私の10歳の誕生日パーティーを、ルーデウスのお陰で無事に終えてから暫くして~ルーデウスは、お父様の下で、ロアの町の収支帳簿の整理を手伝うようになった。
ルーデウスが言うには『割りのよい報酬が貰える』らしい。
執事のアルフォンスが言うには『ルーデウス様は、魔法のように、計算が得意』とのことだ。ロアの街の商店でも見た計算道具を・小さくした物を「ザ⚪ス・ザン⚪・サイ⚪ンス」と口ずさみながら~目にも止まらぬ速さでパチパチと弾いて計算してしまうらしい。
ルーデウスが誉められたことに~私も誇らしく思った。けれども、お父様に『この事は他言無用。バレたら~ルーデウスが、王都の財務相に召し上げられてしまう。』と言われた。『ルーデウスの様に、優秀な者が余所に採られるのは、困るからね』と、添えて。
ルーデウスが、余所に行ってしまうのはイヤだった。だが~もともと『五年間の契約期間が満了したら~シャリーアにあるラノア魔法大学に行く』資金を稼ぐ為に、私の家庭教師になったのだ・・・
どうしたら、『ずっと私と一緒に居てくれるのか?』その時は、考え付かなかった。
ルーデウスが、お父様の手伝いをしていたり~お祖父様の遠乗りに帯同して席を外す日に~元乳母で、お作法の教師のエドナにより『ルーデウス様が同席されていては憚りがある』と~『男女の営み』の特別授業が『ルーデウスに内緒』で始まった。
月のモノが来て以来~それとなく母からも心得を聞かされてはいたが~その日からは・張り型を用いて~具体的に示してくれた。折に触れて『ルーデウス様が~』と前置きを置いて。そう『ルーデウスが私の相手を務める』前提でだ。
10歳の誕生日~最初にダンスの相手を務めてくれたのはルーデウスだった。だが『男女の営み』とは、そういうレベルの接触ではない。私はミリス教徒ではないが~『子供を作る』行為は~『特別な人』とだけ行う~ものだと思う。私にとっての『特別な人』が『ルーデウス』なのか?と問われれば~まだわからない。
だが、エドナは『ルーデウス』以外の男性を考慮にいれている素振りはなかった。・・・流石に私も察する。
これは、お祖父様とお父様の意向だ。私が将来『ルーデウスの子供を産む時の為』の授業なのだと・・・
『エリス様は、ルーデウス様よりも御年長で御座います。~エリス様が、ルーデウス様を導いて差し上げなくてはなりません。殿方は~最初に失敗なされますと~心に傷を負ってしまい~営みが出来なくなることが~希に御座います。ルーデウス様は、ナンでも上手に出きる方に御座いますが、初めてを上手くいく保証はございません。御年長のエリス様が優しく導いて差し上げるのが肝要です。~尤もノトスの血筋の殿方が失敗する恐れは~まず、無い~とは思いますが・・・』
脇に立つギレーヌが頷く。昔、ルーデウスの御両親と、冒険者パーティーを組んでいた彼女には~色々と思い当たることがあるのだろう。
『ナンとなれば~どなたか「弁えた御婦人」に~ルーデウス様の「御指導」を御願いすることも・・・』
~チラとギレーヌを視るエドナ。が、私と目が合ったギレーヌは~ブンブンと・首を横に振る。~後に聞いたところによると~『その時の私は~殺意を孕んだ眼でギレーヌを睨んでいた』~らしい。剣神流の剣王が、一瞬怯むほどに・・・
エドナは・私とギレーヌの反応を見て~何時ものように、にこやかな表情で
『ではエリス様。~ルーデウス様が・求めて来られたときにも、すぐに~安売りされてはなりません。ルーデウス様が懇願なさるまで焦らして・・・』
エドナの授業を聞きながら、私は考える。ルーデウスの父親は~ルーデウスの母親が妊娠したとき~冒険者から足を洗い~フィットアに定住したらしい。産まれてくる・ルーデウスを育てる為に、私の父に頭を下げて・・・
『子供』というものは、それほどに重い存在なのだ。
『私が「ルーデウスの子供」を産んだら~ルーデウスは~一生、私と子供の傍に居てくれるだろうか?』
思わず口に出してしまった。ハッとして、廻りを見る。ギレーヌは、耳と尻尾をピンと立てた。エドナは、一瞬・表情を強張らせたが~満面の笑みで
『この授業は、そのためのモノに御座います。大旦那様、若旦那様も、それをお望みに御座います。全てはエリス様の努力次第に御座います。』
真っ赤な顔で俯いた私に向けて、エドナは断言した。
------
ルーデウスが十歳の誕生日を迎えた。
母はルーデウスを嫌っている様に思っていたが~十歳の誕生日にすら、実の親に祝って貰えなかったルーデウスに~感情を抑えきれなくなったのか~ルーデウスを抱きしめ~『エリスと結婚しなさい!』と発言した。私はビックリした~が~イヤじゃなかった。
パーティーではしゃぎすぎ、途中で眠ってしまった私は~母に叩き起こされて『彼の部屋に行って、彼に身を委ねなさい!』と申し付けられた。でも、そのときはまだ~私自身が踏み込めなかった。
『ルーデウス以外に、もらってくれる人なんかいない』~と・母に言われて向かったのに・・・
トボトボ帰ってきた私に~母は、魔法の言葉を伝授してくれた。『一度しか使ってはイケない!』と、念押しして。
翌朝・ルーデウスが~誕生日プレゼントに贈った『傲慢なる水竜王』の力を見せてくれる~と、街の外に出掛けることになった。母が見送ってくれたが~ルーデウスの洗濯物を回収してきたメイドが~ナニやら母に耳打ちしていた。それに気付いたルーデウスは、顔を真っ赤にしていたが~母は、満面の笑みを浮かべ、ルーデウスを抱きしめてから~私達のお出掛けを見送ってくれた。
その笑顔が~私が見た、最後の母の記憶だ・・・
---それから10年余り---
「ルーデウスは帰ってきた時、立派な男の子を産んだ私をよくやったって褒
めればいいのよ」
~シーローン国で知り合った、ザノバの母国が戦争になり・ルーデウスはザノバを助ける為に、シーローンに向かうことになった。~身重の私は、シャリーアに留守番だ。
「……そういえば、もう名前も決めてるって言ってたな」
「ええ、いい名前よ。今から楽しみにしていなさい!」
少し考えてから~ルーデウスは~
「エリス……もし女の子だったら、エリスのお母さんの名前をもらってヒルダにしよう」
「嫌よ、そんなババ臭い名前!」
ルーデウスは困った顔を見せたが~
「まあまあ、エリス姉がそう言うならいいじゃん。
シルフィ姉がいつも言ってる通り。
影ながらお兄ちゃんをサポートしていけばいいんだよ」
アイシャの言葉で〆られた。
ルーデウスの妹のアイシャとは・シーローンで、お城に捕まっていたのを・助けて以来の仲だ。グレイラット家の家の仕事を~内も外も・見事に仕切っている。シャリーアのルーデウスの家の門を叩くのを躊躇していた私を、最初に迎え入れてくれたのもアイシャだ。
今回の私の妊娠も~『今度は男の子が好い!』と、楽しみにしてくれている。~誰よりも~ひょっとしたら、私やルーデウスよりも~産まれてくる私の息子を可愛がってくれるかもしれない。きっと、そうに違いない。
ふと思う。母に教わった、魔法の言葉を使うことで~ルーデウスは私を貰ってくれた。紆余曲折はあったが、ルーデウスの妻となり、ルーデウスの子供を身籠ることが出来た。あの言葉には、大変な御利益があるのだ。
ならば~『我が家の娘達・妹達』にも、教えておくべきだろう。我が母~ヒルダが最後に教えてくれた言葉。
『私、ルーデウスの子猫が欲しいニャン!』