翔纏が此方をジッ……と静かに見つめ続けていた。そして彼は柔らかな声でいった。

 

「本当に凄いよ焦凍、あの瞬間に氷柱を生やして角をズラして外すなんて」

 

そう言いながらも目の前の氷柱を圧し折る翔纏、それはやられたと言わんばかりの行動とせめてもの仕返しなのだろう。そう、焦凍はあの状況で氷柱を生み出して致命的な一撃になりかねないサイヘッドの角をズラしたのである。それでも腕の一撃は受けてしまっているがそれでも威力は本来の物よりもかなり低くなっている、故に焦凍は今も立てている。

 

「焦凍―――漸く俺の知ってる顔になったな」

「っ……」

「お前さっきの顔じゃあ会いたい人の所には行けなかったけどさ、今なら胸張っていけるよ」

 

言われてハッとしまった、自分は先程まで何を想って何をしようとしていたのか。それをして母の所に行けるのか、いや行けるわけがない。それを翔纏が目を覚まさせてくれた、のだろう……。

 

「お前に何があったのか俺は知らない、だからこれだけは言わせて貰うよ―――全力で来いよ親友」

「―――っ親友……」

 

親友。その言葉を聞いた時、胸の中にあった思いは溶け落ちた。ドロドロとしていた物は無くなって、風が吹き始めた。そして同時に焦凍の身体が、変わっていく。霜が降り始めようとしていた体が一気に熱く、燃え滾るかのような熱を帯びて行く。同時に何もかもを凍て付かせる冷気を纏い始める、初めてこの時焦凍は―――自らが憎悪していた自らの炎を自らの意志で解き放った。

 

「―――ああ悪かった、妙な事を考えちまってた……殴られてスッキリした」

「そりゃ良かったよ」

「だからっ俺ももう拘りを捨てる―――お前の全力に報いる為に俺も全力で行くぞ親友!!!」

 

その時、焦凍は笑っていた。心からの笑みを浮かべていた、家族の誰も見た事がないような清々しい笑みを翔纏へと向けていた。それを受ける翔纏もそれに応える為に赤いメダルを三枚その手に取った。

 

「ああ来い、俺も全力だ!!刮目しろ、これが俺の最高の姿だ!!!」

 

キンッ!

キンッ!

キンッ!

 

タカ!

クジャク!

コンドル!

 

 

 

to be continued……




重力操作:サゴーゾコンボの固有能力。胸をドラミングする事で任意の場所の重力を操作し、無重力や高重力状態を作り出す。サゴーゾコンボ自体は重量系コンボ故に動きは鈍いがこの固有能力で十二分にカバーする事が出来るという相当凶悪な能力。

過去のオーズ、800年前のオーズはこの能力で巨大な地割れを引き起こして敵軍を奈落の底に叩き落とすというとんでもない事を行っている。


寸止め、このコンボ初披露時もCM挟んでたからね。仕方ないね。

その代わりにサゴーゾをねじ込みました。

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