ようこそ享楽至上主義の教室へ 作:アネモネ
豪華客船内、八神の部屋にて。ホワイトルーム5期生2人は集まっていた。話し合うのは、今後のこと。
「振られちゃった拓也を慰めに来てあげたよ〜」
「そんな建前は不要だよ、一夏。それより本題に入って」
いつもの爽やかな笑いでなく、不器用に歯を見せ笑う八神。
「綾小路先輩のことは本当にいいの? ブラッカーズとかにも入っちゃって。演技ってわけでもなさそうだし。一夏ちゃん的にはオールオッケーだけど、不思議だニャーと」
南雲の組織した綾小路、そして八神と天沢ら自身をホワイトルームから守るためのグループ、ブラッカーズ。そこに入るのは綾小路を倒そうとする今までの八神とは正反対の挙動で、不気味にすら映った。
「僕は気づいたんだよ、一夏。ククリ先輩の1番は僕であって、綾小路先輩ではない。倒す必要なんてはじめっからなかったのさ。それにね、彼は────なんだよ」
「え、ホント? だとしたらだとしたら、面白くはあるけどさ〜」
そっかそっかーと納得する素振りを見せる天沢。綾小路を呼び捨てではなく、先輩とつけるところからも八神の心境の変化が分かったのだ。
「ブラッカーズ結成の時に言いかけてたのもそのことだったのね」
「そうさ。だから僕は綾小路先輩を倒す気はもう無いよ。ホワイトルームに戻るつもりも無い。ククリ先輩と共に生きる。それこそが僕の使命だ」
「勉強の遅れならいくらでも取り戻せるとか言ってホワイトルームに這ってでも戻りそうだったのにね、拓也は。ホント変わったよ」
「いい方向にかい? 悪い方向に?」
また不器用に、そして意地悪に笑う八神。
「いい方向でーす。あ~あ、いーなー拓也は。あたしも綾小路先輩とイチャコラした〜い」
「それならこういうのはどうだい?」
すっと何かを取り出した八神へと天沢はいぶかしげな視線を向ける。
「え、それって…………」
「どうだいこの手触り。ほのかなぬくもり。素晴らしい愛らしさだろう?」
うっとりと陶酔した瞳で語る彼にドン引きする天沢。
「ククリ先輩人形とか、きもっ」
「裁縫の得意な生徒に教えてもらったんだ」
「別に作成方法とかあたし聞いてないんですけどー」
そこにあったのはぬいぐるみのククリ。まるで推し活のように、高度育成高等学校の制服を着せられたそれは八神に愛でられていた。
「でもまだ足りない……ククリ先輩の愛らしさを表現するには今の僕の技量じゃ足りないんだっ!」
「なんかホワイトルームで綾小路先輩に負けてるって聞かされた時より敗北感を味わってない? あたしの気の所為?」
「もっと精進しないと……!!」
「ホワイトルームで取り組んでたカリキュラムより必死になってない?」
呆れた様子で呟く天沢。しかしその口の端は吊り上がり、笑みは隠しきれそうになかった。花が綻ぶような笑顔。そこには、八神と気の置けないやりとりを出来る喜びがあった。
「バッカじゃないの、拓也」
ペロリと舌を出して笑う天沢。
「でも、ちょっとくらいなら付き合ってあげる。あ〜、一夏ちゃんってばなんて優しくて気が利くんだろーなー」
「ありがとう、一夏。ちょうど女性から見たククリ先輩の愛らしさについても意見が欲しかったんだ」
「う、うん……」
とはいえ、ドン引きはするし安請け合いしたことをちょっと後悔もする天沢だった。
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