無能   作:影ノ月

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異世界行っても無能だった件

『味方なんて誰もいない。誰も要らない。誰も知らなくていい。誰も見ていなくていい。誰かが明日も幸せに笑ってくれるなら。だから、俺は倒れない。明日を守るために今日も俺は戦うのだ』

 

 

 

 

 

「……、はぁ」

スマートフォンから手を離し、その青年はベットに横になる。

「特技なし、趣味はゲームにアニメに漫画にSS作家。周りより優れてるステータスがある訳でもなく。かと言って目立って劣るところもなし。何度見直しても救えなさすぎるでしょ俺」

この青年は、とある小説投稿サイトでSS(ショートストーリー)を投稿している、20歳の大学生。

特に人気がある訳ではなく、言ってしまえば有象無象の中の一つである。

友達、少数。

勉強、嫌い(学力は平均の少し下レベル)

運動、面倒(高校はバレー部のレギュラー)

顔、中の下か下の上

金、ない

才能、皆無

よく言えば器用貧乏。

悪くいえばただの無能。

酒は飲まないしタバコも吸わない。

生きる理由も特にないが、死ぬ理由もないので毎日その場しのぎのやりたいことを見つけて生きている。

SSもゲームもその一環に過ぎなかった。

将来の夢なんて、とっくの昔に覚めた。

生きる理由なんて、最初から持ってなかった。

この青年、『龍崎カンナ』は世界で誰よりも自分が嫌いだった。

「あーあ、つまんねぇ。もういっそ世界滅ばないかな。それか2次元に行かせてくれねぇかな」

もう何度目か分からない、文句を空に吐きつける。

叶わないことなんてわかってる。

だが言うだけはタダだから口にしだけだ。

「人生は世界最大のクソゲー。ジャンル『不明』クリア方法『不明』セーブ、リロード『無し』遊戯人数『70億(現在進行形で増量中)』…。で、親の愛の名のもとにズッコンバッコン愛し合って、こちら側の意志一切関係なくステータスが設定され、産まれる。義務教育を9年間やらされて世間帯を気にして高校に入学。特にやりたいこともなかったため、卒業後近くの大学に入学。やりたい事も夢もなく。ただただ無意味に毎日を過ごす」

そこまで言うと、深くため息をつき自らを鼻で笑う。

「あーあ、つまり俺は人生をミスったわけだ。セーブもリロードもなく、チュートリアルもなく行き当たりばったり。……俺はこのゲームをミスった」

ただ静かに、そして怒りを込めて誰もいない空へ吐き捨てた。

 

 

 

 

 

『なら、やり直してみる?』

 

 

 

 

どこからか声が聞こえた。

バッとベットから起き上がり、当たりを見渡す。

が、誰もいない。

念の為クローゼットの中も見て見たが、やはりどこにも誰もいなかった。

「空耳?にしてはやけに鮮明だったが…」

『気のせいじゃないよ?』

また、声が聞こえる。

さっきよりもはっきりと、正確にカンナの声に応えた。

「どこの誰だ?まさか幽霊ってわけじゃないよな?まだ、丑三つ時には早いぞ?」

『あはは、残念ながら幽霊じゃないよ。ちょっと特別な力を使って君に直接話しかけてるんだ』

「テレパシー、ってやつか」

『そうそう、そんなものとでも考えといて』

声の主は、どこにもいない。

イヤホンで耳を塞いでみたが、声の大きさは変わらなかった。

「これが脳内に直接…ってやつか」

『どう?ちょっとは信じてくれた?』

「信じるも何もまだ何も言われてねぇよ?」

『あれ?僕言わなかったっけ?やり直してみる?って』

「あぁ、あれか。どういう意味だ?」

『そのまんまさ、君で言うところの2次元、ファンタジーの世界に招待しようと思ってね』

「え?マジ?嘘とかつまらない冗談やめろよ?」

『ホントホント、で?くる?』

「いや待て、なんで俺なんだ?」

『君が1番気に入ったからさ』

「俺のどこを?言っちゃ悪いが世界最悪のクズと自称してるぜ?」

『そういうとこ。理由もなくただ無意味に浪費するだけの命。なら、どうせ死ぬならちょっとは楽しく死にたくない?』

「…ファンタジー、あぁなるほどRPG(ロールプレイングゲーム)のような世界に行くわけか」

『そうさ?世界は今、壮絶な危機に晒されている。魔王率いる魔族軍と人やエルフなどの冒険者たちで世界の取り合いさ』

「で?俺に魔王を倒して世界を救えと?」

『いいや?』

「は?」

『別にそこで君が何をしようと勝手さ。土地を買って農家をするも良し、仕事を探して過ごすもよし、冒険者になってに日銀を稼ぐもよし、その命をどう使うかは君の自由さ』

「尚更なんで俺を誘う?そちらになんのメリットもないじゃないか」

『ただ君があまりにも哀れだったからね。そちらの世界はあまりにも息が詰まる』

しばしの沈黙が流れる。

迷いはなかった。

だが、この声の主を信用できる根拠がない。

「…お前を信用していいのか?」

『それは君の自由さ。僕は縛らない。僕は示さない。自由こそが僕の求めるものだからね』

「……、わかった。お前の話に乗ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガヤガヤ

 

 

 

「エルフ耳…獣人…!ほんとに来た!」

『とりあえず、君の所持金をこの世界のものに変えておいたからね』

「あぁ、そうか。世界が違えば金の単位も違うか…。いや待てなら言語どうする!?俺日本語と英語(笑)しか喋れんぞ!?」

『あー大丈夫、日本語で通じるから』

「わ〜ご都合主義」

『悪いけどあまり長い間サポート出来ないからね?君をギルドに案内したら消えるよ?』

「了解、で?どっち?」

『そこの大通り真っ直ぐだよ』

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇあの黒髪の人!」

 

「わー!すごいまた!?」

 

「急げ急げ!勧誘に遅れる!」

 

 

 

 

声の指示通りに道を進むが、やたらと視線を感じる。

だがそれは決して、今までの世界で感じたものではなかった。

「なんか視線感じんだけど?」

『あぁ、異世界転生者は君だけじゃないからね。不定期だけど結構来るんだよ』

「なるほどね」

つまり、よくある異世界転生物のように強くてニューゲームしてる日本人がいるらしい。

そのせいで、黒髪の人間が来ると歓迎されるらしい。

 

 

 

 

 

『着いたよ。ここが冒険者ギルドだ』

目の前にはひときわ大きな建造物。

話ではクエストの受注以外にも、飲食や物品販売などもやっているらしい。

『僕の案内はここまでだ。あとは君の自由だよ』

「ありがとう。質問したらヒントとか貰えるの?」

『あげないよ?言っただろう?僕は縛らない。僕は示さない』

「わかったよ。どうにかしてみせる」

『じゃあね。君の活躍に期待してるよ』

「無能に言う言葉か?それ」

カンナの言葉に、もう返事は返ってこなかった。

「……っし!迷ってても始まんねぇ!覚悟決めろ龍崎カンナ!」

己の両頬を叩き気合を入れ、カンナはギルドの扉を開けた。

「ようこそいらっしゃいました!!!!!!!」

それはもう壮大な歓迎のされようだった。

 

 

 

 

「ねぇねぇ君髪黒いけどニホンジン?ニホンジンだよね!?」

「おい兄弟、うちのパーティ来てくれよ!新人でも大歓迎だぜ!」

「あ!抜けがけは許さないわよ!私のところに来て!」

入ってすぐからものすごい質問攻めと勧誘のラッシュ。

気合を入れたカンナは、既に帰りたくなっていた。

「皆さん、一旦待ってください。気が流行るのは分かりますが、まだ冒険者登録すらされていませんよ」

従業員…それもかなり上の位の人の一声で、あれほどまで騒いでいたギルド内がいっせいに静まり返る。

いや、みなが沸き上がる感情を無理やり抑えているだけだろう。

その場にいる全員が、目をキラキラさせてカンナのことを見つめている。

「さぁ、冒険者登録はこちらです!」

まだ、何も言ってないのに冒険者になることになっているが、もはやカンナは何も言わなかった。

 

 

 

 

 

「ではこちらの球体に手をかざし、お名前をお願いします」

「こういうのって、お金とか掛からないんですか?」

「はい!本来は有料なのですが、ニホンジンの皆様には無料でやらせていただいております!」

どうやらカンナの想像以上に、この世界に転生してきた日本人は、俺TUEEEEを謳歌しているらしい。

「…つくづく人って救えないよな」

「なにかおっしゃいましたか?」

「いやなんでもないですよ」

ふぅ、とひとつ深呼吸をしてカンナは目の前の宙に浮く青い機械仕掛けの球体に手をかざした。

『問う、その身を矛とし戦わんとする勇気ありしものよ。汝の名は』

手をかざした瞬間、カンナは青い光に包まれどこからともなく声が聞こえた。

その声は、どこか無機質で寂しい気がした。

「…龍崎カンナ」

ただ静かに、ゆっくりと己の名を口にする。

世界が白い光に包まれ、次の瞬間にはカンナは元いたギルドにたっていた。

「…はい!ありがとうございます。これで冒険者登録は終了です」

おお!!っとギルド内が沸き立つ。

どうやら現在このギルド内で、冷静なのはカンナだけなようだ。

「それでは、龍崎カンナさん。これからは冒険者として大きな貢献を………え?」

それまで笑顔だった従業員の顔が一瞬で曇る。

手に持ったカードを凝視して、首を傾げる。

「…龍崎カンナさんは、ニホンジンですよね…?」

「あぁ、そうだが?」

「攻撃力、平凡。魔力量、平凡。武器適正、なし。魔法適正、特化なし。体力、平凡。幸運値、平凡。……え?」

「おいおい店員さんよ!そんな冗談はいらねぇって!」

恐らくカンナのものと思われるステータスを口にした従業員が、野次を投げられる。

「い、いえ…。冗談でも何でもなく、龍崎カンナさんのステータスは、平凡そのもの…。いや下手すればそれ以下です」

(本人の目の前でそこまではっきり言いますかねぇ)

「おい嘘だろ!そうだ!特殊!特殊能力欄は!?」

「何も…何も書かれていません…」

「そんな…だとしたら、こいつは本当にただの凡人?」

「はぁ!?シラケた。帰ろうぜ」

「そうだな、期待して損した」

「っざけんなよ。せっかく戦力補充できると思ったのによォ」

みるみるうちに人数が減っていき、遂にはその従業員とカンナだけになった。

(…クソだな。元となんも変わりゃしねぇじゃねぇか)

「あ、ええとこちらがカンナ様の冒険証になります。レベルなどのステータス確認やクエストの受注、身分証明書にもなりますので無くさないようにお願いします」

従業員は顔をひきつらせながら、申し訳なさそうに、冒険証を渡してくる。

「質問していいか?」

「は、はいなんでしょう?」

「武器適正ってのは何となくわかるが、魔法適正ってのは?」

「はい、この世界には魔法というものが存在し、それぞれ火、水、雷、風、光、闇の六属性に分類されます。魔法適正というのはそれぞれの魔法の使いやすさとでも言いましょうか。例えば魔法適正・火、ならその人は火属性の魔法に適性があり使いやすいということになります」

「特化なし、だとどの魔法にも適性がなく使えないってことか?」

「い、いえ。適性がないと使えないという訳ではなく、使うための消費魔力と再使用までの時間がかかります。また、適性があるものに比べ、その効力も低くなります」

「なるほど、つまり俺は事実上全ての魔法が劣化品になるってことか」

「はい、そして武器適正もなしとの事なので、かなり厳しいかもしれません。失礼かもしれませんが、冒険者をやめて、ほかの職に就くことをおすすめします」

「だよな!適正なし才能なしのボンクラに未来なんてねぇわな」

カンナは、高らかに笑った。

それは、誰もいなくなったギルド内に響き渡った。

「頭にきた。意地でも冒険者続けてやる」

そう言ってカンナはギルドを後にする。

「待ってください!本来ならどれだけ弱い人でも武器と魔法には適正があるはずなのです!でもあなたには何もない!あなたは…!」

そんなカンナを従業員は必死に止めようとする。

当然だろう。

目の前で死にに行こうとしてる人がいたら誰でもそうする。

だが……。

「あのなぁ嬢さん。いいこと教えてやる。どんだけ手札が悪くたって卓には座れる。27 だってAAに勝てるんだ」

「ツー…セブン?」

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったもののきっついな」

ギルドから出たカンナはその足で武器を買いに行った。

と言ってもそんなに金を持っていた訳では無いので、西洋の騎士が使うような剣を買った。

実の所、隣りにあった日本刀によく似た刀が欲しかったが、金額を見て断念した。

「さて異世界初めての戦闘だ。気ぃ引きしめていくぞ!」

そうRPGの最初の戦闘といえばおなじみ、スライムである。

モッチりとした質感、穏やかそうな見た目。

正直害悪そうには見えないが、討伐依頼が出てるということはそういうことなのだろう。

「行っくぞぉぉおおおお!」

剣を振るう、だが剣の重さに振り回され何も無い場所に突き刺さる。

それをこれ見よがしに、スライムが突進してくる。

それがカンナのみぞおちにクリーンヒットし、その場に座り込む。

「ゲホッゲホ……、バレー初心者の頃にスパイクのバウンドした球がみぞおちに入ったの思い出したわ…。顔面レシーブに比べりゃ幾分かマシか…」

さて…っと一息置き、カンナは立ち上がる。

「痛みにはある程度慣れてる。スライム、俺が異世界に慣れるのに付き合ってもらうぞ!」

それからのカンナの成長は早かった。

いや、成長ではなく元に戻って行った、という方が適切であろうか。

大学に入学した後まともに運動せずなまりになまった体が、高校生の頃の…バレー部でエースを任されていた頃の感覚を徐々に取り戻していく。

間合いを把握した。

攻撃の前に微妙な予備動作があることがわかった。

スライムの攻撃が次第に当たらなくなっていく。

そしてついに……。

「そこだ!」

キュ-と音をたてスライムは消えていった。

「はぁ…はぁ…、よし!次だ!今日は日が暮れるまでやるぞ!」

徐々に感覚を掴み始めたカンナは、疲れを無視し戦闘を続行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ…はぁ…、ぜぇ…はぁ…」

体力が底を尽き、気づけばあたりの日が落ち始めていた。

「もうこんな時間か…。今日は帰るか……ん?どこに!?」

戦闘に没頭しすぎて、異世界だということを半分忘れていたカンナは、急いで宿泊施設を探すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、スライム32体で32エルタです」

ギルドで討伐の報酬を受け取る。

『エルタ』というのがこの世界の金の単位らしい。

スライム一体で1エルタ。

先程売店でリンゴのようなものが1エルタだったので、1エルタ=100円と考えて良いだろう。

無い体力を無理やり振り絞り、探した宿泊施設が1泊20エルタ、戦いの前に買った武器が50エルタ。

「残りが257エルタ…25700円、か」

やはりあの剣は初心者用だったのだろうと思いながら、借りた宿泊施設に帰っていった。

「ねぇ、君」

その帰り道、ふと声をかけられた。

「なんです?」

声の方を振り返ると、見た目同い年か少し幼いくらいの少女がいた。

「耳が長い…若い…エルフ?」

「そうよ、私はエルフのリーナ=ティンゼル」

「ただの人間の龍崎カンナです」

「カンナね、わかった」

リーナはニコッと笑ったかと思うと、今度はじーっとカンナを顔を見つめる。

「何…?なんか用です?」

「なんで君は戦うの?」

まっすぐ、カンナの目を見てはっきりと口にする。

「私、今日あの場にいたんだ。だから君のステータスがなんの取り柄もないってことも知ってる。それなのに今日ずっとスライムと戦ってたことも」

どうやらギルドからずっと、カンナの後をつけていたらしい。

「ねぇ、なんで君は戦うの?」

リーナは、先程の質問をもう一度繰り返す。

決して視線を逸らさず、茶化したりもしなかった。

「特に理由なんてないですよ」

「え?」

「強いて言うなら、あの場にいた奴ら全員にイラってきたからですかね?」

「そんな理由で、自分の命を危険に晒すの?」

「元より、生きる理由も死ぬ理由も持ち合わせていないので」

カンナはぶっきらぼうに言い放ち、会話を終わらせる。

「待って!」

背を向け、立ち去ろうとするカンナをリーナは許さなかった。

「明日!一緒にクエストを受けよう!」

カンナの手を掴み、離さない。

「嫌ですよ。1人でいいんです」

「ならこの手を離さないからね!OKくれるまで離さないから!」

「めんどくせぇ…」

「簡単なやつ!あそこで1番簡単なの!」

振りほどこうと思えば振りほどけたのだろう。

だが、本当に了承しなければどこまでも着いてきそうな迫力が、この時のリーナにはあった。

「はぁ…、わかりましたよ。じゃあ明日」

だから、めんどくさがりのカンナが折れてしまうのも仕方ないのである。

「やった!じゃあ約束だからね!」

はぁ…とため息をつき、カンナは再び宿泊施設へ歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、なんで着いてくるんすかね?」

「だって私、君の隣の部屋だよ?」

「は?」

「後、ここの宿ならまとめ払いの方が得だよ?」

そそくさとリーナは部屋に入っていく。

カンナはしばらく、その場で呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ張り切っていこう!相手はゴブリンだよ!」

「あーはい」

翌朝、見つかる前に姿を眩ませようと考えていたカンナは、部屋の前で出待ちしていたリーナに即捕まりギルドに連行、道具屋に立寄りアイテムを買ったあと、ゴブリン討伐のクエストを受けていた。

「昨日のスライムよりは強敵がたら気をつけてね」

森の中を進みながらリーナとカンナは、ゴブリンの住む巣を探す。

「……」

歩きながら、カンナはふと右を歩くエルフを見る。

金色に光る長い髪と、そこから突き出た尖った長い耳。

そして、メイン武器の弓矢と近接用の小刀。

エルフといえばこれ、というようなお手本のようなエルフの姿に改めてカンナは異世界に来たということを噛み締めていた。

「えっと…カンナ?そうジロジロ見られるとさすがに恥ずかしいなーって…」

「え!あ、…すいません。元の世界にエルフなんて居なかったもので…」

「そんなに見て面白いものでもないでしょうに」

「そうでも無いですよ。少なくとも俺は嫌いじゃないですよ?」

「え?」

「人間はクズばかりですから、俺を筆頭に…ですがね」

「…」

カンナの返答を聞いて、リーナは喋らなくなる。

その返答に何を思ったかは本人にしか分からない。

だが決して、良い印象ではないだろう。

「ところで、リーナさんはなんで戦うんですか?」

「タメの呼び捨てでいいよ。変に敬語とか使われると…ちょっとむずがゆい」

「じゃあリーナ、お前はなんで戦うんだ?俺に聞いたんだからお前も答えてくれ」

「おぉー、結構グイグイ来るねぇ…。うん、私も教えなくちゃね」

するとリーナは立ち止まり、胸に手を当て大きく深呼吸をした。

「私の住んでた町ね、魔物に襲われて全部なくなっちゃったんだ。多分あの町の生き残りは私だけ」

「…」

「だから私は魔物たちを許さない、絶対に。絶対私が魔王を倒す」

カンナは決して口を挟まなかった。

リーナの緑の目に、確かな赤い闘志を視たからだ。

「ねぇ、もう一度聞かせて。カンナはなんで戦うの?」

まっすぐ、まっすぐリーナはカンナを見つめる。

「言っただろう?特に理由なんてないって」

「だってカンナには才能なんてなくて、適正もなくて、冒険者としてまともに戦えるようなステータスしてないんだよ?昨日も言ったかもしれないけど異常なことなんだよ?」

リーナは、カンナにまっすぐ冒険者を辞めろと言ってくる。

だがそれは紛れも無く、カンナを何よりも心配しているからに他ならない。

「生きる理由がないのは死ぬ理由ではない」

「え?」

「他人のことなんてどうでもいいと思ってても、目の前で苦しんでる人がいたら助けたいと思う。死にたいと思っていながらも死に物狂いで生にしがみつく」

「何を…言ってるの?」

「人間なんてそんなものだよ。矛盾だらけの生き物で、救いようがない大バカどもさ。何度も言うが、これは俺も含んでの話だ」

「そんなのどうでもいいよ!命を無駄にしないでって言ってるの!」

「どうでも良くないさ。それが今までの俺で今の俺だ。だからちょっとは変わろうと思うんだ」

「変わる?」

「分かってるくせに何もしなかった。知ってるくせに言わなかった。面倒くさがりで救いようのないクズが俺だ。だからせめて、異世界に来たんだからちょっとは変わってみようって思うんだ。何も理由なんてなくても、まずは行動しないと。才能なんて元から無い。だが、才能だけが全てではない。命を無下に扱うつもりは無いよ。死にたいとは思ってたけど、せめて異世界をある程度堪能してからにしたいもん」

カンナは笑みを浮かべて口にする。

自分を卑下に、嘲笑し、それでも生きてみたいと豪語する。

才能がないなんてわかってる。

使えないなんて知っている。

誰よりも自分が理解し尽くしてる。

行き場の無い暗闇に、わずかな光が差せばそれに向かって進んでしまう。

街灯に群がる、まるで虫のようなものだ。

だがそれでもいいのだ。

例えそれが火にいる夏の虫だとしても。

どうせ無意味に散る命ならせめて楽しく終わりたい。

「人は何のために生まれるのか」

「え?」

「俺の世界での有名な哲学の問題だ。なんでだと思う?」

「エルフでも大丈夫?」

「変わんないよ」

「うーん…。繁殖するため?」

「そう来るか…。ならそういうパートナーを見つけられなければ生まれた意味はなかったと?」

「え…?そう言われても…」

「ちなみに1番有名な答えは『幸せになるため』らしいわ。くだらねぇよな」

「さっきの感じで行くと、幸せになれなかったら生まれた意味はないってことになる…?」

「まぁ幸せって思えないならそうかもな。…俺の答えは『生まれることに理由なんかない』かな」

「そんなのあり?」

「必要なのは『生まれる理由』じゃなくて『生まれた理由』親の愛の名のもとにズッコンバッコン大騒ぎした結果の命だ。俺たちの意思なんか微塵も関係してない。なら、何に理由をつけるかとなれば、『生まれた後』自分が何を思い、何をするかだ。生まれてから死ぬまでの幾十年の間で、『成すべき事』を見つける。それが出来ない奴は、生まれた意味がなかったって言われても仕方がない。…と俺は思ってる」

「ならカンナは、見つけられたの?」

「全く?俺は俺の事を価値のない粗大ゴミと思ってる」

「ゴミって…さすがにそれは」

「だが、どっかの誰かさんが環境を変えてくれた。元の世界よりは幾分か過ごしやすい世界に。今までの俺には微塵も意味なんてなかった。今から見つけんのさ。まずは行動しなきゃ、だからね」

「わかった。なら、手伝ってあげる。意味を見つけて、生きててよかったって言えるときまで」

「何年かかるかわからんよ?もしかしたら魔王討伐の方が早いかも」

「そしたらその後も、何かしらの理由をつけて探しに行こう!何年でも!何十年でも!意味がなかったなんて絶対に言わせないんだから!」

ニコッと笑いカンナと共に進むことを声高に宣言する。

対女子経験の全く、アニメや漫画での知識しかないカンナがちょっと本気で照れてしばらく顔が見れなくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、この先がゴブリンの巣だよ」

「うっし!気張っていきますかねぇ!」

カンナは腰の剣を抜き、リーナは木の上に登り矢を番える。

「先制は私が決めるから、詰めて」

「了解!」

リーナが矢を放つ。

クギャ、とゴブリンが悲鳴をあげると他のゴブリンの視線もそちらに誘導される。

それが最後。

次の瞬間にはカンナの剣が横一線に薙ぎ払った。

奇襲とはいえ、わずか数秒で4体のゴブリンが討伐された。

「やるじゃんカンナ!」

「こっからは通常だろ?援護頼んだ!」

「わかった!」

仲間がやられたことに腹を立てたか、ゴブリンたちは雄叫びを上げ、カンナに突撃してくる。

「風よ、我が矢に宿れ」

風が吹いた。

リーナを中心に、優しい風が。

「くらえ!『ブラッシュアロー』!!!」

リーナが矢を放つ。

それは風を纏い、凄まじい速さでゴブリンを貫きその裏の岩に突き刺さる。

「おー、それが魔法ってやつか」

「まだよ!弾けろ!」

その言葉を合図に、矢の纏っていた風は弾け、暴風の刃となり、周囲のゴブリンを切り刻んだ。

「すげぇ…やっぱ範囲攻撃ってテンション上がる」

「すごいでしょ!結構お気に入りなんだ、これ」

リーナの魔法の矢により、一気に10体近くのゴブリンが討伐され、残りの数も半分ほどになる。

だが、様子がおかしい。

先程、雄叫びを上げ突撃してきたゴブリンが、まるで近寄ってこない。

闘志自体はあるようだが、決して一定の距離から中には入らない。

「リーナ、もしかしてあそこは射程範囲外か?」

「いいえ、そんなことはないわ。あそこはまだ私の射程範囲よ。カンナの間合いにしては遠すぎるし、私のなら近いわ」

「まるで自分以外の何かを待ってるような」

「……!カンナ気をつけて!あの奥の木に何かいる!」

リーナの目はゴブリンの奥、無数に並ぶ木の裏にゴブリンよりはるかに大きな影を捕らえた。

「あれは…、ゴブリンロード!?なんで!?これじゃ難易度最低なんて嘘じゃん!」

「ええと、ゴブリンロードってそんなやばいん?」

「ゴブリンロードはゴブリン種の最上位種だよ。討伐クエストが発令されれば、難易度は最低でもB以上だよ」

ギルドではクエスト受注するため、その難易度に応じてクラスが分けられている。

最高難易度はS、これは個人レベル75以上かつパーティ内平均レベル85以上の6人以上のパーティにのみ受注が許される。

最低レベルはE、これはレベル制限やパーティ規制もなく冒険者なら誰でも受注することの出来るクエストとなる。

そして難易度Bは上からS,A,Bの3番目に高い難易度。

個人レベルは50以上かつパーティ内平均レベル60以上の4人以上のパーティ、これが受注条件となる。

現段階で、リーナのレベルが39、カンナのレベルが4。

端的に言ってしまえば無謀。

勝てるはずのない相手、出逢えば無条件に逃亡は必死だった。

「えぇと…、逃げれる?」

「残念だけど無理かな…。もうあっちは準備万端だもん。それにここはゴブリンの巣。家と家族を荒らされて黙っちゃいないでしょ」

「だよねぇ…。残念、カンナとリーナの冒険はここで終わってしまった」

当然諦めのムードが支配する。

相手はBクラスの敵、そして既に臨戦態勢。

戦いになるはずもない。

 

バシン

 

乾いた音が鳴り響く。

「さぁて、こっからが正念場だぞ、俺……!」

「何をするつもり?まさか戦うの!?」

「どうせ逃げられねぇだろ?ならやるしかないだろ」

「無理だよ!だってあれを倒すにはレベル50以上が4人必要なんだよ?私たちじゃ相手にすらならない!」

「AAと27だ」

「え?」

「相手がどんなに強いハンドでも、こっちがどんなに弱いハンドでも、勝負の卓にはつける。後はブラフにブラフを重ねて相手を下ろすしかない。力で勝てねぇなら知恵で勝つんだよ。古来から弱者の定石だぜ?」

「でも、力の差が圧倒的すぎる。多分こっちの攻撃はまるで効かないはずだよ」

「それをどうにかすんだよ!ブラフとハッタリのオンパレードだ!」

剣を握り、カンナは突撃する。

「あ、カンナ!」

「俺が合図を出す!射撃はそれに合わせてくれ!」

レベル4がゴブリンの群れに突っ込む。

ヒットアンドアウェイの戦法を取り、一撃、また一撃と攻撃を加える。

ゴブリンロードもそれに反応し、木の影から体を出す。

「今だ!」

腰に着けたバッグから銃を取り出し天ヘ打ち、赤い煙が空へと舞い上がる。

「あれは…、わかった!」

カンナの合図に気づいたリーナが、ゴブリンロードに向かい射撃を開始する。

ゴブリンの群れをカンナが、ゴブリンロードをリーナの体制で戦闘が始まる。

しかし多勢に無勢か、レベル4でゴブリン群れは対処出来ない。

じわりじわりと追い詰められる。

「辛いな…、だがこれでいい」

何かを察知したカンナが大きく後ろに下がる。

言わな裏に隠れ、身を伏せる。

「リーナ!さっきの魔法で一掃だ!」

「え?」

戸惑わずにはいられない。

昨日異世界に来たばかり、今見たばかりの初見の魔法を既に作戦に組み込んでいたのだから。

ゴブリンたちは見事に団子状態になり、岩陰に身を隠すカンナに迫る。

カンナの思惑通り、絶好の的と成り果てた。

「『ブラッシュアロー』!!」

風の矢が嵐となり、ゴブリンの群れは肉塊へと変わる。

そうとなれば今度はゴブリンロードが黙っていない。

雄叫びを上げ、その怒りは森を震わせる。

「さーて、ブラフ1は成功。あの手この手でこの窮地を切り抜けるぞ!」

「カンナ、あの銃は…」

「意味がわかってんならよし!勝つぞ!」

「うん!」

ゴブリンロードが突進してくる。

3〜4m程の巨体が鎧と剣を身につけ、殺しにくる様は下手なホラーよりよっぽど恐怖感がある。

「さーて、ショッピングの成果を試しますか」

今度カンナが、バッグから取り出したのは小さなガラス瓶に入った青い液体。

透き通るような青は、美しい海のようであった。

「未知の飲み物には若干の抵抗感は否めないが、この際そんなこと言ってられんからな!」

栓を抜き、中の液体を一気に飲み干す。

瞬間、カンナの体に即座に変化が訪れる。

ゴブリンロードの一撃を、素早く回避した。

「やっぱまじぃ…、極力飲みたくねぇな、ポーションは」

カンナが飲んだのは俊敏のポーション。

飲んでから3分の間、使用者の移動速度を1.5倍に上昇させる。

他にも赤なら力、緑なら回復と様々なポーションがある。

「ほらやっぱりクエスト前に買い物しといてよかったろ!?」

「ごめんね!ほんと助かる!」

バッグの中から赤青緑の3つのガラス瓶を取りだしリーナに投付ける。

カンナが赤、リーナも赤と青のポーションを飲み干し、戦闘準備を整える。

「うぇ…まずい…」

「良薬口に苦しとは言うけど、これもうちょっと味どうにかならんのか?」

などと文句を言ってるのもつかの間、ゴブリンロードは待ってくれない。

剣が横一線、カンナの前を切り裂く。

「…っぶねぇ!さすがに余裕ないか」

一つ一つの攻撃を的確に回避しながら、時間を稼ぐ。

巨体から振り回される剣をギリギリで避け、鼻先を駆け回る。

体力の面でも、まず間違いなくカンナよりゴブリンロードの方が上、時間稼ぎにしてはあまりにも無謀な策である。

「カンナだけじゃなくてこっちも…ね!」

鋭い矢がゴブリンロードの左足に直撃する。

だが、目に見えた反応は示さない。

小石がぶつかった程度…それくらいの反応しかいない。

「やっぱり、まるで攻撃が通じてない」

「いや、効いてる!足の踏み込みが変わった!」

そう、怒りが表に出過ぎて見ることが出来なかっただけで、確かな効果があった。

剣を振るう時の、軸足が変わったのだ。

「これ、思った以上の成果だぞ?軸足が変わるほどってことは結構足にキてるな。もう1発うち込めれば動きは封じれるか…?」

ブォンと音を立て、またもや剣がカンナの前を切り裂く。

もう何度目かも分からない空振りである。

ゴブリンロードの雄叫びが、さらに強く森を震わせる。

「リーナ!もう1発打ち込むぞ!」

「わかった!カンナも気をつけて!」

カンナは狙っていた、そのタイミングを。

激しい音を立て、巨大な剣が空を切る。

何度も何度も、カンナのスレスレのところで届かない。

とうとう頭に血が上りきったか、大きく剣を振り上げる。

「今だ!」

ゴブリンロードが踏み込む瞬間、カンナはその足元に滑り込みバッグから取り出したロープを踏み込み足に引っかけ、走り抜ける。

無論、重心の行く先を失ったゴブリンロードはそのままの勢いで顔から地面に衝突する。

「リーナ!!!」

「これで…最後!『ブラッシュアロー』!!!!」

リーナのなけなしの最後の魔力を使った風の矢は、ゴブリンロードの足を射抜く。

嵐は足を切り刻み、当分はまともには歩けないだろう。

「どうにか…なったろ、、、リーナ?」

肩を上下させ息を切らせ、カンナはゆっくりリーナの元へ歩いていく。

「…!カンナ危ない!」

カンナが爆発に巻き込まれたのは、その声から1秒と立たない後だった。

「…う…ぁ、…ゲホ……くっそ」

「カンナ!」

「安心しろ、致命傷だ」

「ダメじゃん!」

「命がありゃ上々。ポーションでどうにか誤魔化せる」

既に両足の感覚がなく、左腕も痺れて動かない。

唯一動いた右腕と歯を使いガラス瓶の栓を抜き、中に入っている緑色の液体を飲み干す。

「おぇ…、最悪の味だ。こりゃ誰も買わねぇわけだ」

今まで味わったことの無い、不味いとしか表現しようのない緑の液体、回復のポーションを酷評する。

「だいぶ上手くいってたんだけど…、相手も魔法使うの忘れてたわ…。そうだよなBランクだもんな、そりゃ魔法使うよな」

「カンナ大丈夫!?早く逃げよう!」

カンナの方を担ぎ、どうにか戦線を離脱しようとする。

だが、遅すぎだ。

大きな影が、リーナとカンナを覆う。

片足を引きずりながら、その巨体はそこにいた。

レベル4と39、よくここまで善戦したと言えよう。

だが、レベル差、性能差は拭いきれない。

どれだけブラフとハッタリを重ねても、自分の手札が強くなることは無い。

遂に、ネタも尽きた。

「リーナ逃げろ。お前だけなら逃げれるだろ?」

「嫌よ!絶対…、絶対見捨てない!」

「無理だ…もう魔力も残ってないだろ?渡したポーションももう時間切れだ。あの足だ。走って逃げれば追いつかれはしないはずだ。」

カンナの声は微塵もリーナの耳に入っていない。

腰の小刀を取り出し、目の前のゴブリンロードに向ける。

誰が見ても、決着は明らか。

ゆっくりとその巨体は剣を持ち上げる。

その時間は1秒か2秒か、だが異常に永く感じる。

「早く逃げ…ろ!お前まで、…死ぬ必要は無い!」

強い雄叫びが、轟く。

大きな剣が、2人を目掛けて振り下ろされる。

 

ギィ--ン

 

金属がぶつかり合う音がする。

「よく頑張ったな。あとはお任せろ!」

「あ…、ガレルさん!」

ゴブリンロードの一撃を真正面からその男は受けた。

なびく鬣、大剣を手にゴブリンロードと対峙する。

「これは凄いな。君たちだけでここまでやったのか…。ゴブリンは全て討伐、そして、クエストにはなかったゴブリンロードの出現。だが、等のゴブリンロードは片足をやられてまともには動けないと…。素晴らしい!ここまでしてくれているのなら後はトドメを指すだけだ」

大剣を地面に突き刺し、その獣人は深く呼吸を置く。

そして…、

「野生…解放!」

獅子の咆哮が森に響く。

筋肉が盛り上がり、獣人の身体が、圧が、人ではなく明らかに獣のそれに近づく。

「あまり彼女たちに無理はさせたくないからな。一撃で終わらせてもらう!」

大剣を引き抜き、天にかざす。

それに呼応するように、青い空から黒い雷が降り注ぐ。

大剣は雷を纏い、一撃必殺の一振を手にする。

「一刀両断!『乱獄無双』!!!」

その一振は森を引き裂き大地を割った。

それになすすべもなく、正面に立っていたゴブリンロードは跡形もなく消失した。

「ふぅ、どうだ?すげーだろ?」

「マジで助かりました。ありがとうございます、獣人の兄さん」

「本当にありがとうございます!ガレルさん」

「そっちの兄ちゃんとは初対面だよな?俺はガレル=アルドレア、よろしくな」

「龍崎カンナです」

「龍崎カンナって昨日来たニホンジンか?相当噂だってるぞ?なんの取り柄もない転生者ってな」

「残念ながらその通りですよ」

「だが、ゴブリンロードをここまで追い詰めたのは君の策略、違うか?リーナにそこまでの頭はないからな」

「『アレ』で、強い救援が来るのを信じてただけですよ」

頬をぷくーっと膨らませるリーナを尻目にカンナは自分の実力ではないと主張する。

「謙遜がすぎるぞ。一緒に戦った彼女が既にそう思ってない」

「そうだよ!ゴブリンを倒せたのも、ゴブリンロードを倒せたのも全部カンナの作戦勝ちだよ!あれを瞬時に判断できるのはすごいことだよ!」

ガレルとリーナはカンナを褒め称える。

結果や過程はどうあれ、ゴブリンロードの討伐を成功させたのだから。

だが忘れてはいけない。

「あのー、ちょっとその前に助けてくれませんかね?」

カンナは右腕以外まともに動かせない重傷であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

カンナの意識が戻ったのは、翌日の朝だった。

「ここは…ど、いででででで」

体を起こそうと手を着いたが、痛みが体を突き抜けまたすぐベットに横になってしまう。

「あーそうか、あのまま俺気を失ったのか」

自分の姿を確認する。

体には包帯が巻かれ、明らかに健康体の姿ではない。

無闇に動くなと、理性が囁く。

安静にしろと、本能が訴える。

「寝ておくが吉…かな」

窓からの光が少し眩しいが、目を瞑ればゆっくりと深い場所に意識が落ちていく。

 

ドタドタドタドタ

 

バタン

 

「カンナ大丈夫!?」

しかし残念、意識が完全に落ちる寸前で阻まれてしまった。

「一応、怪我で寝込んでんだから静かにしようぜ…」

「あ!カンナ起きてる!」

「無視っすか…」

「ガレルさーん、カンナ起きてまーす!」

カンナの注意を完全に無視し、恐らく扉の向こうにいると思われるガレルに声をかける。

「リーナ、一応彼は怪我人なんだからもう少し静かにだな…」

やはりガレルにも同じ注意をされた。

「やぁ、カンナ君。元気…では無いか、気分はどうだい?」

「特になんとも。無理に動かなければ痛みもさほどありません」

「それは良かった。見舞いに来たのだが、先にギルドに行った方がいいかもな」

「ギルド?」

「あぁ、今回の件はギルドにはかなりの責任がある。Eクラスかと思えばBクラスなんてあってはならない。AがS、BがAというのはない話ではない。だが今回のはそうでは無い。新人たち向けのクエストかと思えば、中級…あるいは上級冒険者のクエストだなんて、まず間違いなく死ぬ。君たちが生きてるのは奇跡以外の何物でもない。まして、倒すなんてありえない事だ」

ガレルの言葉には、僅かながら怒りが含まれていたことを確かにカンナは感じ取った。

「…君があの時、初心者用の緊急救援の煙銃を使っていなかったら、君もリーナも死んでいた。ここまでボロボロになるまでよく戦ってくれた。ありがとう、カンナ君」

そう言い残し、ガレルは部屋を出ていく。

「そうだ、この件が終わったあと、良ければ君の話を聞かせてくれないか?あの時どうやって戦ったのかとか、君のここに来る前の話とか」

「ええ、喜んで」

にこりと笑い、ガレルはギルドへと向かっていった。

「…」

「……」

「…、…」

沈黙が支配する。

あれほど、大声で騒いでいたリーナも人が変わったように静かに、そして小さく椅子に座っている。

そんな風にされてしまっては、カンナもかける言葉に困ってしまう。

「あー、その…、なんだ?俺は口下手でさ。こういう時なんて声掛けていいかわかんないんだ。だがまぁ、そう気にすんな?ありゃ事故みたいなもんだからさ」

「私、何も出来なかった」

「は?お前がいなかったらまず間違いなく、死んでたが?」

「カンナの指示と作戦がなかったら!何も出来ないまま!ゴブリンロードに殺されてた!私が誘ったのに!私が無理やり連れ出したのに!」

「リーナ」

「先輩風ふかして!やれ心配だの、やれ無理だの言うだけ言って!結局カンナがいなければ何も出来ない!」

「リーナ!」

責任を感じ、自分を過度に攻めるリーナをカンナは無理やり止める。

「あれは事故だ。俺がいたから助かったんじゃない。お前が居たからああなったんじゃない。俺とお前だったから、どうにか時間を稼げた。責任があるとすれば、それこそガレルさんの言ってたギルドだろ。リーナがそれを背負う必要も義理もないよ」

「でも…」

大粒の涙でぐしゃぐしゃに顔を拭いながら、それでもリーナは自分を責める。

随分と長いこと友達関係のなかった、もっと言ってしまえば誰かを慰めるなんてしたことのなかったカンナの口は、次の言葉を見失いただただ、見守ることしか出来なかった。

謝罪の声と泣き声だけが、延々と部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

陽の光がベットに差し部屋を明るくする。

どうやら二度寝は諦めた方が良さそうだ。

部屋も気づけば静かになった。

よく見ればリーナの目元にはクマができてる。

ずっと自分を責め続け、昨日は一睡も出来なかったのだろう。

体が治ったら何をしよう。

またクエストを受けようか。

ガレルさんと飲みに行かなくちゃ。

少し考えただけでも、やりたいことがたくさん出てきた。

「嫌なことだらけだった人生だったが…、どうやらこれからは楽しいことがありそうだ」

窓の外を見上げ、カンナは笑った。

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