欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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驚異の欲望

保須市に突如として出現したヴィラン、それはUSJを襲撃したヴィランの集団の切り札とされていた脳無と酷似していていた。頭部から脳が露出しているそれは紛れもない、そしてそれは対応しているプロヒーローをいとも容易く蹴散らすと此方へと迫ってきた。

 

「うおわぁっ!!?くそっ!!」

 

咄嗟にメダジャリバーで防御するがその腕その物が巨大な刃となっており此方を切り裂かんと迫ってくる。

 

「こいつっなんてパワーなんだ……!!」

「翔纏ックソッこっちにも来やがった!!」

「邪魔しないでっ!!何よ此奴痛みを感じないわけ!?」

「口より手を動かせ!!」

 

翔纏へと襲い掛かったきた脳無、それだけではない。他にも多くの脳無が街の中に出現しており、その一部がアンクたちへも襲いかかってきてその対処に追われている。しかも中々に手強く素早く倒すというには無理がある、そこでアンクは指示を飛ばす。

 

「オーズ!!個性使用を俺が許可する、そいつはお前がブッ倒せ!!」

「っ―――!!了解ぃ!!」

 

エンデヴァーからは出されていたが、家族からは出されていなかった個性の使用許可と戦闘許可に翔纏は笑みを浮かべながらもメダジャリバーを強く握りしめ押し潰そうとする刃を怪力で応え返す。

 

「ふんにゅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」

 

オーズとなっている今ならば発揮できる力がある、それをフル活用して刃を持ち上げると全力で剣を振り抜いてそれを弾き飛ばすとその勢いのまま片足でジャンプしながらソバットを脳無の腹部へと喰らわせて吹き飛ばす―――が、背中から何かが飛び出した。それはビルへと命中する、そして其処へと脳無が迫ると―――一気に弾かれるように脳無が再接近してきた。

 

「何っ!?うおおおっ!!?」

 

再度、刃を受け止めるが今のは何だと思考を巡らせる。何かを放った、それで迫ってきた。だが空気でも炎による推進力でもない、何か別の何か。ならば何がそれを可能にする。

 

「キュァァァァ!!」

 

今度は脳無が何かを吐き出して自分に浴びせ掛けて来た、それは透明の何か。何かと思ったが直後差し向けられた刃―――が、直後に今度は自分が吹き飛ばされた。

 

「こ、今度は俺!?ってうわうわうわうわぁっ!!?」

 

刃に弾かれたと思ったら今度は真後ろから凄まじい力で弾かれた、背中をトレーラーに撥ねられたかのような凄まじい力が襲いかかる中で今度は脳無へと向かっていく中で刃が巨大な腕へと変形して殴り付けられた。それと同時に感じた反発、それが威力を増幅させる。そして再び弾けて脳無へと向かって行く、その時に翔纏はビルを見た。そこには―――何やら紋章のような物がありそれが赤く発光していた。

 

「そうか、これって斥力か!!」

 

この脳無には斥力を発生させる力がある、そしてそれは自分と自分が攻撃した物に発生させる事が出来る。つまり此奴がやっているのは斥力によるループコンボ、だったらそれを利用するだけ……と殴られた際に強引に体勢を変え、紋章による斥力を利用して頭から突撃する。そして放たれたパンチをメダジャリバーの峰で二の腕を殴り付けて反らす事で紋章嵌めを回避しつつも着地するとバッタレッグに力を込めて脳無を紋章へと蹴り飛ばす。

 

「今度はお前が味わえ!!」

「キュエエエッ!!」

 

だが脳無もそう甘くはない、即座にそれを理解すると能力を解除して紋章を無力化して逆にビルをあらん限りの力で蹴って迫ってくる―――が元々紋章嵌めを利用する事を考えていたので対処は容易く跳び回し蹴りを脳無の顎へと決めながら地面へと叩きつける。地面へと突き刺さっている脳無、だがまだもがいている。

 

「USJの時と同じか……あっそうだ、セルメダルを入れるんだっけ」

 

メダジャリバーを構え直した時、剣のスロットが見えた。メッセージにあったメダルを入れろと言う言葉を思い出し、セルメダルをそのスロットへと入れてみると刀身部分にセルメダルが入って剣全体にセルメダルのエネルギーが循環していく。そして並んだ三枚のメダルを見て連想するドライバーのメダル―――という事は

 

「会長なら多分―――!!」

トリプル!スキャニングチャージ!!

「シャァッ行けたぁ!!」

 

ダメ元でオースキャナーでメダルをスキャンしてみると思った通りに作動した。剣全体がセルメダルの力を100%に引き出していく、同時にメダルが消え失せていきながらもそれら全てが刀身へと宿っていく。同時に身体を引き抜いた脳無が飛び掛かってくる。

 

「来いッ!!」

「キュアアアアアアア!!!」

「セイヤァァァァァッッッッ!!!」

 

渾身の力で振るわれるメダジャリバー、それは剣を初めて本格的に使う翔纏が目測を見誤って早く剣を振るってしまったのに脳無の身体を切り裂いた。いやそれ所かセルメダルの力を得て放たれた一撃は脳無の背後に入った背景とも言うべきビルをも切り裂いた。切り裂かれたビルは真横にズレていく―――まるで逆再生のようにビルは修復されていき脳無のみを斬った。

 

「っ―――なんだ、今の威力……!?」

 

真横に倒れこんだ脳無、胸部には深々と残った傷だけが残っている。確かにこの脳無も切り裂かれた筈だが―――直接斬り付けなかったからか、それとも……この脳無にも再生を可能とする個性があるのか……それでももう動かなくなっている。それに安心したいがそれよりもメダジャリバーが発揮した威力に驚きしか生まれなかった。

 

「今の、俺の個性の力なんだ、よな……!?」

 

セルメダルは翔纏の個性から生まれるエネルギーを物質化したもの。ならば自分の個性はこんな力まで発揮するのか、と思わずメダジャリバーを見つめると会長の言葉がフラッシュバックする。

 

 

―――君の身体に刻まれているのは生命の記憶、生命が持つ欲望という進化の力、君の中に渦巻く欲望は凄まじい。だからこそ気を付けたまえ、欲望が君を喰らうのか君が欲望を喰らうのかの勝負だという事をね

 

 

「これが俺の欲望の力……」

 

突きつけられたのは自らの身を滅ぼすだけの力を秘めている個性の実態、それはただ凄まじい個性というだけではない。その個性が発するエネルギーはこれだけの事をやってのけるのと同意義だった。本当にこんな力を自分に扱い切れるのかと不安を覚えた時、何かが自分の周りに飛来してきた。

 

「な、なんだこれっ!?ひぃっ!!?」

 

飛んできたそれに対応しようとするが、それは胸へと飛び込んでくる。そしてそれはまるで溶けるように自分の身体の中へと入っていった。ギョッとするが連続してそれが入ってきた。合計5つの白い光が身体の中へと入ってきた。

 

「おっ俺の中になんか入ったぁ!!?」

 

慌てて胸を掘り返そうと掻くがどうしようもない、完全に入ってしまったらしい。結局それが何だったのかを知る事も出来ずにいたが身体にも異変はない、困惑の中で何かの天啓を得たような顔をして納得する。

 

「まさか会長……!?あり得るというか絶対に会長だろ今の」

 

会長こと鴻上 光生の事は尊敬しているが、良くも悪くもトラブルメーカーな一面もあって様々な厄介事の火種にもなっている。会長の欲望基準でのサポートアイテム及びコスチューム製作もその一端である。それを知っている翔纏としては先程の光はメダルのような物が見えたのでほぼ間違いなく会長だろという答えが出てしまった。後で聞いてみようと思ったその時に携帯に連絡が入る。

 

「緑谷から……位置情報、しかも保須の―――っ救援要請か!!」

 

彼は意味も無くこんな事はしない、しかも位置情報だけを送信している。という事はそれしか出来ないような事態だということ、助けを求めている!!

 

「兄さんっ姉さん!!救援要請が来た!!保須市内!!」

「チィッ!!こっちはまだ時間が掛かるっ行って来いすぐに追いつく!!」

「アンク貴方!!」

「俺たちの弟だぞっ少しは信頼してやれ!!情報はこっちにも回せ!!」

「分かった!!!」

「ウヴァ!!ああもうっしょうがないわね、行ってきなさい!!」

 

兄たちが対応している脳無は自分が戦ったモノより強いらしい、加えて相性の悪い個性を持っているらしい。それでも善戦をしているが純粋に時間が掛かる、なので端末に位置情報を送って自分は急いだ。幸いな事に此処から近く直ぐに助けに行ける、ビルとビルの隙間の死角、誰にも見られない様な狭い路地裏のそこで見たのは―――飯田へと迫り寄っていくヴィラン、そして動けない飯田と緑谷。

 

「セイヤァァァァァッッッッ!!」

「ッ!!!」

 

メダジャリバーを投擲する、空気を切り裂いて進んでいくそれをヴィランは咄嗟に後ろに跳んで回避する。地面に深々と突き刺さった剣、そしてそこへと着地した翔纏を見て手にしていた剣を構えた。

 

「間に合った!?間に合ってるよな!?」

「獣王っ君!?何故此処に……?!」

「決まってるでしょうが!!」

 

倒れこんでいる飯田を庇うようにしながらもサムズアップしながら答える。

 

「ヒーローは助け合いでしょ!」

「良かったっ近くに居てくれたんだ!!気を付けてそいつがヒーロー殺しだ!!」

「大丈夫直ぐに応援も来る、それまではっ―――!!」

 

突き刺さった剣を引き抜きながら構える、目の前にいるヴィランを見る。包帯のようなマスクに赤いマフラー、プロテクターに数本のナイフに日本刀、ヒーロー殺し ステイン。それが目の前のヴィランの正体、だとしても自分のやる事は分かり切っている。

 

「ヒーロー殺しステイン、俺はオーズ!タイマン張らせて貰うぜ!!」

 

胸を叩き拳を突き出して戦う意志を見せるオーズ、それを見たステインは小さく笑いながら刀を構える。


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