欲望の獣   作:魔女っ子アルト姫

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欲望の―――発露。

肝試し中に訪れたそれは明確な悪意と敵意を纏ったまま迫ってきた。森の一部を包み込むようなガス、それだけでも異常な事態という事が分かる。そして頭へと響いてくるマンダレイのテレパスによる伝達。それによるマンダレイの方にも二人のヴィランが襲来して来ており、他にもいる可能性があるらしくそれは当たっている。だが、相澤先生からの戦闘許可はこれ程までに有難い物は無かった。

 

「葉隠さん確り掴まってくれ!!」

「うっうん!!」

「拳藤そっちのクラスメイトガッチリ頼むよ!!」

「分かってるけどアンタだってやばいんじゃないの!?だって……!!」

「言ってる場合じゃないだろ!!今使わないで何時使うんだよ!!」

 

本体の翔纏と分身が2人、一人が葉隠を背負いもう一人が巨大化した手でガスによって意識を失っているクラスメイトを抱えている拳藤を背負っている。そして本体の翔纏が最前線を切るような態勢、ガタキリバの反動を気にしている拳藤の言葉など全無視する翔纏はそのままガスが薄い方向へと向かいながらも宿へと向かう。

 

「翔纏、このガス……!!」

「大丈夫だ、濃くなる方向に一人向かわせてる!!」

「アンタ、今何人に自由行動させてるの!!?」

 

その言葉には敢えて答えなかった、自分達を背負っている分身は何も喋らずに本体の指示に従って負担を軽くするように心掛けているようだが他へと向かっている分身はきっとそうはいかない筈。そうなったら昼間の訓練の疲弊なんて目じゃない程のものが彼に集約される事になると拳藤は不安になっていた。だがそれは翔纏と手理解している筈―――

 

「ッ!!よしっ!!」

「ど、如何したの!?」

「ラグドールに八百万、他にもB組の人たちの救助が上手く行ってる。だが不味いな……良し許可する思いっ切りやっちまえ!!」

「ちょっと何が如何したって言うのさ!!?」

 

クラスメイトが助けられた事にホッと胸を撫で下ろす葉隠と対照的に拳藤は激しく焦った、何故ならば最後の言葉が今までにないほどに引っかかっていたからだ。何を思いっきりやれっというのだろうか、それが自分の想っている通りの事なら絶対に不味い事である筈……がその時、ガスが薄れていき視界が利くようになってきた。

 

「ガスが薄れてる……?」

「ああっブラカワニの俺が倒したらしい」

「やったぁ!!」

 

これで少なくとも視界は利くしガスによる意識の喪失などを気にしなくてよくなった、これ程にナイスな対応はないと思ったその時だった。木々の間から伸びて来た二本の腕が迫ってきた。二人を抱えている分身は咄嗟の判断が取れない、故に翔纏は我が身を盾にするように葉隠を庇うが拳藤を庇い切れずに分身共々捕縛される。

 

「ぐっ何だこれ!!?」

「獣王君!?」

「来ちゃだめだっ!!そのまま宿舎に向かうんだ絶対に守り切れよ俺!!」

「っ……分かった直ぐに俺も戻る気を付けろ!!」

 

即座に葉隠を抱えている分身の意識を開放させて自律的な行動を取らせる、そして自分達を捕縛している腕へとカマキリソードを振り下ろして切断する。そのまま着地するのだが―――そこにあったのはマンダレイと虎が行っている戦闘の場であった。

 

「貴方は獣王君!?それに拳藤ちゃんも!!」

「くっこれは喜ぶべきなのか……!!」

 

着地しながら顔を上げた時、目の前に広がっている光景に思わず言葉を失ってしまった。マンダレイ達が倒したと思われるヴィランだけではない、そこに居たのは―――

 

「USJの時の……!!」

 

嘗てUSJにヴィランが殴り込みをかけて来た時の切り札と思われる巨漢ヴィラン、その首魁が脳無と呼んでいたのと似ているがそれよりも更に巨大な脳無がそこにいた。白い肌ではあるが、翼を持ち機動力に自信ありと言わんばかりの者と、黒い肌に伸縮自在なのか鞭のように撓らせている4本の腕……2体の脳無という最悪すぎる事態だと言わざるを得ない。

 

「獣王君っヴィランの目的は貴方よ!!後カッちゃんって生徒!!」

「俺!?後、爆豪!?」

「爆豪君なのね!?よし直ぐに伝えるわ!!」

 

マンダレイが告げたヴィランの目的。自分と爆豪を狙って来ている、何故そうなのかは分からないがだとしたらガタキリバで分身を作ったのは不味かったかもしれない。ガタキリバの分身はダメージの限界が来ると自然に消えてそれまでの経験が全てにフィードバックされる、自分を狙って来ているならば最悪動けない程度に痛めつける事もしてくる。だとしたら―――下手したら自分が動けなくなる可能性がある。

 

「大丈夫か俺!!」

「っ緑谷は!?」

「ごめんっ森の中を猛スピードで進まれて分からなくなった!!」

「合流!!!」

 

そこへ他の分身の自分がやって来る、それは他の場へと増援として送り込んだ自分達。宿舎に送り届けたりを終えて戻ってきたのだろう、それはある種安心だが……これはこれで問題がっ―――

 

「があああああぁぁぁっっ……!!?」

「翔纏、ちょっと大丈夫なの!?」

 

直後に頭が割れんばかりの痛みと共に全身を引き裂くような凄まじいダメージが襲いかかってきた、分身の一つがダメージ超過によって消滅しそれまでの全てがフィードバックされてきた。ダメージはブラカワニの回復で直ぐに癒えて行くが問題は記憶や感情の方。

 

「翔纏翔纏確りして!」

「がああああああああっっ!!あああああああっっっ!!!」

 

「不味いフォローに入らってもう邪魔しないで!!!」

「クソッ拳藤獣王を担いで移動出来るか!?」

 

フォローにはいるべきマンダレイと虎には飛行脳無が襲いかかって妨害し続けている。何とか拳藤に翔纏のフォローを頼もうとするが、拳藤は動けない。何故ならば目の前で本体の翔纏だけではなく分身たちも膝をつき、動けなくなってしまっている。倒された分身の全てが全てに共有される、これが分身の最大の弱点。

 

「確りして翔纏!!アンタはアンタでしょ、それを自覚して!!」

「……っ俺は、俺―――」

「そうよアンタ獣王 翔纏!!」

 

強い言葉を掛け続けて意識を強く保たせるしか取れる手段がない、今意識の均衡が崩れたらその瞬間に翔纏は終わる。他の分身も消滅しそれらも一気に雪崩込んで翔纏を殺しにかかる。だったら本体の翔纏の自我を保たせるしかないと拳藤は思った、休憩中などに聞いた話から最善を選択している。それは正しく―――決定的に間違っていた。

 

「俺が、おれがオレがオレガ―――」

 

自我を強く保とうとするほどに思い知る個性の恐ろしさ、自らを殺そうとする欲望。それが今頂点に達しようとした時―――それは遂に産声を上げてしまった。翔纏から三つの光が飛び出す。それは翔纏の周りを回りながら迫って来ていた脳無の拳を弾き返すと入っていたメダルを押し退けるようにドライバーへと収まった。それによって起きるのは強制的な分身の消滅、だが分身は瞬時に消えた。跡形も無く、そして翔纏は先程の苦しみが無くなったかのように―――拳藤を守るように立ちあがった。

 

「翔纏……?」

 

戸惑いながらの言葉にも答えない。唯……真っ直ぐと脳無を見つめていた、そしてオースキャナーを手に取って静かに告げた。

キンッ!

キンッ!

キンッ!

「変身」

 

プテラ!

トリケラ!

ティラノ!

 

プ・ト・ティラーノザウルゥス!!

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!

 

その時、雄たけびを上げるのは本来この世界にいる筈の無い生物。既に絶滅し人間によってこうであったであろうとされる姿しか見る事のない、いわば空想上の生物の力を身に纏った姿。黒かった身体は白銀へと染まり、その上を紫色の装甲が覆い被さっている、古の覇者が現代に蘇った瞬間でもあった。翼を模したような頭部、鋭くも雄々しい二本の角、そして踏みしめるだけで大地を割る程の力を秘める脚。太古の世界における王者が一つの身体に集約されたコンボ―――プトティラコンボが今、世界に向けて誕生の雄叫びを上げる。

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